鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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最 終 話   笑顔のキミと

「うへ~、根こそぎ体力を奪われる感じだわ~」

 

「確かに、外は暑いもんな……」

 

「それだけじゃないわよ! まるで風呂場にいるかのような湿気、その上磯臭いし、床は揺れるし……」

 

「まあ、確かに……。でも、この部屋は冷房が効いてるから休めるだろ……?」

 

「外との環境差で体力が奪われるって言ってるの!」

 

学生食堂兼談話室の椅子に座ったままテーブルに突っ伏し、ぶちぶちと愚痴を垂れる風。貴也は半ば同意しながらも、半ばうざそうな態度をとる。

 

「それでは、みんなでアイスティーでも飲むことにいたしましょう。アルフレッド! アルフレッド! アルフレッド……!?」

 

貴也たちと同じテーブルに着いている夕海子が、手をパンパンと打ち鳴らし声を張り上げる。

だが、何も起こらなかった……

 

「佐々木さんは今、一年生組のオリエンテーションをやってるよ。あの人も忙しいんだからさ……」

 

「くっ……、わたくし付きの執事のくせに、主人をないがしろにして他の人たちを優先するなんて許せませんわ! 後でO・HA・NA・SHIしなくては……!」

 

『あちゃー、この人も誰か、どうにかしてくれないかな……?』

 

無茶苦茶なことを言い出す夕海子に、内心あきれかえる貴也。

 

「これしきの暑さで()を上げるだなんて、勇者様たちにも困ったものですね。こういう時は根性ですよ、根性!」

 

手を握りしめ根性論をぶち上げるのは、同じテーブルに着いている最後の一人、巫女の十六夜怜だ。

 

「あ~、分かったから……。アンタの熱い根性論は聞き飽きたから……」

 

「それにしても清楚な見た目に反して、熱い御方ですわね」

 

「巫女なんて根性がなければ続きませんよ。暑かろうが寒かろうが、巫女装束一本槍ですからね。――――――まあ、下着を工夫したり、懐炉や保冷剤なども活用したりしますけど……。あとは、こっそり祝詞を上げるとか?」

 

『おいおい、どこが根性論なんだ……? この人も、どうにかしてくれないかな……?』

 

最初に会った時の印象を木っ端微塵にぶち壊す怜の言動に、更に脱力する貴也だった。

 

「そういえば、この前『鎮魂(たましずめ)の儀』だっけ……? あれで、アンタが使ってたっていう儀矛、持ってみたけど結構重いわね、あれ」

 

「いろいろと呪術措置を施した飾りが付いていますからね。本体も呪術措置が施されているのですが、外すわけにも行かなくて……」

 

「でも、あれをアタシたちが戦っている間、ずっと振ってたんでしょ……? アンタが根性論至上主義になるのも分からないではないわね……」

 

風と怜と夕海子の根性論談義はまだまだ続いているが、もはや聞いている気力も無くなった貴也は別のテーブルで一人、本を読んでいる褐色肌の野性的な印象を抱かせる少女に声を掛ける。

 

「棗! この暑さへの対策、何かないかな?」

 

棗と呼ばれた少女は、本を閉じると貴也たちのテーブルに移ってくる。

 

「これぐらいの暑さなら、私はなんとも感じないが……?」

 

「さすがに古波蔵さんは南国育ちなだけありますわね」

 

「いえ、やっぱり根性で我慢してるんですよね……?」

 

「いや、本当に暑さはどうと言うことはない。根性ということなら、半年前の冬場が辛かった。貴也に見つけてもらわなかったら皆、飢え死にしていたからな……」

 

 

 

 

西暦時代の生き残りを沖縄で発見したのは約半年前の二月のことだった。

当時の南城市の南方の小島に取り残されていた約三百名を空中から偵察していた貴也が発見したのだ。

初の沖縄調査での、この奇跡的発見は四国の人々の心を明るく照らした。

 

『まだ、どこかに生き残りがいるかもしれない』

 

それは、大いなる希望だった。

 

彼らが生き残れたのは、幾つもの幸運に恵まれたからであった。

沖縄唯一の勇者、古波蔵棗が残っていたこと。

沖縄本島から約百メートルとはいえ、離れた小島に避難できたこと。

その小島が昔からの聖地であり、海神の結界が容易に張れたこと。

その範囲が狭かったため、最後までバーテックスの侵攻に対し結界が保ったこと。

また、その島がレジャースポットでもあり、ある程度の物資の備蓄が出来ていたこと。

 

