猛烈な花吹雪が舞い、その中をキラキラと天の神の化身であった鏡の破片が舞う中、園子と友奈は未だ巫女王の姿のまま宙に浮いていた。
「終わったね、ゆーゆ」
「そうなのかな……、実感が湧かないけどね」
園子の万感の思いを込めた物言いに、クスリと笑う友奈。
やがて花吹雪が収まると、そこには神樹の結界の壁が無くなった海と本州の大地までが見通せる風景が広がっていた。近くは讃州市の田園風景と都市と山のコントラスト。空は白い雲がわずかに浮かぶ快晴に近い青空。
「「わあー、すごい……!!」」
その見事な風景に感嘆の声を上げる二人。
そして、彼方に輝く強い光を放つ太陽。
すると、画像が急速に巻き戻されるように太陽が東の水平線へと沈んでいく。
だが、その沈む太陽の背後から、もう一つの太陽が姿を現す。その光は、とても優しげだ。
「呪縛が解かれたんだね……。天の神が女神の神話にまつろわされた。あるいは、女神様が岩戸ならぬ男神の後ろから顔を出してくれたのか……」
「?」
園子の呟きを理解できずに不思議そうな表情で見つめてくる友奈。
園子はたまらず、ぷっと吹き出す。
「あはっ……あはははは……」
「ふふっ……ははっ……あはははは……!」
友奈もつられて笑い出した。
やがて二人の笑いが収まると、そんな彼女たちの前に烏天狗と牛鬼がその姿を現す。
「セバスチャン……?」
「牛鬼……?」
無表情に浮かぶ精霊たち。その意図が分からず、二人の少女はそれぞれを受け持つ精霊の名を不思議そうに呟く。
すると、牛鬼だけがつぶらな瞳で友奈を見てくる。だが、そこに感情は読み取れない。
一方の烏天狗は何も反応せず宙に浮かぶだけだ。
ふと、牛鬼が視線を外す。何かを待つかのように、じっとどこかを見ている。
「二人とも、大丈夫か!?」
その方角から、光の羽を背中から生やした貴也が飛んで来た。
「たぁくん!? たぁくんこそ、大丈夫なの……?」
「貴也さん、お腹から下が血まみれだし、傷だらけだよ……!?」
「ああ、若葉と千景が力を貸してくれている。大丈夫みたいだ。――――――ん? 牛鬼……?」
心配する二人とのやり取りの後、牛鬼の視線が自分に向いていることに気付く貴也。
だが、牛鬼は貴也が自分に気付いたのを確認すると、もう一度友奈に向き直る。
三人ともはっきりとそれを見た。
空中に浮かぶ牛鬼に重なるように、友奈に似た面立ちの少女の笑顔が一瞬、現れたのを。
そして、牛鬼と烏天狗は光の粒となり消えていった。
「今までありがとうね、セバスチャン……」
「牛鬼……ありがと、さよなら……」
精霊たちに感謝と別れを告げる園子と友奈。
途端、二人の巫女王状態が解除され、園子は青薔薇の旧勇者装束へ、友奈は山桜の現勇者装束へと戻る。そして、二人とも落下を始める。
「「きゃーっ!!」」
「おっと……!」
二人とも悲鳴をあげたが、空中を飛べる貴也が受け止める。右腕で園子を、左腕で友奈を。
「あれ? この体勢って……?」
「前にも一度あったよね……?」
「初めてみんなで一緒に戦った時だね。あのでっかい御魂をバシンとやっつけた時!」
貴也と園子の疑問顔に、友奈が弾けるような笑顔で元気よく答えた。それを受けて三人、笑顔で見つめ合う。
「そうだったな……。それはともかく、おかえり! そのちゃん……、友奈……」
「ただいま、たぁくん……」
「ただいま、貴也さん……」
一方その頃、他の勇者たちも精霊との別れの時を迎えていた。
風の前には犬神が、樹の前には木霊が、夏凛の前には義輝が、美森の前には青坊主が。
それぞれ光の粒となって、彼女たちの前から消えていった。
そして、銀。
彼女の前には、橙色の蛇と白猫がいた。一瞬、二人の少女の笑顔が重なると、二匹は光の粒となって消えていく。
「ありがとな……。おかげで、みんなの役に立てたよ」
