鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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ひなたちゃん、誕生日おめでとう。

日常編の補足シリーズです。
何かを受信した時だけの更新となりますので、気長にお待ち下さい。

では、本編をどうぞ。



落ち穂拾い
2019.07 ひなたぼっこ!(前編)


「こんばんはー」

 

玄関のドアを開けると、食材で膨れ上がったエコバッグを手に提げてひなたがにこやかに入ってきた。

 

「どうぞ、上がって」

 

「お邪魔しますね」

 

嬉しさを隠しきれないといった風情のひなた。スリッパを突っ掛けると、スキップでもしそうな勢いで勝手知ったる貴也の家をキッチンまで進んでいく。

 

「今夜は洋風にポークチャップをメインにしますね」

 

「ああ……」

 

楽しげなひなたとは逆に、貴也は少し複雑な表情だ。

 

『ひなたが夕飯を作りにきてくれるようになって、もう一ヶ月半は経つよな……。なんだか、献立がどんどん僕の好みにシフトしていっているような気がするんだけど……。もはやこれ、若葉に食べさせる新作の毒味なんかじゃないよな……?』

 

 

 

 

さすがに薄々、ひなたの真意に気付きつつあった。

それもそうだろう。五月下旬あたりから『若葉に食べさせる前の毒味』との名目で始まった、このひなたの貴也への餌付け。七月上旬の現在まで、週に一、二回の頻度で続いていたのだ。

献立も最初は和食中心だったのだが、いつの間にリサーチしたのか、比較的お子様な舌の持ち主である貴也の好みに合った洋食も混ざってくるようになっていた。

 

毎回、嬉しげにやって来ては、楽しげに料理を作り、貴也との会話を弾ませながら食事をし、そして上機嫌で帰っていく。そんな彼女を見ていると……

 

『やっぱり、僕の事を好いてくれているのかな? 少なくとも、単なる友達以上の好意は持ってくれているようだし……』

 

だから、その日の夕食を食べている時、よっぽど彼女の真意を問いただそうかと思った。一度は、言葉にしようとしかけたのだが……。だが、彼女が若葉の事を話題に楽しそうに話しているのを見て、思いとどまった。

 

『千景は明らかに僕の事を異性として慕ってくれているんだ。この上、ひなたまでそうだったとしたら、僕はどうしたらいい? とはいえ、少なくとも今はバーテックスへの対処が最優先だ。具体的なタイミングは分からないけど、神世紀に年号が変わればバーテックスの侵攻は三百年間止まるはずだ。その時が来てからでもいいだろうか?』

 

それに園子のこともあった。

三百年の時を隔ててしまった、貴也にとって一番大切な少女。彼女と別れてしまって四ヶ月。また会えるという公算は限りなく低いのではあるが、千景やひなたとこういった濃密な付き合いをしていると、まるで浮気でもしているような、そんな罪悪感が良心をチクチクと刺激してくる。

 

そんなこともあったため、そういう態度でいてしまった。

 

『とりあえず見て見ぬ振りをしよう』

 

その考えによって数日後、酷い目に遭うことになるとは思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

日曜日。

若葉の朝練に付き合った後、シャワーを浴び、近所の喫茶店でモーニングセットを食して帰ってきた貴也。

 

「さて、なにしようかな……?」

 

最近、若葉たちは忙しいらしい。友奈が精霊の使用を厳禁されたことから、友奈に代わって残り四人がその身に下ろす強力な精霊を探すための資料の読み込みをしているからだ。

一方、貴也自身の戦闘力を向上させる妙案はいまだ考えつかないままだ。だから、若葉たちのサポートが出来る訳でも無く、こうして休日は手持ち無沙汰になってしまったのだ。

 

「なにかヒントになることでも無いかな……?」

 

仕方がないのでヒントを探して適当に本を読んだり、ネットサーフィンをしてみたりと時間が過ぎていく。

 

 

 

 

十時を僅かにまわった頃、インターホンが鳴った。出てみると千景だった。アポ無しで来るのは非常に珍しい。いつもならちゃんと約束してからやって来る子だ。それが、完全のアポ無し。

どういう風の吹き回しだろうかと考えながら玄関へと向かった。

玄関のドアを開けると、珍しく少し興奮気味に挨拶してくる。もちろん彼女のことなので、他人と比べると極々ささやかな興奮度合いにしか見えないのだが。

 

「おはよう、貴也くん。これ見て」

 

