おめでとう。
ということで、以下本編をどうぞ。
『勇者御記』
十二月三十日(金)
昨日、大赦の人が来て、この日記を付けるように言われた。
私の状況は神託や研究を交えて知ったので神聖な記録として残したいんだそうだ。
クリスマスに園ちゃんに教えてもらったとおりだった。
でも私、この日記、続けられるかな。
どうしてこうなったのか……
九月の戦いで、私は無理な満開をしたことで全身ほとんどを散華してしまった。
その時、敵の御魂に触れたことで、魂が御魂に吸い込まれて一緒に連れて行かれてしまった。
気がつくと、そこは東郷さんを助けに行った、あの場所だった。
どこまでも灰色だけが広がる世界。頑張って抜け出そうともがいたけど……
どれくらい時間が経ったのか。
抜け出せなくて絶望していた時、東郷さんの泣き声が聞こえた。
その泣き声が私を奮い立たせた。
みんなの所へ帰らなくちゃ。
そう思った時、青いカラスが飛んできた。
カラスは一声鳴くと、まるで私について来いと言っているかのように飛んでいった。
だから私は、光の方へとずっと進み続けて、戻ってくることができた。
後で貴也さんに聞いたんだけど、青いカラスは西暦の勇者の乃木若葉様じゃないかって。
私も、なんだかそう思う。
でも、体は違った。
散華からの回復は、捧げられた供物が返ってきたんじゃないみたい。
回復した体の機能は神樹様が作ったものらしい。
全身を散華した私は、体ほとんどが神樹様の作ったパーツになった訳で……
大赦では、そんな私を
御姿は神聖な存在なので、神様からはとても好かれるらしい。
だから私は東郷さんの代わりになることが出来て、それで世界のバランスは守られた。
それから、私の異変に気付いた大赦はいろいろと調べてくれた。
分かったのは、私は天の神にたたられていて、直ることはないということ。
そして、私は今年の春を迎えられないだろうということ。
とても恐い……
それに、私のせいで天の神に襲われた風先輩には申し訳ない。
やめた。恐いことばかり書いても仕方がない。
最近のことを書いておく。
クリスマスイブの風先輩の病室でのお祝いは楽しかった。みんなの笑顔が見れて良かった。
火曜日には風先輩が退院した。おめでたい。
その時、みんなのスケジュールを確認して、一月三日にみんなで初詣に行くことにした。
楽しみだな。
今日はいっぱい書いた。疲れたので、もう寝ます。おやすみなさい。
十二月三十一日(土)
昨日、書き忘れたことを書いておく。
最近、体調がおかしい。たたりのせいかな。
食欲のない日がある。そういう日は一日、頭がボーっとする。
昨日と今日は大丈夫だったけど。
冬休みで、勇者部のみんなに会えなくてさびしい。
東郷さんもなんだか忙しいらしくて、昨日ちょっと会っただけだ。
そういえば、あれから天の神の使いが襲ってくることはない。
みんなに
年越しうどんは美味しかった。
早めに寝て、体調維持に努めなきゃ。
一月一日(日)
新しい年が始まった。いつもの年なら、明るく元気にいくんだけどな。
私の命、春まで持たないっていうことだし。
ダメダメ。暗くなっちゃダメだ。元気にいかなくちゃ。
今朝、東郷さんが年始のあいさつをしに来てくれた。
今日は、二年前までお世話になっていた鷲尾さんのところへあいさつに行くんだって。
東郷さんの顔を見られたので、少し元気が出た。
お母さんが作ってくれたお雑煮とおせちはあいかわらず美味しい。
でも、たたりのせいか、あまり食欲がわかなくて少ししか食べられなかった。残念。
明日は、たくさん食べるぞ-!
