友奈の新ビジュアル。勇者の章のその先でしょうか? そうなっても本作とのリンクは絶望的ですが。
今回ちょっと短めですが、本編をどうぞ。
「さて、もう一つ重要な情報だ。バーテックスの侵攻は西暦二〇一五年七月三十日の午後九時頃に始まっておる。何故そのような時間帯であったのか分かるかの?」
「夜間の襲撃で恐怖を煽ったということでしょうか?」
咲夜の問いに、やはり芽吹が頭を捻りながら答える。それに答えるは春信だ。
「実は、バーテックスの侵攻は世界同時に始まっている。そして当時、世界には世界標準時というのがあってね。欧州にあったイギリス、この国の時刻が世界標準時に当たるんだが、我が国の午後九時はこの国の正午に当たるんだ。太陽神の侵攻のタイミングとして最も相応しいのはどちらだと思う?」
「「「「イギリス……!?」」」」
「その通りだ。つまり、我が国の太陽神は人類を滅亡させようとしている主犯ではない。西暦時代に上里ひなた様がご指摘されたように、バーテックスは我が国の神の眷属ではないんだ。
貴也たち少年少女の驚きの答えに、さらに驚くべき答えを付け加える春信。
「アメノホアカリは伝承からして暴力的な神ではあるが、乗っ取った比較的穏やかなアマテラスの神格にも影響を受けているのだろう。なにせ、この女神は弟神の暴虐に武装をすれども戦わず、最後には天の岩戸にお隠れになったような
そこまで話すと咲夜はパンと柏手を一つ打つ。
「そこで結論だ。我らは神事により、アメノホアカリをアマテラスとして再びまつろわせるのだ。そうして太陽神アマテラスを味方として、外つ国の神々に対抗していかねばならん。――――――そこで具体策だ。三好」
「はい。ある筋の情報から、桐生派、烏丸派が結託し、結城友奈様を生け贄に神樹様との神婚を為す事で、人類を神樹様の眷属とする事を画策していることが分かっています。また、その実施は三日後に予定されています。これを利用し、ホアカリを結界内に
「うむ。狂信者どもが亜耶を自由にしたのは僥倖だった。計画の前倒しでゴールドタワーの
その咲夜の言いようになんとも言えない恐怖を覚え、貴也は背中がゾクッとするのを感じた。だが、怯えてばかりもいられない。あえてわざとそうしているのかもしれないが、看過できないことがあったからだ。
「園子はどうなるんです? 三好さん、園子を救う方法を考えてくれると言いましたよね……?」
その言葉に春信は目を逸らした。しかも、咲夜は冷たく言い放つ。
「園子様のことは、諦めい。どこに居るやも分からんのだ。確かに、神託には『
「なら、なぜ僕をこの場に加えているんですか!? 僕がいなくとも、そんなことは貴方たちで勝手にやっていればいい! 僕は、園子を救う方法を知りたくて、この場にいるんだ!!」
激高する貴也。もはや話にならないと席を立とうとする。すると、春信が行く手を遮るように声を掛けた。
「待ってくれ、貴也くん。実は……、これは言うまいと思っていたんだが……」
「三好……」
咲夜は憐れむ様な視線を貴也と春信の双方、交互に向けた。
「今回の策が具体化する中で思ったんだ。もしかすると、ホアカリが園子様を攫ったのはこの策を潰すためではないかと。そのための神婚なのではないかと。そうであるなら……」
その後の言葉を春信は濁した。
その時だった。亜耶と怜の二人が急に立ち上がるなりトランス状態に陥ったのだ。
「亜耶ちゃん!?」
芽吹が慌てて亜耶を抱き留めようとするが、春信に制止される。
しばらく、二人の様子を見ているしかなかった。
意外に短い時間だった。三十秒ほど経つと二人はほっと息をつき、その場に座り込んだ。
「神託は、なんだったのかの……?」
咲夜の問いかけに亜耶と怜は見つめ合うと軽く頷く。そして亜耶が口を開いた。
「薔薇が……青い薔薇が飛んできて石に突き刺さる映像でした」
