鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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皆様、お久しぶりでございます。

この時期、残業、送別会が乱発し執筆時間がとれねー。休日も疲労と花粉症でノックアウト寸前。来期の戦力も半減するそうなので、もはや定期の投稿は不可能ではないかと。
ということで、のわゆ編最終回はゲリラ的に投稿です。

では、本編をどうぞ。





第四十三話 勇者の指輪

「今思えば、若葉ちゃんたちは私を安心させようと死力を振り絞ったのかもしれませんね……」

 

ベッドで眠る若葉を眺めながら、傍らの椅子に座るひなたはそう独りごちた。

 

あの戦いから既に二週間、若葉、千景、球子の三人はいまだに意識を取り戻していなかった。

杏だけは、下ろした精霊の力が他の三人より若干弱かったおかげだろうか、三日前に意識を取り戻し、樹海化の中、何が起こったのかをひなたに説明してくれていた。ただ、彼女も退院にはあと二週間は掛かるそうだ。

 

 

 

 

あの日、授業の合間の休み時間、教室で七人揃っておしゃべりをしていた時だった。急にひなたを除く六人の姿が消えたのは。

もう、何度も経験したことだ。ただ、何度経験しようが慣れるようなことでもなかったのだが。

 

神託のとおり、バーテックスの総攻撃があったのだろうことは、すぐに分かった。

ひなたは慌てて教室を出ると、丸亀城内からも出て街への道をひた走った。

しばらく坂道を駆け下りていくと、全身血まみれで、よろよろと歩いてくる若葉たち四人に出くわした。

そして若葉たちは皆、ひなたの姿を見るや安心したような笑顔を見せるとその場にばったりと倒れてしまったのだった。

 

ひなたが思い出していたのは、その時のことだ。

そのすぐ後、ひなたの連絡で駆け付けた大社の医療班によって回収された四人は、すぐに病院に担ぎ込まれ、緊急の処置を施されたのだった。

四人とも生きているのが不思議なほどの怪我を負っていた。皮膚も、内臓も、骨も……。勇者として神樹の加護に守られていなければ、文字通り生命を落としていたことだろう。

それ以後、ずっと意識を失ったままだったのだ。

体の無理を押してまで、ひなたの所まで帰ろうとしていた若葉たち。それはきっと、友奈と貴也を失ってしまったことに対するひなたへの気遣いだったのだろう。せめて自分たち四人だけでも元気な姿を見せてやろうとしてのことだったのだ。

 

「そんな無茶をしなければ、もう少し早く良くなっていたかもしれませんのに……」

 

友奈と貴也の生体反応が消えたことは大社も把握しており、ひなたもその報告を受けていた。そして、杏の証言により、ひなたは二人がどうなったかも分かったのだった。

その結果、友奈が神樹に取り込まれたことは大社に報告を上げた。だが、貴也については、神樹により三百年後の彼の元居た時代に戻されたということは報告せず、単に行方不明となり恐らく死亡したのだろうということのみ報告を上げたのだった。

 

「若葉ちゃん。早く目を覚まして、私を安心させてくださいな。でないと私は……」

 

友奈の死も衝撃だった。だがそれ以上に、恋心を寄せていた貴也の喪失はひなたの心を抉った。彼がいなくなるなど夢にも思っていなかった。三百年後の人間であるとは分かっていたが、よもや直接神自身の手により元の時代に戻されることがあるなんて。

 

「若葉ちゃん……」

 

両手で親友の左手を取り、自分の顔に当てる。嗚咽が漏れた。

その時、握っている若葉の手がぴくっと動いた。

 

「泣くな、ひなた……。私は生きているぞ……」

 

「若葉ちゃん……!! 気がついたんですね……! よかった……、本当によかった……」

 

親友の、その弱々しくも気遣いの見える言葉を聞いて、初めてひなたは大粒の涙を流し声を上げて泣いたのだった。

 

 

 

 

その日、若葉が目を覚ますのと前後して、千景と球子も意識を取り戻した。

四人の勇者は生還したのだ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

二ヶ月後。十月も半ばを過ぎ、若葉たちが退院して十日ほど経った頃、大社から勇者としての任務が言い渡された。

壁の外の調査だった。バーテックスに侵攻とは見られない未知の動きが見られるというのだ。

ひなたを含めた五人での調査となった。

 

「結界の壁が、これほど強固になっているとは……」

 

「あの戦いの直後から、ほぼ一ヶ月でここまで強固になったんだそうです」

 