一月二日(月)
今日はずっと体の具合が悪い。微熱が続いていて、お昼ご飯も吐いちゃった。
明日はみんなで初詣だから、ちゃんと体を休めて備えなくちゃね。
だから、今日はこれだけ。おやすみなさい。
一月四日(水)
昨日、大変なことが起きた。
頭の中がぐちゃぐちゃで、何から書けばいいか分からないよ……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
一月三日。その昼下がり。
この日、勇者部の面々は示し合わせ、皆揃って琴弾宮へ初詣にやって来ていた。元旦、二日はそれぞれ予定が入っていた部員がいたからだ。
そして、その面子には当然のごとく貴也が入っていた。もちろん園子が強引に誘った結果だ。
「なあ、この女子ばっかりの中に僕が入っていてもいいのか?」
「いいんじゃない? 鵜養も勇者仲間なんだしさ。私は気にしないわよ」
女子ばかりという圧力に負けて、そう尋ねる貴也の疑問は夏凛にあっさりと切り捨てられた。他の部員達も同意しているようだ。
そんな中、風は部員達を見回して、なぜかため息をつく。
「それよりも、なに? この華の無さは……? 着物姿が東郷だけなんて……。ま、アタシもいざという時、動けないといけないからって動きやすい服装にしたのは、そうなんだけどさ」
「あ、私も動きやすい服装がいいかな、って思ったんですけど、親がどうしても着て行けって五月蝿くって」
確かに美森を除く全員が、寒さ対策でセーターやジャンパーを着込んでいるとはいえ普段着だ。貴也を除いて、見目麗しい美少女ばかりなのに全然正月っぽくない。
それもそのはず。やはり謎の敵、恐らく天の神からのものであろう襲撃を警戒しているからだ。
美森だけは事情を知らない親の手前、着物を着ており、一人、華を添えていた。
「それにしても、うっれしいな~。みんなと初詣! たぁくんと一緒の初詣も小五の時以来だからね~」
「ちょっと園子。あんまりひっつくと、歩きにくいんだけど……」
「おやぁ? そういや鵜養、アンタいつの間にか乃木のこと呼び捨てにしてるけど、なんか進展でもあったの?」
左腕にしがみつくようにして体を密着させてくる園子に、苦情を漏らす貴也。そんな二人のやり取りに風がニヤニヤしながら突っ込んでくる。
「うっ……。今、言わなきゃいけないか……?」
「べっつにー。イシシシ……。若いもんはいいですなー」
「お姉ちゃん、ババくさいよ」
「グフッ……。樹、アンタも言うようになったわね。――――――ところで友奈は、今日は大人しいわね」
貴也たちをからかったつもりが、樹の突っ込みにダメージを受ける風。
気を取り直して友奈を気遣う。だが、まだ友奈のたたりについて知っているのは園子だけだ。貴也も知らない。だから、その気遣いは本当に、今日は少し元気が足りないように見える友奈に向けられたもので……
「あっ、大丈夫ですよ、風先輩。やっぱり着物を着たかったなー、って考えてただけで……」
「そう……? いつもなら鵜養辺りに『貴也さーんっ!』て叫びながら跳びついてんのにね。ん? まさか、鵜養に気がある訳じゃないわよね……?」
「ええっ!?」
「ちょっと、ゆーゆ。それ本当……? たぁくんのこと、そんな目で見てたの?」
「友奈ちゃん! 本当なの!? だとしたら、貴也さんを『マ・ッ・サ・ツ』しなければ……」
風の微妙な笑顔をしながらのからかいに驚きの声を上げる友奈。さらには、園子と美森まで慌てた声を上げる。特に美森は不穏な言葉を小さく呟いている。
「ちょっと、ちょっと。ジョークよ! ジョーク!! いつもはスキンシップが激しいから、ちょっとからかっただけじゃない……」
風は慌てて取りなす。実際のところ友奈のスキンシップは気安いものであり、からかいたくもなろうというものである。だが、園子と美森の醸し出すなんとも言えない空気に、風は冬だというのに嫌な汗をかいていたのだった。
そんなこんながありながらも、八人グループで団体行動をする。
まずは参拝。お賽銭を投げ入れ、年初のお願い事をする。とはいえ皆冷めた気分でのお願い事だ。神樹様や若葉たちなど、あまりにも神様という存在が身近すぎる上、天の神は人類を滅ぼそうとする敵であるからだ。
「ま、年始のルーチンワークだからね」
風のその言葉で、無理矢理納得させようとする。納得しきれないのではあるが……
