鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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第四十二話 神樹

「違うよ。君を過去に飛ばしたのは、私たちじゃない……」

 

神世紀三百年の神樹が創りだしたアバター友奈、その彼女の答えに貴也は鼻白んだ。

 

「お前たちじゃないんだったら、じゃあ誰が僕をこの過去へ送り込んだんだって言うんだ?」

 

「それは……彼女たちだよ」

 

アバター友奈の左右両側に半透明の板状のものが上下二段、計四枚出現する。そして、そこに若葉、球子、杏、千景の四人が映し出された。四人とも嘆きの表情で固まっている。

 

「この場所とあちらでは、あえて時間の流れを変えているからね。まあ、この場所は本来、人の立ち入ることが出来る場所ではないんだけど……」

 

「巫山戯るなっ!! 彼女たちはお前たちと霊的経路で繋がっている勇者とはいえ、ただの人間だ! 人を、時を超えて呼び寄せることなんて、出来るもんか!!」

 

貴也の苛立ちは頂点に達する。元々、神樹に対して良いイメージなど欠片も持っていないからだ。当然だ。園子の体から二十以上もの機能を奪い、不自由極まりない生活を強要しているのだから。

 

「これは、見せ方が悪かったね。正確に言うと、神世紀三百年の彼女たちだよ」

 

「バカな……! 若葉たちは二百年以上も前に亡くなっていて、乃木神社で祀られて…………えっ!? まさか……」

 

「そのまさかだよ。この国では、人が祀られて神になる事例には事欠かない。有名処で言えば、菅原道真とか徳川家康とかね。彼女たちは乃木神社にて正式な手続きを経て正しく祀られている。本当の神になったんだ」

 

貴也は思わず、映し出されている若葉たちを凝視した。

 

「そして君は、勇者に非常に近しい存在となった。乃木園子たちを『神樹に選ばれ、神樹の力を宿した勇者』と定義づけるならば、君は『乃木園子に偶然選ばれ、乃木若葉たち新たな神の力を宿した、勇者の(まも)り手』と呼ぶべきだろうね。神世紀に生まれた新しい神だからこそ、従来の『無垢な少女』とは異なる『るーる』が適用出来たんだ。ただ新たな神の力は弱く、そのままでは『神樹の勇者』には及ぶべくもなかった。だけど、その指輪に込められた精霊の力を借りることで、おおよそ乃木若葉たち西暦時代の勇者に匹敵する力を得られているんだ」

 

アバター友奈はさも楽しげに貴也の力の本質を暴いていく。

 

「この時代の彼女たちは、バーテックスとの戦闘に非常に危機感を持っていたんだろうね。高嶋友奈が、そうであったように……。その強烈な思いが神になった後も、その振る舞いに影響を与えたんだろう。だから、自分たちとの繋がりが偶然生じていた君を援軍として送ったんだ。――――――ただ、彼女たちは神世紀三百年においては、まだまだ生まれたての未熟で僅かな力しか持たない神なんだ。人一人を、三百年の過去に送り込む力までは持っていなかった。だから、外部からその力を調達した」

 

「それじゃ、あの時、神性のあった狐が僕に憑依したのは……、あの炎の玉になったバーテックスと対峙したのは、目的じゃなくて、手段だったのか……」

 

「ご明察。君があの火球に触れた瞬間、そのエネルギーを吸収して、君を過去に飛ばす力に変換したんだよ」

 

 

 

 

「ちょっと待てよ……。今の話は、どこかおかしい……。僕と若葉たちとの間に繋がりが偶然生じていたから、だって……? 僕が、この時代に来ていたことを知っていたからじゃないのか? だから、僕との間に繋がりを持ったんじゃないのか?」

 

貴也はアバター友奈の説明の矛盾点を突いた。そう、出発点がおかしかった。まるで、神となった若葉たちが過去の出来事を知らないかのような説明だったからだ。

 

「なにも、おかしくないよ。彼女たちは、君が過去、この時代において自分たちを救ったことを知らない。覚えていない。私たちが記憶を書き換えたからね」

 

「どうしてっ!?」

 