「高さが二倍以上になったのはともかくとして、厚さも四倍ぐらいになってないかしら……」

 

「見タマえ! あの壁に突撃してる小型の奴ら。全部、跳ね返されてるみたいだぞ!」

 

「本当に、貴也さんが言っていたように三百年間保つのかもしれませんね」

 

瀬戸内海の壁の上に立ち、結界の外を見ながら皆、思い思いのことを呟く。星屑に襲われれば、すぐに結界内に待避できるようにしながら。なぜならば、千景と球子は既に前回の戦いで武器を失っているからだ。今、直接に戦闘可能なのは、若葉と杏だけだ。

 

結界の外には、無数の星屑が飛び交っている。一部は、結界の壁に突撃を繰り返していた。但し、その全てが弾かれてはいたのだが。だが恐ろしいことに、あちこちで三十メートル級大型バーテックスが形成されていた。しかも、それらは内側で核のようなものが光っているのだ。全ての大型バーテックスがさらなる進化を遂げていた。

 

眺めていると突如、大型バーテックスたちがおぞましい音を発し始めると同時に明滅をも始める。海の向こうからも同じような音が響き始めた。

 

「なんだ!? 何が起こってる……?」

 

大地が揺らぎ、海が荒れ始める。

 

「うわ!? あんず?」

 

「タマっち先輩! 手を……!」

 

「ひなた! 私に掴まれっ!」

 

空から何本も光の柱が海に降り、底が抜けたように海水が渦巻く。

 

「まるで神話の(あめの)()(ぼこ)のようです……」

 

ひなたの呟きに呼応したかのように、水平線から第二の太陽が昇る。その第二の太陽は急激に上昇すると、本当の太陽を覆い隠し、強烈な光と熱を発し始めた。

 

「まずい! 結界内に待避だ!」

 

慌てて全員で壁の内側に撤退した。

 

 

 

 

しばらく経ってから、確認のために結界外へ出た五人が見たのはまさに地獄だった。

 

灼熱に赤く焼け爛れた大地。太陽プロミネンスのように吹き上がる炎。大地にも空中にも無数の通常個体のバーテックスが蠢いていた。ただ、大型バーテックスの姿だけは、かき消したように無かった。

 

「世界が壊された……?」

 

「いえ、(ことわり)そのものが書き換えられたんですね……」

 

「もう、四国以外何も残ってないのね……」

 

「ちくしょう……、なんでこんな……」

 

「人類が再起できないよう、可能性を徹底的に潰してるんですね……」

 

若葉たちは、絶望と怒りに身を焼かれていた。

 

 

 

 

こうして四国に残された人類は、神樹の守りに寄り掛かるしかない、世界の孤児となった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

十二月初旬。

その日、大社本庁に寄っていたため、ひなたはずいぶん遅れて登校してきた。

教室に入ってきた時、彼女の顔は真っ青で、今にも倒れてしまいそうな雰囲気があった。

 

「どうしたんだ、ひなた……? 大社でなにかあったのか……?」

 

若葉が駆け寄り声を掛けた途端、ひなたはガタガタと震えだした。

 

「わ、若葉、ちゃん……。わ、私は許されないことを……、してしまいました……」

 

「いったい、何があったんだ……?」

 

「私の受けた、神託で……、そう! 私が神託を受けたんです!! 私が神託で受けた言葉を伝えたんです!!  私が、あの子たちを殺したんです!!!」

 

「落ち着け! 落ち着くんだ、ひなた!」

 

「う、ううう……うあぁぁぁああああっ!!」

 

ひなたは、わかばに縋り付き大声で泣き出した。

球子も、杏も、千景も黙って遠巻きに二人を見ているしかなかった。

 

 

 

 

しばらく泣きじゃくっていたひなたが落ち着きを取り戻すと、若葉たち四人は事情を聞き出した。

 

「結界が強化されたことも、大社が天の神と交渉を行ったことも、皆さんご存じですよね」

 

「ああ……」

 

「結界の強化は、大社が執り行った『神婚の儀』によってなったものなんです。神樹様への人身御供として選ばれたのは、友奈さんでした。彼女が神樹様に取り込まれたのも、大社が神婚の儀を執り行ったからなんです。彼女の犠牲で、結界は強化されたんです。――――――そして、天の神との交渉とは、今後人類が四国の地を出ないことを条件に赦してもらうことでした。この交渉には、鷲尾さんを始めとする四人の巫女が選ばれました。人類側の声を届けるために、結界の外へ出てもらって……」

 

「あの炎の海へか……?」

 

