鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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とりあえず、わすゆ編だけでも完走するよう頑張ります。




第五話 兆し

安芸は激怒していた。

彼女の有能さが認められ、春から勇者担当の教職兼任職員として神樹館小学校に派遣されることが決まったのだが、その職務引き継ぎ内容が信じられないほど劣悪だったからだ。

 

今しがた上層部へ抗議をしてきた。

だが、『のれんに腕押し』という表現がこれほど適切な場面を彼女は知らない。

教師として、近々自分の教え子となる少女たちへのあまりの仕打ちに、無力感にさえ(さいな)まれる。

 

 

 

 

「彼女たちの精神面への配慮は何もなされていない。戦術面でのサポートも全く考えられていない。いくら『勇者』だからといって、彼女たちは消耗品じゃないのよ……」

 

「あえて、『目を付けられない程度』を目指しているんでしょうが、ものには限度というものがあるのよ。このままじゃ、内面から潰れていく子が出てしまうかもしれない。その前に何とかしないと……」

 

自分の持っている情報を元に、大赦中枢の考えに当たりを付ける。

とはいえ、彼女は知っている。彼女もまた末端故に、相当の情報統制が掛けられていることに。

だから、原因療法ではなく対症療法という選択肢を採らざるを得なかった。

 

 

 

 

彼女の権限で出来ることは限られている。

彼女は、出来ること、出来ないことを素早く頭の中で整理し、自席へ戻る道すがら関係部署との調整のため、内線電話を手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『児童相談室』

神樹館小学校にはそのような名称の部屋がある。

モラルの高い神世紀の子供たちであっても、人にはそれぞれ悩みがあるものだ。カウンセリング専門の校医であれ、担任教師であれ、子供たちが相談出来るように準備されている部屋である。もちろん防音性能は行き届いている。

 

園子たち三人が児童相談室に呼び出しを受けたのは、三月も二週目に入ったところだった。

 

彼女たちが三人で一つ所に集うのは、信じられないことにおよそ一年ぶりである。

 

そこにいたのは、校長先生と二十代半ばと見られる女性。凛とした雰囲気の中にも、彼女たちを気遣う優しさが透けて見える。

 

「乃木さん、三ノ輪さん、鷲尾さん。こちらが春から君たちの担任をされる安芸先生だ。こういった形で引き合わせていることから分かるとは思うが、『神樹様のお役目』についても君たちをサポートし、時には指導する立場にあるそうだ。安芸先生、では、後はよろしく」

 

そう紹介すると、なぜかそそくさと部屋を出て行く校長。

一方、安芸先生は表情を和らげて、彼女たちに話しかけてくる。

 

「はじめまして。私が春から貴方達の担任をする安芸よ。困っていることがあれば、なんでも言ってちょうだい。出来る限り、サポートをするから」

 

「あの……。私たちの担任ということは、私たち、春から同じ組になるんですか?」

 

「そうよ。四月からは三人、同じクラスよ。これまでは個別に鍛錬に励んできてもらったけど、貴方達の実力も付いてきたことだし、いよいよ三人合同の訓練も始まるわ。だから、普段の生活から息を合わせることを覚えましょう」

 

「おー、いよいよ合同訓練かー。正直、いつまでこんな事させるんだよって、悩んじゃってたもんなー」

 

「いつから始めるんですか? 合同訓練は」

 

「まずは、互いに理解を深める事ね。貴方達、まだお互いの人となりも知らないでしょ。勇者は神樹様のお力を借りて戦うんだから、まず互いの信頼関係を築いてからでないとね。個別の訓練もこれからは一ヶ所に集まって行ってもらいます。連携を重視した訓練は、貴方達の様子を見ながらになるけど、とりあえず六月下旬を予定しているわ」

 

「うおー、やる気出てきたー」

 

「六月下旬というのには、なにか理由が?」

 

「貴方達には隠してもしょうがないから、正直に言うわね。バーテックスの侵攻は夏に発生すると、神託があったの。だから、六月下旬というのは本当はちょっとギリギリなんだけど。貴方達次第で前倒しも有り得るわよ」

