鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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おやぁ……?
平成最後の投稿とは一体……?
しかも50話目ちょうどに、このお話。

まあ、とりあえず本編をどうぞ。




第四十九話 国防仮面見参!

「どうしよー? 財布、落としちゃった……」

 

夜、七時半。醤油を切らしたからと近くのコンビニまで母親からお使いを頼まれた友奈。コンビニに到着した時点で財布を落としたことに気付き、道中戻りながら探すも見つからず、半泣きになりかけていた。

 

「お困りのようね!」

 

「誰!?」

 

急に声を掛けられ、驚きながら誰何(すいか)の声を上げる。そこにはブロック塀の上にすっくと立つ、二つの影があった。街灯に照らされて浮かび立つその姿は、一人は旧日本海軍将校を彷彿とさせる制服とマントに身を包み、もう一人は旧日本陸軍将校を彷彿とさせる制服とマントに身を包んでいる。しかも目元を赤いマスクで隠し、人物が特定できない出で立ちだ。

 

「国を護れと人が呼ぶ!」

 

「愛を守れと叫んでる!」

 

「憂国の戦士、国防仮面壱号見参!!」

 

「同じく弐号見参!!」

 

叫びながらジャンプし道路に降り立つ二人。友奈は驚きに目を丸くする。

 

「国防仮面……さん……?」

 

「貴方が探していたのは、これかしら? ついさっき、すぐそこで拾ったのよ」

 

壱号と名乗った海軍風の方が差し出してきたのは、今まさに友奈が探していた財布だった。

 

「わー! ありがとうございます! これを探してたんです! よかったー、これでお使いができるよー」

 

ペコペコと盛んにお辞儀をしながら、コンビニへと去っていく友奈。

残った二人は目配せを仕合った後、安心しきったようなため息をついた。

 

「どうやらバレなかったようね……」

 

「そうだね~。ゆーゆの財布と分かった時は、どうしようかと思ったけど……」

 

そして、すぐにマントを翻してその場を去っていったのだった。

 

 

 

 

小半時のち。

先に国防仮面を名乗った二人と、もう一人が帰途についていた。

もう一人の出で立ちはプロ野球香川チームの野球帽を目深に被り、黒い薄手のウィンドブレーカーを羽織っている。帽子の中からこぼれている髪の色は灰色だ。

 

「今日は七件も人助けができたね~。これも(ゼロ)号のおかげなんよ~」

 

「零号って言うなよ。あたしは国防仮面なんて名乗ってないぞ」

 

「国防仮面らしい服装じゃないから、参号じゃないだけなのよ。零号と呼ばれるだけ、マシだと思いなさい」

 

「それの一体どこにマシに思える部分があるんだよ……」

 

「どちらにせよ零号がいてくれるからこそ、短時間にこれだけの人助けができたんよ~。ありがとうね」

 

「それって、あたしのトラブル体質をいいように利用してるだけじゃん……」

 

「そうね。ちょっとマッチポンプのようで複雑だわ……」

 

「そうだろ、そうだろ? やっぱり、あたしはお役御免って事で!」

 

「そうはいかないわ! もはや、この三人、一蓮托生よ!」

 

不穏な空気を醸し出しながら、三人はそれぞれの自宅へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「むぅ~」

 

「どったの、樹……?」

 

勇者部部室でパソコンとにらめっこをしつつ難しい顔で唸る妹を訝しみ、風は声を掛けた。

 

「お姉ちゃん、これ知ってる? 国防仮面……」

 

「国防仮面? ああ、クラスで誰かが噂話してたわね。なんか奇天烈な格好の二人組が人助けしているらしいけど……。それがどうかしたの?」

 

「この動画、見て」

 

樹が見ている画面を覗き込む。唖然とした。

そこに写っているのは二人の国防仮面の活躍状況。いや、奇抜な服装とマスクで正体を隠そうという努力は一応見受けられるものの、知り合いが見ればすぐに正体がバレるだろう、よく知っている二人が写っていた。

 

「東郷~、乃木~。また、この二人か~」

 

風の瞳は絶望に色濃く染まっていた。

 

『駄目だこいつら……早くなんとかしないと……』

 

 

 

 

街に出た風がくだんの二人を探していると、早速手がかりが現れた。

 

「キャーッ! ひったくりよーっ!!」

 