「君は二度、君自身のことを『世の理を壊しし者』と呼ばれたはずだよ。そう、この時代の人間は、君がこの時代にいたことを覚えていてはいけないんだ。それは、因果律を破壊する行為に他ならないからね。――――――君がこの時代に来ていたことを知っていたから、過去へ送った……? だとしたら、その行為の出発点はどこにあるのかな?」

 

なにも答えられなかった。知っていたから過去へ送った? 過去へ送られたから知っていた? 確かに出発点はどこにもない。矛盾だ。

 

「君がこの時代に存在することは、それだけで因果律を破壊しつつある行為なんだ。実際、もう限界に近かったんだ。君をこれ以上、この三百年前の世界に置いておくことは出来ない。彼女たちも、無責任なことをしたものだよ……」

 

そう言って、嘆息するアバター友奈。

 

「無責任って、どういうことなんだ?」

 

「彼女たちは、元の時代に君を戻す(すべ)を持たない。君は片道切符で、この時代へ送られたんだ」

 

絶句した。

 

「分からない話じゃない。彼女たちも神だ。人としての思考、感情は無くなっている。君の、人間一人の都合までは、なかなか視野には入れにくいものなんだよ。私が今の考えに及んでいるのは、この高嶋友奈のあばたーを介して、高嶋友奈の思考と感情をなぞっているからだよ。――――――例えば、そうだなー……、人が天敵に襲われている蟻の巣を守ってやろうかと気まぐれを起こしたとして、蟻一匹一匹の生死まで気にするかな? ましてや、足の一本や二本、全く気にも留めないだろうね」

 

アバター友奈の話は理解は出来た。だが、納得できる話ではなかった。しかし、それ以上に気になることがあった。

 

「僕はこれから、いったいどうなるんだ?」

 

「君がここで死のうが、本来、私たちにはどうでもいいことなんだ。これ以上、この時代に干渉出来ないように出来さえすればね。でも、君は『或る計画』に組み込まれた。だから、私がこの時代へ派遣されたんだ。君を元の時代へ飛ばすためにね。今までの説明も、本来必要ないことなんだけどね。これは、まあ、『さーびす』だよ」

 

「じゃあ、僕は元の時代へ帰れるんだな」

 

「そうだよ。これから私が君を元の時代へ飛ばすことになるんだ。ただし、覚えておくといいよ。そこから先の未来は確定していないということを」

 

「? どういうことだ……?」

 

「神世紀三百年の君が、この時代に来て干渉した結果が、元の神世紀三百年の状況を作り出しているんだ。言わば、この時代から君が過去に飛ばされたその時点までの歴史は確定していると言って過言ではないんだよ。多少の揺らぎは許容されるだろうけど、大きく踏み外せば、この流れに乗らないことになるんだ。それは矛盾だよね。神世紀三百年の君が戻った時点を境に、その先の未来は確定しておらず、また、その時点までに起こるすべての偶然は、必然の上に乗っかっているんだよ」

 

「………………」

 

「例えば、君が乃木園子と知り合うのも、その指輪が呪具になる瞬間を見届けるのも、勇者にも似た存在としてバーテックスと戦うことになるのも、すべて偶然を装った必然なんだよ」

 

「この指輪が呪具になる瞬間だって!?」

 

「君は見たはずだよ。その指輪が神に見初められし少女、乃木園子に初めて触れられることによって呪具として生まれ変わる瞬間を」

 

「まさか……」

 

幼い園子が、この指輪を掲げて満面の笑顔でくるくると回っている情景を思い出した。確か、あの時、園子の体が淡く光っているようにも見えた気がしたはずだ。

 

「その光は、神気が発したものだろうね。彼女たちが正式に祀られ始めてから、凡そ二百年。その指輪が真の呪具となるのに必要とした時間だよ」

 

唖然とした。園子と初めて知り合ったその日こそが、まさに自分たち二人の、いや世界をも定義づける運命の重要な一里塚だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、それじゃあ、元の時代へ帰ろうか」

 

概ね解説が終わったのだろう。アバター友奈は、いまだに得られた情報を咀嚼するのに頭を使っている貴也を尻目に、そのようなことを言いだした。

慌てて話しかける。どうしても、叶えてもらいたいことがあったからだ。

 

「ちょっと待ってくれ。二つだけ、お願いがあるんだ。いいかな?」

 

