鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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番外編です。
前回は西暦の後日談でしたので、今回は神世紀の後日談。
勇者はいつまで変身できるのか? と、勇者の世代交代が主題のつもり。
いつもより捏造設定マシマシでお送りします。

では、本編をどうぞ。



番 外 篇   鵜養千歳は勇者になる

神世紀三〇三年六月。

大橋市番の州地区に立地する神樹館高校くにさき分校陸上校舎において。

三年生組の放課後ホームルームでのこと。

 

 

 

 

「「「「十八歳で定年!?」」」」

 

「いやいや、十八歳になったその日に、という訳じゃないんだ。過去の記録を調べるに、生きながらえた勇者は概ね十八歳になって以降、二十歳になるまでの二年の間に勇者としての力を失ってしまうようなんだ。今回、夕海子様が勇者の力を失ったことから、改めて調べて分かったことなんだけどね」

 

高三組皆が驚愕の声を上げると、それを抑えようとしつつ三好春信が説明を続ける。

 

「そうですか……。それで、わたくしは変身できなくなった訳ですのね……。クッ…………勇者になれて僅か一年。早くも力を失ってしまうとは……」

 

「そうか、誕生日を過ぎてるけどアタシはまだ変身できるものね。まあ確かに最近、少し力が安定していないような気がするけどね……」

 

『確かに……二十歳を超えてなお『無垢な少女』と言い張るのは少し無理が…………はっ!』

 

夕海子と風がぼやく中、そんなことを考えていたのだが、どうやら顔に出てしまっていたようだ。周囲から射殺しそうな視線の集中砲火を浴び、貴也は縮こまった。

 

「それで、今後はどうするんだ?」

 

「勇者の力を失う具体的なタイミングが分からない以上、十八歳の誕生日を迎えた勇者は今後一切戦闘には出さないことが決定されたよ。戦闘中に変身が解除されれば大事(おおごと)だからね。ただ、年少者への引継ぎ等の問題があるので、正式な引退は全員高三の一学期終了時となる予定だ。まあ、一学期中は大規模な調査は行われないから影響は少ないだろう」

 

「七月下旬に予定されていた台湾島と大陸の調査はどうなるのよ?」

 

「確かに……。進学組の一時引退は秋口を予定していたからね。不足分の戦力は、小六の勇者候補生の中から見繕って補充することになると思うよ」

 

棗と風からの善後策の追及に、詳しく説明する三好。だが、小学生を参戦させることに風から懸念の声が上がる。

 

「小六って、そんな小さい子たちを危険にさらして大丈夫なの……?」

 

「園子様たちは既に小六の時、三人のみでバーテックス撃退任務に就いていたからね。それに、今度の小六には有望株が二人いるんだ。君たち元讃州中学勇者部の伝説の七人に匹敵する適性値保持者がね」

 

天津神の力も合わさったため、およそ五十人にまで増やすことが可能になった勇者。だが、友奈たちやそれに匹敵する適性値があった芽吹を除けば、元防人組にも、その後の調査/検査で発見された勇者候補生達にも、そこまで適性値の高い者、能力値が高い者がいなかったのだ。

 

「調査主体で戦闘主体じゃないしね。上級生達のカバーもある。問題は少ないと判断されるだろう」

 

「ふーん……」

 

「怜さんのような巫女様はどうなんですの?」

 

「巫女様は個人差が激しいからね。御前様――上里咲夜様のようにご高齢になっても力を使える方もいれば、勇者と同じように二十歳そこそこで力を失う者もいる。まあ、戦闘に従事する訳でもないから、急に力を失っても特に問題はないけどね」

 

巫女については夕海子から質問が出た。巫女が力を失う時期については、大赦はあまり問題視していないようだ。

 

「三好さん、僕の場合はどうなるんですか? 力は失われるんでしょうか?」

 

「分からないね。そもそも君の場合は、皆と違って前例が全く無いからね。乃木神社にでも行って、尋ねてみたらどうだい?」

 