「そうです。四人は生け贄となったんです……。大社はこの神事を『奉火祭』と言っています……」

 

「なんで……? なんで友奈とその四人が選ばれたんだよ!? タマにも分かるように説明してくれ」

 

「あの万葉仮名の神託です。あの中に彼女たちが()()()で入っていたんです。私は、それに気付かなかった……。もっとちゃんと読んでおけば……」

 

また、ひなたは涙ぐむ。そんなひなたの背に手を当てながら、千景が慰める。

 

「どうせ、人名そのものじゃなかったんでしょ……。多分、暗示するような表現だったんでしょうから……。上里さんが気に病むことじゃないわ……」

 

「それでも! 私が気付いていれば……、なにか対処ができたかもしれません!!」

 

そう言って、ひなたはまたおいおいと泣き出した。

それ以上、誰も慰めの言葉を掛けられなかった。彼女の嘆きは、涙が枯れ果てるまで続いたのだった。

 

 

 

 

この数日後、神樹から神託が降りた。

人類は、四国の地から出るようなことをせず、勇者の力を放棄するならば、もう攻められることはないのだと……。

 

人類は、箱庭の平和を手に入れた。それは、ある意味敗北であり、ある意味掴み取った勝利だったのかもしれない。

だが、この後も若葉たちは天の神への反攻を志し、人類は秘密裏に細々と勇者システムの性能向上を目指して研究を続けることになるのであった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

三月。

若葉たちは、丸亀城から居を引き払う準備を進めていた。

勇者として有名になりすぎていた彼女たち四人は、市井の生活に戻るのは困難であろうと目されていた。このため、大社改め大赦が用意した新設校に通うことが決まっていた。新設校は彼女たちの顔が売れている丸亀を避け、隣接の坂出市内に設置されることとなった。

四月からは、若葉、ひなた、球子は高校一年生、千景は高校二年生、杏は中学三年生だ。小規模校で全寮制のため、今までどおりとは行かなくとも、交流を継続することは困難ではなかろう。

 

 

 

 

その日の授業が終了した。あと数日で、ここで授業を受けることもなくなる。

十二月半ばからは勇者や巫女としての訓練がなくなったため、普通の学生たちの学力に追いつくために相当の詰め込み授業が行われていた。

 

「ぐへー、今日も疲れた~」

 

球子が机に突っ伏す。それを見て、杏が笑みを浮かべながら突っ込みを入れた。

 

「タマっち先輩は勇者だからって、勉強をかなり(おろそ)かにしてたもんね。そのツケが来たんだよ」

 

「とはいえ、確かにこの三ヶ月はきつかったな。私も結構、へとへとだ。これなら、勇者の訓練をしている方がまだマシだ……」

 

「私もゲームをする時間が削られてしまって、ストレスだわ……」

 

若葉も千景もグロッキー気味だ。

すると、ひなたが皆に声を掛ける。

 

「皆さん、ちょっと椅子を持って集まってくださいな」

 

「なんだ、ひなた? 何かするのか?」

 

「ええ……。とっても重要なことです」

 

なんだ、なんだと皆集まり、ひなたの机の周りに椅子を並べて座る。

ひなたは自分の鞄の中から植毛された小さなケースを取り出す。そのケースの中には指輪が収まっていた。

 

「じゃーん! これはなんでしょう!?」

 

「指輪じゃん。それがどうかしたのか……?」

 

「まさか……、それ、貴也くんの……?」

 

「そうです! 貴也さんの指輪に良く似せて作ってもらいました!!」

 

理解が及ばない球子に対し、千景はさすがにすぐに気がついた。

ひなたはケースから取り出した指輪を、どや顔で見せびらかす。

 

「私が覚えている限り、忠実に似せてもらったんです。友奈さんを含めた若葉ちゃんたち五人の誕生石もインサイドストーンとして、並びも同じに嵌めてもらいました。貴也さんの手に確実に渡るように『to Takaya』の文字も刻んでもらいました。どうですか……?」

 

「凄いじゃないか、ひなた……」

 

「じゃあ、これが貴也さんを勇者に変身させる呪具となるんですね?」

 

「ええ、もちろん! そうなるに決まってます!!」

 

感嘆の声を上げる若葉。ひなたに意図を確認する杏。そして、ひなたは弾けるような笑顔で首肯する。

そして、ひなたに手渡された若葉から順に皆、指輪を手に取り()めつ(すが)めつ眺めるのだった。

 

 

 

 