「君は見かけによらず、欲張りだなー。フフッ……。言ってごらん」

 

貴也のその言葉に、まるで小さな子どもの我が儘を聴いているような慈しみのある笑顔を見せ、アバター友奈は目を細める。

 

「一つ目は、若葉たちに別れの言葉を掛けさせて欲しいんだ。出来れば、彼女たちに会いたい」

 

「会わせるのは無理だなー。この空間は、私たちを元の時代へ戻すための準備として用意したんだ。音声だけなら届けられるけどね。但し、彼女たちの声も聞こえないよ。既にあちらとは時間軸がズレつつあるからね」

 

「分かった。それでもいい。彼女たちに声を掛けさせてくれ」

 

「いいよ。この四つの画面に向かってしゃべってくれればいい。でも、掛けられる時間は僅かだよ。簡潔にね」

 

「ありがとう」

 

頭を下げて感謝の意を示す。そして、画面の中の若葉たちに目をやりながら、話しかけた。

 

「聞こえているか? 若葉、千景、球子、杏……。僕だ。貴也だ。鵜養貴也だ。君たちに別れの言葉を掛ける時間をもらった。でも、こちらには君たちの言葉は届かないそうなんだ。一方通行になるけど聞いてほしい――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

若葉たちへ別れの言葉を掛けている途中で、肩を軽く叩かれた。振り向くとアバター友奈が首を横に振っている。強制的に別れの言葉は終了させられた。落胆したが、仕方がなかった。

アバター友奈は余韻に(ひた)る時間もくれはしないようだ。すぐに切り替えて、貴也に話しかけてくる。

 

「さて、一つ目のお願いは叶えたよ。二つ目はなにかな?」

 

「――――――神世紀三百年の勇者たち、乃木園子を始めとする彼女たちから奪った供物を返してあげて欲しいんだ」

 

そう。これだけは、なんとしても叶えて欲しい願いだった。神樹に直接お願いを出来るチャンスがあれば、とずっと胸の内に秘めていた願いだった。

だが、アバター友奈の答えは、貴也が期待していたものとは異なった。

 

「それは出来ない相談だなー」

 

「どうして!? お供え物は役目が終われば、お下がりとして返ってくるものなんじゃないのか?」

 

「うーん……。君はなにか勘違いをしてるんじゃないかなあ? 君がイメージしているのは、たぶん菓子やお茶とかなんだろうけど……。それらであっても本来、供物としてちゃんと機能していれば分かるはずだよ。お下がりとして返ってきた時には、味が薄くなっていたり、風味が落ちていたりするはずなんだ」

 

「えっ……?」

 

「それらは、そのものの本質なんだよ。供物とは本質を捧げるものなんだ。だから、彼女たちにはお下がりとして、ちゃんと肉体は元のままの状態で戻っているはずだよ。本質としての機能は失っているけどね」

 

「それじゃ……、そのちゃんたちの体は、もう永久に元には戻らないって事なのか……」

 

目の前が真っ暗になった。絶望が心を満たしていく。

だが、アバター友奈はその感想にも否を返してきた。望む形でなくとも、まだ希望はあるのだと。

 

「先に言ったとおり、器は返しているんだ。味が薄くなった菓子も、砂糖とか調味料を新たに使えば似た味を付けることは可能だよ。そのものが元々持っていた味と完全に一致させることは不可能にしてもね」

 

「じゃあ、本質的には異なるけども、似た機能を付与することは可能って事なのか……?」

 

「そうだね……」

 

「それでもいい! そのちゃんたちが、普通に日常生活を送れるようにしてやって欲しいんだ。頼む。このとおりだ。僕が代わりに供物になってもいい。だから……」

 

思わず土下座をしかかるが、アバター友奈に押し止められる。

 

「慌てないでいいよ。そういうことなら心配しなくても大丈夫だ。私たち地の神の王は、既にそれをしている。どういったお考えの下になされたのかは、私にも分からないけどね。神世紀の六人の勇者の供物は、もう既に非常によく似せたもので(あがな)っているよ」

 

その言葉に安堵が心を満たす。涙が溢れた。

 

「すみませんでした。僕は誤解していた……。神樹様は、本当に人類の味方だったんだ。――――――ありがとうございます。そのちゃんたちに体の機能を、代替品とはいえ返してくださって……」

