鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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園子ちゃん、誕生日おめでとう。
この日に、このお話で締められるとは感無量です。

では早速、本編をどうぞ。



完 結 篇   乃木園子は花嫁である

布団の中で、もぞもぞと彼女が動く。

カーテンの隙間からは朝の光が漏れ差し込んできている。

 

「ふふふ……。とうとう、私たち、結ばれちゃったね」

 

悪戯っぽい笑顔で彼女が話しかけてきた。もう、しっかりと目を覚ましている。

 

「そうだな」

 

「あ~、幸せだな~。世の中に、こんなに心が満たされる行為があるなんて初めて知ったよ~」

 

彼女が抱きつきながら額を胸に押し付けてくる。

 

「好きな相手と、だからな」

 

「違うよ~。『世界で一番』好きな相手とだからだよ」

 

園子は顔を上げて、貴也の顔を覗き込むようにしながら口を尖らせ不満げに訴える。

 

「あー、そのとおりでございます、お嬢様」

 

「ふふふ……」

 

 

 

 

「でも実際のところ、最近、不安だったんだ~」

 

「ん?」

 

「たぁくん、勇者部のみんなと、どんどん仲良くなっていくんだもん」

 

「そうかなー? 確かに同級生の連中とはつるむ機会が多かったけど、友奈たちとはどちらかというと園子を通じて仲が深まってると思うんだけど……」

 

「はい、ダウト~。あの戦いの時から一括で仲良くなってるよね」

 

「いや、あの時はまだ単に知り合ったってレベルだろ? なんか深い友達付き合いみたいになったのは、高校へ進学して以後に園子の仲介があってだろ……?」

 

「でも、フーミン先輩やなっち先輩、ユーミン先輩にれいれい先輩とはやけに仲いいじゃない?」

 

口調は不満げだが、目は笑っている。

貴也を少しからかっているようだ。

だが、油断は禁物。相手はあの園子だ。どんな隠し球で攻められるか事前予測は不可能だ。

 

「いや、だから……、同級生だし、そもそも少人数クラスだったからいろいろと濃い付き合いがあるわけで……」

 

「それから、にぼっしーとメブーともSNSで緊密にやり取りしてるって聞いたよ。あっ、そうだ! いっつんとも会ってたって……」

 

「どこ情報だよ、それ? なんか、怖いんだけど……。夏凛たちにはそのちゃんたちの小学生時代の勇者としての活動を根掘り葉掘り聞かれてるんだよ。あまり知らないって言っても信じてくれなくてさー。樹ちゃんとは、風の誕生日プレゼントの相談を受けた時じゃなかったっけ……?」

 

いちいち言い訳する貴也に対し嗜虐心でも湧いたのか、ノリノリで尋問してくる園子。

 

「ゆーゆとはスキンシップが激しいし……、わっしーともこの前、長時間会ってたそうだよね?」

 

「だからぁ! 友奈が中学生の時のノリそのままで抱きついてきたりするから、東郷さんにお叱りを受けてたんだって! なぜか、僕の方が……。僕は被害者だ!」

 

「それに、ミノさんとも仲いいよね。あっ、これは前からか~」

 

「あ? あぁ、銀は初めての戦友で、かつ戦いの師匠だからな。初めての戦場で生命を預け合ったってのは大きいよ」

 

「むぅー。じゃあ、私は?」

 

銀に対してだけは胸を張って理由を語る貴也に、園子は不満げに口を尖らせた。

 

「恋人で幼馴染み。これだけじゃ不満か?」

 

そのストレートな言葉に、少し頬を赤く染める。

だが、やはり不満は解消されないようだ。

 

「不満、不満、不満~。だって、私の初恋の相手は、たぁくんなんだもん。たぁくんも一緒じゃなきゃ、やだ」

 

「えっ、僕が初恋の相手なの? その話、初耳だぞ」

 

「だって、そりゃぁ……。こんな関係になるまでは、胸の内に秘めておくものじゃないのかな~?」

 

「ふ~ん。そういうものかなぁ……? ま、考えてみれば僕たち二人とも、他に恋をするような相手はいなかったか……」

 

過去を振り返ってみて、小学校高学年から中三の十一月に告白するまで二人ともがそういう機会に恵まれるような、そんな普通の生活をしていなかった事実に愕然とする。

 

 

 

 

「ね~。私が初恋を自覚した切っ掛け、教えてあげようか……?」

 

「いいの……?」

 

