鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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今回は超難産でした。おかげで1日遅れの投稿になってしまいました。
決して予約投稿のミスではないのですぞ。努々疑わぬように……。

では、本編をどうぞ。




第三十二話 我ら一つに

 

しばらく恥ずかしさに錯乱する球子を堪能した後、杏は次のイベントへと気持ちを切り替えた。

貴也も、杏に頼まれた若葉に教室に引き摺り戻された。

 

 

 

 

教室に七名全員が集まり、千景の前に残り六人が横一線に整列する。

だがさすがに、貴也と球子は目を合わそうとはしなかった。

 

「それじゃ、最後は千景さんへの命令権を行使しますね」

 

「一体、私に何をさせる気? さっきみたいなのはゴメンだわ」

 

「安心してください。千景さんには、これを受け取ることを命令しますね」

 

そう言って、杏が取り出したのは手製の卒業証書だった。『三年 郡千景』と名が入っている。

 

「えっ? これ……?」

 

「ぐんちゃんは私たちの中で唯一の中学三年生だからね。卒業の時期でしょ?」

 

「そうそう。でも高一になっても、この教室から変わる訳じゃないけどな」

 

呆然とする千景に友奈と球子が説明してくるとともに、若葉がだめ押しをしてきた。

 

「こういう行事は大切にした方がいいからな」

 

「ありがとう、みんな……」

 

皆の温かさに涙ぐむ千景。彼女自身はそんな行事があることさえ、コロッと忘れていたというのに。

だが、一つだけ気になることがあった。

 

「でも、鵜養くんは? あなたも私と同学年でしょ?」

 

「あぁ、みんなでこの準備をする時に聞いてみたらさー、『まだ通い始めたばかりで卒業なんて、甘えたことを言うな』って袋叩きにあったよ……」

 

「物理的には叩いていませんからね」

 

千景の問いにぼやくように返した貴也だが、その後ろでひなたの圧のある注釈が加えられた。ひなたは笑顔なのに、なぜか冷や汗が出そうになった。

 

 

 

 

その後、皆の中で最年長ということで、貴也が卒業証書を読み上げ千景に手渡した。

 

『勇者部のみんなにも負けない、良いチームだよな』

 

皆の拍手の前で照れたように笑う千景を見て、貴也はそう思った。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

それからさらに数日が経ち、四月に入った。

その日の朝は、珍しくひなたの登校が遅れていた。

一度、大社本庁に顔を出してから登校するとのことだったが、見送った若葉の言によると顔が青ざめているようだったとのことだ。

何か悪い神託でもあったのかもしれないと皆が不安に思っているところで、いつもの友奈ではなく球子がその場の雰囲気を変えようとしたのか、話題を提供してきた。

 

昨夜(ゆうべ)、あんずと話してたんだけどさー、今度の日曜日、みんなでお花見をしようぜ」

 

「幸い丸亀城は桜の名所ですし、みんなで桜の木の下でお弁当を広げたら楽しいと思ったんですけど」

 

杏も補足説明をしてくる。皆乗り気の様であった。友奈が、はいはいはいと手を挙げてくる。

 

「じゃあさ、じゃあさ。私は桜餅をいっぱい食べたいなー!」

 

「うぐいす餅も美味しいぞ」

 

「あっ、じゃあ、それもそれもっ!」

 

「高嶋さんは食べることばっかりね」

 

若葉の返しに乗る友奈を、微笑んで見守る千景。そこに、球子がお願いをしてきた。

 

「あのさー、で、実は真鈴も呼びたいんだけど、いいかな……?」

 

「球子と杏が覚醒した時に付いていた巫女様か。確か名字は安芸だったか?」

 

「そうそう。どうだろ?」

 

「いいんじゃないかしら……? お花見は大勢の方が楽しいだろうし」

 

千景を皮切りに、皆その案に同意した。球子も杏も嬉しそうだ。

 

 

 

 

「でさー、話は変わるんだけど……」

 

そう言って、チラッと貴也を見てくる球子。しばらくそのまま固まっていたが、意を決したように、うがぁーっと吠えてから話し出した。

 

「ウジウジするのはタマらしくないもんなっ! 鵜養、いや、貴也。もうお前もみんなに馴染んできただろうからさ、名字呼びはやめて名前呼びに変えてくれよ。タマもこれからはお前のこと、貴也って呼び捨てにするからさ。お前もタマのことはタマって呼んでくれタマえ」

 

