鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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春分の日を執筆に回せたおかげで、なんとか本日の投稿ができました。
相変わらず定期投稿の目がないのでゲリラ投稿ですが。

さて、今回のサブタイトル。原作アニメの勇者の章最終話サブタイトル『君ありて幸福』を花詞に持つ花です。
ですが、今回のお話はゆゆゆ1期最終話Bパート終盤の勇者部の劇に相当します。というか、そのものですが。
まぁ、話の内容的には合っているかな、と。
また余談として、先に『幕間(まくあい)劇』として投稿した『白いクロッカス』と対になって期せずして紅白が揃い、お目出度くなっています。

では、本編をどうぞ。




乃木園子の章 完結編
第四十四話 赤いゼラニウム


ガラッ。勇者部部室兼家庭科準備室の引き戸が開くと、元気な挨拶が響いた。

 

「おっはよーございまーす! 結城友奈、はいりまーす!」

 

「おはようございます。東郷美森、入ります」

 

「おはよう、二人とも。友奈、足の具合はどう?」

 

連れだって登場した友奈と美森に朝の挨拶をしながらも、風は友奈の足を気遣う。そもそも松葉杖無しで歩く許可が出たのは一昨日からなのだ。僅か三日目で劇の、それも主役を張るなど無茶もいいところだ。

ところが、友奈は満面の笑みで返してきた。

 

「絶好調ですよ、風先輩。今日の劇は、この結城友奈にお任せあれ! 殺陣も頑張りますねっ」

 

「ほんとー? 東郷の見立てではどうよ?」

 

「ええ、この三日間、片時も目を離してませんけど大丈夫そうです」

 

「片時も目を離してないって、アンタねえ……」

 

しれっと通常運転の状況を明らかにする美森に、あきれかえる風。そこに夏凛が茶々を入れる。

 

「まっ、東郷も絶好調って訳ね。友奈、足に効くサプリがあるから、これキメときなさい」

 

「ええっ? そんなピンポイントで効くサプリメントがあるんだー。どんなの、どんなの?」

 

「しばらく歩けていなかったから、まあ筋力低下に効くものだけどね」

 

一方、樹はパソコン上で劇に使うBGMの最終チェックをしている。

 

「東郷先輩、この場面のBGMってこれでいいんでしたっけ?」

 

「ええ、そうよ。番号を振ってあるでしょ? その順番どおりに流せばいいわ。昨日、思い立って番号を振っておいたの。念のため、もう一度確認しておきましょうか……?」

 

「さすが東郷先輩ですね」

 

「アンタたち、劇の準備に力入れるのはいいけど、クラスの出し物の方もちゃんと忘れないようにね。クラスのみんなに迷惑掛けちゃダメだからね」

 

勇者部の出し物にだけ力を注いでいるように見える部員一同に危惧した風は、そう言って注意を促す。

そもそも体育館兼講堂を使った出し物は、午前中はクラス毎のものになっており、部活動のものは午後に割り当てられているのだから、風の懸念は正しいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者部の部室で持参した弁当の昼食をとり、一息つく。

皆、午前中のクラスの出し物もそれなりに上手くいき、ホッとしていた。

特に樹のクラスは十日ほど前にあった校内合唱コンクールの優勝クラスとしての出番もあったため、樹には少し疲労の色が見える。

 

「大丈夫、樹? 疲労回復のサプリ、キメとく?」

 

「あはは……。夏凛先輩、大丈夫ですよ。それに、劇の時間までまだ少しありますから、それまではちょっと休憩ということで」

 

出ない力こぶを作る素振り見せたあと、そう言ってニコニコする樹。そんな樹を見て風も微笑む。

 

「樹もだいぶ体力がついてきたもんねー。勇者稼業様々ってところかしら」

 

「勇者稼業って……? お姉ちゃん、ちょっとその言い方はなんか変だよー」

 

そんな会話をしていると、部室の扉が力強くノックされた。引き戸なのでガシャンガシャンという音を立てる。

 

「はーい、誰かなー?」

 

友奈が応対に出る。

引き戸を開けるや否や、彼女の横をサッと通り過ぎる人物。

その人物は小走りで部室の中央まで来ると、右手をパンチのように空中に突き出しハイテンションの雄叫びを上げた。

 

「ヘーイ! 乃木さんちの園子さんだぜー。イェーイ! 勇者部の劇を見に来たぜー! ヘイヘーイ!!」

 

「園ちゃん!? 劇を見に来てくれたんだ!? ありがとー!!」

 