 

 

 

 

そんな三人のやり取りを、他人から見れば、ぼーっとしているように見える態度をとりながら、園子は聞いていた。

なんだか、遠い国の出来事のようだ。

 

実際の所、園子が三人の中で一番メンタルを疲弊させていた。

銀は、学校の休み時間等の短時間でも友達付き合いでストレスを発散できたし、家に帰っても弟たちがいた。

一方、須美はお役目というものに過剰適応していたが故に、逆に意欲を維持できていた。

結局、園子だけが貴也を起点とする人間関係を奪われ、精神の平衡を失う形となっていたのだ。

 

今の園子に、かつて見られたぽわぽわとしたゆるふわな明るさはない。

表面上、そう取り繕ってはいるが、見る人が見れば分かるものだ。

 

 

 

 

だから、安芸はそんな園子を痛ましいものでも見るような表情で見る。

 

『本当は、ここまでするのは越権行為なんだけど。しょうがない……。ここで対処しておかないと元も子もなくしてしまうでしょうしね』

 

ふっ、と小さく息を吐くと彼女は重要事項を一つ付け加えた。

 

「それと、もう一つ。週あたりの休日をもう一日増やします。それから、休日には体だけでなく、精神も休養させること。だから、休日には体に疲れを残さない範囲で遊びに行っていいわよ」

 

「えっ、やったー。安芸先生って太っ腹なんですねー。あたし、惚れちゃいそー」

 

「いいんですか? 先生」

 

「いいわよ。精神面の体調管理もしっかりしてもらわないとね」

 

「あ、あの~。例えば放課後、友達と買い食いとか行っちゃってもいいんですか?」

 

「いいわよ、乃木さん。あ、三人とも。お相手がいる人は、デートをしてきてもいいわよ」

 

「えー、そんなのいないですよー。あ、そうか。乃木さんはいたっけ」

 

「えっ、乃木さん、そんな殿方がいるの?」

 

 

 

 

もう、その後のやり取りは園子の耳には入ってこなかった。

その措置がどんな結果を導き出すか、すぐに悟ったからだ。

 

心の中がぽわぽわと暖かさを取り戻していった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

神世紀二百九十七年度の卒業式が、神樹館小学校で行われた。

 

児童の出席者は、一年生、五年生、六年生。当事者の六年生はともかく、五年生は送辞を読んだり、送る歌を歌ったりする必要があり、一年生も送る歌を歌うからだ。

 

式は午前中に終わる。だから園子は式の後、貴也と会うことを約束していた。

 

約束したのは、二日前のデートの途中だった。

二人に『デート』という意識があったにせよ、無かったにせよ、傍目から見ればそれは明らかに『デート』と言えるもので……

 

二人がそんな風にしっかりと会えたのは、約一年ぶりのことであった。

とはいえ、会っていられる時間は一時間ほどしかなく。

その一時間を園子はイネスで過ごすことに使った。

クレープを食べたり、ゲームセンターで遊んだり、初めてプリクラを一緒に撮ったり。

 

それだけで心に活力が戻ってきた。

 

 

 

 

貴也は、人気(ひとけ)が最も少ない理科実験棟の裏側を待ち合わせ場所に選んでいた。

手持ち無沙汰にスマホを弄っていると、背中に何か堅いものが当たる感触。

 

「ヘイ、手を上げな、マイブラザー」

 

「あー、ワタシハ アヤシイモノデハ ゴザイマセン。オジヒヲー」

 

「フッフッフ。命が惜しければ、お前の制服の第二ボタンをよこしな」

 

「アー、コレダケハ オメコボシヲ。オネガイデスカラー」

 

「だめだぜ。お前のハートにトドメをさしてやるぜ。バーンッ!」

 

「アーレー。オデーカンサマ ソンナ ゴムタイナー。バタッ」

 

擬音をわざわざ口に出しながら倒れた振りをする。

人差し指の先をフッと吹いたあと、ほにゃんと笑顔を向けてくる園子。

 

「じゃあ、戦利品としてもらっていくね~」

 

「あぁ、いいけど。そんな物になにか意味でもあるの?」

 