「薔薇には冷たい印象を、石には暖かい印象を受けました。恐らく、園子様が貴也様を襲うイメージかと……」
怜が憐れみを込めた視線を貴也に投げる。それに対し、戸惑いながらも貴也は尋ねる。
「そ、それは、アバターという訳じゃなく……?」
「いえ、神のアバターならば、もっと違う印象を受ける映像になるかと思われます」
怜のその言葉に、場を沈黙が支配した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
貴也たちが神託を受けた頃、美森は自宅の自分の部屋で友奈の写真を見ながら考え込んでいた。
「攫われたそのっちの手掛かりは何も掴めない……。それに、友奈ちゃんの様子もおかしい……。天の神のアバターに襲われたから?」
園子のことも凄く心配だ。彼女の無事を一日に何回も神樹様に祈っている。
だが、目の前で病魔に苦しんでいる友奈の姿は、それ以上に美森の心を締め付けていた。
あれから友奈はずっと体調を崩したままだ。熱は上下しており、下がりきっていなかった。体力の消耗が激しいのも、見てすぐに分かる様な状況だった。
初詣で撮った動画を見ながら呟く。
「いえ。アバターに襲われる前から体調を崩していたわ。おみくじを引いた時には既に体調をおかしくしていた。大吉を引いたなら、友奈ちゃんならもっと弾けるような笑顔を見せるはず……」
ふと思いついて、何十冊もあるアルバムの中から一冊を取り出す。そこに収まっているのは、昨年のクリスマスに風の病室でささやかなお祝いをした時に撮った何十枚にも及ぶ写真だ。もちろんプリントアウトしているのは厳選したものだけである。
「ううん。この頃から、なにかふさぎ込んでる様子だった。風先輩が襲われたから……?」
更に遡って思い出してみる。そして、サーッと顔を青ざめさせた。
「違うわ!
想像が悪い方へ、悪い方へと転がっていく。居ても立っても居られなかった。
結局、彼女はまったく常識に囚われない決断を下すことになる。
夕方と言うにはまだまだ早い時間帯。勇者姿に変身した美森は、隣家の結城家へ忍び込もうとしていた。
この付近は住宅街であり人通りは少ない。その上、東郷家と結城家の隣接部は道路側からの死角が多く、外部から見咎められる恐れは少なかった。その点を彼女は悪用したのだ。
「いい、青坊主? 友奈ちゃんが眠り込んでいるようなら、カーテンの隙間から私に合図をして窓の鍵を開けなさい。起きているようなら、すぐに撤退。いいわね……?」
友奈の部屋のベランダで精霊に小声でとんでもないことを指示した後、部屋の中へと壁抜けをさせる。
すぐに閉まっていたカーテンが少しだけ開いて、中から青坊主がなにやらハンドサインを示す。
美森が頷くと、カチリと鍵が開いた。掃き出し窓をわずかに開けて、その隙間をすり抜ける。
ベッドを見やると友奈が熟睡していた。昨日からまた上がった熱で体力を消耗したせいだろうか。苦しそうな寝顔だった。
心配だが、それ以上にこの状況に陥っている原因、あるいはその手がかりを示すものがないか探すのが先決だった。
だが、美森の目は一瞬で手がかりを掴む。友奈以上に友奈のことを知っていると自負する彼女であればこそだ。
友奈の数少ない蔵書が並ぶ書棚。そこに見慣れない茶色のブックカバーに包まれた四六判サイズの単行本のようなものがあったのだ。
『友奈ちゃんが単行本なんて読む筈がないわ。なにかしら、これ……?』
友奈にはかなり失礼な認識だが、それは的を射ていた。彼女が読む本と言えば、漫画かせいぜい少年少女向け小説あるいは格闘技雑誌ぐらいだからだ。
その本を書棚から抜き出し、ブックカバーを外す。
『勇者御記』
そのタイトルに、美森は言葉なく立ち尽くした。
「なによ、これ……」
「たたり?