続いてはおみくじを引く。その結果に皆、一喜一憂だ。
「チクショー! なんで、あたしが『凶』なんだよ!!」
「あはっ……『大吉』だー。やったー……」
「『小吉』か……。ま、こんなもんね」
『凶』を引いて荒れる銀、『大吉』を引いて喜ぶ友奈、夏凛は『小吉』という結果に面白くもなさそうな反応だ。美森は、そんなみんなをビデオ撮影するのに夢中だ。
「うーん。『末吉』か……」
「たぁくんは『末吉』なんだ……。どーしよー、私『大凶』だ……」
『大凶』を引いてズーンと暗い雰囲気を纏う園子。貴也は、そんな彼女を慰める。
「大丈夫、大丈夫。神社の木とかに括り付けていけば厄落としになるみたいだし」
「あら? 別に持ち帰ってもいいのよ。神様からの『気を付けなさい』っていう意味しかないみたいだし」
「そうなんだ……。わっしーの言葉で元気が出てきちゃった!」
美森のさらなるフォローで元気を取り戻す園子。キョロキョロと辺りを見回す。そして、巫女さん達が甘酒を振る舞っているのを目ざとく見つける。
「お、甘酒だ~。みんな~。あっまざけっ、飲っみたいな~」
ヘンな節回しで、あざとく体を揺らしながらおねだりをする。そして低い姿勢から上目遣いで貴也を見つめてくる。
「ああ、いいんじゃないか……?」
「そうね。一杯、引っかけていきますか」
貴也の同調に合わせて風も同意し、みんなして振る舞われている甘酒を飲むことにした。
「ギャハハハハ……。お姉ちゃん、卒業おめでとー!」
「うええぇぇぇ……。えぐっ、えぐっ。中学卒業やだー。私のせいしゅん~」
バカ笑いしながら姉の背中をバシバシ叩く樹。対する風は泣きながら甘酒を啜っている。
「笑い上戸に泣き上戸か……。カオスだな、犬吠埼姉妹は……」
「て言うか、これノンアルコールよ。これで酔うなんて、器用よね……」
二人の有り様に唖然とする貴也と夏凛。美森はふんす! と鼻息も荒くビデオ撮影を続行している。
一方、友奈は甘酒を見つめたまま黙りこくっていた。その様子に銀が不審を抱く。
「どうしたんだよ、友奈? 不景気な顔してさ」
「あー、うん……。ちょっと熱いかな? って……」
「それは大変! わっしー、ミノさん、フーフーしてあげよう!」
慌てて息を吹きかけ、友奈の甘酒を冷まそうとする園子、銀、美森。先代三人の剣幕に苦笑いする友奈。
「あれ? ちょっと顔が赤くないか……?」
貴也の指摘に、美森が友奈の額に自分の額を当てて熱を測る。
「本当! 少し熱があるわ。友奈ちゃん、悪化したらいけないから、今日はここでお開きにしましょう!」
「ええーっ!? 大丈夫だよ、とーごーさん」
「友奈、須美の言うことは聞いておいた方がいいぞ。後が恐いからな。シシシ……」
「もう! 銀、ヘンなことは言わないで!」
結局、友奈の具合が少し悪いということで、本当にそこでお開きとなった。
一応、記念の集合写真を一枚撮った後ではあったが。
家路につく友奈、美森、銀、園子、貴也の五人。方向が違うので、既に犬吠埼姉妹と夏凛とは別れた後だ。
だが、急激に友奈が体調を悪くしていた。顔が赤みを増し、息が荒くなっている。熱が上がっているようだ。
「友奈ちゃんは、私が送っていくから大丈夫よ」
「ダメだよ、わっしー。いざ襲われた時に、ゆーゆを庇いながらだと無理があるから」
一人で友奈を送ろうとする美森を園子が
「そうそう。園子と貴也さんに送ってもらえよ。あたしは今日の夕食当番だから、買い物しないといけないし」
「でも、銀を一人にするっていうのもなぁ……」
「大丈夫、大丈夫。あたしは勇者から外れてるし、襲うメリットないでしょ。と、いうことで友奈のことはよろしく! じゃあ、またね!」
貴也が心配するのを振り払うように、銀はさっさと自宅の方へと歩き出していった。
残された三人は顔を見合わせるが、すぐにぐったりとする友奈を気遣い家路につく。
「ごめんね、みんな……」
「気にしなくていいのよ、友奈ちゃん。こういう時はお互い様だから」
「そうさ。甘えておけばいいよ。東郷さんも園子も、いつも友奈にお世話になってるんだからさ」
美森に手を引かれて、それでも少しふらつきながら歩く友奈。貴也も園子も気遣いながら、後に続く。
ようやく結城家、東郷家が見えてきた。
四人ともが、ふっと緊張感を緩めた時だった。