顔を真っ赤にしながらそう言ってくる球子。杏も同調した。

 

「やっぱり昨夜(ゆうべ)、ちょっと話してたんですけどね。貴也さんにも、以前若葉さんにお願いしたように名前呼びしてもらいたいな、と思いまして……。ですから、私もこれからは鵜養さんのことを貴也さんと呼びますので、私のことは杏と呼び捨てでお願いします」

 

「そうか……。 僕も名前呼びにした方がいいんだろうか?」

 

「そうに決まってるだろ。貴也も、もう少しタマたちに歩み寄る姿勢を具体的に示すべきだぞ。だから、べ、別に、この前、タマのことを可愛いって言ってくれたからとか、そんなんじゃないからな!」

 

「フフッ……。本当は『男子に初めて可愛いって言われた』って、あの後もブツブツ小声で言ってましたけどねー」

 

「あんず! へ、変なこと言うなーっ!」

 

語るに落ちた球子に杏の追撃が炸裂し、球子がさらに顔を赤く染め上げてうがぁーっと拳を振り上げた。

 

 

 

 

「じゃあ、私はどうしたらいいかな? やっぱり結城の友奈ちゃんと(かぶ)るから、友奈とは呼びたくないよね?」

 

そう不安げに貴也の顔を見てくるのは高嶋友奈。相当、気にしているらしい。

 

「もう、吹っ切らなくちゃ、って思ってたからな。いい機会だから、これからは高嶋さんのことを友奈って呼ぶよ。いいかな?」

 

貴也のその答えに、友奈はパァーッと花が咲いたような笑顔を見せた。

そうなのだ。既に貴也とこの西暦の勇者たちとの付き合いは、神世紀三百年における勇者部のみんなとの付き合いよりも、時間的にも深さ的にも(まさ)ってしまっているのだ。

 

「伊予島さんのことも杏って呼ぶようにするよ。土居さんのことは……、タマはちょっと勘弁して欲しいな。ちょっと呼びにくく感じるからさ。乃木さんに倣って球子って呼ぶけど、いいかな?」

 

「まー、いいよ。じゃあ、これからもよろしくな、貴也」

 

球子と握手を交わす。隣の杏も嬉しそうだ。

 

「じゃあ、私も貴也と呼ぶことにする。私のことは若葉でいいぞ」

 

若葉も同調してきた。

 

 

 

 

「わ、私も名前で呼んで欲しいわ。私だけ名字呼びは、なんだかイヤだし……」

 

そして千景も消え入りそうな小声で、そう言ってきた。

貴也は、その言い方に引っかかりを覚えたので、少しからかう気持ちも混ぜ込みながら返答した。

 

「分かった。じゃあ、僕のことも名前で呼んでくれよな、千景」

 

「えっ……!?」

 

ボッと耳まで真っ赤になる千景。

 

「え……あ……う……。わ、分かったわ……。……た、貴也、くん……」

 

それこそ、先ほど以上に消え入りそうな小声でそう絞り出すように貴也に呼びかけると、両手で顔を覆い俯いてしまう。

そんな千景を、友奈も球子も杏もニマニマとした笑顔で見つめる。

貴也は、千景の予想以上の反応に唖然としていた。恥ずかしそうにしながらも、普通に返してくるものだと思っていたのだ。

そして、若葉はそんな皆を微笑ましく見ていた。

 

そこにあったのは、とても優しく暖かな場の雰囲気であった。

皆、心の距離が近づいた、そう感じていた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

やがて十時をまわった頃、ひなたが帰ってきた。暗い表情のまま、教室の扉を開く。

 

「お帰り、ひなた」

 

その言葉に、目を丸くして立ち止まるひなた。

球子たちにお前が出迎えろと押された、貴也だった。

 

「えっ? どうして名前呼びに……?」

 

その疑問の言葉に皆してかくかくしかじかと説明したところ、ようやくひなたが笑顔を見せた。

 

「そうだったんですか……。とても良い提案をしていただきました。ありがとうございます。球子さん、杏さん」

 

「前に若葉にお願いしたことと、ほとんど同じだからな。大したことじゃ無いよ」

 

軽く頭を下げるひなたに、慌ててお礼を言われるほどのことでも無いと返す球子。隣では杏が微笑んでいた。

 

 

 

 

「皆さん、ごめんなさいね。こんなに良い雰囲気ですのに、悪い知らせを伝えないといけないんです」

 

改まって、ひなたが頭を下げる。

 

