今回、千景の活躍は少なめですが、のわゆ編の重要回ではあります。
では、本編をどうぞ。
四月初旬。その日の夕方十六時。ついに『丸亀城の戦い』以来のバーテックスの総攻撃が始まった。
勇者装束となった貴也たちは樹海化された四国の地に立ち、瀬戸内海の向こう、神世紀三百年のものと比べると高さも厚さも貧弱としか思えない結界の壁、その外側から押し寄せるバーテックスの群れを見ていた。その数、千体ほど。
「なんだよ。思ったほど多くないし、超進化体みたいなのどころか普通の進化体もいないぞ」
「油断は禁物だぞ、球子。第二波、第三波があるかもしれない」
「はいはい、分かってますよ。若葉は真面目だねー」
「貴也さんは手はずどおり、後方で私たちにつかず離れず待機していてくださいね」
「ああ、杏の作戦どおりに動くよ」
勇者たちはそれぞれ武器を構え、臨戦態勢に入る。
若葉は神刀――
友奈は手甲――
千景は大鎌――
球子は
杏は
貴也は多重召還ではなく、召還のみとしたため九体の精霊、輪入道、雪女郎、七人御先を周囲に浮かせたままだ。つまりは武器無しということでもある。
『なんとなく締まらないよな。それに、この状態で実戦に臨むのは初めてだしな。直接攻撃手段は、雪女郎の冷気と、やったことはないけど、おそらくは出来るだろう輪入道の火炎攻撃くらいか? あと、チェックしないといけないのは、輪入道や七人御先が雪女郎と同じような障壁を張れるかどうかだよな……』
「行くぞ! みんな、油断するなよ!」
若葉の掛け声と共に六人の勇者はバーテックスの群れに立ち向かっていった。
前衛に若葉、友奈、千景の三人。中衛は球子。後衛に杏と貴也。
球子は、その性格同様、勢い任せの戦い方をしていた。
旋刃盤本体を投擲し、旋刃盤から手元に伸びているワイヤーを使ってその挙動をコントロールする。いわば、周囲に刃のついた巨大なヨーヨーで戦っているようなものである。
そのため、西暦勇者五人の中で唯一の範囲攻撃が出来ていた。しかも一撃必殺の威力があるようで、直撃した星屑は皆粉砕されていった。但し、当たり所の良くない個体については手傷を負わせるのみであり、そういった意味では撃ち漏らしも多い攻撃ではあった。
友奈は徒手空拳で戦っていた。
鋭いパンチとキック、時折織り交ぜる肘打ちや膝蹴り、踵落とし、そういった多彩な攻撃方法で星屑を粉砕していっていた。
そのため、確実に星屑を葬っているのではあるが、いかんせんリーチの短さが災いし、こういった集団戦においてはやや不利な戦いを強いられていた。
若葉は神刀――生大刀で戦っていた。
幼い頃から居合を習っていたというだけあり、こと武器の扱いにおいては五人の中で最も長けていた。また、最も効率的な戦い方が出来ており、五人の中で一番多くの星屑を屠っていた。だが、効率的ということは反面、撃ち漏らしのように見える個体も出てくるようだ。もちろん彼女自身の攻撃の速度が速いため、その数は僅かではあるのだが。
実は貴也が一番感心したのは、千景の戦いぶりだった。千景は大鎌――大葉刈で戦っていた
若葉ほど、その得物の扱いに習熟しているようではなかったが、それでもその大ぶりで小回りの利かなそうな武器を巧みに操って、星屑を倒していっていた。
また、意外に周りが見えているようだ。撃ち漏らしがほとんど無いのが、彼女の戦いぶりの特徴だった。
まさに、『効率性』の若葉に対し『堅実性』の千景といった好対照な戦い方であった。
