鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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 前編から半年以上も経って漸くその続き。しかも完結もせずに「中編」とは一体……?

 ということで、本当に永らくお待たせいたしました。
 では、本編をどうぞ。



2019.08 ひなたぼっこ!(中編)

 丸亀城内の朝の教室。

 今日は珍しく、ひなたは若葉との雑談に興じること無くファッション誌を広げて眺めているふりをしていた。ただし机の上に広げるのでは無く、あえて両手で支えることでさりげなく表紙が見えるように調節している。

 そして、視線はなにやら真剣に話し合っている若葉と貴也の姿を捉えていた。

 

『昨日は球子さんの復帰祝いのパーティーがあったというのに、朝早くから二人で鍛錬に励んで、教室に戻ってきても反省会擬きの話し合いをしてるだなんて……。なんて真摯な姿勢のお二人なんでしょう。朝の光の加減で、二人に後光が差しているようにも見えますね。キラキラ若葉ちゃんにキラキラ貴也さんです♡』

 

 ムフフと思わず笑みがこぼれる。

 そして器用に、スマホで雑誌の陰から隠し撮りを何枚も……

 

 まあ貴也は兎も角として寝起きがいまいちな若葉を起こしたのは、ひなたその人なのではあるが。

 

 

 

 

 そうやって、ひなたが若葉と貴也に見惚れていると教室の扉が大きな音を立てて開いた。

 

「うおーっ! この教室も久し振りだなー! なんか、懐かしいぞー!!」

 

「タマっち先輩、はしゃぎすぎ。気持ちは分からないでもないけど……」

 

 大声を上げて教室に入ってきたのは球子。後ろには苦笑いをしている杏が続いていた。

 

 騒々しく入室してきた球子ではあるが、そこはそれ。若葉、ひなた、貴也の順に朝の挨拶を交わしていく。

 そして満面の笑みを湛え、机を挟んで座っている若葉と貴也のコンビの間に顔を突っ込む。

 

「若葉は今日はひなたと一緒じゃないんだな。貴也とえらく仲いいじゃん」

 

「四月の終わり頃からずっと貴也とは朝練を繰り返していてな。今は、そこでの反省点を話していたんだ」

 

「おーっ、あんずから聞いてるぞ。貴也も頑張ってるじゃん。若葉の朝練に毎日付き合うなんて、タマには絶対無理だぞ」

 

「はは……。もう半ば習慣化してしまってさ」

 

 苦笑を返す貴也を弄ろうとする球子。

 一方の杏はというと、ひなたの方へと近づいていく。

 

「何を見てるんですか、ひなたさん?」

 

 そう言ってファッション誌を覗き込んでくる。

 

「あれ? 夏物の特集ですね、これ。もう秋物の購入を考える時期ですよ?」

 

「最近は残暑も長いし暑いですからね。もう一着ぐらい、何か買おうかと思いまして」

 

 にこやかに返すひなた。だが、心中では『違う! 貴女ではありません!』との言葉が渦巻いていた。

 そんなひなたの心中を察することなく、杏はひなたが開いているページの服装を見て感嘆の声を上げる。

 

「うわー! でも可愛いですね、この服! 私も何かもう一着くらい夏物を買おうかな?」

 

 その声に反応した球子が振り向く。

 

「お? あんず、なんか可愛い服があったのか?」

 

 と、その視線がひなたの持っているファッション誌の表紙に釘付けになる。

 

「おーっ、水着じゃん! いいな……。そうだ! みんなで泳ぎに行かないか?」

 

 その言葉に、ひなたは今度こそほくそ笑む。心の中では思わずガッツポーズだ。

 

『食いつきました! これを待っていたんです!』

 

 しかし、そんな球子を若葉が窘める。

 

「球子、決戦も近いんだ。浮かれている場合じゃないんだぞ。そもそもお前がここに呼び戻されたのも、その決戦に備えてだな……」

 

『若葉ちゃん、やめてください。そんなことを言ったら球子さんが矛を収めてしまいます。私の計画を邪魔しないで~!』

 

 ひなたは若葉の苦言に心の中で悲鳴を上げる。

 しかし、ひなたの予想に反し球子は反論をぶち上げた。

 

