鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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第五十八話 一月十一日(その3)

満開した美森の浮遊砲台で一直線に神樹の元へと向かう風と美森。

 

「なによ、あれ!?」

 

だが、風が上空の異変に気付く。空が裂けたのだ。

天の神の侵攻により赤黒く染まっている空。その裂け目の深奥、更に闇深い場所から獅子座型(レオ)の自動追尾型火球と炎を纏った星屑の大群が襲ってきた。

 

「風先輩! 掴まっててください!」

 

八門の砲身をくねらせて火球と星屑を撃墜してゆく浮遊砲台。だが、出現する敵方の数の方が圧倒的に多かった。

それを認識すると、美森は浮遊砲台を反転させる。

 

「あそこへ砲台を突っ込ませます! 総員退艦!!」

 

浮遊砲台から飛び降りる風と美森。浮遊砲台は全速で空の裂け目へと突っ込むと自爆する。

眩い閃光が走り、空の裂け目が歪んで消える。だが、既にこちら側へと現界している星屑の数も圧倒的だ。

 

「東郷! 友奈の元へ急ぎなさい! ここはアタシが!!」

 

「分かりました!」

 

後を風に任せ、神樹の元へと跳躍していく美森。

風は愛用の大剣を構えると、星屑の群れに向かい吠えた。

 

「讃州中学勇者部部長、犬吠埼風! ここから先は、一匹たりとも通さないわよ!!」

 

 

 

 

「うぉおおーーりゃぁああーーーっ!!」

 

どこからともなく射出されてきているビームのような水流を、槍を回転させることで受け止める銀。

 

「させませんっ!!」

 

どこからともなく出現する無数の卵型爆弾を、やはり無数のワイヤーで撃墜する樹。

そして……

 

「おちろぉぉおおおおっ!!!」

 

巨大な鏡――内行花文鏡に特攻を掛ける夏凛。

 

バヂンッ!!

 

四振りの大太刀すべての斬撃が弾かれた。目に見えない、だが強力な力場が天の神の化身を守護していた。

 

「なっ!? バリア……? ――――――くっ、なめんなぁぁあああ!!」

 

一瞬怯んだものの、すぐに立て直し高速かつ無数の斬撃を力場に与え続ける。だが……

 

ゴォォオオウン、ゴォォオオウン!!

 

物理的な震動を伴う鐘の音が鳴り響くと、三人の動きが止まる。

 

「クソッ……! 牡牛座型(タウラス)の音波攻撃!!」

 

そして、急速に三人の周りに黒色ガスが立ち込める。

 

「マズいっ!」

 

電撃が走った。連鎖的に起こる爆発。

三人は、その爆発の嵐に翻弄されていった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「いやぁぁぁあああああっ!!!」

 

園子の悲痛極まりない絶叫が上がる。

彼女がその両手で持つ槍。それが貴也の腹を貫いていた。

 

「ガハッ……」

 

『なんてことだっ! ホアカリの呪縛は未だ解けてないんだ!!』

 

槍が引き抜かれた。血が滝のようにあふれ出す。

腹部が燃え上がるように熱くなる。体から力が抜けていきそうだ。

 

『千景!! お前の力を全部、貴也の生命維持へ回せっ!! 早くっ!!!』

 

貴也の頭の中で若葉の叫びが響く。

九本の光の尾が瞬く間に消えたかと思うと、腹部が一瞬だけ光った。

恐らく、それで貴也の生命は繋がったのだろう。かろうじて、立ったままの姿勢を続けられた。

 

しかし、その顔を苦痛にも似た表情に引き攣らせた園子の攻撃は、先ほど迄のものよりも更に苛烈さを増してくる。恐らく、天の神が園子の心までを囚えることを諦めたからなのだろう。逆に体の支配権が強くなっているのだ。

 

「いやだっ! たぁくんと戦いたくないっ!!」

 

園子の悲痛な叫びが轟く。だが、その言葉とはうらはらに体は鋭い動きを見せ、高速の槍捌きからの刺突、斬撃が飛んでくる。

戦闘面で千景の補助を失った貴也は、生大刀で捌き凌ぐので精一杯だ。もはや、彼からの反撃は途絶えていた。

 

「たぁくん……、助けてっ!!」

 

ガキン!!