そして、杏は金弓箭を用いたアウトレンジの攻撃で、皆が撃ち漏らした敵を、仲間への危険性が高いであろう順に確実に撃ち落としていっていた。千景と同様、視野が広いのであろう。後衛として、理想的な戦い方をしていた。
『さすがだな。この程度の敵なら、僕なんかいなくても危なげなく倒していけるんだ』
西暦の勇者たちの戦いぶりを初めてまともに見た貴也は、そんな感想を抱いた。
彼女たちの奮戦のおかげで、いまだに貴也の元へ辿り着く星屑は一体もいなかった。そのため、精霊一体のみの憑依状態での戦闘能力が分からないまま、時間が過ぎていった。
半分ほどの敵を殲滅した頃、突如百体前後の星屑が融合を開始した。進化体の生成である。
それまで進化体生成の兆候が見える度、先制攻撃でそれを阻止してきた杏だったが、今回は生成の速度が速く、止めきれなかった。
「杏。僕が出る!」
「いえ、貴也さんはまだです。私たちの最後の切り札ですから……。私が切り札を切ります」
杏の勇者装束が変化していく。その変化が収まると、杏は金弓箭を上空に向けて掲げた。そこからは矢ではなく白い粒子、いや雪が吹き出す。
雪は辺り一面を覆い尽くすと、嵐を巻き起こした。吹雪だ。極低温の猛吹雪が樹海化した丸亀市一帯を荒れ狂う。
「寒、寒、寒っ! あんず、寒すぎるぞーっ!!」
「アンちゃーん! また、これーっ!?」
「やはり視界はゼロか。範囲攻撃として最強なのは分かるが、援護のしようがない!」
「とっても寒いわ……」
「凄いな……。これが本家の力なのか……」
「皆さん、動かないで! 残敵は、私が一掃します!!」
仲間達の困惑する声が響く中、杏は力強く残敵の掃討を宣言する。
その言葉に
残り僅かな残敵は、若葉たちが掃討していく。
「大丈夫か? 杏?」
「ええ。私は切り札を使うのが、まだ二回目ですから」
貴也の問いにそう答えた杏だが、確証があるわけでもない。使用回数を目安とするのは気休めでしかないと思った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
残敵がほぼ掃討され尽くし、皆がホッとした時だった。
瀬戸内海の向こう、結界の壁を越えてバーテックスの大群がやって来た。その中に、身の丈三十メートルにも達する個体が二体。
「
貴也は呻くように呟いた。神世紀において黄道十二星座をその名に冠する十二種類すべての大型バーテックスを目撃してきた貴也には、園子たちからの情報も含め、その二体の見分けはおろか能力まで分かっていた。
どちらも、神世紀の勇者の性能から見て、大幅に見劣りのする西暦の勇者たちには荷が勝ちすぎているのが、戦う前から明らかだった。
「杏。今度こそ僕が行く!」
自分の全力でも敵うかどうか怪しかったが、若葉たちに任せるわけにはいかないと思った。だが……
「私が行きます! 現時点での攻撃力は私が一番高いですから! 貴也さんは隙があったら仕掛けてください!」
その言葉を残し、杏は
「そんなっ……!」
驚愕する杏。そこへ蠍座型の尻尾が襲いかかる。鋭い尾針が彼女を串刺しにしようとするが、間一髪で躱す。
『精霊の力が通じない……? どうしたら!?』
「杏っ!!」
業を煮やした貴也は多重召還を掛け、輪入道の空中走行で突貫した。
蠍座型をすれ違いざまに斬り付けるが、やはり全くダメージが通らない。
勢い任せで天秤座型に取り付くと、今度は三種の精霊すべての力を輪刀に込めて斬り付ける。