制服姿に戻った銀は、笑顔でそう別れを告げた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
一瞬、意識が飛んだ。そう思った次の瞬間、貴也は讃州中学の校舎屋上に立っていた。
目の前には七人の少女がまるで花弁を描くように頭を中心に向けて円形に倒れていた。
他五人が讃州中学の制服を着ている中、園子は初詣の際の私服を、友奈は白い花嫁装束をその身に纏っている。
そして彼女たちの傍らには、電源の切れた変身用端末が転がっていた。
「みんな、大丈夫か……?」
貴也が声を掛けると、皆呻き声を上げつつも次々と起き出す。
「あれ? 校舎の屋上だ~」
「本当だ。あれ? 貴也さんもいる……?」
「お姉ちゃん……、お姉ちゃん!」
「おー、よしよし。頑張ったわね、樹……」
「友奈、友奈は大丈夫!?」
「友奈ちゃん、無事だったのね……!」
「う……、ゴメンね、みんな……。ごめんなさい、とーごーさん……」
泣きながら皆に謝りだす友奈。だが、皆はむしろ謝るのは自分たちの方だと言う。
「謝らなくていいのよ、友奈ちゃん。私たちも言い過ぎたんだし……」
「そうよ、友奈。謝るのは、むしろ私たちの方だわ。ゴメンね、力になれなくて……」
「友奈さん、泣かないでください。私も何も出来なかったから……」
「みんな……あぁぁあああ、うぁぁあああ!」
だが、その声掛けは逆効果だったようだ。友奈はとうとう声を上げて泣き出した。
しかし、その雰囲気を変えるように空気を読まない発言が……
「あれ? ゆーゆ! 烙印が消えてるよ!!」
少し身をよじったせいで、少しはだけてしまった友奈の左の胸元を見て園子が声を張り上げる。
「本当! 消えてる!!」
「よかった……友奈ちゃん、本当によかった……」
夏凛も美森も安堵の声を上げ友奈を抱き締める。
二人にそうしてもらったからだろう。泣きじゃくっていた友奈もしゃくり上げながらもやや落ち着きを見せていった。
一方、園子は自分の服をはだけて左胸を確認する。
「お~、私の烙印も消えてる!」
「園子!? お前もたたりに遭ってたのか!?」
「園子さんも……?」
「えへへ……そうなんよ~。呪縛が解けてからの少しの時間だけだったけどね~」
銀と樹の問いかけに、笑いながらそう答える園子。
貴也と風の三年生組は、そうやって互いをいたわり合う一、二年生組を温かな目で見守っていた。
ふと、未だ勇者装束のままだった貴也の体が光に包まれる。すると、私服に戻った貴也の右隣に勇者装束の若葉が現れ無言で彼方を指差す。
貴也が視線をそちらに向けるとアバター美森が宙に浮いている。彼女? は貴也の視線を認めるやアルカイック・スマイルを浮かべると光の粒となって消えていった。
「スクナビコナ様も帰っていったな。私もそろそろ帰らないといけない」
「まだ、ここにいても良いんじゃないか? みんなも若葉と話したいだろうし……」
「それは無理だろうな。そもそも私も神となった身だ。あまりホイホイと
スクナビコナに倣い早々に帰ろうとする若葉を止めようとしたが、苦笑と共にそのような答えを返された。
『本当はもっと話していたいんだけどな……』
西暦時代に話せなかったこと、これまでにあったこと、いろいろと話したいことはあるのだが、それはどうやら叶わないようだ。
「分かったよ。でも、一つだけ聞いておきたい事があるんだ……」
「なんだ、貴也?」
「園子たち勇者が選ばれる基準は『無垢な少女』というものだそうだけど、僕が君たちに選ばれた基準はなんなんだろうって思ってさ」
「? 私たちはお前を『勇者』に選んだつもりなど、それこそ全く無いぞ」
貴也がずっと若葉たちに聞きたかった疑問を口にすると、彼女は意外な答えを返してくる。
「え?」