天の神の炎の結界に飲まれはしたものの、それで滅んでしまうことはなかった。

恐らく、結界を解けば僅かな時間の後に勝手に自滅してしまうだろう事が分かっていたからだろう。

事実、結界が解かれてからの一年で食料が欠乏し、皆、餓死寸前の所まで追い詰められていたのだ。

棗が偵察がてら沖縄本島から持ち帰っていた物資がなければ、貴也が見つける前に全滅していただろう事は想像に難くなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そもそも、なんでこんな真夏に南方の調査になんて行かなきゃならないのよ! 責任者、出てこい!!」

 

ついに風が切れた。

 

「責任者は三好さんだな……」

 

「三好さんですわね……」

 

「三好さんです……」

 

「…………」

 

貴也、夕海子、怜の三人は、よく知っているエリート然とした、だが腹の中で何を考えているのか分かったものではない人物の、いかにも何か企んでいますという笑顔を思い出して、顔を見合わせる。

棗だけは、いつものポーカーフェイスだ。三好春信のことをよく知らないので、何も考えていないだけかもしれないが。

 

『機会があり次第、三好春信を犬吠埼風の生け贄に差し出すべし』

 

三人の考えは言葉に出さずとも一致する。

だが、風の愚痴は更に続く。

 

「それにさ、それにさ……、私の受験勉強って、あれ、なんだったのよ! どうして、讃州高校から神樹館高校に転校することに……」

 

「それを今更言いますか? 樹さんの芸能活動に支障が出ないようにと、自ら手を挙げたのは風さんではありませんか」

 

「だって、だって、勇者はみんな神樹館高校に集められるなんて、聞いてないわよ!!」

 

「そりゃ、そうだ。だって、その方針が正式決定されたのは去年の十月だったもんな」

 

「あーん、友奈が羨ましい! 受験勉強無しで神樹館高校なんて、う・ら・や・ま・し・い!!」

 

「あら、一年生組も入学に当たっての学力考査があったそうですよ。赤点組は地獄の補修があったと聞きます」

 

「え、そうなの……? な~んだ、そうならそうと早く言ってよ~」

 

風の文句に一々言い返す夕海子、貴也、怜たち。最後の怜の発言が風の機嫌を劇的に改善した。

 

 

 

 

勇者再建計画は、大赦から大社への組織移行に伴うごたごたがある程度収束した、昨年の六月にスタートしたのだ。

日本全土はいつの間にか、神樹が作る巨大な根や蔓が絡まって出来た結界の壁ではなく、太陽神が作る光のカーテンのような結界に包まれていたのだ。

その外側は、未だに小型のバーテックス――星屑がうろつく危険地帯であった。

この情報を入手した大社は、一旦変身能力を失った勇者たちに加え防人たちからも希望者を募り、勇者チームの再建に乗り出したのだ。

 

風は、歌手オーディションに受かっていた樹の夢を優先させるべく、自ら再び勇者に立候補した。

樹も姉の気持ちをよく理解しているのだろう。歌手デビューするために、レッスンを精力的にこなしていた。

 

一方、貴也は『勇者の守り手』としての力を失ったわけではなかったので、ずっと大社に協力する体制をとらされていた訳である。

 

今年の一月、神樹――国津神とアマテラスを始めとする天津神、双方の力を有する新勇者システムの試作品が出来上がった。

以降、風がテストを繰り返し、新勇者システムはブラッシュアップされていくこととなる。

そのため、風は一月に神樹館高校に転校しその後の半年間、勉強と勇者システムのテストで樹と貴也以外、外界との連絡を絶たれた缶詰状態だったのだ。

 

そして今。この談話室には貴也と怜を除き、八名の勇者がいた。全員、高校二年生。防人出身者六名、西暦勇者から一名、当代勇者から一名である。

さらに、別室でオリエンテーションを受けている高校一年生の勇者が十六名。防人出身者十一名、先代/当代勇者から五名である。

なお、他に中学三年生の勇者が八名いる。全員防人出身者。彼女たちはまだ義務教育中なので、それぞれの地元にいるのだ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

入口の扉が開いた。二十代後半と見える女性が入ってくる。

 

「お、安芸先生じゃない」

 

「みんな揃っているわね。――――――予定どおり今から一年生との対面式を行います。まあ、見知った仲の子たちが多いと思うけれど、正規の行事でもあるからきちんと行ってね。じゃあ、みんな並んで!」

 

風の気付きの言葉に続けて、安芸の説明が始まる。彼女の掛け声と共に貴也たちはテーブルの一列を挟んだ片側に整列する。

そうしてしばらく待っていると……

 

