鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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いつの間にか2万UAです。
読者の皆様に感謝!

では、本編をどうぞ。




第四十八話 整理しよう!

「こんにちは~。乃木園子、はいりま~す」

 

「遅かったわね、乃木。どうしたの?」

 

木曜日の放課後、勇者部の部室に園子が遅れて現れた。備品の整理をしていた風が尋ねる。

 

「あはは……。掃除当番だったんだけど~、途中で箒持ったまま寝ちゃってたんよ~」

 

「は~、器用なことするわね、園子は……」

 

「わ~、にぼっしーに褒められちゃった~!」

 

「凄いよ、園ちゃん。夏凛ちゃんは、なかなか人を褒めないんだよ」

 

「いやいや、褒めてないから……」

 

友奈がズレた発言で園子と喜ぶ中、いかにも頭痛で困っていますという風情で頭に手を当てながら首を振る夏凛。

 

「でねでね、勇者部に私から依頼があるんよ~」

 

「私の突っ込みは無視か!」

 

「なに……? 乃木からの正式な依頼?」

 

夏凛の突っ込みを一顧だにせず、園子は勇者部全員に向けて声を掛けた。

 

「うん。本の整理なんだ~。小説のネタ探しと今後のために、実家から書庫に眠ってる本を送ってもらったんだけどね~。昨日届いたんだけど、思いのほか多くて~。ミノさんと私だけじゃ、いつ整理が終わるか分からないんよ~」

 

「大赦に頼んだら? その方が手っ取り早いでしょ……?」

 

「でもね、実家の書庫に眠ってた本だから、もしかしたら大赦の検閲を逃れてる本も紛れ込んでるかもしれないからね。大赦の人間に任せるのは、まずいんよ~」

 

「実家から出す時に、既に検閲されてるんじゃ……?」

 

樹のその疑問に対しても、園子は動じない。

 

「大丈夫だよ~。お父さんが気を利かせて、乃木家子飼いの昔からのお手伝いさん達に荷造りしてもらったそうだから~」

 

そう園子が返す横では、美森が握り拳に力を込めて瞳に炎を燃やしていた。

 

「ぅおのれ、大赦! 焚書坑儒とは文化と文明の敵よ!!」

 

風は、そんな美森を見なかったことにしつつ、その場をまとめた。

 

「じゃあ、土曜日は依頼の対応で一杯一杯だから、日曜日にまた乃木の家に行きましょう。暇がある人だけでいいわよ」

 

「お昼は私とミノさんで用意するね。午前中に本を本棚に収めて、午後は検閲を免れてる本を少し探そうと思ってるから~。興味のある本があったら、貸し出しもするよ~」

 

その発言があったからではないだろうが、結局、勇者部全員で参加することになったのだった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「くそー、やっぱり罠だったか……。まさか、客間が存在しないとは……」

 

「だから~、たぁくんは私と同じベッドで寝ればいいんよ。えへへ……。先週の木曜日振りなんよ。うっれしいな~」

 

「あたしも同居してることを忘れんなよ! 不純異性交遊はんたーい! 中学生男女の同衾、ダメ、絶対!!」

 

土曜日の夕方、翌日の本の整理の応援に駆り出された貴也は園子達の家に入るなり、自分が罠に掛けられたことを悟った。亜耶から預かった神託の件もあるので園子の勧めで前泊する事になったのだが、園子達の家でもあるので部屋数は充分あるものと高を括っていたのだ。まさか、銀と園子それぞれの私室とLDKの他は段ボール箱で一杯の書庫の予定である部屋しかないとは……

園子はほぼ一週間ぶりに貴也と一緒の布団で寝られると大喜びし、銀は白眼を剥いていた。

 

「とりあえず今晩、僕はリビングのソファーで寝るからな!」

 

貴也はせめてもの抵抗として、そう宣言する。だが園子は全く動じずにニコニコとしていたのだった。

 

 

 

 

「どう? 美味しい……?」

 

緊張した面持ちで、そう尋ねてくる園子。食卓の真ん中には天こ盛りの筑前煮の山があった。園子が作った献立はこれ一品で、付け合わせのほうれん草のごま和えやだし巻き卵、それに味噌汁は銀の手によるものだった。

 

「うん。美味しいよ。なんか懐かしい感じのする味だ。いいよ。凄く好きな味付けだ」

 

「良かった~。わっしーから習ったレシピでものになってるの、まだこれだけなんだよね~」

 

「だけど練習台になったおかげで、あたしは三日連続でほぼ同じ献立の夕食なんだぞ。勘弁してくれ~」

 