 

生大刀が弾き飛ばされる。

 

ピッ!

 

槍の穂先が頬を掠める。いや、かなり深く斬られた。

 

「助けて! たぁくん!!」

 

更に高速の二撃目!!

トンボを切って距離をとり、着地。そこに更に刺突、刺突、刺突!!

薄皮一枚を斬られながらも、躱しきる。

 

その時、自分でもバカなんじゃないかと疑うような考えが閃いた。

だが、考えを深めるよりも先に体が動く。

 

なんと、両手を広げて園子に向けて突っ走った。

 

「そのちゃん!!」

 

中段からの斬撃! だが、一瞬だけスピードを殺し、体を捻って躱す。首に赤い血の筋が薄く走った。

次の瞬間、貴也は園子を抱きしめていた。

ありったけの想いを込めて、ギュッと、強く抱きしめる。

そして、そのまま彼女の唇に自分の唇を押し付けた……

 

 

 

 

園子は、錯乱しかかっていた。

意識を取り戻したにもかかわらず、体が自分の意志に従って動こうとはしない。勝手に貴也へ、殺意剥き出しの攻撃を加え続けるのだから。

 

『嫌だ、嫌だ、嫌だ! 助けて! たぁくん、助けて!!』

 

頭の中がその想いだけで占められる。

 

だが、彼はあろうことか、攻撃の手段をすべてかなぐり捨てて突っ込んでくると、彼女を抱きしめた。

そして口づけをしてくる。

視界が彼の顔で、表情で一杯になる。唇の感触が熱い。頭の中が沸騰しそうだ。それでいて胸の中は幸福感で満たされる。

 

『どうして……どうして……!?』

 

ドサッ……。槍が手を離れ、地面に落ちる。

 

そして気付く。周辺視野の両端部、かろうじて捉えることができるその位置を、写真で知った顔、そして見知らぬ顔の少女たちの笑顔が流れていく。

自分によく似た、しかし凜々しい顔立ちの少女が控え目な笑顔を見せていた。

つり目気味の気の強そうな少女がニッと優しさを感じさせる笑みを浮かべていた。

おとなしそうな、だが芯の強そうな少女が先ほどの少女に目配せするようにしながら笑っていた。

そばかすが印象的な少女が明るいニパッとした笑顔を見せてくる。

悪戯っぽい笑顔を浮かべた少女が、右手の人差し指と中指を揃えてピッと略式敬礼をしてくる。

アンダーフレームの眼鏡の少女が、からかうような笑顔を向けてくる。

そして、彼の妹の面影を残した顔立ちの黒髪の少女が、反対側ではやはり黒髪の育ちの良さそうな少女が笑顔を向けてきた。

 

「貴也くんのこと、支えてあげてね」

 

「貴也さんを頼みましたよ」

 

声が聞こえた気がした……

途端、体の奥底から力が湧いてくる。

 

『思い出した! 思い出した、思い出した、思い出した!! どうして私は彼に助けてもらいたいって、そればっかり考えてたんだろう……? ――――――そうじゃないんだ! 私は! 彼が幸せになれる可能性が残っている、この世界を! 私が守るって、決意したんだ!! 彼の隣を! 胸を張って一緒に歩いて行きたいんだ!!』

 

【そう……弱さに囚われているばかりでなく、貴方の中の強さを思い出して……】

 

心の中が光に満たされたと感じた次の瞬間、天の神、ホアカリの呪縛は解けていた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

神樹の元に辿り着いた。そう思った次の瞬間、美森は真っ暗な空間に佇んでいた。

 

「ここは……?」

 

そして気付く。足元遥か下にいる、輝く無数の白蛇に絡め取られた白い花嫁装束の友奈の姿を。

 

「友奈ちゃん!!」

 

「! とーごーさん……?」

 

美森の叫びに友奈も気付く。視線をこちらに向けてきた。

 

「帰ろう、友奈ちゃん! 迎えに来たのよ!」

 

「とーごーさん、どうして……?」

 

戸惑う友奈の元へと、美森はダイブする。

しかし、神樹のものであろう。輝く白い糸が美森の体を絡め取り、友奈へ近づかせようとしない。

 