 

「我々は神だからね。勇者に対しても、個人個人に特別に目を掛けているといっても、その心情まで推し量ることは出来ない。代理人の言葉を鵜呑みにする他ないからね……」

 

 

 

 

「さあ、もういいかい? 君を元の時代へ飛ばすよ」

 

アバター友奈が、貴也の手を取る。暖かくも不思議な感触だ。

 

「最後に一つだけ。僕が組み込まれた『或る計画』っていうのは、どういうものなんですか?」

 

「天津神、火明(ほあかり)への対処だよ。詳しくは、追々(おいおい)分かるよ。――――――さあ、自分の帰りたい場所を強く『いめーじ』するんだ。そこへ帰してあげるよ」

 

帰りたい場所など、たった一つだ。言われたとおり、彼女を強くイメージする。

 

「行け! 勇者の(まも)り手よ!!」

 

その言葉が、貴也がこの時代で聞いた最後の言葉になった。

次の瞬間、意識がプツリと途絶えた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

若葉たち西暦の勇者四人は、一度に二人の仲間を失った。皆の心は悲しみに満ちている。

友奈は瀕死のまま神樹に取り込まれ、貴也は恐らく神の手によりこの場から消え去った。

 

若葉は立ち尽くし、天を仰いだまま涙を(こら)えていた。

球子は膝立ちで、声も上げずに滂沱の涙を流していた。

杏は両手で顔を覆い、しくしくと泣いていた。

千景は、貴也が消えた場所を見つめながら呆然としていた。

 

 

 

 

どこからか貴也の声が聞こえてきた。

 

『聞こえているか? 若葉、千景、球子、杏……。僕だ。貴也だ。鵜養貴也だ。君たちに別れの言葉を掛ける時間をもらった。でも、こちらには君たちの言葉は届かないそうなんだ。一方通行になるけど聞いてほしい』

 

「貴也? 貴也なのかっ!?」

 

「貴也! どこにいるんだっ!?」

 

「貴也さん。いったい、どういうことなんですか?」

 

その声に、弾かれたように反応を返す三人。千景だけは、どこか呆けた様子で視線を彷徨わせていた。

 

『僕は今、神樹と一緒にいるんだ。これから三百年後の元の世界へ帰してくれるらしい。もうこれ以上、この時代にいてはいけない、と言われたんだ』

 

その言葉は、彼女たちの心を切り裂く。

 

「そんな……」

 

誰かが呟いた。

 

『だから、さよならだ。ちゃんと会って言えなくて、ゴメン……』

 

「本当に私たちの声は届かないのか……!?」

 

その若葉の疑問の声に、貴也の声は応えない。

 

『若葉。さよならだ。僕は、君があらゆる重責に耐えて、この四国を三百年後の僕たちに残してくれることを知っている。この時代で僕を引っ張ってくれたことも含めて感謝している。ありがとう』

 

『球子。さよならだ。君が周りを明るくしてくれることで、僕も元の時代に戻れない寂しさや苦しみを紛らわすことが出来たんだ。感謝している。ありがとう』

 

『杏。さよならだ。君と本を読むという趣味が合って、いろいろと話が出来たことで僕がどれだけ救われたか、君は知っているだろうか? 感謝している。ありがとう』

 

『千景。さよならだ。こんな僕を慕ってくれて、感謝している。君とは、もっと深く知り合いたかった。それと、これは君だから頼むんだけど、ひなたにも僕がありがとうと言っていたと伝えてあげて欲しい。それと、直接別れを告げられなくてゴメンと言っていたことも……。君と彼女の気持ちは分かっているつもりだ。本当にありがとう』

 

『それと、真鈴にも伝えてあげて欲しい。僕が感謝していたということを――――――』

 

そこまでだった。唐突に貴也の言葉は途切れた。そしてもう、どこからも声は響いてこなかった。

 

 

 

 

「行っちゃったんだな……、あいつ……」

 

球子が感慨深げに、空を見上げながら呟く。

 

「私たちに、いろいろ大切なものを、思い出を残してくれましたよね」

 

杏が、球子の右手を自らの左手で握りながら同じように空を見上げて、ポツリと漏らす。

 