「だってだって、たぁくんが料理できるようになってるなんて、びっくりしたんよ~。料理の面で、たぁくんに負けてるのはなんか悲しいから~」

 

「いや、僕も大したものは出来ないからさ……」

 

どうやら園子には、貴也が西暦時代の独り暮らしである程度料理が出来るようになっていたことがショックだったらしい。そこで、慌てて料理のマスターに動いたのだ。とばっちりはすべて銀の元へ向かったらしい。

 

「とにかく、明日のお昼はミノさん直伝の焼きそばだから、楽しみにしててね~」

 

「ああ、楽しみにしてるよ。園子の手料理を連続で食べられるのは凄く嬉しいな」

 

「ぐぬぬ……。リア充、爆発しろ! あたしだって素敵な彼氏の一人や二人、見つけてやる!!」

 

こうして、夕食もわいわいと三人で過ごしたのだった。

 

 

 

 

亜耶から預かった真仮名の神託については、渡すべき相手に心当たりがあると園子が言ったので、任せることにした。が、その相手の具体的な名前については教えてもらえなかった。園子が言うには『名前を聞いても、たぁくんにはどんな人か分からないだろうし、逆に反発を覚えるだろうから』ということだった。

ただ、パラパラとページをめくっている途中で眉間に皺を寄せて『んんっ!?』と唸っていたのには強く引っかかった。だが、これについても『よく読み込んでから、また話すね~』とはぐらかされたのだった。

 

そして、深夜。

宣言どおりリビングのソファーで毛布だけを引っ被って寝ていたところ、寝込みを園子に襲われたのだった。床に横座りしたまま毛布の中に上半身を突っ込み、胸に顔を擦り付けてくる園子に根負けし、結局、彼女の思惑どおり一緒にベッドで寝ることになったのだ。

 

『なんだか、そのちゃんには色々と敵わないなぁ』

 

寝床で横になりながら嘆息しつつ、彼女の尻に敷かれる未来が頭をよぎり身震いする貴也であった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「「「「「お邪魔しまーす!」」」」」

 

どういう訳か、示し合わせた訳でもないのにほぼ同時に園子たちのマンションへ到着した風たち五人。一緒に連れ立って、園子と銀の部屋へ入る。

 

「やあ、いらっしゃい。文化祭の時以来だな」

 

「おっ、鵜養も来てたんだ。やるじゃない、乃木! このこのー!」

 

園子と銀だけでなく貴也も迎えに出てきたのだが、驚くメンバーは一人もおらず、逆に風は園子を囃し立てる。

 

「えへへ……、強力な助っ人なんよ」

 

園子が照れ笑いを返す中、五人はどやどやと上がり込む。

 

「やっぱり、園ちゃんの家はいい匂いがするねー。私、この匂い好きなんだー」

 

「そのっち、後でどんな芳香剤を使ってるか教えて!」

 

友奈の感想に一人、目を血走らせている人がいるが、とりあえず無視をして皆、書庫の予定である部屋を覗く。

 

「うわぁ、段ボールで一杯ですね……」

 

「っていうか、本棚も幾つあるのよ……? 壁一面どころか、島も作っているじゃない……!」

 

夏凛の指摘どおり、壁一面に背の高い本棚が並んでいる他、部屋の中央にも背の低い本棚が並んでいる。もはや、ちょっとした図書館か本屋の様相を呈していた。しかも、その間の通路部分には樹の嘆息どおり、段ボール箱が二段三段に積まれた上で所狭しと並んでいる。

 

「うん。とりあえず、たくさん来ることは分かっていたからね~。で、小説とか歴史書とか事典類とか、分類しつつ並べようと思ってるんだ~」

 

「兎に角、こんなにあるんじゃ、いくら時間があっても足りないわ。早速、手を動かしましょう。アタシと鵜養、それから夏凛と友奈は力がある方だから、段ボールを廊下とリビングに運んで作業用のスペースを確保しましょう。残り四人は、本棚に本を放り込んでいって!」

 

風の指揮の下、勇者部プラス一名の戦力はこの難敵に全力を持ってぶち当たっていった。

 

 

 

 

午前中の三時間弱では、作業は終わらなかった。

とりあえず昼休憩を兼ねて、昼食をとる。昼食の献立は焼きそばだ。園子と銀のお手製が半分ずつ。どちらも好評だったというか、園子製は銀製のコピー品であり違いはほとんど無い。違いは両者の手際ぐらいのものであり、味の差がないことについては、園子よりもむしろ師匠である銀の方が胸を張っていた。