「くっ! そうまでして、友奈ちゃんを渡さないつもりなのね……」

 

歯噛みする美森。どうにか抜け出そうと身をよじる。

 

「とーごーさん、もういいから! 私が、私さえ我慢すれば、世界は救われるの。私がこの命を捧げれば……」

 

悲しげな表情で美森を拒絶する友奈。

だが、その言葉が美森の心に火を付けた。

 

「友奈!! いかせない!! 私を一人にしないって言ったのは、あれは嘘だったの? 私の事、友達だって思うなら本当の事を言って! 聞かせてよ!! 私のかけがえのない本当の友達の、本当の気持ちを!!!」

 

驚きの表情で美森を見返す友奈。その言葉は、頑なな友奈の心を溶かしていく。

 

「私はイヤよ! 私の大切な友達を失うのは……、たとえ世界と引き替えにしたって!!」

 

美森の涙混じりの叫びが続く。それは、神樹の中の異空間に木霊した。

 

「怖いよ…………、怖いよ! とーごーさん!! イヤだよ! 私も、みんなと別れるのは嫌だよ……!」

 

とうとう友奈が弱音を吐いた。それはどんどんと溢れ、本当の気持ちが顕わになっていく。

 

「私たち、頑張ったんだよ……。なのに、どうしてこんな……。嫌だよ! 助けて!! とーごーさん!!!」

 

「友奈ちゃん、手を伸ばして!!」

 

「とーごーさん!!」

 

目一杯伸ばされた二人の手が徐々に近づく。そして……

 

 

 

 

【そう……強さに囚われているばかりでなく、貴方の中の弱さを認めてあげて……】

 

どこかで優しげな光が(またた)いていた。

 

 

 

 

目一杯伸ばされた美森と友奈の手。その手が届いた瞬間、二人を絡め取っていた白蛇も糸も霧散するように消えていった。

 

「とーごーさん、ごめんなさい。私……私……」

 

「いいのよ、友奈ちゃん……」

 

抱きしめ合う二人。友奈は泣きじゃくりながら、まるで許しを請うかのように訴える。

 

「でも、でも! このままじゃ、世界が終わっちゃう!」」

 

「友奈ちゃんのせいじゃない。これで世界が終わるのだとしても、それは……」

 

そこまで言いかけた時、二人のそばに牛鬼が現れた。牛鬼から伸びる幾本もの光の糸が二人を包んでいく。

 

「牛鬼? なにを……!」

 

「大丈夫だよ、とーごーさん。あったかいものを感じる……。きっと、これはいいものなんだよ」

 

激高しかかる美森を制する友奈。

二人は牛鬼が形作る光の(つぼみ)の中へと取り込まれていった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

抱きしめていた園子の体から力が抜けるのを感じて、貴也は体を離した。

 

「そのちゃん……?」

 

「たぁくん……、もう大丈夫だよ。助けてくれて、ありがとね。――――――それと、大丈夫? 私の槍が刺さったところ……」

 

「ああ、痛みもあるし、まだ出血は止まってないけど、大事には至っていない。心配しなくて大丈夫だ」

 

「良かった……。その勇者の力様々だね」

 

貴也の安心させるような物言いに、優しい笑みを浮かべて立ち上がる園子。だが、自分の姿を矯めつ眇めつ眺めて目を丸くする。

 

「あれ? 天の神の呪縛は解けたのに、勇者装束は解けてないね。青薔薇の勇者装束のまんまだよ……?」

 

「それはきっと、アマテラスの力なんじゃないかな? 人類と敵対しているホアカリの力じゃなくて、人類に豊穣をもたらす本来の太陽神としてのアマテラスの力なんじゃ……?」

 

「う~ん……? この際、どっちでもいいや。――――――あ、ゆーゆとおんなじような烙印が付いてる!」

 

勇者装束をはだけて、右胸の烙印を見せてくる園子。友奈の烙印の初期状態と同様、太陽に酷似した意匠だ。

 

その一方で、園子は貴也の左胸に太陽の烙印が鈍く光り出すのを幻視していた。

 

『ゆーゆが見ていたのはこれだったのか……。そりゃ、心を抉られるよね』

 