「で、ここからが最も重要なんですが、この指輪に皆さんの精霊の力を込めてもらいたいんです」

 

「そうか……、このままでは只の指輪だしな。貴也が戦うための力を込めるという訳か……」

 

「そういうことなら、タマに任せタマえ! 輪入道の力、目一杯込めてやるぞ!」

 

「でも、精霊の力なんて、どうやって込めるのかしら……?」

 

「そういえば、以前分析した時には、人類には構築不可能な術式で込められていると言ってましたよね……?」

 

千景や杏の戸惑いに、ひなたはなぜかエッヘンと両腰に拳を当てて胸を反らす。

 

「私にも分かりません! ですが……、こう、手を翳して強く想いを込めるだけでいいんだと思いますよ。最終的には神樹様がなんとかしてくださるはずですから」

 

「おいおい、若葉……。ひなたがぶっ壊れた発言しているぞ……。大丈夫か……?」

 

「私に振るな、球子。私もどう反応したらいいか分からん……!」

 

常にない、いい加減なひなたの言動に困惑する球子と若葉。だが、そのひなたの態度に、千景が苦笑しながらも同意を返す。

 

「そうよね。所詮、私たちは勇者とはいえ只の人間に過ぎないんだから、神様の起こす奇跡のようなことをしようたって無理なんだし。やれることだけやって、後は神樹様に丸投げでいいんじゃないかしら……? とにかく、私の七人御先は貴也くんの力の鍵となっているんだから、ありったけの想いをこの指輪に込めてみせるわ」

 

そう言うと、机の真ん中に広げられたハンカチのその上に置かれている指輪に右手を翳すと、その手首を左手で掴み、真剣な表情でなにやらぶつぶつと呟きながら念を込め始めた。

 

「届け、届け、届け……。私の想いよ、貴也くんに届け……」

 

若葉と球子は、そんな千景の姿を半目になりながら呆然と見やる。ところが杏は、苦笑しながらも千景に続く。

 

「そうですよね。こういうことは考えていても始まりませんから……。私の雪女郎は、貴也さんを守る障壁を発生させる要でしたから、真剣に念を込めないといけませんよね……」

 

杏は両手を前に突き出すように指輪に翳しながら、やはりなにやらぶつぶつ呟きながら念を込める。

とうとう、若葉も球子も観念したようにため息をついた。

 

「はぁー……。よしっ! こうなったら、あんずに続け、だ。タマの輪入道は貴也の移動手段と攻撃の両面で要だもんな。タマのこの想い受けタマえ~!!」

 

「それを言うなら、私の義経だって貴也の基本の変身に必要不可欠なんだからな……」

 

ついに、二人とも指輪に手を翳し念を込め始める。

 

「そういや、攻撃って言えばさー、貴也の奴、あんずが手綱を締めとかないと突出してたよな。あれ、危なっかしいなーって思ってたんだよなー」

 

「そうだな。私も同じように思ってたんだ。じゃあ、この指輪の力を使うにはまず『自分の身を護らねば』という意識が働かないといけないようにするか」

 

「回復力も持たせないといけないわ。そうか……! 貴也くんの回復力が凄かったのも、この指輪のせいかもしれないわ……。なら、もの凄い回復力を手に入れられるようにも念を込めないと!!」

 

「あはは……、なんだか面白いおもちゃを手に入れたみたいになっていますね……」

 

「貴也さんの力の源になるんですから、皆さん、真剣にお願いしますね」

 

皆、それぞれ勝手なことを言いながらも、本当に真剣に念を込めていった。

 

 

 

 

「なあ……、これ、いつまでやってればいいんだ……?」

 

四、五分、そうやって指輪に念を込めていると、さすがに球子が()を上げ始める。

 

「自分なりに、こう、十分だな、と思ったら、それでいいんじゃないかな……?」

 

杏も適当なことを言い出す。

そこへ、千景の感想が場の雰囲気を変えた。

 

「そういえば、貴也くんの精霊に最初、一目連の力が無かったのは、この場に高嶋さんがいないからかもしれないわね……」

 

「そうか……、そうだな。じゃあ、やはり、この儀式は本当に重要ということなのか……」

 

「だから、最初からとっても重要だって言ってるじゃないですか、若葉ちゃん!」

 

若葉の言葉に、ひなたが怒りを一割ほど込めて(たしな)める。

そこで、ふと気付いたように球子が呟く。

 

「そういや、この誕生石……タマたちのだけで、ひなたのは無いんだな……。元々そうだったとはいっても、なんか複雑だな……」

 