「私たちは『勇者』ではなく、私たちそのものを救ってくれる人物を探していたんだ。――――――そして、その指輪は元々乃木園子に触れられることによって呪具として目覚めた。しかし、当時彼女は五歳。とても選ぶ事など出来なかった。だから保留にしていたんだが、次に触れられた際には既に彼女は神樹様の勇者になっていたんだ。だから、私たちは彼女の選択に任せたんだ。その指輪を誰に渡すのかを」
「神樹様の言っていた『乃木園子に偶然選ばれ』って、このことだったのか……」
「そして、私たちはお前を見定めた。本当に過去の私たちを救ってくれる人物なのかを、な」
「それで最初の頃、あの狐――千景が付いていたり、乃木神社に呼び寄せて試されたりした訳か……」
「いろいろと済まなかったな。だが、本当に感謝している。私たちを救ってくれて、ありがとう。お前が私たちを守ってくれる人物だと信じて良かったよ。まさに『勇者の守り手』だ」
そう言って笑顔を見せる若葉だが、貴也はげんなりとした苦笑を返すばかりだ。
「その呼ばれ方、いつまでも付いて回るんだな……。はぁ…………」
「あの人。西暦の勇者の乃木若葉さんですよね。どうして、声が聞こえないんでしょう?」
「あ~、たぁくんに聞いたよ。ご先祖様は神様になっているからね。巫女以外と意思疎通するにはアバターが必要なんだって。でも、アバターって相手の記憶を概念的記録としてアクセスして構築するそうだからね。きっと私たちは写真しか見たことがないから、声が聞こえないんよ」
若葉が貴也の隣に現れるや、ちらちらと遠慮がちな視線を向ける勇者部一同。
樹の疑問には、園子が貴也から聞いた話をベースに推測を交えた、だが実に的確な回答を返す。
「不便なもんねー」
「でも、姿を見れるだけでも凄いじゃん。あたし、後で握手してもらおーっと」
「いいわねえ。アタシも一口乗った!」
嘆息する夏凛だが、銀はめげずに別の方法で若葉と繋がりを持とうとする。風もそれに乗っかった格好だ。
そんな二人には美森が釘を刺してくる。
「既に神様となっている人なんだから、あんまりご迷惑は掛けないようにしないと……」
「私、高嶋友奈さんの事を聞きたかったなー」
そんなやり取りを聞きつつ友奈が嘆く。やはり同じ名前、同じ様な容姿を持つ者に興味があったのだ。
「とにかく、これで人類の危機は去ったという事でいいのかな?」
「いや、
そう言って頭を下げる若葉。そんな彼女の態度に貴也は慌てる。
「頭なんか下げないでくれよ。僕の果たした役割なんて小さなものだ。本職の勇者である若葉たちや園子たちの頑張りがあったからこそだよ。――――――僕が言える立場でもないだろうけど、誰かが言わなきゃならないからな。一般の人達を代表して感謝を言わせてくれ。ありがとう、若葉」
そう言って貴也は若葉に頭を下げると、今度は風たちの方に向き直り頭を下げる。
「ありがとう、勇者のみんな!!」
「え、え、え? なに? どういった流れ?」
「どうして私たちが貴也さんに頭を下げられてるんでしょう?」
「さあ~?」
貴也の突然の態度に、軽くパニくる勇者部一同。
一方、若葉は貴也の肩を叩く。
「それじゃ、お別れだ。よほどの事がない限り、こうやって会う事ももう無いだろう。元気でな……」
「寂しくなるな……」
「ふっ……。代わりに千景がお前の怪我が完治するまで、お前の中に残るそうだ。暫くは寂しくないぞ」
「そうか、千景が……」
まだじくじくと痛む自らの腹を押さえ、貴也は自分を慕ってくれていた彼女に想いを馳せた。
「それじゃ、な。私の子孫のことを頼んだぞ」
「若葉……さよなら」
最後に園子の事を頼まれた。光の粒となって消えゆく若葉に別れを告げる貴也。
そして、それを見た勇者部一同の方から銀の悲鳴が上がった。
「ああーっ! 握手してもらおうと思ってたのにー!!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「じゃあ、行ってきます。帰りは明日の夕方になるから」