再び扉が開いた。

二十代半ばと見える男性を先頭に十六名の少女たちが整然と入室してくる。そして、テーブルを挟んで貴也たちと反対側に整列する。

 

「本来ならば四月にこの行事をするべきだったんだが、新勇者システムの整備の遅れ、今回の調査の準備などでこのような形にずれ込んでしまったことは申し訳ないと思っている。だが、君たちは全員が、という訳ではないにせよ、旧来からの勇者同士、また元防人同士ではよく知っている仲であるはずだ。連携についても、我々はまったく心配していない。それらを踏まえた上でだ。これより一年生、二年生の対面式を執り行う」

 

大社職員――しばらく前までは弥勒家の運転手の皮を被っていた――佐々木の前口上が響く。

彼の言うとおり、一年生の列には貴也の見知った顔が並んでいる。園子、銀、友奈、美森、夏凛、芽吹……

 

神世紀三〇二年七月。

神樹館高校くにさき分校の一年生、二年生の対面式は、台湾島への調査に向かう途上にあるここ、輸送艦『くにさき』の艦上で行われた。

 

 

 

 

元海上自衛隊の大型艦で唯一致命傷を受けずに呉基地に停泊していた『くにさき』は、昨年の五月に発見されていた。なぜ、現在の四国の技術レベルで修復可能な範囲の破壊にとどまったのかは今となっては不明だ。

だが、同時期に結界外の状況を把握した大社は、すぐさま『くにさき』を勇者の海外展開の為の移動基地として整備することを決定したのだった。

突貫工事での整備。だが、数年放置されていたのは痛かった。機関の調子だけは上がらず、その速度はカタログスペックの八割程度しか出なかった。

このため今回の調査では、二年生組は護衛も兼ねて四国出航時から乗艦していたのだが、一年生組は今日の昼過ぎになってヘリコプターを使って乗り込んできたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

対面式の後は、今後の予定に関するブリーフィングがあった。

そして休憩と称する自由時間の後、夕食会が開催されることになっていた。

だが、もちろんまだ高校生の彼女たちだ。自由時間に入った途端、旧交を温める。

 

「たぁくん、久し振り~。四月の初め以来なんよ~。寂しかった~」

 

「なんか、高校の制服を着ていると一段と大人っぽく見えて、魅力的だな」

 

「へへ~。上手いこと言っちゃって……。うっれしいな~」

 

園子はそんなやり取りをしつつ貴也に抱きつき、頬を擦り付ける。

 

「友奈~。地獄の補修はどうだった……?」

 

風が悪い顔をして尋ねてくると、友奈はいつもの元気を完全に失いげっそりとした表情をする。

 

「風先輩、言わないでくださいよ~。もう二度と思い出したくないです」

 

「だから、あれほど受験対策も兼ねた勉強をしましょうって言ってたのに……。友奈ちゃんも銀も入学試験が無くなったって浮かれてるから……」

 

「もう、その話はやめようよ、須美。あたしもあんなのは二度とゴメンだよ」

 

友奈だけではなく、銀も地獄の補習組だったようだ。友奈と同じくげんなりとした顔をする。

 

「そういえば、風先輩。樹ちゃんは元気にしてますか? 私たちもなかなか会えなくなっちゃいましたので」

 

「そうそう。この船の出航前に会えたのよ。あの子も忙しいだろうに、時間を作って見送りに来てくれたの」

 

「歌のレッスン、頑張ってるそうですね」

 

「そうよ。二人で約束したからね。私は勇者として、樹は歌手として、みんなの希望になるんだって」

 

「そうか、それで樹は勇者に立候補しなかったのか……」

 

美森、風、友奈、銀が樹の話題で盛り上がっている横では、夏凛と芽吹が拳を軽くぶつけ合っていた。

 

「三ノ輪さんの後継者争いでは負けましたけど、今度は負けませんよ、三好さん」

 

「ふふん。なんか良い表情をするようになったわね」

 

「防人として戦っていた中で、私は私の道を見つけたつもりです。その上で、今度こそ貴方には負けませんよ」

 

「いいわよ。周りに迷惑を掛けない範囲でね」

 

「当然でしょ」

 

そう口では言いながらも、傍から見る分には十分に仲良さそうに見える二人。

いいライバルなんだろうな、と思いながら貴也も微笑ましく見ていた。

園子は安芸と話している。天の神に身体を奪われていた間のこととはいえ、指を斬り飛ばしてしまったことをいまだに気にしているのだ。

 

「安芸先生、指の具合はどうですか……?」

 

「もう、あなたという人は……。会う度に気にする必要はありませんからね、といつも言っているのに……。いただいた義指の調子はいいから、本当にもう気にしなくていいのよ」