「そんな……」
風が嘆きを滲ませた声を漏らす。夏凛は頭が理解を拒否しようとする言葉を反芻する。そして、樹はその言葉を漏らしたきり、口に手を当てて涙をこぼす。
美森の招集に、銀と園子の家に集まった勇者部の面々。
友奈が書いた勇者御記を読み、皆絶望の表情を見せる。特に美森は顔面蒼白になりながら呟く。
「私のせいだ……。天の神の怒りは収まっていなかった……。全部、私のせいだ!! 私が受けるべきたたりを友奈ちゃんが!!!」
半狂乱になる美森を銀が抱きしめる。
「落ち着けよ! 書いてあるだろ! たたりは
「でも! じゃあ、どうすれば……!?」
「そんなこと! あたしにだって、分からないよ!!」
「やめてください、二人とも! 二人が争っても、なにも解決しません!」
言い争いを始めかけた二人を樹が止めようとする。そして、夏凛が泣き始めた。
「友奈が、友奈が死んじゃう……。私、友奈に助けてもらってばかりなのに……どうすればいいのか分からない……。何もしてあげられない……」
誰も、何も声を掛けられなかった。
何も解決策を出せないまま、空しく時間は過ぎていった……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
どこまでもどこまでも灰色だけが広がる空間。
そこに魂だけの存在となった園子はいた。膝を抱え、丸まった姿勢で。
『ゆーゆに聞いたとおりだ。抜け出せないや……』
友奈に聞いた、青い烏はやって来ていない。だからだろうか? この場所から抜け出せそうな光は見えなかった。
それでも、園子は絶望などしていない。
『たぁくんが絶対、助けてくれるもん。あの祀られた病室からだって助けてくれたんだから。三百年の時の壁だって越えて、帰ってきてくれたんだから。だから絶対、助けてくれるよ』
貴也だけではない。銀も、美森も、友奈も、風も樹も夏凛も。みんなが待ってくれている。
彼女の心が折れようはずもなかった。
たとえ、その身体をすべて奪われようとも……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「バイバイ。また明日」
友奈は送ってくれた美森と別れ、自宅の玄関に入る。
「また、明日からも頑張らなくっちゃ……」
昨日から少し体調が戻ってきた。始業式だったため、さっさと帰れたことも良かったのだろう。
今日の休み明けの実力テストも、なんとか五教科受けることができた。もちろん冬休みの後半、寝込んだままだったので結果はお察しであるが。
園子の行方は、まだ手がかりさえ掴めていない。
だが、友奈にできることは何もないと言って良かった。
だから残り少ない命、日常に費やすしかなかった。
「ただいま」
靴を脱ぎ、玄関を上がりながら帰宅の挨拶をした。
「お帰りなさい、友奈。ちょっと、こっちへいらっしゃい」
「はーい」
客間から母の返事があった。だが、声音が少し変だ。
少し疑問に思いながらも返事をし、客間へと向かう。
襖を開けるとお客が居たばかりでなく、父母が揃っていたことにも驚いた。
「友奈、こちらへ来て座りなさい」
友奈へ声を掛ける父の声は少し震えていた。
よく見ると母は目の周りを赤く腫らしている。泣いていたのだろうか?
父に言われるがまま通学鞄を置き、両親の隣に正座する友奈。
机を挟んで座っていた、大赦の仮面を着けた神官服の女性が座布団から下り、手を付いて深々と頭を下げてきた。
「大赦を代表して、結城友奈様にお願いをしに参りました。どうか、神樹様との神婚の儀、受けていただきたく……」
冒頭の問答部分、39話の杏、ひなたの疑問に対するもやっとした回答です。恐らく原作は星が降ってくるイメージに合わせて夜間の襲撃としたのでしょうが、本作では敵が太陽神である方に着目しました。太陽が天から攻撃してくるなら正中している時間帯だよね、ということです。(7月なら実際の英国は夏時間ですが、太陽の正中がズレる訳じゃないですしね)英語では星屑でなく The splinter of the sun (太陽の欠片)とかだったりして。
また、本作での神婚の日付が判明。たかしーの誕生日です。(これがしたかった)
原作でも1月11日はなぜか友奈の体調が良かった日ですね。もしかすると神樹のバイオリズムが上向きだったのかも。
なお、原作の神婚の日(くめゆ完結編でバレンタインの数日後と明記)から1ヶ月以上の大幅前倒しのため、ゴールドタワーの砲弾化はおろか千景砲すらもまったく間に合っていません。
(追記:アニメの勇者の章では神婚の日は1月18日ですね。こちらでは防人関連がどうなっているのか不明ですので、特にコメントすることも無く。前倒しには違いありませんが)
さて、次回はいよいよ……?