鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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第五十二話 心の痛み

街はクリスマスの飾り付けで華やいでいる。あと一週間もすればクリスマスだ。

友奈、美森、銀、園子の四人は学校帰りに駅付近の店々でウィンドウショッピングを楽しんだ後、家路についていた。

 

「もうすぐクリスマスだね。勇者部のパーティー、楽しみだなー」

 

「外国の祝祭だけど、それを取り込んでしまうなんて我が国の懐の深さを感じさせるわ。でも名前はダメね。せめて『モミの木祭り』ぐらいに変えてしまわないと……」

 

「なんだよ、そのセンスの欠片もないネーミングは……?」

 

「ぐっ……! 御国の言葉の良さを伝えきれない、己の語彙力の乏しさが憎い……」

 

嬉しげに語りかける友奈に、美森が己の矜持に従った発言をかますが、銀の突っ込みにぐぬぬと悔しがる。

そんな三人をにこやかに見つめながら、園子も嬉しそうに話す。

 

「ま~、それはともかくとして、勇者部としてどころか、わっしーやミノさんと一緒にクリスマスを祝うのも初めてだよね~。嬉しいな~」

 

「えっ!? そうなの……? 園ちゃん達三人って、とっても仲がいいから信じられないや……」

 

「あたしら三人が深く関わってたのって、実際のところ、小六の四月から七月の実質三ヶ月だもんな……。でも、繋がりの強さって、やっぱり時間の長さじゃなくて、どれだけ深く関わったか、だよな」

 

「あら? 記憶を失ってた私はともかく、銀とそのっちの二人でお祝いは……」

 

「あはは……。私がお祝い事全部拒否ってたからね~。味覚も嗅覚も失ってて、それどころじゃなかったんよ~」

 

「あ、ごめんなさい。そこまで気が回らなかったわ……」

 

「気にしなくていいんよ、わっしー。もう、過ぎたことなんだしね~」

 

自分の不用意な発言に落ち込む表情を見せる美森。だが、園子が慰め、友奈が話題を強引に元に戻してフォローする。

 

「でもさ、たったの三ヶ月でそんなに仲が良くなるもんなんだねー。あ、でも、私も勇者部のみんなと出会ってから三ヶ月も経ったら相当仲良くなってたっけ……。園ちゃんや銀ちゃんとは、実質まだもっと短いもんね」

 

「実質一ヶ月。その前に会ったのも数回だしね~」

 

「私たちの絆はそれだけ強いのよ。きっと前世から赤い糸で結ばれてるんだわ……」

 

「おいおい、須美の奴、なんかトリップしてるぞ。友奈、自分の身はちゃんと自分で守るんだぞ」

 

「あはははは……」

 

友奈のフォローが効き過ぎたのか、あるいはあえて無理矢理乗っかったのか。恍惚とした表情の美森に、銀が危機感を滲ませる助言を友奈に与える。

そうやって、楽しげに笑顔を浮かべながら帰る四人の少女たち。

ただ、友奈が時々左胸の辺りを手で庇うようにしているのを、園子は不思議そうに見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしっと! じゃあ乃木、採点をお願いね」

 

「らじゃ~」

 

部室で受験勉強をしていた風。部室に残っていた園子に採点をお願いする。

どういうわけか、今や高二の範囲まで先取り勉強中の園子に勉強を見てもらっているからだ。勇者としての活動で勉強がおざなりになっていた半年間の遅れを取り戻すためには、教師役が後輩だとかそんなことは気にしていられないのだという。ちなみに、園子は高二の範囲も難なくこなしているそうな。

そこへ、どやどやと依頼対応が終了した残りの部員が帰ってくる。

 

「ただいまー」

 

「お帰りー。お疲れさま。全員揃ったわね」

 

口々に帰還の挨拶をするところへ、風が労いの言葉を返す。

 

「よしっ! フーミン先輩、全問正解! と、ここで全員にアタックチャ~ンス!!」

 

「なによ、それ。正解すると、なんかいいことでもあるの?」

 

風の採点が終わったのだろう園子から何やらヘンな振りがある。夏凛がどういうことかと尋ねると……

 

「あるよ~。正解者は、なんと! 女子力が二倍になります!」

 

「アタシ、それ乗った!!」

 

女子力という言葉にすぐさま反応する風に対し、皆からの冷ややかな視線が集まる。

 

「では問題です。出題はゆーゆからどうぞ!」

 

「ええっ!? 私……!?」

 