ちょっと落ち込み掛けたところで、園子が何か企んでいるような表情で問いかけてきた。

恋人同士とはいえ、そんな深い内面の話を聞かせもらうことに躊躇いを見せる貴也。

だが、園子は軽い調子で話を続ける。

 

「覚えてる? 私が小学一年生の時、たぁくんと一緒に雪山で迷子になったの」

 

「あー、覚えてるよ。両家で初めて一緒に旅行に行った時だよな」

 

「私はね。それまではずっと、たぁくんとは対等な友達だと思ってたんだ~。だから、迷子になった時もたぁくんと一緒だったから、不安なんてまるで感じてなかったんだ。『おともだちといっしょ』だからって。でも、その後たぁくん、大泣きしてたじゃない? あれで、分かっちゃったんだ~」

 

「ん? どういうこと?」

 

「私は『対等なお友達』だと思ってた。でも、たぁくんは私のこと『守らなきゃいけない年下の女の子』って見てたんだよね?」

 

「う~ん。その頃の自分がどう考えていたのかって、詳しいことは覚えてないけど。そういや、『おじさんたちに、そのちゃんを無事に返さなきゃ』って強迫観念みたいに思ってたのは覚えてるなー」

 

「それだよ~。だから、それが分かっちゃった瞬間、『あぁ、私はこんなにもこの人に守ってもらえてる』って思っちゃってさ~、泣けてきちゃったんよ~。だから、その日からたぁくんが『私の王子様』になったんだよ」

 

そう言うなり園子はぱぁーっと花が咲いたような笑顔を見せ、貴也に抱きついてきた。

 

 

 

 

『もちろん、その時の私は自覚してなかったけどね……。でも小三の時だったな。その時の事を思い出して、そうなんだって、思ったんだ。それに、たぁくんは私を『乃木のお嬢様』じゃなくて、ただの『園子』として接してくれた初めての人だもん。ずっと、ずっと大好きだよ……』

 

 

 

 

「だから、たぁくんはどうだったのかな~って思うんよ」

 

ひとしきり顔を貴也の胸に擦りつけた後、園子は真剣な表情でそう問うてきた。

 

「僕かぁ……。うーん。なんか具体的にこれっていうのは、無いなぁ」

 

「え~? 無いの~?」

 

そう言いながら、頭を掻く貴也の胸を軽くポンポン叩いてくる。

 

そんな彼女に悪いと思い、園子に対し恋に落ちた切っ掛けを思い出そうとする貴也。

だが、思い出せない。

 

『そんな明確な切っ掛けって、あったっけ……?』

 

そのうちに貴也はハッとした表情をすると、園子の頭を優しく撫で始めた。

 

「そうか……、そうなのかもしれない……」

 

「えっ?」

 

その、迷いながらも紡ぎ出した言葉に反応する園子。

 

「ちょっと酷いこと言うけど、最後まで聞いてくれよ」

 

貴也の顔を見上げて、無言で頷いてくる。

 

「確かに当時の僕は、小さい子の相手をちゃんとしなきゃ、って思ってたと思う。でも、実際、園子は急に寝ちゃったり、それまでの流れからは考えられない突拍子もない言動をしたり、とにかく僕の予想や想像を超えたところでいろんなことをしてきて、それに僕を巻き込んだりと、まぁ、ずいぶん振り回されたからね」

 

園子が少し首をかしげる。何が言いたいのか、まだ分からないようだ。

 

「でも、一度もそれをイヤだと思わなかった。意思の疎通が上手くいかなくて不満に思ったことはあるにせよ、それで『付き合いをやめよう』とか、園子のことを『イヤだな』だとか、『嫌いだな』とは思わなかったんだ」

 

貴也は優しく園子の髪を撫でる。

 

「きっと一目惚れだったんだ。最初から、初めて会ったその日からずっと大好きだったんだ。園子のこと。誰よりも大切に思っていたんだ」

 

貴也の脳裏に、あの蔵でみた光景が浮かぶ。明かり取りから差し込む夕陽に照らされ、あの指輪を高く掲げてくるくると回る園子の姿が。そのキラキラとした眩しい笑顔が。

 

不意に園子の双眸から涙が溢れた。

 

「嬉しいな……。初恋のその人に、一目惚れされてたなんて……。こんなに幸せな女の子っているのかな? きっとこんな事って、人類の歴史の中でも一握りの女の子しか体験できていない筈だよ……」

 

そう言って貴也の顔を見つめてくる。

そして感極まった声で続ける。

 

「それに、たぁくんは私を大赦から救ってくれて、三百年の時だって越えて帰ってきてくれた。こんな人に一目惚れしてもらえた私はきっと、人類史上で一番、ううん、この宇宙史上で一番幸せな女の子だよ……」