「分かってないなー、若葉は」

 

「なに?」

 

「こういう時だからこそ、力を抜いて備える必要があるんだぞ。四月の時だって、まあ貴也の活躍のおかげもあったけどさ、花見の約束だって重要な役割を果たしたとタマは思うぞ。あの約束があったから、あの約束を果たそうと思っていたから、みんな生きて帰れたんだってな」

 

「ぐっ……、確かに一理あるな。球子にやり込められるとは……」

 

 悔しそうな表情を見せながらも納得する若葉。

 そして、その若葉の態度にほっと一息つくひなた。

 

「よし、じゃあ、若葉も納得したことだし、あんず! 明日、水着を買いに行くぞー!」

 

「えー!? タマっち先輩、ちょっと気が早くない!?」

 

「善は急げだ! 明日は半ドンだし午後は水着を買いに行って、明後日、泳ぎに行くぞー!!」

 

「大丈夫か? この時期、どこも混んでいるんじゃないか?」

 

 気の()いた発言をする球子に対して引き気味の杏、懸念を示す若葉。

 だからひなたは、ここが自分の出番だと(わきま)える。

 

「じゃあ、私が大社に話をつけておきますね。それで────」

 

 そこまで話したところで、また教室の扉がガラッと開く。

 

「おっはよー! みんな、朝からなに騒いでるのー?」

 

「おはよう……」

 

 入ってきたのは友奈と千景。友奈は教室の外まで聞こえてきていた話に興味津々の様子だ。

 だが、まず返ってきたのは皆を代表した若葉の心配の言葉。

 

「おはよう、友奈、千景。友奈、もう大丈夫なのか?」

 

「うん! もう大丈夫だよ! 一晩寝たらスッキリで、もうこんな感じ!!」

 

 昨日の夕方、友奈は立ちくらみを起こし気絶して倒れていたところを発見されていた。そのため、大事をとって安静にする必要があり、パーティーも欠席せざるを得なかったのだ。

 だが、もうすっかり元気な様子だ。友奈はガッツポーズを取りながら、その場でピョンピョンと飛び跳ねてみせる。

 そして皆と挨拶を交わした後、球子の提案の詳細を聞き歓声を上げた。

 

「うわーっ! タマちゃん、良いアイデア! 私、昨日パーティーに出席できなかったからさ。代わりにそれで盛り上がろうよ!!」

 

 満面の笑みを浮かべてはしゃぐ友奈。

 そんな友奈を複雑そうな表情で眺める千景。

 だが、何も意見を言ってこなかった。

 

 一方、勝手に口角が上がるのを必死で押さえているひなたがいた。

 

『計画どおり……、いえ、それ以上ですね。まさか明後日、泳ぎに行くことになろうなんて……。球子さんを誘導したのは私ですが、ここまで上手くいくとは思いませんでした』

 

 そして、視線を下に向ける。そこには、これまで自分の武器であるなどとは考えもしなかった『女の武器』が強烈に存在を主張していた。

 

『貴也さんだって男の子ですもんね。初めて私が貴也さんを意識したのも、これのおかげですし……。でも、自分からあからさまにこの武器を振りかざす様な真似をするのは逆効果かもしれませんしね。上手くいきました』

 

 さらに千景を見やる。

 

『料理で貴也さんの胃袋を掴みつつあるんです。千景さんにはやはり真似のできない、この二つ目の武器で勝負を決めに行きます!』

 

 最後に熱い視線を貴也へと向ける。

 

 

 

 

 そして、貴也は内心で手を振っていた。

 

『いってらっしゃ~い』

 

 だが、その他人事の様な態度を目敏く見抜いた者がいた。球子である。

 

「こら、貴也! なに、自分には関係ありませ~ん、て態度をしてるんだよ?」

 

「え? だって、水着の女子軍団の中に男子一人だけ混ざるってのもヘンじゃないか?」

 

 その言葉は球子の逆鱗に触れた様だ。球子は目を吊り上げて叱ってくる。

 

「なに、バカなこと言ってんだよ! お前だって、タマ達の仲間だろうが! イヤだって言っても、首に縄括り付けてでも連れて行くからな!!」

 