「問題が思いつかなかったら、何か困ってることの相談でもいいよ~」

 

「えっ!? あ…………えっと……。あのね、この前の……」

 

園子からの無茶ぶりに一瞬、左胸の烙印のことを相談しようかとの想いが頭を()ぎり、そこまで言いかけたところで、友奈は幻視した。勇者部皆の左胸に自分の胸に刻まれているのと同様の太陽状の烙印が赤く光り出したのを。

慌てて言い直す。

 

「あ、いや……あ、蟻さんが借金を返すために夏の間ひたすら働いていました……? で、えっとー、秋になったらキリギリスさんが借金を肩代わりしてくれました? 何故でしょう???」

 

「なんで疑問符だらけなのよ。それにそれ、問題として成立してないんじゃないの?」

 

慌て過ぎて支離滅裂になったところを夏凛に突っ込まれた。

 

「ちなみに『アリとキリギリス』って、元は『アリとセミ』だったんだって~。セミの居ない地方を経由してお話が伝わったから、途中でキリギリスになっちゃったんだそうだよ~。――――――というところで、残! 念! 問題が成立しませんでしたので、アタックチャンスは不成立でした~。フーミン先輩、残念だったね~」

 

「何がしたかったのよ、乃木?」

 

「一度でいいから『アタックチャンス!』って振りがしてみたかっただけなんよ~」

 

そう、にこやかに話す園子の視線は、友奈の方を少し心配げに捉えていた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

休み明けの月曜日の放課後。勇者部部室では、皆の愚痴が飛び交っていた。

夏凛は自宅のエアコンが壊れて寒い思いをしたのだと、美森は夜間に自室の電灯が切れて困ったのだと、犬吠埼姉妹は樹がコンビニ帰りに鍵を落としてしまい寒空の下、二人で探し回ったのだと。

そこへ遅れてやって来た園子と銀。二人とも今朝方、手を怪我したのだという。園子は右手をポットで火傷し、銀は落として割ってしまった皿を片付ける際に左手を少し切ってしまったのだそうだ。

勇者部メンバーのほとんどが小なりといえど事故のようなものに巻き込まれていることに皆、疑心暗鬼の視線を交わす。

 

「友奈ちゃんは、なにもなかったの……?」

 

「うん、平気。なにもなかったよ」

 

「そう。良かった……。これで友奈ちゃんにまで何かあったのなら、いよいよ、何処とは言わないけれど、疑いの目を向けなくちゃいけなかったものね……」

 

美森の問いに友奈が何もなかったことを報告したため、その場は収まった。

だが、友奈は不安に駆られていた。だから……

 

 

 

 

友奈は相談があるのだと、風を渡り廊下へと連れ出した。この時間帯のこの場所なら、誰かに遭遇することもないだろう。

 

「なに? 悩み事? 恋愛関係だったりして」

 

「え、えっと……」

 

ニヤニヤしながらそう話しかける風に、友奈はどう切り出そうかと逡巡する。

 

「な、訳ないか……。最近のアンタ、ちょっと変だしね……。言ってみなさい。優しい先輩が優しく相談に乗ってあげるわよ」

 

ニシシと笑う風の笑顔に少し安心し、話し始める。

 

「実は……、この間……あの、とーごーさんを助け出した日に、なにかヘンだなって家へ帰って確認したら…………、っ!!」

 

そこまで話したところで、驚きに息を呑んだ。風の左胸に、はっきりと太陽状の烙印が赤く光り出したからだ。

 

「ん? 確認したら? どうしたの?」

 

「あ、あの……、スマホから前に撮っていたみんなとの写真が消えちゃってて……」

 

慌てて取り繕って苦笑いを返す。そうやって、後は誤魔化して有耶無耶にしたのだった。

 

 

 

 

風に先に部室に戻ってもらった後、手洗い場で手を洗い、自分の左胸の烙印を確認する。

 

「風先輩にも同じものが見えた……。話しちゃいけないって事なのかな……?」

 

不安を誤魔化そうとするように、そう小さく呟いた。

 

 

 

 

部活終了後、家路につく犬吠埼姉妹。二人とも自転車だが、あえて乗らずに押して歩く。二人で会話しながら帰るのが楽しいから、というよりはその優しい時間を長く感じていたいからだろう。

 

交差点で赤信号に引っかかった。二人は夕飯の献立について話している。周りには数名の大人も信号待ちをしていた。

と、風は視界の端に見知った人物が走ってきているのに気付いた。東郷美森だ。手ぶらで、焦ったように走ってくる。なにか忘れ物、あるいは伝え忘れたことでもあるのだろうか?