手提げから出してきたものを見ると有名なFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)のパッケージだ。以前、千景と据え置き型のコンシューマーゲーム機を購入した際に一緒に購入したものでもある。アメリカが舞台の、パンデミックで崩壊した都市をゾンビを蹴散らしながら脱出乃至ミッションをこなすゲームである。

 

「どうしたんだ? それってうちにもあるし、さんざん二人でやっただろ……?」

 

「いいから、いいから」

 

見た目はいつもどおりクールな態度だが、やはりどこか興奮気味の千景。玄関を上がると、ずんずんと貴也を先導してリビングへ向かう。

そして、勝手知ったる我が家の如くゲーム機の用意をし、持ってきたFPSゲームを立ち上げる。

印象的なサウンドと共にゲームが起動する。その音楽とタイトルコールで貴也は違和感を抱いた。

 

「あれ? これって、僕が持ってる奴とのバージョン違いか?」

 

その言葉を聞くや、もう抑えきれないといった風情で大興奮気味に千景が話し始める。

 

「これ、北米版なのよ。北米版! メッセージもセリフも英語だし、BGMもアレンジが違うのよ!」

 

「! ああ、そういうこと……」

 

確かにこのゲームはアメリカが舞台とはいえ、日本で発売されている日本人向けの版はメッセージもセリフも日本語だ。そこが本場の英語に置き換わっているなら、千景の感性ならば確かに嬉しくて仕方がないだろう。

 

「臨場感が違うじゃない。こんなのが手に入ったなんて、今でも現物を目の前にしてさえ信じられないわ。貴也くん、早く一緒にやりましょ! あなたと一緒にやりたくて、プレイするのを我慢して持ってきたんだから!」

 

「ははは……。ところで、どこでどうやって入手したの? そんなレア物」

 

西暦二〇一九年の現在、諸外国の状況は分かっていない。日本と同じならば、二〇一五年にバーテックスの襲撃を受けて滅んだか、限りなくそれに近い状況だろう。貿易など出来るはずもない。

 

「昨日の午後、精霊の資料を購入しに松山の古書店まで行ってきたのよ」

 

「ちょっ、松山!?」

 

「伊予島さんが探してた資料が見つかったって話でね。午前中にお店から連絡があったのよ」

 

「それで、なんで千景が?」

 

「別件で探してた資料が高松でも見つかってね。伊予島さんと土居さんはそちらの購入に行ったのよ。電車賃の節約で松山へは私一人で行ったって訳」

 

「そっか。知らなかったよ……」

 

昨日、貴也はひなたと共に大社本部へと出向いていた。指輪の解析のためだ。そのため三人の行動は知らなかった。なお、若葉についてはひなたが嬉しそうに一日中鍛錬漬けであることを教えてくれていた。

 

「そこで、偶々古い雑貨を扱っている店を見つけてね。なんだか惹かれて入ってみたら、あったのよ! 隅っこの棚に忘れられたように輸入物のゲームが……。持ち合わせが少なくてこれしか買えなかったけど、また機会があったら行ってみないと! ううん、来月にでも行ってみたいわ!」

 

「で、肝心の資料の読み込みは?」

 

「夕方、みんなで集まってすることになってるの。高嶋さんとも三時に約束してるわ。だから、二時過ぎぐらいまでなら一緒に遊べるわよ。…………遊んでくれるわよね……?」

 

「ああ、もちろん!」

 

千景が少し心配げな表情をするので、安心させるよう笑顔でそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間半ばかり、厳しい千景分隊長の指揮下ミッションをこなしていた貴也。

日本語版をやっていたので、なんとかついて行けているのだが、やはり慣れない英語に足を引っ張られていた。

 

「あ、またやられた。やっぱり意味が分からない分、変に気になるんだよなー」

 

「英語? 三百年後は授業では習わないんだっけ」

 

「そもそも外国とのやり取りも無けりゃ、外国人もいないからなぁ。もちろん、和製英語とか生活に溶け込んでいるようなのはあるけど、単語レベルだしなぁ」

 

「だから英語だけ成績が悪かったのね。他の教科は凄いのにね……」

 

「言ってくれるなよ。これでも頑張ってるつもりなん――――――」

 

ピンポーン。

 

話をぶった切るようにインターホンのチャイムが鳴った。

 

「はーい!」

 

千景に断ってインターホンへと向かう。宅配便か何かだと思った。

だが、インターホンの小さなモニターを見て貴也は固まった。

 

『げ……、なんでひなたが? どうして今日に限ってアポ無し?』

 