「大昔の風習らしいよ~。卒業式に女の子が、好きな人の制服の第二ボタンを(むし)っていって、大切に保管するんだって~。三年間、熟成させると思いが叶うんだってさ~。――――――フンッ!」

 

どこで仕入れてきたのか、なにかどこか間違った知識を披露しながら、貴也の制服から力任せにボタンを引きちぎる。

 

『ハサミ使えよ、ハサミを。ソーイングセット持ってるだろ……。知らない間に脳筋フィジカル姉さんになっちゃってるよ』

 

その園子らしからぬ乱暴で直截的なやり方に冷や汗が垂れる。だから『好きな人の制服』という重要な発言が頭から消し飛ぶ。

 

『大赦~、そのちゃんを脳筋に育てた責任をとってくれ~』

 

 

 

 

「じゃあ、代わりにこれあげるね。お揃いだよ~」

 

そう言って、何やら差し出してくる。イルカのストラップのようだ。

だが、デザインした人間のセンスを疑う。

なぜ、こんな微妙なバランスなのか。可愛らしさの欠片もない。

 

園子がブラブラと見せびらかしてくるのは、ショッキングピンク。一方で貴也のものは、さすがに無難な紺色だ。

 

「あぁ、ありがとう。いつ用意したんだ?」

 

「えへへ~。一昨日のイネスだよ。たぁくんがよそ見している間にササッと買ったんだ~。私たちの再出発記念だよ」

 

「そうだな。じゃあ、大切にするよ」

 

最後だけは真剣な顔でそう言ってくる園子に応えようと、真面目な顔で返す。

そんな貴也を、その微妙な表情のイルカがジーッと見つめてくるようだった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

園子のメンタルは劇的に改善していった。

 

『私はなんて現金な女の子なんだろう』

 

園子は、そう自嘲していた。

 

貴也と少し会うだけで、ちょっと言葉を交わすだけで、みるみる心のどこかが修復されていく。

 

自分は、本当は安っぽい女なんだと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、春休みが終わって最終学年が始まると、ほぼ完全に、言動がどこかぶっ飛んでいる、天然系不思議ちゃんが教室に帰ってきていた。

 

 

 

 

ビクン。

隣で船を漕いでいた園子の体が、小さく跳ねる。

 

「はわわわっ。ごめん、たぁくん! 本格的に寝ちゃってた! ――――――あれ~、ここどこ?」

 

()()()()……。ここは学校よ。朝の学活前なんだから、夢の中で殿方との逢い引きにうつつをぬかしてないで、もっとちゃんとして」

 

「あはは~。ごめんね、()()()()。おはよ~」

 

そんな二人のやり取りに、クラス中がドッと笑う。

 

 

 

 

「ほらほら。騒がしくしないの。朝のホームルームを始めるわよ」

 

ダダダダッ――――――

 

「はざーっす。はー、間に合った~」

 

「間に合ってません。三ノ輪さん」

 

教室に駆け込み、安芸先生に出席簿で軽く頭を叩かれた後、銀は自分の席に着き、『友達』である二人に声をかける。

 

「おはよー。()()()()

 

「おはようございます。()

 

「おはよ~、()()()()

 

「おわっ……。教科書、忘れた……」

 

 

 

 

『頭が痛いわ。まさか、そのっちがこんなに扱いに困る人だったなんて……。銀は銀で遅刻の常習犯だわ、底抜けすぎのドジっ子だわ、私はどうすればいいの~』

 

園子の復活は、須美の災難に直結していた。

 

 

 

 

彼女たちのクラスは()()()()

 

今日も園子は居眠りをし、銀は遅刻をして安芸先生に叱られ、そして須美の困惑は深まってゆく。

 

 

 




最後の最後で、わすゆ原作部分突入。
原作よりも前倒しで3人を仲良くさせていますが、その経緯は次回に。僅かにしか触れませんが。

また、冗長になる上、たいした情報ではないので本文中に入れませんでしたが、バーテックス侵攻時期の本当の神託は「初夏」という設定です。
安芸先生、大赦に騙されてます。


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