 

「風先輩!」

 

「なに? 東郷…………、誰っ!? アンタ!!」

 

ニヤッとした笑みを顔に貼り付けたその人物は、美森とは明らかに異なる雰囲気をその身に纏っている。

 

何も出来なかった。反応できなかった。

 

ドンッ!

 

風は突き飛ばされていた。

樹は息を呑む。

風の体は、丁度走ってきたタクシーに跳ね飛ばされていた。タクシーは、犬神がとっさに張った精霊バリアを全く無視するように風の体を捉えていた。

 

「キャーーーッ!!」

 

誰かの悲鳴が上がる。

風の体はアスファルトに叩きつけられた。

タクシーは交差点の向こう側で停まると、オロオロとした運転手が降りてくる。

一緒に信号待ちをしていた大人達は、一人が後続車を止めようとし、一人は救急車を、もう一人は警察を呼ぼうとしていた。

樹は風に駆け寄る。いつの間にか歩行者側の信号は青になり、そして美森の姿は消えていた。

 

「お姉ちゃん! お姉ちゃん!!」

 

気を失っている姉の体を動かさないように、しかし意識を取り戻してもらいたくて大声で呼びかける。

必死になっていた。反対車線を猛スピードで走っていくダンプカーの風圧にも気付かないほどに。

 

 

 

 

SNSでその連絡を受けた友奈は目の前が真っ暗になった。

 

『風先輩が交通事故……? まさか、私が相談しようとしたせい……?』

 

急いで風が入院しているという、その病院へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

病院は物々しい雰囲気に包まれていた。

 

「まだフーミン先輩に会えないから詳しいことは分からないけどね。どうも、殺人未遂だって……。フーミン先輩、信号待ちしてたところを誰かに突き飛ばされたって事らしいよ……」

 

園子から大まかな状況を聞き、友奈は複雑な気持ちに陥った。天の神から受けた烙印が原因なのかどうか分からない事態だったからだ。胸をなで下ろすのも不謹慎だし、でも自分のせいでない可能性が出てきたことで安堵の気持ちがない訳でもなかった。

 

警察の事情聴取が終わってから、やっと病室で風と会うことが出来た。

包帯だらけの上に首にコルセットを巻いた状態だった。だが……

 

「見た目、派手だけどね。入院は一週間で済むそうよ。だけど終業式に出られないわ、その上……ゴメンね、樹。樹のクリスマスコンサート、見に行けなくなっちゃった……」

 

「お姉ちゃん……。コンサートじゃなくて、街のクリスマスイベントに出る学生コーラスの応援参加だよ……」

 

「アタシにとっては、樹のワンマンショーよ!!」

 

姉バカな話をする風にあきれつつ、夏凛がシリアスに引き戻そうとする。

 

「私たちも心当たりがないか、事情聴取を受けたわよ。アンタを突き飛ばした奴、中肉中背(ちゅうにくちゅうぜい)の女だそうだけど、誰も風体(ふうてい)を覚えていないそうね……。アンタも覚えてないの……?」

 

その言葉に樹が俯く。ただ、チラッと美森の方を見やった。

そんな妹の姿に、風はため息をつくと病室内の皆を見回した。だが、すぐに顔を(しか)める。

 

「イタッ。格好つけて、見回すもんじゃないわね……。アハハ……。――――――覚えているわよ。アタシを突き飛ばした奴の顔。東郷! アンタ……」

 

その言葉に皆、驚きの表情で美森を見やる。

 

「……とクリソツの奴。っていうか、東郷の皮を被った得体の知れない奴ね」

 

「「「「「!」」」」」

 

風と樹を除く五人が、更に驚きの表情を作る。

 

「風先輩、それってもしかして……」

 

「人間じゃなかった。かといって、人型のバーテックスか? って言われても、そんな感じでもなさそうだった。とにかく、得体の知れない奴よ」

 

銀の問いかけに、そう吐き捨てる風。

そして、友奈は血の()が引く思いをしていた。

 

『私が風先輩に話そうとしたせいだ。私が相談しようとしたせいで、天の神の使いが襲ってきたんだ……!』

 

顔を青ざめさせ小さく震える、そんな友奈を園子は複雑そうな表情で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