 

「へへ……」

 

安芸に頭を撫でられ、ばつの悪そうな顔で照れ笑いをしている園子がいた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、行くわよ! 勇者一同、変身っ!」

 

風の掛け声と共に、『くにさき』の上甲板に揃った勇者たちが変身用端末――スマホの画面をタップする。

すると少女たちは皆、サンライトイエローの光に包まれ、その周囲に花びらを撒き散らす。

彼女たちの勇者装束は、天の神ホアカリと戦った時の風たちの勇者装束がそのベースだ。

 

結城友奈。山桜の勇者。武器は手甲。側に浮かぶ精霊は牛鬼。

 

東郷美森。朝顔の勇者。武器は狙撃銃。浮かぶ精霊は青坊主。

 

犬吠埼風。オキザリスの勇者。武器は大剣。浮かぶ精霊は犬神。

 

三好夏凛。サツキの勇者。武器は双剣。浮かぶ精霊は義輝。

 

古波蔵棗。銀梅花(ギンバイカ)の勇者。武器はヌンチャク。浮かぶ精霊は水虎。

 

三ノ輪銀。牡丹の勇者。武器は双斧。浮かぶ精霊は鈴華御前。

 

乃木園子。蓮の勇者。武器は槍。浮かぶ精霊は烏天狗。

 

そして、元防人組の三名。彼女たちも、その傍らに精霊を浮かばせている。

 

最後に、指輪の力で変身した鵜養貴也。勇者の守り手。武器は輪刀。その力の源泉となる精霊は五つ。義経、輪入道、雪女郎、一目連、そして七人御先。

 

「みんな、訓練である程度慣れていると思うけど、飛行中はやっぱり感覚が違うから。互いに気をつけ合うこと。いいわね?」

 

風の言葉に皆頷き、真っ先に飛び立った風に続いて次々と飛び立ってゆく。

そう、新勇者システムは飛行能力を備えていた。

ただし結果的に対ホアカリ戦時の勇者システムとの大きな違いは、そこと満開ゲージの回復だけだった。

精霊バリアを張る度にゲージを一つ消費することも、満開すれば五つすべて消費することも同じだ。もちろん散華の機能は無い。

ゲージの回復は勇者のコンディションにも依るが、一晩で一つ分。概ね八時間掛かる。五つすべて回復するには約四十時間が必要だった。

このため、長期戦が想定される時はローテーションを組むことになる。今回、元防人組が三人しかいないのは、残りは交代要員として艦内に残っているからだ。

戦力が偏っているように見えるのは、初の実戦であるため最大戦力に近い状態の能力を把握するためである。

 

 

 

 

 

 

 

 

対面式が行われた翌々日。台湾島の調査決行日である。

与那国島近海を微速南進する『くにさき』を飛び立った十一名の勇者。途中、光のカーテン状の結界を突っ切り、台湾島東岸へと上陸する。

見渡す限り破壊されきった都市とその向こうの緑なす山々といった光景。

 

「怜さんが受けた神託どおり、神様の結界は張られていませんね」

 

「そうね。ということは生き残りがいる可能性も高まったってことね」

 

「島の中央部という話でしたよね。発見できるかしら……?」

 

銀と夏凛、そして美森がそういった話をしていると友奈が疑問の声を上げる。

 

「そういえばさ、生き残りが見つかったとして言葉って通じるのかな……?」

 

「アンタ、昨日のミーティングでの説明聞いてた? その辺は抜かりが無いわよ。通訳係、カモン!」

 

風が声を掛けると、園子が前に進み出る。

 

「你好。我們是從日本來的『勇者』。我們為了幫助你們來了」

 

「わー、すごい! 園ちゃん、なんてしゃべったの!?」

 

「こんにちは。私達は日本から来た『勇者』です。あなた達を助けに来ました。だよ」

 

「ふっふーん。付け焼き刃だけど、乃木がいろいろと調べて簡単な言葉はマスターしてきたのよ」

 

なぜかどや顔でふんぞり返るのは風の方だった。

 

 

 

 

「風、来たわよ」

 

棗が声を上げる。百体前後の星屑の群れがこちらに向かってきていた。

 

「よっしゃ。あたしが殲滅してやるぞ!」

 

「銀。足の方は大丈夫なのか……?」

 

「大丈夫、大丈夫。どういうわけか、あれ以来ずっと調子がいいんだ。腕も生えてこないかな……?」

 

「おお~ミノさん、人間やめちゃう? やめちゃう?」

 

「変なこと言わないでよ、銀。そのっちに変なスイッチが入っちゃうんだから……」

 