そこに映っていたのはひなただった。

彼女が約束無しに貴也の家に訪れるのは三月の歓迎会以来だ。食事を作りに来る際は、必ず前もって日時を約束していた。特に日曜日は若葉との付き合いを最優先しているようで、貴也の家に来ることは無かった。だから完全に油断していた。

 

「貴也さん、いるんでしょ? 早く開けてくださいな」

 

ピンポーン。

 

もう一度、チャイムが鳴る。

 

「どうしたの、貴也くん?」

 

後ろからは千景が怪訝そうに尋ねてくる。

もはや、覚悟を決めるしか無かった。

 

 

 

 

「驚きました? サプライズです」

 

玄関を開けるとにこにこしたひなたが立っている。だが、玄関を見るなり目がきつくなった。

 

「どなたか、お客様ですか……?」

 

その視線の先には女物の靴があった。当然、千景のものだ。

 

「あ、いや、千景が来ていて……」

 

柔和な笑顔を浮かべているにもかかわらず、逆に固い雰囲気を身に纏ったひなたは、貴也の弁解を聞いているのかいないのか、荷物を片手にリビングへとずんずん進んでいく。

 

「あら、千景さん。今日は貴也さんとの約束は無かった筈では……?」

 

そしてリビングに入るなり、テレビモニターの前でソファに座りながらコントローラを手にしている千景に、そう声を掛けた。

対する千景は状況が分からないようで、きょとんとした表情だ。

 

「上里さん……? え? なんで……?」

 

だが、それも一瞬だ。ひなたが片手に提げている荷物を見て、納得したような表情をみせる。

 

「ふ……、そういうこと……。伊予島さんが言っていたのは本当だったのね。上里さんが貴也くんの家に、まるで通い妻のように頻繁にご飯を作りに通っているっていうのは……」

 

「あらまあ……、杏さんにそのように思われているのは初耳ですね。でも、千景さんも頻繁に遊びに来ているそうじゃないですか。他人のことを、とやかくは言えないのでは?」

 

ふふふふふ…………

うふふふふふ…………

 

 

 

 

見目良い少女二人の黒さがほのかに垣間見える含み笑いに、貴也は背中に冷たいものが流れるのを感じていた。

 

『おいおい、どうするんだよ、これ……? 誰だよ、『見て見ぬ振りをして先送りしよう』なんて考えてたのは…………。僕だよ!』

 

なぜか分からないが、胃がキリキリと痛み出す。思わず手を当てた。

 

 

 

 

『あらあら、貴也さんの顔が青いですね。千景さんを牽制したいのは山々ですが、それで貴也さんに悪印象を抱かせては本末転倒ですからね。ここは矛を収めておきましょうか』

 

胃の辺りを手で押さえている貴也をちらりと見やると、ひなたはさっとそんなことを考え表情を改めた。

 

一方の千景も同様の事を考えていた。

 

『貴也くんの顔色が悪いわ。どうしよう……。ドサクサ紛れとはいえ、貴也くんに好きだと告白したのは私の方が先の筈だから、泥棒猫みたいな真似をする上里さんが悪いのは当然だけど、ここは自重しないといけないかしら……?』

 

貴也を気遣うことに関しては波長の合う二人。千景もさっと表情を改めた。

 

「それは兎も角として、お昼を作りに来たの? 貴也くんの様子を見る限り、約束はしていなかったようだけど」

 

「ええ。若葉ちゃんが急に実家に呼ばれたものですから……。私も同行しようかとも思いましたが、しばらくぶりの親子水入らずを邪魔するのもどうかと思いましたからね」

 

「そう……。そういえば、そろそろお昼ね。あまり役には立たないでしょうけど、私も手伝うわ」

 

そう言って立ち上がる千景。

ひなたもにこやかに片手の荷物を少し掲げてみせる。

 

「お昼ですから、簡単にうどんにします。手伝ってもらえるなら嬉しいですよ」

 

少しだけだが緩んだ空気に、貴也はホッと一息ついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

キッチンは二人の少女に占拠された。

献立は焼肉サラダうどんだ。

火を使う調理はひなたが、野菜を切ったりするのは千景が分担して作っていく。

千景もごくたまにだが貴也の料理を手伝ったりするので、以前ほど覚束ない手つきではなかった。

 

流石にひなたは手際よく豚肉を炒め、たれで味を調え、並行してうどんを茹でていく。

千景も貝割れ大根、もやし、きゅうり、トマトを食べ頃に切り、サニーレタスをちぎっていく。

 

貴也を気遣ってか、二人とも互いに声を掛けるときは優しげな口調だ。

だが、やはりどこか張り合っているような空気が醸し出されている。

貴也はハラハラしながらそんな二人の作業を見守った。

 