貴也は自分の力の事を尋ねてみた。だが、予想どおり三好から匙を投げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、園子、怜、亜耶を伴って乃木神社を訪ねてみた。だが、若葉に会えないだけでなく亜耶たちに神託が降りることさえなかった。

 

「もしかすると、若葉様たちにも分からないのかもしれません……」

 

亜耶に思いっきり同情の視線を向けられてしまった。

 

結局、貴也は七月の遠征調査には参加することにした。だが、大学受験を考えていたため、調査後直ちに一時引退し、その際には指輪を乃木神社に預けることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

七月下旬。沖縄付近を南進中のくにさき艦上。

貴也は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。先ほど、高一以下の年少組がヘリコプターによる空輸で合流したところだった。

 

「たぁくん、そんな顔しないで。チータンの決心を貶めることになっちゃうよ~」

 

「そうそう。お兄ちゃん、スマイル、スマイル」

 

園子も、神樹館小学校の制服に身を包む千歳もにこやかに貴也を(なだ)める。

今回の遠征調査に参加する勇者は貴也を除き二十八名。十九名が万一の本土防衛の為、四国に残っている。そのうち六名が小六からの補充だ。だというのに……。

 

「小六組から有望株とは言え、その二人ともを遠征に参加させるなんて……。他の子は四国に残してきてるのに……」

 

「だからこそだよ。彼女たちには実戦の場数を踏ませておきたいんだ。この一年の調査で、日本国内というか結界内にはバーテックスの脅威がほぼ無いだろう事が分かったからね。一年に三、四回ほどしか出来ない結界外調査は貴重な実戦の場なんだ。来年には園子様たちも引退だからね。二人にはその穴埋めの中核になって欲しいんだ」

 

「それは分かりますけど……」

 

珍しく結界外調査についてきている三好が理由を話してきた。

既に風たち高三組は貴也を除く八名が引退済みだ。今回の調査には高二組十六名、高一組八名の他、引退の補充として中学生二名、小学生二名が参加している。

その小学生二人のうち、一人が妹の千歳だったのだ。

 

この一年を掛け、旧日本国内と言える太陽神の結界内はおおまかな調査が完了したところだ。一年半前に発見した沖縄以外には人類の生き残りはいなかった。また、バーテックスの脅威が無い事も分かった。今後、国内においては徐々に人類の勢力範囲は広がっていく事だろう。

 

一方、結界外の調査は遅々として進まなかった。そもそも結界のある場所が四国から遠い海上であり、その外側にはバーテックスの生息が確認されている事から、調査拠点となる設備が必要だったからだ。だが、移動拠点となるべき頼みの輸送艦は現状一隻のみ。メンテナンスの為のドック入りや、航行速度などの問題から調査に出られるのは一年に三回程度が限度と言えた。望まれる二番艦の建造は予算、建造設備の問題が解決されず先送りにされていたのだった。

 

『それにしても、家の中じゃそれほど感じなかったけど、こうやって外向けの顔をしていると、ますます千景に似てきたな……』

 

園子や友奈と話している千歳を見やりながら、そんな事を考える。

元々、面立ちは千景に似ていると思っていたところだ。高学年になると幼さが影を潜めてきたせいか、ますます似てきた。だが、家の中ではやはり家族向けの態度だったという事なのだろう。こうして、家族以外の人達としっかり話しているところを見ると、ドキッとするほど似てきていた。

 

勇者の事についてもそうだ。

千景はお役目というものに対し常に真摯な態度で臨んでいたように思う。千歳もそうなのだろう。勇者就任を大社が要請してきた時、両親も貴也も反対したのだが彼女はそれを振り切って自らの意志で受諾していた。貴也や園子たちの態度などから、勇者というものについて薄々理解した上での事だったのだろう。

 

 

 

 

銀たちと話し込んでいた、もう一人の小学生がこちらへと駆け寄って来る。

友奈に似た赤髪の、だが顔立ちはどことなく銀に似た、小六にしては小柄な女の子だ。

 