そして貴也は、そんな園子から慌てて目を逸らしていた。

 

「ちょいちょい、そのちゃん! 隠して、隠して!」

 

「たぁくんになら見られてもいいもん。――――――で、私はあのででーんとでっかい鏡を割りに行けばいいのかな……?」

 

貴也のその態度の手前もあり、たたりを伝染させないためにも急いで勇者装束を整えながら尋ねる。

そこで貴也は、スクナビコナや咲夜から聞いた情報を整理して答えた。

 

「多分、そうだろ。聞いた話を総合すると、今、国土さんが楠さんたちと協力して鎮魂(たましずめ)の儀と順花(はなまつろい)の儀を行っている筈なんだ。この儀式によって、男神ホアカリを女神アマテラスとして人類の創り出した神話にまつろわせるんだ。鍵となるのは二人の巫女王。それを、そのちゃんと友奈が代行するっていう作戦なんだ」

 

「あー、天岩戸神話と大陸の歴史書の融合だね。じゃあ、生まれ順から言っても、勇者になった順から言っても、私が大日孁(おおひるめ)、ゆーゆが稚日女(わかひるめ)役なんだ」

 

「よく、そんなことまで分かるな……」

 

「えへへ……、乃木園子様は伊達じゃないんだぜ~」

 

悪戯っぽくも自慢げにそう笑顔を見せる園子。

そんな彼女の笑顔に見惚れかけたが、若葉からの頼まれ事を思い出す。

 

「あ、そうだ。――――――これ、若葉がそのちゃんと友奈に渡せってさ……」

 

そう言って貴也は、生大刀と天ノ逆手を園子に手渡す。

 

「これ……? たぁくん、ご先祖様に会ったんだね。でも、ゆーゆの手甲は分かるけど、私に大刀(たち)なんて……。でも、ま、いっか。ご先祖様の言うことだし」

 

『納得するの、早っ……!?』

 

一瞬戸惑いを見せた園子だが、あっという間に納得の表情を見せて手甲は懐に仕舞い、大刀は腰に佩く。逆に貴也の方があっけにとられた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「キャァアアー!」

 

天の神を食い止めるための戦闘が続く。が、ついに樹の満開が解け、落下していく。しかし、それを銀が受け止めた。

 

「よっと……。大丈夫か、樹?」

 

「うん。銀先輩、空を飛べたんですね……?」

 

「本当だ。疑問にも思わずに戦ってたよ。あたしも意外に冷静さを欠いてたんだな……。って、こりゃなんだ?」

 

よく見ると、手足はキラキラと鱗状の光を放っており、腰からはこれまた二本の光の尾が生えていた。

 

「満開みたいなものでしょうか……?」

 

「まあ、どうでもいいや。行くぞ、樹!」

 

「はい!」

 

二人はいまだ天の神に立ち向かっている夏凛を援護すべく、彼女の元へと急いだ。

 

 

 

 

神樹のすぐそばに現れる光の(つぼみ)。それはまばゆい光を放つと大輪の花を咲かせる。

その花弁の上に立つは二人の勇者。

結城友奈と東郷美森だった。

 

 

 

 

二人を視認する園子と貴也。

 

「わっしーとゆーゆ、あんな所に現れたね。すぐに合流しないと……。たぁくんは、怪我が酷いからここで待っててね。決着をつけてくるから」

 

「ああ……。気を付けてな……」

 

その言葉に笑顔を見せると、友奈の元へと馳せ参じようとする園子。だが、跳び立つ直前、もう一度貴也に顔を向けてくる。

 

「あ、あのさ……。さっきの……私のファーストキスなんだ。一生の思い出にするから…………。じゃっ、またあとで!」

 

顔を真っ赤にしてそう声を掛けると、本当に友奈たちの元へと跳躍していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆーゆ! わっしー!」

 

「園ちゃん!」

 

「そのっち!」

 

巨大な光の花弁の上で友奈、美森と合流する園子。すぐに天ノ逆手を取り出し、友奈に手渡す。

 

「はい、ゆーゆ。これを着けてね」

 

「これ? なにか作戦があるの、園ちゃん?」

 

「う~んとね~……」

 