「どうしたんだ、ひなた? なにか、悪い神託でもあったのか?」

 

「ええ、今朝方ありました。あまりにも悪い神託でしたので、他の巫女と突き合わせをしてきたところなんです。やはり、主だった巫女には皆同じ神託が下りていました。今日の午後、おそらく八時間以内にバーテックスの総攻撃があります。なかでも二つ、とてつもなく大きな星が迫ってくる映像が見えましたので……」

 

「今まで以上の進化体の攻撃があるということか……」

 

「おそらく、そうです」

 

若葉とひなたの問答に他の皆も押し黙る。誰もが不安を感じていた。

 

 

 

 

「それに……、切り札の使用は控えないといけないんだろ?」

 

「ああ。だが、それも時と場合による。使わなければならない場面で、ためらってしまえばどうなるか……。分かってるだろ?」

 

「分かってるけどさ! でも、その使わなけりゃいけない場面の線引きは難しいよな……」

 

「不確定要素が多すぎますしね。通常の進化体ですら、切り札を使わないと倒せないことが多かったですし……」

 

球子がポツリと漏らした言葉に、若葉も杏もそう返答をしつつ難しい顔をした。

そのやりとりに、貴也には疑問が生じた。

 

「切り札っていうのは精霊を憑依させることだったよな。そんなに難しく考えるほど、危険なことなのか?」

 

「ええ、まだよく分かってはいないんですが、精霊をその身に下ろすのは、勇者の体と精神になんらかの大きな負担を与えるものだと考えられているんです」

 

杏のその答えに、微かな不安が湧き起こった。

 

『僕の、この勇者にも似た力は、そのちゃんの推測どおりなら、その大半は精霊を憑依させる事によって成り立っているはずだ……。どうしよう? みんなに打ち明けるべきだろうか? ――――――そういや、勇者部の何箇条かの誓いみたいなのに『悩んだら相談』ってあったよな?』

 

そのうろ覚えだった『勇者部五箇条』が貴也の背中を押した。

 

「みんな! 聞いてほしいことがあるんだ」

 

 

 

 

貴也は、若葉達に自分の力の本当のところを説明していった。園子の推測部分は、自分の嘘の経歴の中ででっち上げた架空の巫女の推測として話した。

 

まず、自分はまともな勇者ではないこと。

神樹または土地神の力は、ほとんど受けていないこと。

力のほとんどは複数の精霊の憑依によって生じていること。

その精霊は、正体不明の一体の他は、輪入道、雪女郎、七人御先であること。

 

 

 

 

「それじゃ、なにか!? 君は四国外調査の期間中、ずっと精霊をその身に下ろしていたっていうのか!?」

 

「それで、納得がいきました。諏訪での夜、貴也さんがあんなに錯乱していた訳が……。――――――それにしても、精霊が球子さん、杏さん、千景さんと全くかぶっているっていうのも偶然とは思えませんね。今回の戦いが終わったら、大社で指輪を分析してもらいましょう」

 

「でも、これじゃ貴也を戦わせる訳にいかないじゃんか。どうすんだよ……?」

 

「勇者である限り、樹海化には巻き込まれると思います。貴也さんの身を守る方法を考えないと……」

 

若葉たちは貴也の説明に混乱をきたした。なかでも千景は……

 

『そんな……。私を守ってくれるって言ったのに……。貴也くんだけが、戦いたくなければ戦わなくてもいいって、僕が君を絶対守るから、って言ってくれたのに……。勇者としてではない私を受け入れてくれた、たった一人の人なのに……!!」

 

千景のその認識は実は間違っている。友奈を筆頭に若葉たちは皆、勇者としてではない、ありのままの千景をも受け入れていたのだ。具体的な言葉として千景に掛けられていなかった。ただ、それだけのことなのだ。

だが『戦わなくてもいい』、その言葉を掛けてくれたのは、その上で『君のことを守る』と言ってくれたのは貴也だけだった。

千景の中で、いつの間にか貴也の存在が非常に大きなものとなっていた。

 

「ぐんちゃん、大丈夫……?」

 

両手で覆った顔を青ざめさせ、ガクガクと震える千景を見かねて、友奈が声を掛ける。だが、千景には届いていなかった。貴也と若葉たちが話している内容も聞こえていなかった。

だから、初めて聞こえたのは貴也のその力強い言葉だった。

 

 

 

 

「みんなの心配は分かった! でも、大丈夫だ!!」

 