「ぐんちゃん! その人たちがお兄さんとそにょちゃんなの?」

 

「『ぐんちゃん』だって!?」

 

その子の千歳への呼びかけに驚いた。高嶋友奈が千景を呼ぶ時のあだ名だったからだ。

 

「そうだよ、ゆなっち。――――――あ、紹介するね。同じ勇者になった高嶋唯菜(ゆな)ちゃん。去年、同じクラスになってからの親友なんだー」

 

「へ~。そうなんだ。私は乃木園子だよ。確かにチータンからは『そにょちゃん』って呼ばれてるね。よろしくね。あ、それと…………、うん、唯菜ちゃんは『ゆなしー』でいこう!」

 

「ゆなしー……?」

 

「あはは……。そにょちゃんは誰にでも、ちょっと変わったあだ名をつけるからね」

 

初対面の園子にいきなりあだ名を付けられて、目を白黒させる唯菜。

貴也は、そんな彼女に問いかける。

 

「えっと、千歳の兄の鵜養貴也です。初めまして、唯菜ちゃん。――――――その、千歳のことを『ぐんちゃん』って呼ぶのは、どうしてかな……?」

 

「えっ!? みんな、鵜養さんの事は『ぐんちゃん』って呼んでるよ。そうだよね?」

 

そう言って、千歳に同意を求める唯菜。

千歳も首をひねって考え込む。

 

「そういや、小学校のクラスメイトで仲のいい子はみんな、いつの間にか私の事『ぐんちゃん』って呼んでるね。どうしてだろ? 前に聞いてみた事もあったけど、忘れちゃった…………てへ」

 

「あ、でも前、みかちに聞いたら『ぐんぐん先走って、みんなをぐんぐん引っ張っていくから『ぐんちゃん』なんだ』って言ってたよ。みかちの言う事だから本当かどうか怪しいけどね」

 

そう言って、ケラケラと笑う唯菜。

その言動に貴也は得心した。

 

『やっぱり千景とは違うんだな。性格も、友達の中での立ち位置も……』

 

「おっ、唯菜と千歳ちゃんって仲いいんだな」

 

銀が美森と夏凛を引き連れてやってきた。すぐに小六の二人を囲む談笑の輪が作られる。

 

「唯菜ちゃんって、銀の又従姉妹に当たる子なんですって」

 

「どおりで顔立ちが似てると思ったのよ。鍛え甲斐もありそうだしね」

 

「そうなんだ~。それと私、ゆなしーの事、名家の集まりで見た事ないんだけど、高嶋家なんだよね……?」

 

「一応、高嶋家だけど、ものすごく遠い分家って聞いてますから……、あははは……」

 

 

 

 

こうして小六の二人は、神樹館高校()()()の面々とも、あっという間に仲良くなっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「変身っ!」

 

サンライトイエローの光に包まれ、周囲に花びらを撒き散らす千歳と唯菜。それが晴れると二人は神樹様と天の神に選ばれた『勇者』となる。

 

鵜養千歳。夏水仙をモチーフとした桃色の装束を身に纏う勇者。手にする武器は大鎖鎌。側に浮かぶ精霊は、竪杵に細い手足を付けたような容姿のタテクリカエシ。

 

高嶋唯菜。コスモスをモチーフとした真っ赤な装束を身に纏う勇者。手にする武器はナックルダスター。側に浮かぶ精霊は、一つ目に一本足で大口を開けた容姿の一本だたら。

 

「春生まれなのに夏水仙とはこれいかに……?」

 

「あたしも夏生まれなのに秋桜(コスモス)だよ……?」

 

「武器も、でっかい鎌になぜか鎖分銅が付いてるんだよ」

 

「あたしなんかメリケンサックだよ、メリケンサック! 小学生に何持たせてんの? って感じ」

 

「「へんなのー!」」

 