今度は少しだけダメージを与えられた。以前、
『クソッ! 僅かばかり攻撃が通っても、手数が足りないっ! どうすればっ……!?』
天秤座型の回転が始まった。貴也は一旦、飛び退く。だが、そこを狙われた。
蠍座型の尾針の一撃が彼を襲う。攻撃に全振りしているため雪女郎の障壁は発生しない。輪刀で防いだものの、衝撃で吹き飛ばされる。そこへ天秤座型の回転攻撃、分銅の直撃が来た。
やはり雪女郎の障壁は発生せず、体に直撃を受けた貴也はさらに吹き飛ばされ、樹海化した地面に叩き付けられた。
そのまま彼は気絶した。
一方、杏と貴也が二体の大型バーテックスに手こずっている頃、若葉たちの周りでは残りの通常個体である星屑が次々と融合し、多数の進化体を生成していっていた。
「くっ……!」
「まずいよ、若葉ちゃん! 多すぎる……!」
「使うわっ! 切り札っ!!」
状況に追い詰められた千景が切り札を使用する。彼女の勇者装束が変化し、七ヶ所同時に彼女の姿が出現する。七人御先の力だ。それは七人全員が同時に殺されない限り、死なないという特性を持っていた。
その千景の切り札の発動を皮切りに、友奈も若葉も切り札を使っていった。友奈は暴風を具象化した精霊、一目連を。若葉は人間離れした体術を誇る武人、源義経を。どちらも一撃の威力を上げるだけではない。一目連は凄まじいまでの速度、瞬発力を、義経は桁外れの機動力、身のこなしを二人に与えた。
彼女たち三人は、それぞれ周囲の進化体に立ち向かっていった。
「貴也さんっ!!」
貴也が撃墜されたのを目撃した杏は、彼を救出しに行こうとした。
「あんず、危ないっ!!」
輪入道の力で巨大化した旋刃盤に乗った球子が杏の手を取り引き上げる。間一髪、蠍座型の尾の直撃を避けた。だが、尾針の先端が杏の左腕を掠めていた。
「あんず、その腕……」
傷の周辺が赤く爛れ、左腕の感覚が無くなっていた。
「あのバーテックス、針に毒を持っているんだ……。でも、大丈夫! 右腕一本でも戦えるから!」
杏は気丈にそう言うと、金弓箭を右手でしっかりと構え、球子に笑顔を見せた。
「よしっ! さっさと終わらせるぞっ! 二人で同時攻撃だっ!!」
二人を乗せた旋刃盤は尾による攻撃を掻い潜って、蠍座型本体へ肉薄する。杏が一点集中で猛吹雪を当てると、そこへ炎を纏った旋刃盤が体当たりを掛けた。
「いけーーーっ!!」
だが、貴也が天秤座型に攻撃した時と同様、僅かに傷つけるにとどまった。
「効いてないっ!?」
二人の心が絶望に囚われた次の瞬間、蠍座型の尾の一撃が襲う。凄まじい衝撃と共に、精霊による強化は解除され、球子と杏は地面に激突した。
友奈はいち早く進化体の包囲網を突破していた。だが、彼女の前には天秤座型が立ちはだかっていた。
「勇者パーーーンチッ!!」
天秤座型の回転攻撃を掻い潜っての、一目連の力を宿した拳の一撃。だが、まったくダメージを与えていない。
「なら、これはどうだーーっ!! 連続勇者パーーーンチッ!!!」
竜巻の勢いを得た友奈の拳が絶え間なく撃ち込まれる。だが、それすらもダメージは通らない。
まるで、象に立ち向かう蟻のような戦いが続けられていった。
地面に叩き付けられた杏は意識を失っていた。球子の呼びかけにも反応しない。
そこへ蠍座型の追撃が襲う。
輪入道の力を失い元の大きさに戻った旋刃盤を楯として、蠍座型の尾針の一撃を防ぐ。
だが一撃では終わらない。執拗に何度も何度も撃ち付けてくる。
ガンッ! ガンッ! ガンッ!!