 

「あたしの指導がよっぽど良かったんだな! 園子は、あたしが育てた!!」

 

「うんうん。たぁくんに褒められたのも、ミノさんのおかげなんよ~。なにか、お礼しないとね~」

 

「アンタ達、いいコンビねー」

 

もはや当たり前のように夏凛の突っ込みが入る、いい師弟であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし! 作業完了! みんな、お疲れー」

 

午後に入ってさらに一時間の整理作業。ついに本棚一杯に文献がずらっと並べられた。まさに圧巻の一言である。

なんとか棚に並べ切れたのは、部屋中央に島状に並べられた本棚があったこともそうだが、壁に並べられている本棚の一部に前後二段で前面がスライドするタイプのものが混じっていたことも勝因だ。そうでなければ、入りきらない本は床に積み上げるしかなかっただろう。

 

「一気に片づいた~。みんな、本当にありがとうね~」

 

「本当、園子と二人じゃ、来週になっても終わらなかったよ」

 

園子と銀が皆に頭を下げる。皆、笑顔でその感謝の意を受け入れた

 

「じゃあ、自由に読んでもらっていいよ~。面白い本があったら教えてね~。貸し出しもするよ~」

 

「さて、どれを読んでみましょうか……?」

 

「あっ、とーごーさん、もう熟読してる。――――――なんか、どれも難しそう……。私に読める本、あるかなー?」

 

「友奈は小説でも読んだら……? なんか、園子の期待している趣旨とは違うけどね」

 

本棚の前で悩む友奈に、夏凛がアドバイスを送る。園子の期待は検閲されていない歴史書の捜索であろうが、友奈には難しいだろうと思ったのだ。

このメンバーで読書家なのは、園子、樹、美森、貴也の四人ぐらいだ。風や夏凛は薦められたものや特に興味を惹かれたものを読むくらいで、銀や友奈に至ってはほぼ漫画限定と言ってよい傾向にある。

 

園子の期待から外れるのもどうかと思い、友奈は歴史書の中から適当に一冊を抜き出した。

 

「うわ! なんかこの本、真っ黒!」

 

中を見ると、大赦の検閲により黒く塗り潰された文章がいたるところに(ちりば)められていた。

 

「こっちの本もそうですね。検閲済みでした」

 

「なんか、ざっと見た限り、西暦二〇一五年以降、神世紀一〇〇年までの資料が少ない感じね」

 

「それって、バーテックスの侵攻以降、若葉たちが亡くなるまでの期間に相当するな……」

 

「西暦の勇者様たちが活躍していた期間ってことね……。なんか、きな臭いわね」

 

皆が大赦の検閲を話題にしながらざくっとした感じで文献を確認していっている中、美森だけが一人黙々と文献を読み漁っていた。

 

 

 

 

「あら? この本は何かしら? 随分豪華な装丁ね……」

 

事典類が並べられている本棚にあったその本に、まるで引き寄せられるかのように近づく美森。

取り出してみると西暦時代の国語辞典だった。いわゆる一冊ものの中型辞典に相当し百科事典的な項目も多いもので、その豪華装丁版のようだった。

箱から抜き出し、ぱらぱらとめくっていく。自分たちでもよく知っているような言葉が並んでおり、まったく検閲されていない。

 

「何もないか……、ん!?」

 

裏表紙が妙に厚いことに気付く。内側を弄ると裏表紙裏がめくれ、そこに小さな冊子が収まっていた。中を開くと黒の塗り潰しで一杯だった。

 

「隠した努力が無駄になってるわね。神世紀九九年の検閲か……。え!? 『勇者(ゆうしゃ)御記(ぎょき)』!?」

 

古い冊子だが、その表紙を見て驚く。慌てて園子を呼んだ。

 

「そのっち! これ……」

 

「あれ? 私が大赦に監禁されていた時に書かされていた回顧録とおんなじタイトルだ」

 

園子が中身を確認していく。

 

「乃木若葉、球子、杏、友奈、千景……。これ、西暦の勇者様たちの日記だ! たぁくん!」

 

園子に呼ばれて、貴也も中身を確認する。

 

「確かに、若葉たちの日記だ。でも、コピーみたいだな……。僕のことは……、検閲されたのか、書かれてないね」

 

「ちょっと待って……。この裏表紙、二重底になってる!」

 

美森が他にも何かないかと御記が隠されていた辞典を吟味していると、御記を収めていた箇所が二重底になっていることに気付いた。弄ると中からディスクが出てくる。

 