「貴也のことだから大丈夫だと思うけど、羽目は外さないようにね。ちゃんと清いお付き合いをするのよ」
「分かってるよ。今までだって大丈夫だったろ?」
口では心配げにきちんとした行動を、と言ってくる母千草ではあるが、実のところあまり説得力は無い。なぜなら、その表情は意味ありげにニヤニヤとしているからだ。
隣では妹の千歳も母とそっくりの表情をしている。
「行ってらっしゃい、お兄ちゃん。そにょちゃんに、よろしくね」
『そりゃまあ、園子の家に泊まることにはなってるけどさ。十一月にも一度泊まってるし、そもそも銀だって一緒なんだから、関係が突き抜けることなんてあるはずないだろ』
そう思いながら、腹に手を当てる。
『おまけに千景だって、まだ僕の身体の中にとどまってるんだから……』
とにもかくにも、家を出て駅へと向かう。
「おう、時間どおりだな!」
「まだ電車の発車まで時間があるから、なにか買っていくか?」
大橋駅に着くと迎えたのは酒井拓哉と伊予島潤矢の二人だ。今日は二人も一緒に讃州市へと行く予定なのだ。
「しかし、讃州市までって結構掛かるよな。電車で小一時間かー」
「ここから三十キロ以上あるからな。しょうがない。だけど、友達と一緒とはいえ、よくそんな所で両親と離れて暮らそうなんて思ったもんだよな。乃木さんって、意外に独立心旺盛だったんだな」
「まあ、いろいろと事情があるんだよ」
「そんなことより、タカちゃん。早く切符を買っておかないと、いざという時、乗り遅れるぜ」
「ああ、今買ってくる」
三月も下旬を迎えた。
今日は勇者部主催の三年生卒業記念パーティーだ。会場は園子と銀の家。
もちろん主役は風なのだが、勇者仲間として貴也も呼ばれたのだ。そして、今まで男一人で肩身の狭い想いをしてきたと見受けられる彼を気遣い、貴也の親友二人もお呼ばれにあずかったのだ。
カタンカタン、カタンカタン、……
単調な、レールを刻む走行音が響く。
拓哉と潤矢が駄弁っている中、貴也は窓枠に頬杖を突きながら車窓を見やり、ぼんやりと考え事をする。
この二ヶ月、世間は慌ただしかった。
なにせ、いきなり四国を守る結界が消えたのだ。一般市民からマスコミから政治家まで、上を下への大騒ぎとなったのだ。
大赦は真実を発表せざるを得なかった。
中心となったのは乃木、上里のツートップと伊予島、土居、鵜養の御三家。近年、実質的に大赦を牛耳っていた過激派と呼ばれるグループは壊滅状態だったため、この旧来からの表看板が実質的にも大赦内外の状況を回さざるを得なかったのだ。
あの神樹への眷属化に伴い失われた人材は、大赦及びその関連組織で数千人。一般人を含めると一万人を超え、そのすべてが行方不明扱いとなっていた。
大赦によって明かされた真実はあまりにも膨大。神樹、天の神、バーテックス、勇者、…………。
結局、一般市民やマスコミからの糾弾を受け、大赦は組織改革をせざるを得なかった。
尻拭いとも言える残務処理を行った後、四月からは名を大社へと戻した上で、人事を一新する予定となっているのだ。
このため、上里咲夜、乃木紘和、鵜養俊之といった面々は引退乃至は閑職への異動となり、新たなトップには園子の又従兄弟にあたる三十代半ばの人物が座ることになっていた。
ただ、そのバックには乃木園子や三好春信といった面々が助力する手筈になっていたのであるが。
一方、解放された本州や九州などの調査は遅々として進んでいなかった。
そもそも、圧倒的に人手が足りないからだった。
とは言え、僅かな調査結果から判明した事もある。
どうやら外の世界は三百年間、時が止まったまま封じられてきた様だった。いわば、神樹による樹海化の際、世界が樹海に上書きされると共に普段の世界が時が止まったまま守られるように。あの太陽表面にも似た地獄のような世界は、外の世界を封じたまま上書きした天の神ホアカリによる結界だったようなのだ。