「ええーっ!?」

 

「つべこべ言うな! お前、水着だって持ってないだろ? 明日、タマとあんずと三人で水着を買いに行くからな! 覚悟しておけよ!!」

 

 球子の強い態度に、既に白眼を剥いている貴也。

 すると、友奈が球子に話しかけてくる。

 

「タマちゃん。私たちも一緒に行って良いかな? 貴也くんに見られるんだったら、私たちも水着を新調したいし」

 

 その言葉に慌てるのは、今度は千景だった。

 

「え、高嶋さん? 『私たち』って、もしかして私も入っているの?」

 

「もちろんだよ、ぐんちゃん。ぐんちゃんだって、貴也くんに見られるなら可愛い水着を着たいでしょ?」

 

 その言葉に真っ赤になり、もう何も返せなくなる千景。頭から湯気を噴いている様な感じだ。

 

 そして、更に自分の想定以上の事態に発展していることに興奮しているひなた。

 

「なら、私たちも一緒に行きます。若葉ちゃんも一緒に行きましょうね」

 

「いや、私はまだ去年の水着を着られるし……」

 

「そんなこと言ってないで一緒に新調しましょう。いつ、どこで、誰に見られるか分からないんですよ。『お、勇者が去年と同じ水着を着ている』なんて思われたら末代までの恥です。行きましょう」

 

「む! そうか。なら、私も行くか」

 

 こうして翌日、七人揃って水着を買いに行くことになったのだった。

 

 

 

 

 なお、余談として安芸真鈴にも声を掛けたのだが、彼女は巫女のお役目が外せなくて地団駄を踏んだそうだ。

 また、ひなたは大社の各所に根回しをし、翌々日の海水浴場まで押さえていた。ただ貸切にはなったのだが、彼女の希望は満足できなかったようだ。時間が無い中での調整であったので、ひなたも渋々納得したのではあったが。

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 翌日の午後、若葉たち七人は連れ立って丸亀市内でも最大級の品揃えを誇るスポーツ用品店を訪れていた。

 店に入るなり、球子が貴也の腕を引っ張り男性用水着の売り場へと直行する。貴也はつんのめって転けそうになりながら後をついていっている有様だ。

 

「まずは貴也の水着とかを揃えるぞ!」

 

「ちょいちょいちょいちょい……!」

 

 有無を言わさぬ強引な球子の行動に文句を言う暇も無く連れ回される貴也。そして、あーでもない、こーでもないと、水着やら何やらとっかえひっかえで押し付けられている。

 そんな二人をもはや半目で眺めるだけの若葉とひなた。

 

「何というか、いつもは杏に対して発揮されている球子の姉属性が貴也に対してまで発揮されているな」

 

「確かに……。もはや世話焼きな姉に連れ回される大きな弟と化していますね」

 

 

 

 

 一方その頃、友奈は女性用水着売り場で困り果てていた。千景が水着の購入を頑なに拒んでいたからだ。

 

「だから、私は強引に連れてこられただけよ。海水浴には一応ついてはいくけど、海に浸かるつもりはないし、だから水着も着るつもりはないわ」

 

「だって、これはチャンスだよ? 水着を着るのが恥ずかしいの? そういえば、今まで一度だって水着を着たこと無かったよね?」

 

 心配そうな表情で覗き込んでくる友奈。だから千景は意を決して告白する。

 

「詳細は言えないけど、体に傷があるのよ。だから……」

 

「そうなんだ……」

 

 その告白に困った様に眉尻を下げる友奈。暫く思案顔になった後、千景を近くの試着室に押し込み自分も入る。

 

「誰にも言わないから、その傷、見せてみて」

 

「え……?」

 

 

 

 

「うん! これぐらいなら隠せるデザインの水着もあるよ。ビキニタイプでもいけそう!」

 

 千景の体の傷の位置や大きさを確かめると、そう友奈は太鼓判を押した。

 

「本当なの……?」

 

「ホントだよ。大丈夫だよ、ぐんちゃん♪」

 