悲鳴の上がった方へと急ぐ。すると期待通り……、いや期待したくはなかった通り、名乗り声が聞こえてきた。

 

「待ちなさい! ひったくり!」

 

「どけーっ!! うわっ!! なんだ、お前ら!?」

 

「憂国の戦士、国防仮面壱号見参!!」

 

「同じく弐号見参!!」

 

どうやら、あっという間にひったくり犯をとっ捕まえたようだ。

野次馬が集まっている場所に到着すると、被害者とみられる年配の女性にハンドバッグを返しているところに間に合った。

 

「私たちは国防仮面。人々が悪の脅威に曝された時、出来るだけ現れます!」

 

なんだか、どうでもいい注釈を語っているようだ。野次馬をかき分けて、彼女たちを視界に捉える。

 

「あんた達~、な~にやってるの~?」

 

地の底から響くような低い声で威圧した。本名を呼ばなかったのは、せめてもの情けだ。

その声に風の方へと振り返った二人は、怯えた表情で固まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は、ひったくり犯を警察に引き渡したり、事情聴取を受けたりで潰れてしまった。

そこで次の日の放課後、勇者部部室にて先代三人を被告人として、風、樹、友奈、夏凛の四人が事情を聞き出すべく集まった。

 

「何から聞いたらいいやら……。銀! アンタがついていながら、なんでこんな事になってんの?」

 

スパでの洗いっこやらフルーツ牛乳飲み比べで仲が深まったせいか、風が銀を名前呼びしつつ問い詰める。

 

「あー、なんかその場の勢いというか、雰囲気に流されて……? いやあ、そもそもは……」

 

「銀が悪い訳じゃないの! 私が……私が悪いの!!」

 

銀が言い訳を始めようとしたところで、美森が感情任せに叫んだ。

皆の視線が美森に集まる。

 

「私が……、一時の感情に任せて、結界の壁を壊してしまったから……。それって、世界を危機に陥れたってことで……。やっぱり、赦されないことだって思ったの! だから、勇者部の活動以外で、なにか人助けでもできないかなって思って……。もちろん、そんなことで罪滅ぼしになるなんて思ってないけど、居ても立っても居られなくて……」

 

「でもね。わっしーだけが悪い訳じゃないんよ。私が情報を独り占めして、みんなに相談しなかったのも悪いんよ。それで、わっしーを追い詰めちゃったから。だから、一緒に罪を償おうって……」

 

「元々、本の整理を手伝ってもらった後、須美だけ遅くまで残ってたろ……? あの時、須美の様子が変だったから、問い詰めたらさー、『私にはバトンを引き継いでいく資格なんてない』なんて暗い顔して言うもんだからさー。励ましているうちに、なんか変な方向に話が進んでって、気がついたらこんなことに……」

 

美森の告白に、園子が美森だけが悪いのではないと続け、銀がそもそもの切っ掛けを説明した。

 

「はー……、大体分かったわ。でもね、アンタ達、やってることが極端に過ぎるのよ!」

 

「そうね。なんで、そういう話から、コスプレ紛いのヒーローごっこみたいな方へ話が進むのよ? この完成型勇者にもさっぱり理解できないわ」

 

「でもでも! あの時、財布を拾ってもらって助かったのも本当なんだよ。人助けっていうのは、いいことなんだから、これからは私たちにも相談してほしいな」

 

「そうね。でも、東郷が銀と乃木に相談した結果がこれだからね。少なくとも銀一人じゃ、東郷と乃木を制御しきれないことは判明した訳だから、これからは勇者部全員に相談すること! いいわね……?」

 

風の言葉に力無くうなずく三人。さらに風は園子にとってキツい断罪を下す。

 

「さて、東郷は己の罪が友奈にバレた訳だから、乃木も同じ目に遭わせておかないとね……。今回のことは、これから鵜養に報告するから」

 

「えーっ!? なんで、たぁくんに……? やめて、やめて! こんなことバレたら私、死んじゃう!!」

 

「もう遅いわよ。ネットに動画がアップされてるんだから、バレるのも時間の問題よ。腹を括っておきなさい……っていうか、アンタの羞恥心のトリガーがどこにあるのか、さっぱり分かんないわね」

 

「園子さんでも恥ずかしいって思うこと、あるんだ……」

 