対ホアカリ戦以来、勇者に変身できた事が原因なのか、銀の左足は元の機能を回復していた。右腕の方が生えてくることは無かったのだが。

だが、貴也の心配に銀が自虐的な軽い冗談を返したところ、園子が目をしいたけにして食いついてきた。すかさず美森から苦情が飛ぶ。

 

先代勇者四人がそうやってじゃれ合っているうちに、芽吹が真面目な顔で風に問いかける。

 

「犬吠埼さん、相手は星屑だけだから、元防人組で威力偵察代わりに叩いてみるわ。いいわよね?」

 

「いいわよ。でも、けが人を出さないように気をつけてね」

 

「ええ、分かってるわ。――――――それじゃ村上さん、真鍋さん、行くわよ!」

 

楠芽吹たち、元防人組が先陣を切ってゆく。

 

「あーあ、張り切っちゃって……」

 

「私たちは行かなくていいのか?」

 

「相手は星屑でしょ? 全体を見て、苦戦しそうなら援軍に行けばいいわ」

 

「ま、お手並み拝見ってことでいいんじゃないか……?」

 

元防人組の張り切り具合に苦笑する風。自分たちは行かなくて良いのかと尋ねる棗には、夏凛が全体を見ての対応を答え、銀が余裕の発言をする。

 

「友奈ちゃんは大丈夫? 久しぶりの戦いで緊張してない?」

 

「大丈夫だよ、とーごーさん。勇者は気合いだよ!」

 

「ま、勇者部六箇条を忘れていなければいいわよ」

 

「『無理せず、自分も幸せであること』ですよね……?」

 

「そうそう」

 

そんな美森と友奈、風の掛け合いを見て園子がクスッと笑う。

 

「どうしたんだ、園子?」

 

「ううん、なんでもないんよ。でもね、なんだか幸せなんよ」

 

「これからもバーテックスとの戦いが続くのに?」

 

「理由は、ひ・み・つ、だよ」

 

そう言って満面の笑みを浮かべる園子。

 

『私はまた力を得た。大好きな、大切なみんなも一緒にいてくれる。だから、今度もきっとやり遂げてみせるよ。たぁくんが幸せになれるかもしれない世界――――――ううん。たぁくんが幸せを掴める世界を、今度も私が守り切ってみせる! ずっと一緒だよ、たぁくん……!』

 

その笑顔に見惚れてしまう貴也。

 

「こら、そこ! 戦闘中よ! 勝手にラブラブ波動を発生させない!」

 

風の軽い嫉妬が混じったお叱りの言葉が飛ぶ。

 

「それは無理だ、風。この二人、既に新婚さん同然だからな」

 

「言えてるわね。――――――鵜養、しっかりしなさいよ。園子の尻に敷かれる未来しか見えないんだからね」

 

「ひっでー。ま、貴也さんでも園子相手じゃ、どうにもならないだろうけどな」

 

棗、夏凛、銀も勝手なことを言い出す。

 

「貴也さん、園ちゃん、これからも一緒に頑張ろうね!」

 

「あら、友奈ちゃん。私は……?」

 

二人に声を掛けてくる友奈に、慌てて自分も付け加えて欲しそうに美森が尋ねる。

 

「当然、とーごーさんもみんなも一緒だよ!」

 

その時、彼方から無数の星屑を引き連れた進化体の一団がやって来るのが見えた。進化体だけで数百体はいるだろうか。

皆の緊張度合いが高まる。

 

「援軍が来なさったわよ。みんな、覚悟は出来てるわよね?」

 

「「「「おーっ!!」」」」

 

「じゃ、元防人組の救援に行くわよ!」

 

風の掛け声と共に、元からの勇者組が飛び出していく。

 

「僕たちも行こうか、そのちゃん」

 

「うん」

 

手を繋いで飛び出していく園子と貴也。

戦いへと臨む二人。だが、その顔には幸せそうな笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

二人の戦いはまだ終わらない。

でも、二人は信じている。

これからもきっと、共に乗り越えていけるのだと。

 

 

 

 

鵜養貴也は勇者にあらず -終わり-

 

 




本編終了です。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。

最終回ということでやりたい放題やっています。
特に棗は物語の流れ上絡ませられなかったので、雪花の章公開時に雪花に関して噂されていた考察を彼女の方に適用して登場させてみました。

なお、園子のセリフの繁体字は機械翻訳に頼っています。間違いがあればご指摘を。

さて、前回の後書きに書いたとおり、番外編を3編投稿する予定です。
いずれも後日談という形になります。
もうしばらく、お付き合いをお願いいたします。

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