十二月二十四日、クリスマスイヴ。

風が巻き込まれた事件は暗礁に乗り上げていた。容疑者を絞り込む証拠がまったく無かったからだ。

風と樹も証言を控えていた。どう考えても、勇者あるいは神樹様に関する案件だったからだ。

だから逆に大赦へは詳細を報告していた。しかし、大赦からも情報は下りてこなかった。大赦でも実情を把握しかねていたからだ。

そして勇者部部員は全員、警戒レベルをMAXに上げていた。何時、襲われるか分からないからだった。

 

 

 

 

その日は、風の病室で周囲の迷惑にならない範囲のささやかなお祝いをしようと計画していた。幸い、病室が広めの個室だったからだ。

友奈も全員分のプレゼントが入った紙袋を提げて病室へとやって来た。

どうやら樹を除けば一番乗りだったらしい。病室の扉に手を掛けたところで犬吠埼姉妹の会話が聞こえてきた。思わず立ち止まって耳を澄ましてしまう。

 

「本当に良かったの? 学生コーラスの参加をやめちゃって……」

 

「もう! いいんだよ。代わりの人も見つかったしね。お姉ちゃんの方が大事だもん」

 

「樹……」

 

「そんな顔しないの。それに、友奈さん達がこの部屋でお祝いしてくれるって言ってるしね。こっちの方が楽しそうだもん」

 

そんなやり取りの後、姉妹の話は樹が家事をちゃんと出来ているのかといった方向へ流れていく。どうやら心配はなさそうだ。樹もそれなりに家事をこなしているようだった。風の、妹の成長に喜ぶ、それでいて姉離れしつつある事への寂しさのこもった声が聞こえる。

 

 

 

 

急に胸を突き上げるものがあった。目頭が熱を持つ。

 

『私が不用意なことをしたせいで、風先輩は……』

 

いたたまれなかった。

自分のせいで姉妹の幸せに傷を付けた。そんな罪悪感が胸を締め付ける。

 

扉から手を離し、音を立てないように急いでその場から離れる。

熱い涙が零れた。一度溢れた涙はもう止まらなかった。止めようがなかった。

頭の中はぐちゃぐちゃだった。考えがまとまらない。ただただ後悔だけがあった。

 

泣き叫びたかった。走り出したかった。

だが、病院内である。その一点で我慢をし、それでも一刻も早く外へ出ようと歩を早める。

 

 

 

 

「……!?」

 

玄関の自動ドアを(くぐ)ったところで、腕を掴まれた。

いつの間にか俯いていた顔を上げる。

心配そうな表情をした園子がいた。

 

「ゆーゆ。どこへ行くの……?」

 

「園ちゃん……」

 

友奈の泣き腫らした顔を見ても動揺の素振りを見せない園子。固い決意の籠もった表情で友奈を抱き締めた。

 

「話せない事なら、話さなくていいから……。でもね、今、大赦の人たちが必死でゆーゆを助けようとしている。それに、私たちも付いてるから……。ゆーゆは独りなんかじゃないんだよ」

 

限界だった。

 

「うっ、うっ、うぁぁあああああ…………!!」

 

堰を切ったように声を上げて泣きじゃくる友奈。

病院の玄関先で抱き締め合う二人。

 

 

 

 

この日、園子は残酷な報告を受けていた。

死者二名、重傷者五名。

昨日までの大赦呪術部の被害者総計。

 

園子は心の中で、大赦の大人達に頭を下げていた。

彼らとて、なにも勇者の少女たちをむざむざと人身御供にしようなどとは考えてはいなかったのだ。

神の力を振るえるのは『無垢な少女』のみ。

どうしようもない、その制約の中で、良かれと思い行っていたことが裏目に出ていた。ただ、それだけなのだ。

やり方がまずかったとの(そし)りはあろう。だが……

 

 

 

 

本来、神の祝福を受けるべき日。この日も大赦呪術部では友奈を救うべく分析が進められているのだろう。

天の神のたたりを真っ向から受けながら……

 

園子は泣きじゃくる友奈を抱き締めながら、天に輝く太陽を窺う。

それは神樹が見せている幻なのだろう。

だが、その向こうにあるはずの本当の太陽を強く強く意識していた。

 

 




原作沿い、原作沿いで進めながらも、おやぁ? という展開に。

風を突き飛ばしたのは何者なんでしょうか?(すっとぼけ)
そして、友奈に関する鬱成分は原作より軽減されるのか?
一方、原作よりも大赦上層部に食い込んでいる園子は、原作では微かに匂わせる程度だった大赦の被害を目の当たりに。

さて、物語上は次回からいよいよラストスパートなんですが。
執筆速度はどうにもこうにも上がらないという……


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