今回の件を貴也に報告すると風が話した途端、園子が慌てだす。どうやら今回の件がバレるのは、死ぬほど恥ずかしいことらしい。しかし、その線引きがどこにあるのか理解している者は一人もいなかった。樹も、鮮魚コーナーの売れ残った魚のような目で園子を見やるばかりだった。

 

「もしもし、鵜養……?」

 

騒ぐ園子をよそに、風はスマホで貴也に電話を掛けた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

放課後、貴也は酒井拓哉と伊予島潤矢に声を掛けられた。

 

「タカちゃん、これ知ってたか?」

 

スマホの画面を見せつけてくる拓哉。潤矢がニヤニヤしつつ解説を加えてくる。

 

「今週に入ってから、讃州市の方で街を騒がせている国防仮面って奴らなんだ。人助けをしているらしいけど、奇抜な格好だろ……? その片方って、乃木ちゃんじゃね?」

 

驚きに食い入るように、その動画を見た。潤矢が言うとおり園子に間違いなかった。もう一人は美森であることも分かった。

 

「お前さー、嫁の教育はちゃんとしろよ。俺、自分の嫁にこんな前科があると知ったら、もう街、歩けねーわ」

 

拓哉が半分笑いながら、からかってくる。貴也は頭をかかえた。

 

『何やってんだよ、そのちゃん……』

 

 

 

 

「じゃあな。ボクたち、部活の後輩に話があるからさ」

 

「乃木ちゃんには、もうちょっとお嬢様らしくしろって言っとけよ」

 

潤矢が関連情報を教えてくれた後、二人は笑いながら行ってしまった。

意気消沈しながら帰宅し、自分の部屋へ入った途端、スマホが着信音を鳴らす。

 

『もしもし、鵜養……?』

 

風からだった。今回の事の顛末を詳細に報告された。げんなりしつつ最後まで聞いた。

園子に代わってくれるという。電話の向こうから『イヤだ、イヤだ!』と微かに抵抗する声が聞こえてきた。だが、無理矢理電話口に出されたのだろう。半泣きのような声が聞こえてきた。

 

『たぁくん……? あのね、これには深い事情があってね……』

 

「なんか、小六の時にもオリエンテーションで国防仮面を名乗って、小一の子たちを護国思想に染めようとしたんだって……?」

 

『はうっ……!? どこから、その情報を……?』

 

「ちょっと、頭が痛いんだけど……?」

 

『たぁくん……。お願いだから、嫌いにならないで……!』

 

「嫌いになったりなんかしないけどさ……、今度からは事前に相談しろよ。分かった?」

 

『はい……。こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛……』

 

最後は鼻声になっていた園子。可哀想になったので、その後はデートの約束を取り付けたのだった。

まさか、その話が流れることになるとは思わずに。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

丸亀市内某所。

大赦の神官服に身を包み仮面を着けた女性が一人、パソコンを操作していた。

 

「何も言わずにレディーの後ろをとるなんて、セクハラで訴えられても知らないわよ。三好くん」

 

「いやだなー、安芸先生。ボク達の仲じゃないですか……」

 

椅子を回転させて三好春信の方へ体を向ける。もう一人いたことに少なからず驚いた。

 

「あら? 佐々木くん? 相変わらず気配を消すのが上手いのね」

 

「丸亀市内に大赦のこんな少人数用サテライトオフィスがあるのは初めて知りました。どうも、ご無沙汰しています。安芸先生」

 

「私が神樹館小学校をやめたのは、もう二年も前のことよ。その先生っていうのは、よしてちょうだい……」

 

思わぬ昔馴染みの出現に気安い態度をとってしまった。気を取り直し、感情を気取られないよう抑揚を抑えて話す。

三好春信と佐々木柊馬。二年半前、神樹館小学校赴任直前に先代勇者三人に対する善後策を講じるために手を携えた者同士だ。だが二年前、袂を分かったはずだった。

 

「それに、ここは監視されているわよ」

 

「大丈夫です。対策は講じていますよ」

 

「相変わらずね、三好くんは……。で、何用ですか?」

 

「桐生派の動きの確認ですよ。貴方が防人付きだということも知っています。国土亜耶を始めとする六名の巫女を使って奉火祭を執り行うよう準備が進められてきていましたが、ここに来て急激に異なる動きが見られます。どういう事ですか……?」

 