「ああ、あいつに、貴也たち三百年後の人達に、より良い四国を残してやらないとな……」

 

決意を込めて若葉が呟く。その手に握りしめた生大刀を見つめながら。

 

「悲しんでちゃいけないんだわ。貴也くんは、自分がいるべき場所に戻れるんだもの。祝福してあげないといけないんだわ……」

 

涙を流しながら、千景がやっとの思いでそれだけを言葉にする。

 

辺りが真っ白に輝き出す。樹海化が解けるのだ。

 

 

 

 

青空の下、丸亀城の敷地内に四人は立っていた。皆、激闘の跡を示すように全身血まみれだ。

周りをうるさいほどに蝉の鳴き声が響いていた。

 

「さあ、行くぞ! 友奈の分も、貴也の分も、私たちは為すべきことを為さなければならないんだ!!」

 

若葉が丸亀城へ、ひなたが待っている場所へと皆を鼓舞しつつも、よろよろと歩き始める。

その後を、球子と杏が手を繋ぎ、互いを庇い合うようにしながら追いかけていく。

 

千景もその後を付いていこうとして、ふと振り向いた。

どこまでも抜けるような青空が広がっていた。

 

「高嶋さん、貴也くん。私、頑張るね」

 

それだけを小声で呟くと、三人の後を追いかけて、やはり体を引きずるように歩き出した。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

まるで、今まさにスイッチが入ったように、意識が突然戻った。

目の前に見慣れた風景があった。窓から陽光が降り注いでいる。自らの私室だ。

自分の勉強机の前で、ミルクティー色の柔らかそうな髪が揺れている。なにか書き物をしているようだ。

 

貴也は息を呑んだ。この五ヶ月、会いたくて会いたくて、たまらなかった人の後ろ姿があった。

 

貴也が息を呑んだ気配に気付いたのだろう。揺れていた体がピタッと止まった。

ゆっくりとこちらを振り向いてくる。

 

会いたかった人の顔。でも、初めて見ると言っても過言ではないのだろう。

貴也にとってはほぼ三年前のことだ。最後に、包帯を巻いていない綺麗な肌の彼女の顔を見たのは。

それから二年半の成長の跡があった。幼さは影を潜め、少女らしい顔つきになっていた。

その顔が、驚きに目を大きく見開いていた。

そしてその顔は、すぐにくしゃっと泣き笑いの表情に変わる。

 

彼女は椅子を蹴り飛ばすように立ち上がると、真っ直ぐ貴也を目指して駆け出した。

だが、まだ万全でない足をもつれさせた。貴也に倒れ込んでくる。

その彼女の軽い体を全身で受け止めた。

彼女がギュッと貴也を抱きしめる。貴也も彼女を抱きしめ返した。

 

「たぁくん……たぁくん、たぁくん!!」

 

「そのちゃん……、ただいま……」

 

二人は、そのままずっと涙を流しながら抱きしめ合っていた。いつまでも、いつまでも……

 

 

 

 

神世紀三百年十月二十八日金曜日。

それは讃州中学で文化祭が行われる前日の昼下がりのことであった。

 

 

 




今回も作者的には大ボリュームの7,500文字に達していますねぇ。ハーメルンでは5千文字台が一番読みやすいんじゃないかと思っているので、ちょっと複雑です。

さて、第1話がマジ第1話だった件。なに言っているか分からないと思いますが、作者自身もなに言っているか分かっていません。
メタいことを言うと、第1話投稿時点で園子のあの描写がここに繋がるとは夢にも思っていませんでした。伏線として機能するなんて思っていなかった訳です。作者の思惑を外れて勝手に動き回るキャラの面目躍如といったところですね。

また、今回はネタバレ回らしく21話や23話あたりの伏線がガシガシ回収されていたりします。

園子と貴也の再会。22話以来なので幕間含めてなんと21話ぶりです。この二人、8~13話の間も実質会えていないので、実は半分以上の話で会えていないんですねぇ。

さて、次回はのわゆ編最終回。オリ主もメインヒロインも登場しないお話となりそうです。貴也くんの名前ぐらいは出てきますが。
実は今回の投稿準備をしている時点で、次回の原稿が1行たりとも存在していません。水曜日の投稿は無理でしょう。
ということで、不定期投稿に突入です。


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