なぜか、友奈も満面の笑みで園子と顔を見合わせ、両手を繋いでハイテンションに飛び跳ねる。

 

「ええっ? 乃木? アンタ、その、大丈夫なの?」

 

「なんで、そんなにハイテンションなのよ?」

 

「えーっ? ものすごく落ち込んでたって、聞いてたんですけどー」

 

一方、風、夏凛、樹の三人は困惑していた。貴也が失踪して以後、ひどく落ち込んでいたと美森から聞いていたからだ。

そして、美森は二人して飛び跳ねている園子と友奈を微笑ましいものでも見ているように、柔らかな視線を送っていた。

 

「それじゃー、今日のサプライズゲストを紹介だぜー! カモーン! ミノさーん!!」

 

園子のその叫びに合わせて扉が開くと、神樹館中学の制服に身を包んだ三ノ輪銀が入室してきた。彼女も部室中央まで歩み出ると、ポーズを決めて左手の人差し指を天に突き出し叫ぶ。

 

「ヘーイ! 三ノ輪の銀様、登場だぜー! イェーイ!!」

 

ただし、顔は耳まで真っ赤だ。さすがに恥ずかしいらしい。

 

「三ノ輪!? アンタ、学校はどうしたのよ?」

 

「いやー、園子に拉致られちゃった……。タハハ……」

 

「なんで、こんなことになってんのよ!? 説明しなさいよ! 乃木!!」

 

夏凛の叫びなど、どこ吹く風とばかり友奈と手を繋いで踊り狂う園子。

美森は銀を手招きし、労った。

 

「ご苦労様、銀。今日のそのっちの面倒みるのは大変だったでしょ?」

 

「いやー、あたしはなんにもしてないよ。登校しようと家を出たところで、園子に車の中に引きずり込まれたのにはビビったけど……」

 

そう言って、苦笑する銀。そして美森同様、柔らかな視線を園子に送る。

 

 

 

 

「じゃー、本日のサプライズゲスト、その2だぜー! カモーン! たぁくーん!!」

 

「「「「ええーーーっ!?」」」」

 

風、樹、夏凛、友奈の驚きの叫びが重なった。ガラガラッと扉を開いて部室に入ってきたのは、鵜養貴也その人だった。

貴也も部室中央まで進み出て、拳を振り上げた。

 

「ヘーイ! 鵜養た、か……、だぁーー! やってられるかっ!!」

 

叫び掛けたが、中途で拳を叩きつけるように振り下げ、やめてしまった。

 

「えーっ!? ノリが悪いよ、たぁくん……。折角、勇者部のハレの日なんだからさ~……」

 

「だからって、なんでこんなアホみたいなことしなきゃいけないんだよ。普通でいいだろ!? 普通で!」

 

「もう、しょうがないな~」

 

そう言いながらも、園子の顔は満面の笑みで満たされている。

 

「鵜養……? アンタ、本当に鵜養? 今までどこにいたのよっ……!?」

 

「足は付いてんでしょうね、足はっ……!?」

 

風と夏凛が呆然としたように尋ねてくる。樹に至っては貴也を指さし、口をパクパクさせるだけだった。

そして友奈は、貴也の背中に飛び付いていた。

 

「貴也さーん、おかえりーっ! 今まで、どこに行ってたのーっ!?」

 

「あーっ……? いや、話すと長くなるんだけどさぁ……」

 

 

 

 

「えーっ!? 三百年前に行ってたー!?」

 

「で、西暦の勇者様たちと一緒にバーテックスと戦ってたって!?」

 

「そんなことって、あるんですか!?」

 

「ほへ~?」

 

驚く風、夏凛、樹に対し、友奈だけは理解しているのか、いないのか、腑抜けたような声を上げる。

 

「あたしも今朝、初めて聞いてさー。にわかには信じられなかったけどね」

 

「まあ、アタシらも神樹様の力を受けて勇者なんてのに変身して戦ってたんだから、大概だけどねー」

 

そこに銀の嘆息が続くが、ようやく風がやや咀嚼したような発言をする。

 

「で、なに? 東郷はさっきから生暖かい視線を私らに向けてるけど、アンタだけは知ってたってことね?」

 

「あ、私も今朝、そのっちから電話を受けて初めて知ったのよ。ただ、みんなには驚かせたいから黙っててって頼まれちゃったから……」

 

夏凛の追求にバツの悪そうな顔をする美森。それを受けて風が園子を問いただす。

 

「乃木……、なんで東郷にも今日になってからの連絡だったのよ?」

 