「桐生派と言っても一枚岩じゃない。今や司波が大半を牛耳っています。三百年前の神事を再現するに当たり巫女の数を六人に増やして万全を期した訳ですが、それでは駄目だと。当事者こそを贄に捧げるべきだと司波が言い張り、その流れが主流になっています。これでいいかしら……?」

 

「司波ですか……。御前様も幾度か煮え湯を飲まされていますね」

 

「貴方もね、佐々木くん。弥勒家に拾われなければ、危なかったそうね……」

 

「御当主様には足を向けて寝られませんよ。御前様の手の者ということもご承知のようで、かなり自由に動かせていただいてます」

 

いかにもエリート然とした三好と異なり、佐々木の方はどこか群衆の中に埋没しそうな凡庸な雰囲気を持つ。だが、三好に次ぐ切れ者である事を自分に言い聞かせながら安芸は話を続ける。

 

「それで、本題は何? 私を桐生派だと知っていて、そのような危ない話をするのはどういう事?」

 

「ボク達が何も知らないとでも? 亜耶ちゃんに下りている神託の件、故意に見逃していますよね……?」

 

「知らない話ね……」

 

「まあ、いいです。どうも、よく分からないことが多くて……。鍵は鵜養くんが握っていると思っています」

 

「鵜養貴也くん?」

 

「そうです。彼の周囲は分からないことだらけです。一ヶ月、行方不明だったこともそうですが、モニタリングデータの破損、変身のキーアイテムが何かなど、怪しい事が多すぎる」

 

「それを私に……? 本人に聞けば?」

 

「ボクは彼に信用されていませんからね。園子様の信用はある程度勝ち取れましたが、彼の情報を抜けるほどではないですし。佐々木も先日、彼に初めて面通ししたばかりですしね。先代三人に防人、亜耶ちゃん……、鵜養くんとも面識のある貴方に、注意を促そうというのが本題です」

 

「分かりました。でも、私は大赦の中で、その歯車でいようと決意しています。貴方達の力にはなれない」

 

「先代三人に対する罪の意識ですか? でも、彼女たちは既に笑顔で学生生活を送っていますよ? まあ、さっきの話が本当なら、東郷美森はもうすぐ…………ですがね」

 

「少なくとも、私は自分の無力を自覚しました。私に出来ることなんて、何もない……」

 

「とにかく、桐生派のみならず、烏丸派も鵜養くんと園子様の周りを嗅ぎ回っています。ボクは、彼とその周囲を守ることが神樹様、延いてはこの世界そのものを守ることに通じるのではないかと考えています。亜耶ちゃんと鵜養くんは直接の繋がりを持ちました。どんな小さなことでもいい。情報を漏らしていただけませんか?」

 

「約束は出来ないわ」

 

安芸は冷たく、そう言い切った。

 

 

 

 

「その言葉だけで結構です」

 

そう言うと、三好は人懐っこそうな笑顔を見せた。

 

『楔は打てた。漏らせない、あるいは出来ないと言われなかっただけ収穫だな』

 

三好は腹の中で、そう受け取っていた。

 

「三好、そろそろ時間だ」

 

佐々木が退出の時間を告げる。監視対策も長時間は保たないのだ。

 

「一つだけ、いいことを教えてあげましょう。又聞きと私の憶測だから情報の精度は保証できないけどね」

 

その言葉に、退出しようとしていた三好と佐々木の足が止まる。

 

「三百年前の天の神に対する神事はまさに神託のとおり実施されたそうよ。そして、今行われようとしている神事は、過去の神事を基に実施されようとしている。この違いが分かる?」

 

その平板な物言いに真意は掴めなかった。

彼ら二人は、安芸に会釈をすると足早に立ち去った。

二人とも分からなかった。今回講じた策が吉と出るか凶と出るか、あるいは無駄となるのか。

 

 

 




21~22話辺りの話を踏まえた結果、原作以上にカオスになったのではと思われる国防仮面編でした。
うん。園子の羞恥トリガーは作者にも不明です。どうなってんだ、この人?

終盤は安芸先生再登場と春信、佐々木を踏まえた訳の分からない、意味深だけど中身のなさそうなお話でした。
少なくとも現在の彼らに東郷さんや亜耶ちゃんを物理的に救う力は無さそうです。

ところで、本作のゆゆゆい版って需要があるんですかね?
先達に質の良い話がゴロゴロしているので、今更感がありますし。
次回あたり、アンケートをとるかもしれません。

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