そのため、調査できた範囲はバーテックスによる破壊から数年の時を刻んだままで放置された状態だったのだ。
だから、ごく一部の施設には修復さえ出来れば直ちに使えるようなものさえあったほどだ。
そして神樹である。
神樹は健在だった。
結界を張る負担が除かれ、アマテラスからの豊穣の光を受けられるようになったため、まだ弱ったままではあるが人類に対し、その恵みを与え続けられるようになっていたのだ。
だが、神託があった。今後、数十年を掛けて徐々に恵みを減らし、人類の自立を促すというのだ。
園子と銀のマンションに着く。オートロックなので一階玄関口に設置されたインターホンで到着を告げる。
すぐに部屋に通してもらう。コンシェルジュのお姉さんに頭を下げられたのが琴線に触れたのか、拓哉がエレベータで上がっている最中、興奮してそのことを話していた。
「初めまして、伊予島潤矢です。いつもタカちゃん……鵜養の奴がお世話になっているそうだね」
「よっす! 初めまして。酒井拓哉だ。気軽に『タクヤ』でも『タッくん』とでも呼んでくれ。よろしくな!」
二人のどこか気安い挨拶に、勇者部の面々も緊張が解けたようだ。
「初めまして、よろしく」
口々に挨拶していく勇者部の面々。友奈はフレンドリーに、美森は生真面目に、夏凛はややぶっきらぼうに、風は堂々と。一人、樹だけはどもり気味の挨拶をした後、風の後ろに隠れるようにしていた。
「おいおい、犬吠埼の妹さんが怯えてるぞ。どうみても、お前のそのキツい目つきのせいだよな」
「ちょっと待て。俺のせいにするなよ。犬吠埼妹は、お前の変態紳士然としたオーラに怯えているに決まってる!」
「いやいや、樹はちょっと人見知り気味なだけだぞ。そんなことで責任のなすり合いをしないの!」
「そうそう、ミノさんの言うとおりなんよ~。みんな仲良くね~。ということで、お久しぶりです。イヨジン先輩、タッくん先輩」
軽くじゃれ合い気味に責任転嫁を仕合う潤矢と拓哉の二人を、笑顔を浮かべながら
「ちょっと樹、しっかりしなさいよ。部長でしょ……?」
「あはは……、やっぱりまだ年上の男の人は苦手かな……?」
一方で風は樹の尻を叩くような発言をする。樹は苦笑いだ。
「しっかし、タカちゃんも大したもんだよな。美人どころでいっぱいで、両手に花どころじゃないな。ハーレムってのはこういうことを言うのか……」
「なんで、そんな話になるんだよ……」
「ちょっと……、聞き捨てならないわね。別に私は鵜養のこと、そんな風には見てないわよ」
「そうね。鵜養にご執心なのは乃木だけね。あっと、他に心当たりのある人は手を上げて!」
話の方向を変え、貴也をからかう拓哉。だが、夏凛は真っ向から否定し、風は別方向からからかう。だが、手を上げたのは園子一人だけだった。
「良かった~。勇者部のみんなとは誰とも競いたくなかったからね~。ということで、たぁくんはこの乃木園子様のものだぜー!!」
その事実に安堵したような一言を漏らすと、園子は満面の笑みで貴也に抱きつく。
「「「ひゅー! ひゅー!」」」
そんな二人を、風、拓哉、潤矢の三人は囃し立てるのだった。
「それでは、お姉ちゃんの讃州高校合格と、お姉ちゃん、貴也さん、拓哉さん、潤矢さんの中学卒業を祝して乾杯をしたいと思います。ご唱和をお願いします。――――――それでは、かんぱーい!」
「「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」」
樹の音頭の元、九人の乾杯の発声が続く。
食事は主賓の風を除き、美森、銀、園子の先代組三人が主力となって用意していた。もちろん友奈、夏凛、樹も手伝ってはいるのだが、前記三人の腕には叶わず手伝いレベルで終わったのだった。