「あはは……、ゴメンね~、みんな~。だって、たぁくんが帰ってきたの、昨日の昼過ぎだったし~。嬉しすぎて、みんなへの報告忘れちゃってたから、じゃあ、サプライズにしようかな~って思っちゃったんよ~」

 

「はぁ~、乃木ってこんな奴だったのね。名家のお嬢様で、先代勇者のリーダーだったっていうのに。何て言ったらいいやら……」

 

園子の言い訳に、ため息をつきながら返す夏凛。

だが、そこで気を取り直したように風が締めようとする。

 

「まあ、いいわ。これで、みんなの供物も返ってきたし、鵜養も帰ってきたっていうことで、めでたしめでたしの大団円ね」

 

が、そこで締まらないのが勇者部らしい。

 

「えっと、フーミン先輩……? 時間は大丈夫……?」

 

園子の指摘に、時計を確認する風。

 

「え? どわーっ!? もう、こんな時間!? みんな、準備、準備! 誰か、パソコン持って!!」

 

「慌てないで、お姉ちゃん。BGMのデータはメモリで持っていけば大丈夫だから!」

 

「僕も手伝おうか?」

 

「助かるわ、鵜養! じゃあ、そこの小道具の入ってる大きい段ボール箱を持ってきて! 友奈と樹と夏凛は自分の衣装と身につける道具類を持ってね。そっちの小道具類は東郷、あと乃木も! お願い!」

 

てんやわんやの大騒ぎで、準備を始める勇者部一同。

 

「それっ! 急げーっ!!」

 

荷物を持って、慌ただしく講堂へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇者は、自分が挫けないことが皆を励ますのだと、そう固く信じていました……」

 

美森のナレーションが流れる。

 

講堂は大入り満員の状態だった。

パイプ椅子に座る貴也の右隣では、園子が貴也の二の腕にしがみつきながら勇者部の劇を楽しんでいる。その隣ではやはり銀が食い入るように劇を見ていた。

貴也も劇を楽しみながらも、間近で感じる園子の体温、息づかいに幸福感と共に安心感を抱いていた。

 

『そのちゃんも同じように感じてくれてるんだろうか……?』

 

劇のクライマックスが近づく中、隣の園子を見やる。当の園子は目を輝かせて劇に没頭しているようだ。

 

 

 

 

「勇者よ、足掻くな! 現実の冷たさに凍えて、堕落してしまうがいい。ガッハッハッハッハー!」

 

風演じる魔王が、友奈演じる勇者を追い詰めていく。だが、勇者の瞳から光を奪うことは叶わない。

 

「そんなのは、自分の気持ち次第だ! 世界には嫌なことだって、悲しいことだって、自分だけではどうにもならないことだって、たくさんある。だけど、私には大好きなみんながいるんだ! 大好きな人がいれば諦めるわけがないんだ! 大好きな人がいるのだから、何度だって立ち上がる。だから、勇者は絶対負けないんだっ!!!」

 

魔王に駆け寄りながら、大きく上段から剣を振り下ろす勇者。対する魔王は邪悪な意匠の杖で受け止めようとする。その動きを掻い潜った勇者の剣が、見事に魔王を打ち倒した。

その時、友奈がまるで目眩でも起こしたかのように倒れかかる。

 

「友奈ちゃん!?」

 

「友奈!?」

 

「友奈!」

 

「友奈さん!」

 

倒れかかる友奈を受け止める風。そして、劇の途中であることも忘れて舞台袖から飛び出し駆け寄る美森、夏凛、樹。

 

「あ、あれ? あ、ゴメン、ちょっと立ちくらみしたみたい。でも、だいじょう……」

 

友奈がそこまで言いかけた途端、場内に割れんばかりの拍手が巻き起こった。どこからか指笛の鳴る音もする。

貴也も力一杯手を叩いた。銀と園子は立ち上がって手を叩いている。

 

「ブラヴォー!!」

 

いや、園子は目一杯声を張り上げて賞賛の掛け声まで掛けていた。

 

壇上の五人は暫く呆然とその光景を見ていたが、やがて立ち上がると大きく手を振り、そして最後は綺麗なお辞儀を返した。

こうして、勇者部の劇は賞賛の嵐の中、その幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

部室で後片付けをしながら駄弁る勇者部の面々プラス三名。

美森が用意した、結構本格的なデジカメでスナップ写真を撮ったり、記念撮影をしながらである。

中でも、話題の中心はどうしても貴也になる。皆、三百年前の話に興味津々なのだ。

 

