「行っかせるかーーっ! うぉーーーーーーーーりゃーーっ!!!」
銀の、気迫のこもった叫びが轟く。
常人には閃光にしか見えないほどの速さ、身のこなしで空中を舞いながら、銀は己の数十倍の大きさを誇る
勢い余って樹海化している地面に背中から激突。
「どうだーーーっ!!」
バーテックスを睨み付け、咆吼を上げながら、腕を振り上げる。
すると――――――辺り一面を光の粒が舞い出す。続いて空間を埋め尽くさんばかりに花びらが舞うと、その体積を著しく減少させた敵は、フッとかき消すように消えた。
「これが……、鎮花の儀」
誰かが呟く。
こうして、三人の勇者は初陣で見事、バーテックスの撃退に成功した。
「西暦時代の勇者様も、こうやって戦ってたのかな~」
樹海化が解けると、三人は大橋を見上げる公園の祠に立っていた。
先ほどまで自分たちがしていた戦いに思いを馳せ、園子が呟く。
「どーかなー。須美はどー思う?」
「そうね……。伝説じゃ、ウィルスに侵された地から人々を四国まで避難させた後、ウィルスによって変容した化け物とも戦った、っていうけど。あれほどのものだったのかしら? そのっちの家には伝わってないの?」
「うちにも、市販されてる本なんかに書かれている以上のことは伝わってないよ~」
「そう……。他の四人の勇者様の家には伝わっているのかしら。
「それにしても戻される場所って、さっきまでいた学校じゃないんだなー。おわっ――――――上履きのまんまだー」
傷だらけの三人は、その後大赦の神官たちが迎えに来るまで、とりとめなくおしゃべりを続けた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
中学生になったからといって、貴也の生活に激変はなかった。
一番大きな理由は、帰宅部を選んだことにあるのだろう。
小学校卒業の前後から、再び園子との交流は活発化している。
園子のオフの日は週二日。休日に絡んでいる日は貴也の助言もあり、須美や銀との交流が主となっている。
だからもう一日は平日なので、会える時間は長くても一時間だ。それでもほぼ定期的に会えていた。
四月の下旬以降はそれが不定期となりつつあったが、それでも頻度としては遜色のないものであった。
むしろ大きな変化は、この園子との逢瀬であろう。
女の子の心理の機微についてあまりよく理解できていない貴也でも分かるぐらい、明らかに園子は甘えてくるようになっていた。
執拗に手や腕を絡ませてくるし、食べ物の食べさせ合いも積極的だ。
すぐに体をひっつけてくるし、口調も甘く、拗ねてみせることも度々だ。
それは、日を追う毎により顕著になっていく。
まるで、不安をごまかすかのように。
五月中旬。
学校帰りに、近くのカフェで待ち合わせていた。
「どうしたんだよ、そのちゃん。その傷。――――――あーあ、ここにも。ここにも……」
「えへへ~。神樹様のお役目に関することだから説明できないんよ。ごめんね~」
「先月も一回あったよな。本当に大丈夫なのか? 僕じゃ、どうにも出来ないのかもしれないけど、
「うん。あ~、いいな~。幸せだな~。たぁくんに心配してもらえて、私は幸せ者だよ~」
「冗談じゃないからな。本当に無理だけはするなよ」
「うん、分かってるよ~。この体、大事にしないとね~。いつか、誰かさんのものになっちゃうもんね~」
切り傷、擦り傷、打撲。体中に傷を負った園子に驚く。
だが、こんな事は二回目だ。四月の下旬にも一回あった。
心配して色々と声をかけるも軽く流され、最後は冗談ぽくも意味深に顔をのぞき込んでくる。
「でね、週末から合宿なんよ~。しばらく会えないから、今日はたぁくん分をいっぱい補充させてね」
「そりゃ、いいけどさ……。合宿なんてするんだ」
「うん。本当は来月の予定だったんだけど、
「そりゃ、なんか楽しそうだな。お土産、期待してるぞ」
「うん、えへへ~。期待しててね」