重いその一撃一撃を、球子は歯を食いしばり、足を踏ん張って耐える。足は地面にめり込み、衝撃で全身の骨が砕けそうだ。
だが、球子は逃げない。
杏を守りたいから。守り抜きたいから。
初めて出会った時、自分にない『女の子らしさ』を持っていたこの少女を『何があっても守り抜くんだ』と心に誓ったから。
続いて進化体の包囲網を突破したのは千景だった。但し一人だけ。残り六人の千景は、まだ進化体の群れの中だ。
一人包囲網を突破した彼女は友奈の援護に付く。
だが、天秤座型の高速回転による攻撃に、彼女は攻めあぐねた。
「こんなの、どこから攻めればいいの……!?」
「うっ、ぐっ……」
貴也は間一髪、目を覚ました。周囲を複数の進化体が取り囲んでいた。
その攻撃をなんとか躱すと、反撃を開始した。
遠くで、大型バーテックス二体により窮地に陥っている球子たちが見える。
急がなければ、と焦りに身を焼いた。
「う……タマっち……先輩……?」
杏が意識を取り戻した。目前の光景に目を瞠る。蠍座型の執拗な尾針の攻撃を旋刃盤で受け止め続け、杏を守る球子の姿があった。
「目、覚めたか? 早く逃げろ……あんず……!」
「何言ってるの!? タマっち先輩こそ逃げないと!」
だが、球子は首を横に振る。
「タマは、無理だ……。足が、イカレちまってる……ていうか、骨、砕けてるかも……」
「そんな……」
「お前だけでも……頼む! このままじゃ、二人とも死ぬ……!」
「絶対嫌だっ! タマっち先輩と一緒に戦うんだっ! 私は、タマっち先輩と一緒に強くなるんだ、って誓ったんだ!!」
その時、尾針の攻撃を受け続けた旋刃盤についに亀裂が入り始めた。
杏は球子の楯に守られながら、金弓箭の矢を放ち続ける。だが、蠍座型の体表に突き刺さりはするが、ほとんどダメージを与えていない。
尾針の攻撃はさらに熾烈さを増す。
ガンッ! ガンッ! ガンッ!!
球子の小さな体に、普通の人間なら一撃で粉砕されるほどの衝撃が与えられる。
もはや意識も混濁し始めた。
『守るんだ! あんずを!! 傷つけさせない! タマはあんずの楯になるんだっ!!』
『タマっち先輩の分まで! 私が! 敵を倒すっ!!!』
だが、二人の想いは強大な力の前には、無意味なほど小さなものでしかなかった。
ガンッ! ガンッ! ガンッ!!
球子の旋刃盤の亀裂がさらに広がる。
若葉をはじめ、西暦の勇者たちの心に仲間を失う恐怖が激しく湧き起こった。
【仲間を誰一人欠く事無く……】
「球子!! 杏!!」
若葉の悲痛な叫びが轟く。
二人を助けに行きたかった。
だが、彼女の周囲を六体の進化体が阻んでいた。
【皆無事に終わってほしい……】
「高嶋さんっ!!」
千景は友奈への攻撃を弾き、援護をするので手一杯だ。
残り六人の分身も進化体と戦っていた。
天秤座型の高速で回転する分銅が次々と友奈と千景の二人を襲う。
【誰か……、誰でもいい……】
「クソッ!! とどけーーーっ!!!」
進化体の群れを蹴散らした貴也は輪入道の力を振るい、全速で球子たちの下へ向かおうとする。
だが、蠍座型の最後の一撃が振るわれようとしていた。
今の速度では間に合わない。
【助けて……、私たちを救って……】
「アンちゃん!! タマちゃーーーんっ!!!」
友奈は、天秤座型の自らに振るわれる攻撃すら気にも留めずに走り出した。
その手を球子と杏に向けて、精一杯伸ばした。
【お願い!!!】
ドグゥォッ!!!
「間に合った……?」
誰の言葉だったろう。
貴也が全身で
その勇者装束にも似た戦装束。薄浅葱に四色のラインが走っていたはずだ。
青、橙、白、紅。
そこに桜色の五本目のラインが追加されていた。
ヒーロー物の王道、パワーアップ回でした……?
いや、むしろ欠けていたピースが嵌った回? といったところですか。
なお、今回終盤の謎のモノローグおよび今回と次回のサブタイトルは1話冒頭の西暦勇者を描いたシーンに対比させています。13話、23話とともに初期構想(1次プロット)の核を為している部分となります。
また今回前半、効率性と堅実性で若葉と千景を対比したのは、この二人を上手く対比できないかな、と模索した結果です。さて、どうでしょうか?