「そうですね。ちょっと罪悪感……」

 

杏も同意する。

ところが、ひなたはやはりどや顔で尊大な態度をとりながら言い放つ。

 

「大丈夫ですよ。若葉ちゃん達は、その小さな宝石だけですけど、私の想いはこのリングを構成するプラチナ全部がそうなんですから……!!」

 

「「「「!?」」」」

 

「ちょっと待て、ひなた……!!」

 

「なんだとー!? これ全部がひなただって!? 大きさが全然違うじゃんか!!」

 

「それは卑怯というものよ! 上里さん!!」

 

「ああー、これは収拾がつかないことにー……」

 

あとは、てんやわんやだった。

 

「貴也くんへの想いは、私の方が重いんだって証明してみせるわ!!」

 

千景がおどろおどろしいオーラを身に纏って念を込め出す。

 

「あんず、ちょっとお前のスペース、タマに貸してくれ!」

 

「ダメですよ、タマっち先輩! 私は量より質で行きます!」

 

杏が笑顔で、だが目は全く笑っていない表情で念を込め出す。

 

「くそー、こうなったら、ひなたのスペースを侵略してやる!」

 

球子が必死な表情で念を込め出す。

 

「ひなた、私とお前の仲だろ? ちょっとでいいから……」

 

「いいえ、いけません、若葉ちゃん。人の恋路だけは邪魔しないでくださいな」

 

恐る恐る問いかける若葉に、目のハイライトを消して恨めしそうに言い放つひなた。

 

 

 

 

三百年後、貴也の手に渡るはずの指輪は、こうしてその力を得るのだった……?

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、いい天気だ!」

 

指輪への念込めを終え、若葉たちは寮へ帰るべく丸亀城の外へ出てきた。

 

「それじゃ、若葉ちゃん。これとこれをお願いしますね」

 

ひなたが先ほどの指輪が入ったケースと、豪華な装丁の書籍を手渡す。

 

「ん? 私が持っておくのか?」

 

「貴也さんが言っていたじゃないですか。指輪は乃木家の蔵で見つけたって。ですから、若葉ちゃんが大切に保管しておくべきなんです」

 

「じゃあ、これは……?」

 

書籍の方をひなたに突き出す。

 

「それは、若葉ちゃん達の(ぎょ)()の写しです。ちょっと、装丁に仕掛けを施しておきましたけどね……、ふふふ……」

 

「そうか……。貴也への、私たちからの三百年越しのプレゼントという訳か……。分かった。大切に保管しておこう」

 

悪戯っぽく笑うひなたにそう返すと、若葉は大切そうにその二品(ふたしな)を鞄に仕舞った。

 

 

 

 

世界がその色を変える。

 

 

 

 

「ところでさ、次、()()()に会えるのは何時(いつ)だったっけ……?」

 

球子が何でもないように、皆に問いかけた。

 

「さあ……? タカヤさんってふら~っと現れては、ふら~っと姿を消す方ですからね」

 

杏も、その答えがさも当然であるように返す。

 

「そういえば、この際、世界の果てを見たいからと足摺岬へ行くと言っていたような気が……」

 

「いや、私は室戸岬へ行くと聞いたように思うが……?」

 

ひなたと若葉も、あやふやな答えを返した。

 

「私は石鎚山に登るって聞いたような気がするけど……。まあ、いいわ。きっと、私たちが困っていたら、またふらっと現れて助けてくれるんじゃないかしら?」

 

「そうだな……。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からな……」

 

想いを馳せる千景に、若葉が相槌を打つ。

 

 

 

 

世界は……、彼女たちの記憶はどんどん(ひず)んでいく……。

 

 

 

 

「さあ、寮へ帰ろう!」

 

仲良く帰って行く五人の少女たち。

きっと、もう誰も()()のことを……、()()()()のことを思い出すことはないのだろう。

 

 

 

 

その日は奇しくも丁度一年前、彼女たちが初めて貴也と出会った日。

それは西暦が終わろうとしている年の、まだ肌寒さの残る春の初めのことだった。

 

 

 




のわゆ編はここまで。

書きたいことを全部盛り込んだら8,000字を超えてしまいました。
これでも、できるだけ簡潔にをモットーに書いているつもりですが。

さて、結末は前回神樹(アバター友奈)が話していたとおりに。

次回は、ゆゆゆ編こと乃木園子の章の完結編となりますが、前書きにあるとおり、とても定期投稿できる環境ではなくなってきましたので、次回投稿もいつになることやら。
期待せずに待っていてください。



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