園子は、今だけは仕方がないな、と勇者部の面々に貴也を任せていた。

自分は昨日、さんざん貴也に甘えながら話を聞いていたからだ。もちろん、全然甘え足りないし、話し足りない。それでも、今日帰宅してからもあれば、明日もある。文化祭の終了時刻までくらいはと、自分で自分を誉めてやりたいくらいには我慢していた。

 

貴也との話にあぶれた部員と代わる代わる話し込んでいた。

ふと、貴也の方を見ると美森と二人で何か話し込んでいるのが見えた。時折、園子の方へと二人して視線を向けてくる。

なぜか、その光景だけは特に気になった。

 

『後で、わっしーを問い詰めてみようかな……?』

 

 

 

 

そろそろ、文化祭も終了時刻が迫っていた。

代わる代わる他のクラスや部活の展示物を見に行っていた部員も、皆部室に戻ってきてくつろいでいる。

讃州中学では、まだ中学生だからということで模擬店のようなものがないのが、少し盛り上がりに欠ける要素かもしれない。

 

「わっしー、たぁくんとなに話してたの~?」

 

壁際に並べられた椅子に座り、茶を啜っている美森に近づきながら、園子は尋ねた。

 

「ちゃんと挨拶していなかったから、おかえりなさいって言ってただけよ」

 

「それにしては長かったよね~?」

 

「ふふっ、バレちゃった? 本当はね、西暦の勇者様たちの中に好みの女の子はいましたか? ってね。で、もしも現代に帰って来れなかったら、どうしてましたか? って、聞いてたのよ」

 

悪戯っぽく、そう返してくる美森に園子は口を尖らせる。

 

「今日のわっしーは、なんだか意地悪だよ~」

 

「ふふっ、ゴメンね。そのっちがあんまりにも幸せそうだから、ちょっとからかいたくなっちゃったの」

 

園子は、そう言って片手で拝んでくる美森の左隣に座ると彼女の長い髪を撫で、丁度肩の辺りで結んである青いリボンを見つめる。

 

「そのリボン……、似合ってるね、わっしー」

 

その言葉に美森は目を瞠った。

 

「覚えててくれたんだ、そのっち……」

 

「もちろんだよ~。言う機会を逃し続けて、ゴメンね」

 

「ううん、いいのよ……。あの日の約束、叶ったのね」

 

二人とも涙が頬を伝う。でも、嬉し涙であることがはっきり分かるほど喜びに溢れた笑みが浮かんでいる。

 

「おっ、二人だけの約束で盛り上がってますな。あたしも混ぜてよ」

 

朗らかな調子で声を掛けてきた銀が園子の左隣に座る。

 

「約束って言えばさー、あたしたち三人で交わした、今んところ最後の約束、覚えてるか?」

 

「「もちろん!」」

 

銀の問いかけに、園子と美森の答えがハモる。

 

「あの遠足で交わした約束でしょ?」

 

美森が弾んだ声で補足する。三人とも、満面の笑みを浮かべた。

 

「そうだよ。――――――あたしが、園子に美味しい焼きそばの作り方を教えて」

 

「私が、そのっちに美味しい和食の作り方を教えて」

 

「「「それでもって!」」」

 

「たぁくんの胃袋を鷲掴みっ!!」

 

園子が立ち上がって、視線の先にいる貴也を掴もうとするかのように右手を突き出した。

 

 

 

 

園子に自分の名前を呼ばれたので、友奈と話していた貴也は振り向いた。

そこでは、園子と銀と美森の三人が満面の笑顔で幸せそうに笑い合っていた。

 

『友情を取り戻せて良かったな、そのちゃん……』

 

 

 

 

その日、風、樹、夏凛、友奈、美森、銀、園子、貴也の八人は、たくさんの写真を撮った。

その中には、校内新聞にも載った劇の打ち上げの写真や、皆でふざけ合った写真など、色々なものがあった。

そして、八人で並んで撮った笑顔が溢れる写真。

それは、今でも貴也の勉強机の上に飾られている。

 

 




章題通り、乃木園子の章 完結編でした。
もうあと一本、エピローグ的でかつ次章のプロローグ的なお話が続く予定ですが。

今回は、幸せメーターの針が振り切れたハイテンション園子を描写できて満足です。

貴也くんは友奈の名を呼ぶ時には複雑な心境に一瞬陥ったことでしょうが、今回はそこに主題がないのでカット。まぁ、西暦の時ほどの葛藤はなかったことでしょう。

ということで、次回もいつになるやら分かりませんが、お楽しみに。

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