 

「そんな、おおげさな……」

 

 

 

 

ひとしきり涙を流した後、パジャマ姿の園子はベッドから降りた。

そして机の上に置いていたノートパソコンを立ち上げる。

 

「この気持ちが薄れない間に、このネタで一本、小説を仕上げよう~っと」

 

「早く顔を洗って、着替えろ!」

 

貴也の手から枕が飛んだ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「んふふふふ……」

 

いつぞやの朝のことを思い出して、嬉しくなる。

 

「乃木様。そろそろ、お時間です」

 

「はい、分かりました」

 

もう一度、鏡の中の自分とにらめっこする。

自分で言うのもなんだが、とても素敵だ。

 

「園子ー。用意出来たかー?」

 

貴也が部屋に入ってくる。

 

振り向くと、彼が自分に見惚れていた。

なんとなく誇らしい気持ちになる。

 

「綺麗だ……。式の時の白無垢も凄く綺麗だったけど。顔立ちかな? いや、やっぱり髪色か……。ドレスの方が凄く似合ってるな」

 

「そうかな……? あなたもそのモーニングコート、凄く似合ってるよ」

 

「ハハ……。男は添え物だけどな」

 

彼の一挙一動を噛み締めるように見つめる。胸が喜びで締め付けられるようだ。

 

「さっき、会場を覗いてきたけど、やっぱり乃木家の関係者は凄いな。――――――なぁ、今更、もう遅いんだけど、本当に良かったのか?」

 

「うん。いいんよ。これで、乃木家の(しがらみ)から逃れられるなんて思ってないけど、私の夢だったから」

 

「そっか……」

 

「それから……、じゃーん!」

 

「おっ! 園子の小説? ……って、この著者名!」

 

「うん。まだ見本だけどね。著者名はこれで行こうって思ってたから……。だから、今まで待ってもらってたんだ~」

 

手にした本を仕舞い、彼を見つめる。

 

「それに、これでやっと『あなたの園子』になれる気がするから……」

 

「ははっ……。僕の方は、もうとっくに『園子の貴也』だけどな」

 

「ふふっ。千景さんも……、あなたの遠いご先祖様も、私と同じような気持ちだったのかな? だったら、嬉しいな」

 

家の名を残すことを強く望まれ、しかしそれに抗って自分の気持ちに従った強い女性に、貴也とも深い繋がりがある女性に思いを馳せる。

 

「千景か……。彼女も祝福してくれるかな? いや、千景も西暦のみんなもきっと、僕たちのことを祝福してくれるに違いないよな」

 

彼はもう十年も前のことを、実際には三百年以上前のことを思い出しているのだろう。

現代での仲間たちも含め、皆一緒に絶望に抗ったのだ。今、掴み取っている平和は、その上に成り立っているのだから。

 

二人、見つめ合った。

 

「行こうか?」

 

「うん……」

 

 

 

 

重厚な扉の前に、二人並んで立つ。

彼の腕に、自分の腕を絡める。

 

披露宴の後、入籍手続きをする予定だ。

 

扉が開く。

 

「行こうか。園子」

 

「ええ、あなた……」

 

『今日、私は『鵜養 園子』になる。これからも、この人の隣で胸を張って生きていこう』

 

二人は万雷の拍手で迎えられる中、人生の新たなスタートを切った。

 

 

 

 

鵜養貴也は勇者にあらず -完-

 

 




足掛け11ヶ月。完結です。
ついにここまで来ました。
文庫本3冊分くらいですかね。ここまでの長編を書き上げたのは初めてです。短編、掌編は何本かあるんですが。
これも、UAにして3万以上も読んでくださった皆さん、お気に入りに登録してくださった方、感想をくださった方、評価を付けてくださった方のおかげです。
皆さんのおかげでモチベーションが維持でき、完結まで漕ぎ着けました。
深く感謝いたします。

最後は、ここまで明示されなかった貴也が恋に落ちた瞬間を主題にサブタイトルを絡めたお話となりました。
本編で苦労させられた二人に、せめてもの償いのつもりのお話です。
なお前半部分は時系列不詳の話となります。(高校? 大学? 就職後? お好きな時期でお読みください)

一応完結はしましたが、気が向いたら日常編を補完するかもしれません。
ただ、気持ちは新作を書きたいな、という方向へ。それは新しいゆゆゆ二次かもしれませんし、まったく別の二次作品かもしれません。
ということで、御縁があれば、またよろしくお願いします。

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