「おかしい……。周りの生活音がしない……!」
「みんな、警戒して!」
急に周りの音が消え、耳が痛くなるほどの静寂が訪れる。
貴也の脳裏に警鐘が鳴り響く。その感覚に従い、変身しようとした。
「多重しょうk……グハァァアアッ!!」
目の前にいきなり美森が現れたと思いきや、激しい衝撃が胸を打った。
十メートルあまりも吹き飛ばされる貴也。
美森が両手を突き出した掌底の一撃を叩き込んだのだ。
だが、その美森は着物に身を包んだ、今まで一緒だった美森ではない。
ネイビーのジャンパースカートにグレーのセーター、ブルーグレーのパンツを合わせた、もう一人の美森だ。
慌てて、変身用の端末を取り出す美森と園子。
だが、画面をタップするよりも速く、ハイキックの二連撃で二つの端末は吹き飛んでいった。
「「!!」」
次の瞬間、光に包まれるもう一人の美森。光が晴れると、菊をモチーフとした淡藤色の旧勇者服をその身に纏った彼女が現れる。
そのまま、美森の鳩尾を殴りつける。
「ガッ……!!」
一撃で失神する美森。
「ヒッ……!」
ふらふらだった友奈は尻餅をついていた。働かない頭で呆然と見守るしかなかった。
「多重召喚!!」
変身した貴也が地面すれすれを空中走行で迫る。が、勇者装束の美森が右手を振ると、数十もの光の矢が貴也に襲いかかる。
「グガァッ!!」
立ち並ぶ民家の塀に縫い止められていた。両方の手のひらを矢が貫いていた。狩衣にも似た勇者装束もあちこち矢で縫い止められている。
身動きがとれない貴也。
園子は飛んでいった端末を拾うべく走り出したが、すぐに追いつかれ蹴り飛ばされた。
激痛に、体が動かなくなった。
勇者三人を一瞬にして戦闘不能に追い込んだ、もう一人の美森。
不敵な笑みを浮かべながら話し始める。
「まったく、迂闊にも程があるわね。巫女の資質を持った勇者を奉火祭に捧げるなんて……。この戦闘力。ただの巫女が捧げられていたのなら、こうは上手くいかなかったでしょうね」
「お前……、アバターだな。それも天の神の……」
なんとか縫い止められた体を動かそうとしながら、激痛に耐え、そう語りかける貴也。
「『アバター』なんて言葉は使って欲しくないわね。この国には『神の化身』という最適な言葉があるじゃない……。そうじゃないかしら、『勇者の守り手』さん……?」
「くっ……」
ニヤリとした笑みを浮かべるアバター美森に返す言葉もない貴也。
アバター美森は、ゆっくりと周囲を見回す。
「それにしても、結城友奈。見事な
その言葉に友奈は顔を引き攣らせ、小さくカタカタと震える。
「そして、乃木園子。かなり
「なっ……!?」
「あなたは高嶋友奈と面識があったわね。そうよ。だからこそ、神婚する事によって神樹の力を高められたのよ」
ふふふと暗い笑いを見せるアバター美森。
「さて、長居は無用ね。結城友奈は既に天津神と繋がりを持っている。となれば、次はこちらね」
そう言うと、アバター美森は激痛に身動きがとれない園子を抱き上げる。
「待て! 園子をどうするつもりだ!?」
「知れたこと。神婚によって、天津神との繋がりを付けるのよ。さて、どのような結末が待っているか……。精々頑張りなさい。『勇者の守り手』さん」
「た、助けて、たぁくん……」
「グッ……ウォォオオオッ!!」
両手のひらを無理矢理、縫い止めていた矢を貫通させるように抜き取りながら拘束を解いた貴也。園子を奪い返すべく、アバター美森に輪刀で斬りかかる。が……
ふわりと浮かび上がった彼女の鋭い蹴り足に顎を穿たれ、吹き飛んでいく。
「悪足掻きは見苦しいわよ。――――――汝の出番は、まだ後だ」
急に声色を変えると、アバター美森は園子を抱いたまま、かき消すようにその姿をくらました。
後に残るは、気を失ったまま倒れ伏す美森、カタカタと震える友奈、そして慟哭の叫びを上げる貴也だけであった。
なんというか、突然死の様な展開ですが、勇者部の章はここまで。
園子がさらわれてしまいました。
また、本作のたかしーはこういう設定ということで。
実は、今回も難産でした。
一回、途中まで書いたものを半分ほどボツにして書き直すハメになりました。
さて、次回からいよいよ最終章です。
独自設定、独自解釈でゆゆゆ世界をぶった斬っていくことになりそうなので、受け付けない方もいるかもしれません。ご注意のほど、よろしくお願いします。