二度のバーテックスの襲来。
結局は、園子の機転と銀のごり押しによって、なんとか辛勝している状況だ。
彼女たち三人の仲が良く、即席の連携が上手く機能しているのもあるが。
初回は、大赦によって
二度目は、
どちらの戦いでも、三人は体中に傷を負いながら敵の体力を削り、最後は大橋に仕掛けられたシステムによる『鎮花の儀』によって結界外へ追い返すのが精一杯であった。
現状の装備では、撃滅することは不可能。
せめて勇者の損耗を防ぐことを目的として、三人の連携を高めるための合同訓練が、当初の予定よりも一ヶ月前倒しで、しかも集中開催による効率の上昇を企図して、合宿という形で行われた。
「そーいえばさー、始業式の後、園子が『親睦を深めよ~』って誘ってきたじゃん。あれ、あたし、驚いたんだよねー」
「どういうこと? 銀」
「須美は知らないか。そっか、四年までよその学校だったもんな」
合宿最終日の夜、成果も上手く出せた開放感からか寝床を用意しているタイミングで、銀がそんなことを振ってきた。
四月の始業式後の、イネスのフードコートで開かれた三人だけの親睦会。そのことだ。
「一年の時、同じクラスだったんだけど、園子ってさー、乃木家っていうこともあって、クラスのみんなも遠巻きに見てる感じだし、ほら、本人の言動もこうだろ、ちょっと浮いててさー。あ、ごめん、気にしてるよな。ほんとーに、ごめん」
「いいよ~、ミノさん。本当のことだし、全然気にしてないよ~」
「そっか。――――――だから、そういうこと言い出す奴って、思ってなくてさー。でも、あのおかげであたしら、すぐ仲良くなれたじゃん。いまさらだけど、ほんとーにありがとう、って思うよ」
「そうね。私も二人と早く仲良くしたいって思ってたから……。ありがとう、そのっち」
「えへへ~、どういたしまして。でも、ああいうこと出来たのは、たぁくんのおかげなんだ~。四年生の時、たぁくんを通じて五年生の先輩たちと仲良くしてもらったのが、効いてるんだと思うんよ~」
「そこだよ! それっ! 今日は園子の恋バナ、とことん聞きたいよー。なっ、須美」
「えぇ。私も気になるわっ。――――――で、どういう風に知り合ったの?」
「あー、話してもいいよ~。でも別に、そこまで面白い話でもないかも~。ちょっと待っててね~」
目をランランと輝かせて迫ってくる須美と銀を背に、ごそごそと荷物の中からノートパソコンを取り出してくる園子。カチャカチャと操作し、創作小説のサイトを二人に見せてくる。
「じゃ~ん。私たち二人の出会いの物語は、この小説の第一話を読めば分かるよ~。ちなみに、幼少期の物語は第六話まで続くけどね~」
「えーーー……」
「まさか……、そのっち、自分のこと小説にして公開してるの?」
「さすがに小説としての体裁整えるために、大幅に脚色してるけどね~。でも、大筋はほんとーのことだよ~」
まさかの展開に、銀はドン引きして顔を引きつらせ、須美はあきれかえる。
だが、親友の恋バナへの興味の方が勝ったようだ。二人して先を争って読んでいく。
そんな二人の背中を見ながら、この流れで二人のカップリング小説を紹介しようか、すまいか、考え出す園子……
『そういえば、あの時の指輪って、結局どうしたんだっけ?』
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
六月中旬。
今日はなぜか、一度家に帰ってから会おうということになっていた。
だから、会える時間は短くなって、十五分ほどしかない。
『珍しいな。そのちゃんが、あえて会える時間が短くなる約束をするなんて……』
「お待たせ~」
大きな肩掛け鞄を揺らしながら園子が駆けてくる。
貴也の前に来ると、ごそごそと鞄から小さな紙製の手提げ袋を出してきた。
「はい。ちょっとフライングだけど、お誕生日プレゼント!」
「えーっと、まだ二週間近く先だけど……?」