 半信半疑とでも言いたそうな千景にさらに肯定の言葉を重ねる。

 千景の表情がぱぁーっと明るくなった。

 

 そしてその後すぐ、友奈は千景を着せ替え人形にしていた。

 

「ほら、ぐんちゃん! これ可愛いよ。着てみて、着てみて」

 

「高嶋さん……。あの、ビキニは恥ずかしいからやめておきたいんだけど……」

 

「いやいや、攻めていこうよ、ぐんちゃん。後悔、先に立たずだよ。戦いは先制攻撃あるのみだよ」

 

「な、な、な、何の話をしてるのよ!」

 

 なぜか布地面積の少ない物を重点的に勧めてくる友奈に、千景はしどろもどろに防戦一方になっていた。

 

 

 

 

 そして友奈による千景の水着選びが佳境に入った頃、ようやく貴也の水着が決まった。

 

「おう! やっぱりこれが一番だな。貴也の水着はこれにけってーい!」

 

 それは黒一色ににオレンジのストライプが入ったボードショーツタイプのデザインの物だった。

 試着した貴也の姿を眺め、自分の審美眼にご満悦の様子の球子。

 貴也はうんざりした様な表情をみせながらも、球子に感謝の言葉を投げかけつつ試着室のカーテンを閉める。

 そして、そんな二人を見つめる杏はなぜか鼻息を荒くしていた。

 

「タマっち先輩、もしかして無自覚に貴也さんを自分色に染めようとしてない? あの水着の色といい、今回の貴也さんへの関わり方の積極性といい、これはもしかしてもしかするかも? あ……!」

 

 あまりに興奮しすぎたのか鼻血を垂らす杏。頭を反らし首の後ろを手刀でトントンしながら、更に自分の世界に入り込み妄想を迸らせるのであった。

 ちなみにこの杏の鼻血の対処法は間違っている。実際はうつむき加減で鼻をつまむのが正解だ。まあ、勇者の回復力があるのだからどうでもいい話ではあるが。

 

 

 

 

 さて、貴也の水着が決まったということは後は女性陣の水着選びである。だが……

 

「そんなもん、明日の楽しみに決まってるだろ!」

 

 球子の宣告とともに店を追い出される貴也。

 頭を掻きながら近くの書店へと暇を潰しに向かう。

 

『まあ、どんなのがいいか聞かれても困るだけだしな。でも、楽しみにしておけか……。ん? 本当に楽しみにしてていいのか? なんか僕の立ち位置的にマズイんじゃ……』

 

 同年代の少女たちの水着を楽しみにするとは、それはちょっと変態的なのでは? との疑念がよぎる。だが、それを深く追及するのまたマズイ気がする。

 結局、そういった雑念を頭から振り払い、なにか面白い本でもと書店の中を彷徨うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 スマホに買い物が済んだとの連絡があったので若葉たちと合流する貴也。

 まだ時間に余裕があるので、喫茶店でお茶でもという話になった。

 

 適当な店を探して入店する。七人という大所帯なので店の奥の方へと通された。壁際が一連のソファータイプの椅子となっていて、テーブルは二人用が並んでいる一角だ。

 店員がそこに並んでいる四つすべてのテーブルをくっつけ、木製の椅子を並べ直して貴也たちを促す。

 

「じゃあ、適当に座ろうか」

 

 若葉がそう言うなり、友奈が素早く行動を開始する。

 

「じゃあ、貴也くんは奥側ね。で、ぐんちゃんがここ!」

 

 貴也の腕を掴むなり壁側へと押し込む。そして、その隣に千景を押し付ける。

 もちろん体が密着するはめになり、貴也も千景も真っ赤になる。

 

「えっ! ここっ!?」

 

「ちょっと、高嶋さん!?」

 

 それを見たひなた。慌てて貴也の逆ポジションを確保する。

 

「では、私はここで。若葉ちゃんは私の前に来てくださいね」

 

「……ああ」

 

 そのひなたの行動の素早さにあっけにとられる若葉。返事もどこか気の抜けたものになる。

 そして、杏は球子の腕を肘でつつく。

 

「タマっち先輩、いいんですか?」

 

「ん? なにがだ、あんず?」

 