貴也は皆を安心させようと、頭をフル回転させて言葉を紡ぐ。

 

「少なくとも僕の場合、おそらく長時間の連続憑依が危険なんだと思う。鳥取で月一程度、最長でも二時間程度の憑依をして戦っていた頃は、特に問題は無かったからね」

 

『そうだ。神世紀でそれくらいの頻度、時間で使っていた時、問題は無かったはずだ。――――――そうか。あったとすれば、そのちゃんを探して毎晩病院に忍び込んでいたあの時だ。あの時、僕は大赦のあの神官達を本気で皆殺しにするつもりでいた。冷静に考えれば、そんなことをすれば、そのちゃんを傷つけることになったのは明らかなのに……』

 

だから気付けた。自分が、かつて危ない橋を渡りかけていたことに。

だから心から思った。みんなに打ち明けて、そして相談して本当に良かったと。

 

「それに、僕には待機モードとも言える変身形態があるんだ。――――――召喚! この状態なら、常の四種類の精霊じゃなく、一種類のみの憑依となっているんだ。だから負担は軽いはずだ。防御力も問題ないはず……っていうか、外に出ている精霊が多い分、防御力は高いはずだ。その代わり、バーテックスへの攻撃力は皆無に近いけどね」

 

貴也の周りに浮かぶ九体の精霊。それを見て、若葉たちはあっけにとられる。

 

「なんだ? そのぬいぐるみみたいなのは……? それが、可視化された精霊なのか……?」

 

「うえ……。なんか可愛いかなって思って、よく見たら気持ちわりー。特に、これ。タマのと同じ輪入道か? おっさんじゃん……」

 

「なんだか、資料で見て想像してたのとは違いますね。――――――分かりました。こうしましょう。貴也さんにはバックアップ要員として待機モードで後ろに付いていてもらい、誰かが危機に陥った時だけ増援として全力で戦ってもらいましょう」

 

「そうですね。杏さんの案が現実的だと思います。若葉ちゃんも、それでいいですね?」

 

「そうだな……。それしかないだろう。だが、今までにないほど強力な進化体が来るんだろう?」

 

「大丈夫だよ! みんなの心が一つになっている今なら、きっと!」

 

不安を断ち切るように友奈が叫んだ。

 

「そうか、そうだな。たとえ二月の丸亀城の戦い以上のものになろうと、今の私たちなら……。それに、今回は貴也も加わっているんだ。戦力の底上げだって出来ているっ!」

 

自信を取り戻したように、若葉が力強く続けた。

 

 

 

 

『良かった……。貴也くんも参戦してくれる。少なくとも、危なくなれば助けてくれるんだ……』

 

千景は心底ホッとした。いつの間にか涙目になっていた自分に気付き、恥ずかしく思った。

そして貴也に対して、安心させてくれた事への感謝の意を強くした。

 

 

 

 

雰囲気が明るくなったのに合わせて、ひなたが発言する。

 

「いい雰囲気になりました。――――――なら、アレをしないといけませんね」

 

「そうだな。樹海化前だから、ひなたも参加できるな」

 

「ええ、嬉しいです。で、以前聞いた肩を組むタイプじゃなくて、こんなのはどうでしょう?」

 

ひなたがバージョン違いの説明をする。皆、そのタイプでやろうと笑顔で同意した。

 

 

 

 

七人で円陣を組む。それぞれ左手を左隣の右肩に置き、右手は円陣の中央で重ね合わせる。

 

「じゃあ、いくぞ!」

 

若葉が音頭をとった。

 

「「「「「「「一人はみんなのために(ONE FOR ALL)! みんなは勝利のために(ALL FOR ONE)!」」」」」」」

 

「勇者一同! ファイトーーッ!」

 

「「「「「「「オーーッ!!」」」」」」」

 

 

 





今回は西暦勇者の一致団結をみせるための回となりました。

前書きで書いたように、今回は超難産でした。
具体には、千景をどの程度原作から乖離させるかのさじ加減が難しかったということです。何回か書き直して、最終的に中庸を採ることにしました。

さて、千景が原作より丸くなっていますが、雪花の件で心が折れた影響でしょう。というか、彼女の貴也への気持ち、若葉以外の女子陣にはバレているのでは?
あと、原作で不遇な扱いの『悩んだら相談』先輩に良い意味で働いてもらいました。
また、本作13話の貴也の言動に少なからず精霊の影響があったことがネタバレされました。

次回は当然のことながら、あの話となります。


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