 

 

 

「「「いただきまーす」」」

 

三人して出来上がったうどんを食べる。

食卓での並びは結局ひなたと千景が隣同士並び、その対面に貴也ということになった。

貴也の隣を二人が無言で争った結果だ。

 

「あら? 美味しい! 意外にさっぱりした味になっているわね」

 

「うん、本当だ。焼肉が乗っているから、もう少しこってりした感じかな、って思ってたんだけどな」

 

「うふふ……。たれにも出汁にも秘密があるんですよ」

 

美味しいのだが、しつこさを感じないあっさりした味付けに仕上がっていることに驚く二人。

ひなたは自慢げだ。

 

「今度、自分でも作ってみたいからレシピを教えてよ」

 

「ふふふ……、ダメですよ。企業秘密です」

 

「私にもダメかしら……?」

 

「千景さんには、後で特別に教えて差し上げます。貴也さんには秘密ですよ」

 

「なんで僕だけ……? この扱いの差は一体……?」

 

千景との扱いの差に少しオーバーリアクション気味に愕然とする貴也。

ひなたは胸中でほくそ笑む。

 

『ちょっとした意地悪です。私のいないところで千景さんといちゃいちゃしている罰ですよ』

 

そんな二人の様子を見ながら、千景も何事か考えているようだった。

 

 

 

 

結局、仲良くとも気まずいとも言い難い微妙な昼食となってしまった。

その流れでは千景も昼食後居座ってゲームを続けることもままならず、片付けが終わるとそそくさと帰ってしまった。

外廊下まで見送りに出ると、ひなたに聞かれないように耳打ちをしていったが。

 

「貴也くん。また今度、一緒に思う存分遊びましょう。連絡するわ」

 

ひなたも続けて帰って行く。

やはり、同じように貴也に耳打ちをして。

 

「貴也さん……。あまりあちらこちらといい顔をし続けていると、いつか刺されますよ」

 

そして、ふ、と意味深な笑みを浮かべて身を翻した。

 

『くっ……、そんなつもりはないのに、なぜか心に刺さる……』

 

またもやキリキリと痛み出す胃の辺りを押さえながら、貴也は二人を見送った。

十日ほど後、またもやアポ無し同士の二人が自分の部屋でかち合うことになろうとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、布団の中で千景は昼の出来事を思い返していた。

 

『上里さんはああやって貴也くんを胃袋から捕まえるつもりなのね。私も負けてられないわ。ちゃんと料理を覚えようかしら……? 女の子っぽい服装でアピールするのも有りかも……?』

 

そんなことを考えながら寝返りを打つ。

 

『高嶋さんにも相談してみようかしら? でも、こういうことには(うと)そうよね、彼女は……。なんとか、『ただの友達』から一歩踏み出せるようなアプローチはないかしら……?』

 

悶々としつつも慣れない古い資料の読み込みで疲れた体は、千景を深い睡眠へと(いざな)っていった。

 

 

 

 

一方のひなたも同様だった。

 

『千景さんはゲームを通じて貴也さんと相当仲良くなっていますね。そもそも彼女の場合、良きにつけ悪しきにつけ貴也さんとのイベント事が多かったですからね。北海道行きにせよ、高知行きにせよ、あの告白にせよ……。私も何かガツンと一発イベントを起こさないといけませんね。どういったことがいいでしょうか……? 相談しようにも、こういうことには若葉ちゃんは力になれないでしょうしね……』

 

はぁ、とため息をついた。

 

『とにかく、何かに便乗してでも積極的にアピールしていかなければなりません。ロジカルでありつつ、リリカルに……。そうですね、夏ですものね……』

 

ひなたは『夏』という単語に何事か思いついたのか、ニヤリとすると思い切ったように目を閉じ、体の疲れに身を任せ微睡(まどろ)んでいったのだった。

 

 




ということで、39話の補完でした。
サブタイトル? 一体どういうことでしょうね(すっとぼけ)

この辺りを執筆していた時は「こんな感じのエピソードは入れたいような気もするけど、のわゆ編クライマックスも近いし、入れると物語のスピード感が削がれるよね」と思っていたので、あえて飛ばしたんですけどね。のわゆ編完結後に見返すとやっぱり物足りなさもあったので、肉付けをしつつご開帳です。

さて、後編は何時になるだろうか? 出来る限り早く更新、出来たらいいなあ……
だけども、ゆゆゆ2次の新作も固めたいしなぁ。

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