 どうも杏の心配の理由を、球子は全く気づいていない様子だ。

 だから杏はため息を付きながら小声で呟く。

 

「はぁ~。もういいです。タマっちの気持ちが育っていくのを、じっくり、ゆっくり待ちますから。でも、早くしないと手遅れになっちゃいますよ……」

 

 

 

 

 結局、皆の配席はこうなった。ソファー側が店の入口から見て左から杏、千景、貴也、ひなたの順。対面の椅子席が球子、友奈、若葉の順だ。皆の大量の荷物は杏の横に置かれることになった。

 そして、注文した品が並べられる。皆、ケーキセットで横並びだ。これもメニュー表を見ながら議論百出であれやこれやと意見を擦り合わせた結果である。もちろんケーキや飲み物の種類は各々好みに合わせている。

 

 皆、いただきますの挨拶の後、美味しそうにケーキをぱくつく。貴也も目の前のモンブランに掛り切りとなる。

 すると、その様子を興味深そうに見ながら若葉が声をかけてきた。

 

「そういえば、貴也も甘いものが好きだな。パーティーでもケーキをよく食べていたし」

 

「ああ、まあ嫌いじゃないよ。甘ったるいのは苦手だけど、これぐらい控えめな甘さなら、むしろ大好物さ」

 

 その言葉を受け、今度は杏がニヤニヤしながら尋ねてくる。

 

「三百年後の世界でもよく食べてたんですか?」

 

「ああ、まあ、たまにはね」

 

「こういったお店に入ることもあったんですか?」

 

「ん? なんで?」

 

「いえ、男の人だけじゃ入りにくいかな? と思って」

 

「そうだなー」

 

 そう言いつつ神世紀での出来事に思いを馳せる。そして、この西暦に飛ばされる直前の夏の事を思い出す。園子に、自分だけに構うな、と銀や妹の千歳と遊びに行かされたな、と。

 

「僕には六つ下の妹がいてさ、そいつと一緒に行ったことがあるな。あー、それと一つ下の友達とも」

 

「その友達って女の子ですか?」

 

 その杏の言葉に、銀の顔を思い浮かべながら答える。

 

「ああ、そうだけど?」

 

 その瞬間。

 

 

 ピキン!! 

 

 

 貴也の両脇から、一瞬にして硬い雰囲気が漏れ出す。

 貴也からは見えていないので気づいていないのだが、ひなたと千景の瞳からハイライトが消失していた。

 

「まあ、その子も当時の勇者で、僕の戦い方の師匠だったんだけどさ……」

 

 貴也は両脇の人物からの違和感には気づいたものの、あまり重大な事態であるとは受け止めずに話を続ける。

 だから、友奈が慌てて話の方向を変えようと発言する。

 

「そ、そ、そ、そういえば、その貴也くんの妹って、なんかぐんちゃんに似てるところがあるって、前言ってたよね?」

 

 だが、あまりにも慌てていて考えがまとまらず、話題を完全に逸らすことには失敗する。

 

「そういや、そんな事を話したことがあったな。確か諏訪の時だっけ?」

 

「そうそう!」

 

「ちょっと面立ちが似てるな、って程度で、性格なんかはまるで違うと思うけどね」

 

 そのまま貴也の家族の話が暫く続くことになった。

 そして、貴也の両隣。ひなたと千景は終始ギクシャクと、彼女たちにとってもはや味のしなくなったケーキを口に運ぶのであった。

 

 




 ひなたちゃん暗躍回でした。

 えー、杏の妄想による先走りが主だったものですが、このお話でお分かりのように中途離脱がなければ球子が貴也に対する第三(園子を入れると第四?)の刺客になっていた可能性がありました。実は31,32話のあれやこれやの描写はその名残です。
 ただ、それをしますとねえ。やたら長くなって、本編のストーリーがちっとも進まなくなるんですよ。

 と、いうことで次回後編の水着回へと続きます。

 なお、週二ペースで今回を含めて計4話を投稿予定です。そのうち最初の3話は「ひなたぼっこ!」の題名が続くことになります。そして最後の1話は神世紀の後日談、貴也が大学生の時期のお話となります。


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