「こんなものが入っていたなんて……。アーカイブ用ディスクね……。うん。このタイプなら、携帯しているドライブで読めるわ。そのっち、パソコンを貸して!」

 

「なんで、そんなマニアックなディスクドライブなんて持ち歩いてるのよ!?」

 

夏凛の突っ込みは流して、園子に借りたパソコンを使いディスクの中身を確認する。

幸い読み込めた。データも大半は生きているようだ。中は写真のデータだけが、何十枚、何百枚と入っていた。

 

「検閲前の御記の画像データが残ってる! 他は……、なんだかフォルダ名が変だわ。『若葉ちゃんセレクション』、『#$@%さんセレクション』、『みんなで一緒に』……。なにこれ? 文字化けしているのもあるし……」

 

「あー、これ、ひなたのセンスだ……。そうか……、ひなたの仕業だな」

 

中身を確認していく。

御記のデータは、確かに検閲前の文章が入っていた。だが、やはり貴也に関する記述は無かった。

『若葉ちゃんセレクション』のフォルダには、乃木若葉の写真ばかりが入っていた。なんだか盗撮紛いのものすら入っているようだ。

『#$@%さんセレクション』のフォルダは壊れているのか、中味を確認できなかった。

『みんなで一緒に』のフォルダには、西暦の勇者たちが複数で写っている写真ばかりが入っていた。

 

『若葉、ひなた、千景、友奈、球子、杏、真鈴……。もう二度と、君たちの笑顔を見ることは出来ないと思っていたのに……』

 

『たぁくん……。なんだか、胸が痛いよ……』

 

写真の中とはいえ彼女たちの笑顔に再会でき、思わず涙ぐむ貴也。そんな貴也を複雑そうに見つめる園子。

だが、貴也はその写真群の一部に違和感を覚えた。

 

「ん? あれ? この写真……。僕の歓迎会の時の写真だ。でも、僕が写っていないな……。というか、居たはずの場所に誰もいない……」

 

「え!? それって、大赦の検閲……?」

 

「いや、なんか変だ……。他の僕が写っていたと思われる写真全部、僕が居たはずの場所に誰もいないんだ。こんな手の込んだこと、検閲でするものだろうか……? むしろ、写真そのものを削除するんじゃ……?」

 

そこまで考えて思い出す。あの時、アバター友奈に言われたことを。

 

「あ、そうか。これ、神樹様の仕業だ!」

 

「どういうこと……?」

 

そこで、皆に説明する。タイムパラドックスを避けるために、神樹様が西暦時代の人間から貴也の記憶を消去したことを。だから、その影響が写真や御記のデータにまで及んでいるのではないかと、推察できることを。

 

「そういうことか……。神樹様のすることだから分からないでもないけど、もはや何でも有りね……」

 

「これ多分、若葉たちから僕へのプレゼントなんじゃないかと思うんだ。記憶を消される前に用意していたものが、僕の存在証明に関係ない部分だけ残ったんだろう。――――――それと、若葉単体の写真は上里ひなたが布教目的で入れたものだろうな。ひなたの奴、相当の乃木若葉フリークだったから……」

 

その言葉を聞くや、勇者部のほとんどの視線が美森に集中する。皆、同じ病を持つ者に心当たりがあったのだ。

 

『文字化けして壊れているフォルダは、きっと僕の名前と写真が入っていたんだろうな……』

 

貴也は、ひなたの笑顔を思い浮かべる。彼女が幸せな一生を送ったことを心の中で願った。

 

 

 

 

「友奈、どうしたの? 友奈?」

 

「…………」

 

ふと気付くと友奈が乃木若葉の写真を凝視したまま固まっていた。夏凛の問いかけにも反応を示さない。

 

「私……、この人に会ったことがあるような気がする……」

 

「えっ!? アンタも三百年前にタイムスリップしたことがあるの……!?」

 

友奈の呟きに、風が過剰反応を示す。その驚きの声で、友奈の意識が戻ってきたようだ。

 

「あ、いや……。最後の戦いの後、三週間ほど意識を失ってた時だと思うんだけど……、会ったことがあるような? 声を掛けてもらったような? どう言ったらいいんだろ……? 上手く言えないや……」

 

困ったような笑みを浮かべて返す友奈。そこへ貴也がほぼ正解である事実を述べる。

 

「若葉たちは本当の神様になっているからな……。きっと、友奈を助けようと励ましに行ったんだよ」

 

「そうか……。西暦の勇者様たちは神社で正式に祀られているものね……」

 