「去年はさ~、結局一ヶ月近く遅れちゃって、申し訳なかったからね~。今年もお役目が本格化してきて、また合宿だ~って話も出てきてるから、遅れるよりはいいかなと思って、先渡しすることにしたんだ~。ダメだった?」
「あ、いや。そういうことなら……。ありがとう、
「とりあえず開けてみてみて~」
手提げ袋の中には小さな箱が一つ。箱を開けると、植毛された紺色のケースがあった。さらにケースを開けると指輪が一つ。
「その指輪、覚えてる?」
「うーん?」
「私たちが初めて出会った日にお蔵で見つけた指輪だよ」
「あー、うん、覚えてるよ。そうか、あの時の……。――――――えっ? ちょっと待って。これが誕生日プレゼント? ちょっと待ってよ。こんな高価な物……っていうか。そもそも、僕たちには早過ぎないか?」
「えへへ~。最近、それのこと思い出して、探して、見つけたんだ~。で、お父さんやお母さんにも確認したんだけど『蔵で永年放置されてきた物みたいだし、神樹様のお役目を頑張っているから、ご褒美としてあげよう。園子の好きに使いなさい』って言ってもらえたんよ~」
「でね、でね。調べてみると数百万もするような高価な物じゃないって分かったから、安心して受け取って。石だって、ちっちゃいしね」
「石?」
その指輪は無垢のプラチナリングに見える。
「ほら、ここ。内側に付いてるでしょ。『インサイドストーン』って言うんだよ」
「あー。でも五つも付いているわりに、四種類に見えるんだけど……」
「うん。そこは私も分からなかったんだ~。でも、石の種類は分かるよ。端から二つ並んで付いている青いのがどっちもサファイア。で、真ん中がアレキサンドライト。その横がガーネットで、一番端がアメジストなんよ~」
「うん。さっぱり意味が分からん」
「で、もっと重要なのが、その反対側にあるんよ~。読んでみて」
そこにはアルファベットで『to Takaya』と刻んである。
「うん? 『トゥー タカヤ』?」
「そうだよ。昔の外国の言葉で『たかやさんへ』って意味なんだって。私からのプレゼントにぴったりだと思わない?」
この時代、ローマ字は習っても、英語など所謂外国語は一般的に使われているものではないのだ。
もちろん、西暦時代までに日本語化しているようなものは当然、除かれるが。
「でね。それを
「でも、これ、指のサイズ合ってないし、こんなの嵌めてたら学校で没収されるよ」
「そこは各自、工夫してってことで。後から、園子先生のチェックがありますよ~」
笑顔でそう言ってくる園子に、ため息をつきながら返事を返す。
「はぁ~、分かりました。先生」
「うん。とてもよろしい返事です」
『ごめんね、たぁくん……。本当はそれ、大昔の誰かが、『タカヤ』という名前の誰かに、愛を込めて贈った物のはずなんだ。でも、その誰かに、明日、自分がどうなるかも分からなくて、たぁくんに告白する勇気も持てない私を後押しして欲しかったんだ。――――――その指輪だったら朽ちたりすることもないだろうし……。私に、もし何かあっても、それを私だと思って、ずっと覚えててほしいな……』
その想いを、園子はあえて貴也には伝えない。
伝えられない。
指輪を眺めている貴也を見つめながら、園子は胸の前でギュッと両手を祈るように握る。
不安に押し潰されそうな心を、無理矢理閉じ込めて……。
あからさまに怪しいキーアイテム登場。設定に捻りは無いはずなので、ゆゆゆファンには色々とバレている恐れが。
合宿地は現実世界では三豊市に相当するらしいのですが、ゆゆゆ世界での地名設定が分からないので、讃州サンビーチでの訓練風景より讃州市内としました。
最後の園子のモノローグは、作者目線で見ても回りくどい。
直接的な表現に変換すると、バーテックスとの戦闘で死ぬかも > 死んだ後でも覚えてて欲しい > 形見の品を渡す勇気が欲しい、といったところです。