二人、顔を見合わせケラケラと笑う。それが波及したのか、周囲の雰囲気も明るくなる。

 

「多重召還!」

 

「おおっ! それがお兄さんの変身なんだー」

 

「やっぱりお兄ちゃんの変身って、ひと味もふた味も違うね」

 

貴也の変身にも興味を惹かれる二人。興味津々に貴也に近付き、彼の装束を弄くり回す。

 

「ほらほら、気を引き締めていくわよ!」

 

今回の調査における勇者の隊長は夏凛だ。夏凛が皆に気合いを入れて、目的地へ向けて飛び立つ。

調査対象地域は台湾島南部から廈門、香港へ掛けてだ。かなり広範囲であるし、大型バーテックスが出現する可能性も高い。

 

飛行甲板から飛び立っていく勇者たちを見送りながら、三好春信は独りごちた。

 

「もう園子様たちの世代で人類の可住地域、すなわち結界の範囲を広げる事は不可能だろう。()つ国の神々をどうにかしないといけないからだ。だが、太陽神と対抗できるだけの神々が存在する地域でなければ、人類は生き残ってはいないだろう。人の絶滅した地域の神が存在し得るのか……。とにかく、我が国と同じように多神教が優勢だった地域が鍵を握っているはずだ。そこを千歳様たちが中心となった世代で調査できれば、あるいは……」

 

そこまで考えて身震いする。

 

『あまりにも絶望的だな』

 

その言葉だけは口に出さずに飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

廈門上空で接敵した。

複数の蟹座型(キャンサー)蠍座型(スコーピオン)射手座型(サジタリウス)を含む、何千という数の進化体、何十万という数の星屑。

その混成部隊に立ち向かう十二名の勇者たち。

中でも突出するのは千歳と唯菜の二人だ。だが、二人の戦い方は恐ろしく息が合っていた。

 

「まるで若葉と千景がコンビを組んでるみたいだ……」

 

貴也のその感想が全てを物語っている。

鎖分銅を牽制に使いながら、大鎌の一閃で複数のバーテックスを紙くずのように切り裂いていく千歳は『効率優先』の戦い方。

千歳が打ち漏らしたバーテックスを、上手くフォローしながら一撃で殴り屠っていく唯菜は『堅実性優先』の戦い方。

その二人のコンビネーションは、在りし日の西暦の勇者の戦いを貴也に想起させていた。

 

同じ空域では、勇者部の面々も力を振るっていた。

園子の槍の一閃は一撃で数百の星屑を消し飛ばした。

夏凛と銀は縦横無尽に飛び交い、バーテックスの群れを切り裂いていく。

美森の援護射撃は勇者たちが見せる僅かな隙さえも潰していき、バーテックスを寄せ付けない。

そして……

 

「勇者パンチ!」

 

友奈の全力全開のパンチは大型バーテックスを御魂ごと打ち砕いた。

 

貴也はほとんど何もすることが無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

貴也が千歳と共闘したのはその一回だけだった。

その年の八月十五日。受験のための一時引退に伴い、乃木神社に指輪を奉納した。

亜耶が奉納の神事を終えた直後、貴也と園子、千歳の目の前で指輪に嵌っている五つの宝石は一瞬だけ光り輝いた。

その後、どうやっても変身することは出来なくなった。

 

『僕のお役目は、これで終わったんだろう』

 

そう思うことにした。

 

 




番外編ということで、前回同様に駆け足でお送りしました。

千歳が友奈達の学年五つ下ということから着想。
生後1ヶ月で登場した脇役の子が、ここまで成長するとは……。
なお、読んでお分かりのように千歳と唯菜は、千景と友奈、千景と若葉を入れ替えたような関係? 立ち位置? に。

さて、次回は完結編となります。
この作品の完結編ということは、この時期になってしまったことですし投稿日は8月30日となるのは必定でしょう。
内容もテレフォンパンチもいいところのストレートです。

ということで、次回完結編でお会いいたしましょう。

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