「それに友奈は、若葉たちと一緒に戦っていた高嶋友奈にそっくりだからね。そういう意味でも助けたかったのかもしれない……」

 

「そういえば、友奈ちゃんにそっくりな人が写っている写真があるわ。この人が高嶋友奈さんなのね……」

 

美森がパソコンを操作して、高嶋友奈の写っている写真を拡大する。皆、息を呑んだ。

 

「そうそう。この人の偉業が切っ掛けだったそうなんよ~。産まれてすぐ、逆手を打った女の子に『友奈』って名前を付けるようになったのは」

 

園子が両手の甲を打ち合わせる所作を見せながら、蘊蓄(うんちく)を語る。

 

「赤ちゃんが手遊びかなんかで偶然、そんな動作を行うって事……? 縁起がいいって事なのね……」

 

「違うよ~。逆手を打つっていうのは、普通に柏手を打つのとは違う所作を行うことで(まじな)いの意味を込めることだからね。相手を(のろ)うっていう意味もあるから、無闇に行っちゃダメだよ~。きっと、天の神への反抗心があると見做されての名付けだと思うんよ~」

 

「なにそれ……? (こわ)っ、こっわっ……」

 

園子の蘊蓄を受けた夏凛の的外れな感想を園子自身が否定すると、風が身震いした。そこに友奈の乾いた笑いが続く。

 

「あはは……。私の名前って、そんな意味があるんだ……」

 

「でも、普通に可愛い名前だよな。友奈って……。西暦の勇者の友奈も、現代の勇者の友奈も二人ともみんなに愛されている女の子だと思うよ」

 

「ありがとう、貴也さん! うっれしいなっ!」

 

「たぁくん、後でちょっとO・HA・NA・SHIしようか……?」

 

友奈もこれには苦笑いだ。貴也のフォローで気を取り直す友奈であったが、貴也自身は園子に睨まれる始末に陥っていた。

 

 

 

 

「でも、西暦の勇者様たちの日記と写真を見れたのは、儲けものだったな」

 

銀の言葉に皆うなずく。樹がその後を続けた。

 

「こうやって、昔からのたくさんの人の積み重ねがあって、今の私たちがあるんですね……」

 

「そうね……。受け継いだバトンをきっちり、次の世代に引き継いで行かなくちゃね」

 

風が感慨深げにそう漏らす。だが、夏凛が違う方向から懸念を示した。

 

「でも、大赦も大概よね。こんなに昔からの貴重な文献を検閲して読めなくしてさ……。秘密主義、ここに極まれりって感じね……。私たち、上手く引き継いでいけるかしら?」

 

「うん。私がなんとかするよ~。みんなの力を借りないと、とても為せないことだとも思うけど、まあ、その時はその時で~。大赦は、この乃木園子様がより良く変えてみせるんよ~!」

 

「ふふっ……。そのっちなら、なんとかしてくれそう……。私も力になるからね」

 

「そうだよね。勇者部五箇条! 一つ! なるべく諦めない! ついでにもう一つ! 為せば大抵なんとかなる!! だよね、みんな……?」

 

「友奈の言うとおりね……! 大赦の秘密主義に打ち勝って、ついでに天の神にも打ち勝って、より良きバトンを次世代へ! な~んてねっ」

 

 

 

 

西暦の勇者たちの姿と想いを垣間見たせいだろうか。勇者部の皆の心は奮い立っていた。

たとえ、それが小さな一歩であろうとも、未来へのバトンを繋いでいくのだと。

 

 

 




なんとなく、平成最後の投稿っぽい気がします……。

さて、原作と異なり、勇者御記の検閲前の文章を入手できました。(どうも冊子を囮にディスクを本命としたようです)
物語の流れには『まったく』と言っていいほど影響は出ませんが。
なお、原作の書きっぷりから、御記はそれぞれ性格が違うような気がします。
1.わすゆ編の御記:祀り上げられて病室に監禁されていた時期に園子が書かされた回顧録
2.のわゆ編の御記:西暦の勇者五人それぞれの日記を大社が後で編集したもの(本作ではそれをひなたが入手してコピー)
3.勇者の章の御記:結城友奈一人の日記(本作ではあさっての方向に物語が動くので、日の目を見ないか、そもそも書かれないような気もします)

バトンの話はのわゆ編の28,30話と対比できますね。重くシリアスな西暦側と、ややもすると軽く明るい神世紀側。でも、真剣な想いはどちらも同じ筈です。

次回は恐らく国防仮面ですね。平成最後になるにせよ、令和最初になるにせよ、変なタイミングになったなぁ……。

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