特に園子はその天才性を遺憾なく発揮し、いつの間にか美森や銀に肉薄する腕前を手に入れていたのだった。
皆、美味しい料理に舌鼓を打ち、とりとめのないおしゃべりに興じていた。
「それにしても風は、よく讃州高校に合格できたわよね。ここらじゃ一番の難関なのに」
「最後の追い込み、凄かったですもんね」
「ふっふーん。それほどでもあるわよ。――――――まあ、乃木の教え方が良かったのが大きいけどね」
夏凛と友奈の賞賛に、ふんぞり返る風。そんな姉を見やりながら、いつの間にか男性組二人にも慣れてきた樹が話を振る。
「でも、お姉ちゃんの頑張りも凄かったけど、貴也さん達は神樹館高校へ進むんですよね。凄いなあ」
「そうね。香川じゃ最難関高の一つですものね」
「いや、ボク達は小学校からのエスカレータだからね。中学、高校からの外部生のような受験勉強は未経験だからなあ」
「そうそう。俺みたいなのでも、まあ赤点だらけじゃなきゃ普通に進学できるしな」
美森も樹の賞賛に
「あちゃー、そうか。あたし、進路の選択、失敗したかも……。神樹館のままなら受験勉強しなくて良かったのに……」
「一緒に頑張ろうね、ミノさん……」
「そうよ、銀。私もそのっちも付いているから、大船に乗ったつもりでいていいのよ」
「タハハ……」
園子と美森の励ましに、苦笑する銀であった。
「でも、ここに一番危険度の高い人物がいるわよ」
「え!? 私……?」
「そうだね~、この中じゃゆーゆが一番危ないかな~?」
「友奈ちゃん。一緒に勉強を頑張って、一緒に風先輩の後輩になりましょう!!」
「とーごーさん? 目が怖いよ……」
勇者部二年生組では一番成績の悪い友奈が俎上に乗せられてしまっていた。特に美森は鼻息も荒く、ふんす! と友奈を励ます。友奈はと言うと、そんな美森に若干引き気味だった。
皆の話が盛り上がってきた頃、貴也は腹の辺りを手で押さえていた。それを目ざとく見つけた園子が心配の声を掛ける。
「どうしたの、たぁくん? おなか痛いの?」
「いや、なんだか腹の辺りが熱を持っているようで…………えっ!?」
腹の辺りが光を放つと、そこから暗赤色の狐が姿を現し床に降り立つ。
「なに、あれ!?」
皆が、驚きの声を上げる。
『そうか、傷も綺麗に消えてきたから、千景とも別れの時がやって来たのか……』
その事実に気付き、落胆する貴也。そんな彼に、拓哉と潤矢も疑問の声を掛ける。
「あれはなんだよ、タカちゃん……?」
「詳しく説明してもらおうか……?」
『あー、ついにこいつらにも話す時が来ちゃったのか……。しょうがないな』
幼い頃からの親友二人に、これまでの経緯を説明しなくてはならない羽目になった事に覚悟を決める貴也。
それはそれとして、今は千景への別れの時だと気を取り直す。
こちらを見つめてくる狐――千景。
「千景、今までありがとう。出来ればこれからも僕の事を見守っていてくれないだろうか?」
こくりとうなずく千景。そして窓の方へと向き直ると走り出した。
千景の体は窓ガラスをすり抜ける。そして、そのまま空を駆け上がってゆく。どこまでも、どこまでも……
だんだん小さくなってゆくその姿。
貴也は窓を開け、力一杯叫んだ。
「ありがとう、千景! 君の事は、絶対に忘れない!!」
小さな黒い点になった千景は、やがて空の彼方に姿を消した。
千景が空の彼方に消えた後も、そのまま空を見上げ続ける貴也。
そんな貴也の隣に寄り添う園子。
「行っちゃったね、千景さん……。でも、私はずっと一緒にいるからね……」
貴也は涙を流していた。
園子は、そんな貴也に体を預けるようにもたれかかり、彼の背中をいつまでも撫で続けていた。
9,000文字over……。
とりあえず決着しました。
次回、本編最終回。
その後、番外編を3編で締めの予定です。
最後まで、よろしくお願いします。