自分は感覚的に分かってはいるが、それをちゃんと説明しても友奈にはちんぷんかんぷんだろうと推測する。だから、当たらずとも遠からずの精神で、超意訳をしつつ端折って説明する事にした。

 

「なんていうか……、今の天の神は他所(よそ)の国の神様たちに、言わば催眠術にでも掛けられているような状態なんよ。だからね、ゆーゆにぶっ飛ばしてもらって、目を覚まさせるしかないんよ。でね、ちゃんと順序を踏んでぶっ飛ばさないと、目を覚ましてもらえないから……」

 

「えーっ!? そーなんだ! なんとなく分かった!」

 

「それ、本当なの? そのっち……」

 

「うん、大筋はね。で、私が攻撃を掛けたらスイッチするから、いつもどおりゆーゆは全力全開の勇者パンチを叩き込んでくれたらいいんよ」

 

「分かった、園ちゃん。全力全開で行くよ!」

 

その時、三人の周りを無数の色とりどりの光の珠が取り巻く。そして、一つずつ友奈と園子の体に溶け込んでゆく。

 

「なんなの、これ? 大丈夫なの? 友奈ちゃん、そのっち……」

 

慌てたように心配げな言葉を掛ける美森。だが、二人は笑顔のままだ。

 

「これ、昔の勇者さんや巫女さんだ」

 

「それだけじゃないみたい。神様もいるみたいなんよ」

 

光の珠はどんどんと二人の体に取り込まれていく。一つ取り込まれる毎に、二人の心に淡くぼんやりとだがそれぞれの想いが流れ込んでくる。

 

「みんな、想いは同じなんだね」

 

「そうだよ。みんな、生きていたいんだ。大好きな仲間と一緒にいたいんだ!」

 

園子の感慨に、友奈が元気よく応える。

 

 

 

 

そして、二人の体を七色の光が包み込んでゆく。眩い光が最高潮に達した刹那、一瞬にして光は消える。

そこに立っているのは、二人の巫女王。

満開状態の時よりもさらに神秘的な、さらに煌びやかな装束。友奈の装束は淡い桜色を、園子の装束は淡い青紫を基調に。

二人の髪は地に届くほど長く、艶やかに。

二人の頭部後方にはそれぞれを表す光の花弁が輝く。友奈は桜、園子は薔薇。

そして二人の瞳は、その片方を()()に輝かせていた。二人共に()()を。

 

「行くよ、ゆーゆ!」

 

「うん。行こう、園ちゃん!」

 

二人は上空に迫る超巨大内行花文鏡をキッと見上げた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

園子と友奈に色とりどりの光の珠が取り込まれていっていた頃、上空では未だ三人の勇者が天の神の侵攻を食い止めるべく戦っていた。

満開状態の夏凛が大太刀の斬撃を、満開の解けた樹がそれでも数を減らしたワイヤーを、そして球子と杏の力の後押しを受けた銀が槍の斬撃を放つ。

だが、天の神の化身である超巨大内行花文鏡、それを守る力場を抜くことすら出来ずにいた。

 

「クッ、力が……」

 

ついに夏凛の満開も解け、落下を始めた。

 

「夏凛!」

 

「夏凛さん!」

 

左腕で樹を抱えたままの銀は、右手の槍を消して夏凛を受け止める。

だが、そこを狙い澄ましたように鏡面から収束された熱線が発射された。

 

「クソッ! ()けられない!!」

 

「させるかぁぁああああ!!!」

 

満開した風が飛び込んで来るなり、超巨大化させた大剣の腹でビームを受け止める。

 

「この子たちはアタシが守る!! 天の神ごときがアタシの大事なものに手を出すなぁぁあああ!!」

 

強引に大剣を振り抜く。反射した熱線は鏡へ向かうが、やはり力場の前に霧散した。

そして、反動を受けた風は銀たちを巻き込んで地上へと落下していった。

 

 

 

 

「風先輩! 夏凛ちゃん!」

 

「ミノさん! いっつん!」

 

四人が落下したことに悲鳴をあげる友奈と園子。

だが、四人が無事着地したことを確認すると顔を見合わせ、互いに頷いた。

もはや猶予は無い。一瞬でも早く、天の神を対処しないと……

 

二人は美森とも視線を交わす。美森も無言で頷いた。

 

「まずは私から行くね」

 

一瞬、身を屈ませると園子は天の神へ向けて跳んだ。いや、それは跳ぶと言うよりも飛ぶという行為の方が近い。

鏡面からは再び、今度は面制圧型の熱線が発射される。

だが、それは園子の前面に展開されたバリアによって阻まれる。

 

「いっくよ~!」

 

巫女王状態の園子が突き進むその真下に、光で構成された大輪の花が咲いた。

青薔薇が、その下に菊が、彼岸花が、姫百合が、紫羅欄花(アラセイトウ)が、金糸梅が、衝羽根朝顔(ペチュニア)が、そして最後に桔梗が!

それら光の花弁が高速で回転を始め、園子を押し上げ加速させる。

 

「はぁぁあああっ、いっけーーーっ!!!」

 

生大刀による刹那の四連撃。浮遊する超巨大内行花文鏡、それを守護する力場を八方向に切り裂いた。

その斬撃は力場を抜き、鏡に(うっす)らとではあるが傷を付けていた。

 

 

 

 

その衝撃と光は離れた位置にいた芽吹達にもはっきりと届いていた。

 

「すげえな……。信じられないぜ……」

 

「勇者たちが戦ってる。三好さんもいるの……?」

 

「園子様と友奈様も……?」

 

「貴也様も勇者様たちも間に合ったんですね」

 

「鵜養くんは、あちらに掛かり切りだったんですのね」

 

「助かったぁああ……。私、これで安心して良いんだよね……?」

 

防人たちが見守っているその後ろには神事を終えた亜耶と怜も。

一方、樹海化から彼女たちを守る結界を張る三人の巫女の祝詞は続いていた。

 

 

 

 

「ゆーゆ、後はお願い!!」

 

脇に跳び退きながら、遙か下方にいる友奈にそう声を掛けた。

 

「分かった、園ちゃん!!」

 

今度は友奈が跳ぶ。飛ぶ!!

鏡面からは三度(みたび)、今度は収束された熱線が発射される。

だが、これも友奈の前面に展開されたバリアが阻む。

 

「神様、お願いっ!! みんなの想いに気付いてっ!! 目を覚ましてっっ!!!」

 

友奈の無垢で純粋な心の叫びが轟く。

 

「友奈ちゃん……」

 

「友奈、アンタが締めなさい」

 

「友奈さん、勇者部五箇条です!」

 

「友奈、為せば大抵なんとかなる、よ!」

 

「そう! それとやっぱり、勇者は気合いと根性と、魂だ!!」

 

今度は、巫女王状態の友奈が突き進むその真下に、やはり光で構成された大輪の花が咲いた。

山桜が、その下に朝顔が、オキザリスが、鳴子百合が、サツキが、蓮が、そして最後に牡丹が!

それら光の花弁が高速で回転を始める。

そして最下層の牡丹のその下、そこに炎の三つ巴紋が出現し、やはり高速で回転を始め、友奈を押し上げ加速させる。

 

「うぉぉおおおお!! 勇者ぁぁあああ、パァァアアアンチッ!!!」

 

一瞬、右手の天ノ逆手が桜色の(まばゆ)い光を放つ。

そして友奈の放つ全力全開の勇者パンチが力場を突き破り、鏡を捉える。

 

パリンッ!!!

 

何かを砕いたような乾いた鋭い音があたり一面に鳴り響く。

そして浮遊する超巨大内行花文鏡、その表面に無数の(ひび)が入ったと思いきや、木っ端微塵に砕け散った。

 

 

 

 

キラキラと破片が舞い散る。

それだけではなく無数の、色とりどりの、何種類もの花弁が空を覆い尽くすかのように舞い散った……

 

 




最終決戦編その3でした。

オッドアイの状態からお分かりのように、原作勇者の章の大満開と本作の巫女王は異なるものと思ってください。
そもそもの前提条件が異なる上に、友奈と園子で力を分け合っていますから。

他は……いろいろありますが、もう感じ取ってください、ということで。

次回は、この戦いの締めの部分です。
本作もそろそろ終わりですね。


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