鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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クリスマス前に間に合った……。

「ひなたぼっこ!」の続きは季節外れすぎるのでお蔵入り。(未完成とも言う)
ゆゆゆ2次の新作はこねくり回したプロットがやっと形になりそうな段階。(企画倒れ気味とも言う)
代わりに受信に成功した、単なるイチャイチャを投稿します。

いつもよりも非常に短いですが、本編をどうぞ。




0308.12 白銀(しろがね)の双輪

「ただいま~。ううーっ! さむさむっ!」

 

貴也が玄関まで迎えに出ると、帰宅したばかりの園子はまだブーツを脱いでいるタイミングだった。

 

「おかえり、そのちゃん。寒いったって、今日も車で送ってもらったんだろ? なら、下の車寄せから玄関までじゃないか」

 

「急に冷え込んできたからね~。その距離でも体が冷えちゃうんさ~。――――――ん!」

 

まあ、確かにここはマンションの最上階だ。エントランスから部屋の玄関までの間に体が冷えることもあるだろう。

言い訳をしながら上がり込んできた園子だが、急に目をつぶると唇を突き出してくる。

そのあからさまなおねだりに苦笑したが、特に断る理由も無い。すぐに応えてやる。

 

チュッ。

 

「ええ~? これだけ?」

 

冷え切った唇に軽く口づけるだけのキス。だからだろうか、不満いっぱいの声が返ってくる。

 

「体を温める方が先だろ?」

 

「そうかもしれないけどさ~。ん。ありがと」

 

コートを脱がせ、マフラーを受け取ると玄関脇のクローゼットに収める。

不満たらたらであっても、すぐに感謝の言葉を掛けてくるのには育ちの良さを感じさせた。

 

「お、いい匂いがする~。今日は早かったんだね~」

 

「園子ほど激務じゃないからね。たまには早く帰れるさ。で、今日は鍋焼きうどんを用意してみたよ」

 

「あ~、お腹ぺこぺこなんよ~。帰ってきたら温かい食事が用意されてるなんて、同棲を始めて良かったって思うことの第一位なんよね~」

 

「色気より食い気かよ」

 

「三大欲求の中で一番強いのは食欲なんよ」

 

「本当かよ? 園子の場合、睡眠欲なんじゃないの?」

 

「仕事中は学生時代ほど居眠りはしてませーん」

 

「ほど、ってことは数や時間は減れどもやってるって事だよな?」

 

「ばれたか~。へへへ……」

 

 

 

 

園子の助けになればと思って大学卒業後大社に就職した貴也だったが、一般職員ではまったく思うようには行かないことを痛感していた。

そこで、同棲を始めたのを機に家事面でのサポートを心がけるようになったのだ。

 

 

 

 

一方の園子は表向きは秘書室の職員、事実上は大社の顧問といったところだ。

大社の表向きのトップは園子の又従兄弟にあたる四十代の男性だ。非常に優秀な人物だが、実はその彼さえも園子の手のひらの上で転がされているのが実体だ。

 

今の大社の仕事は従来以上に多岐に渡っている。信仰をベースに民心を安定させ、四国を統治する政府と連携して政治を行う。また、本格化しだした本州、九州への再入植、外国の神々との戦いを含む結界外への調査等々。

それらの調整を行いつつ、旧大赦時代に行きすぎた隠蔽体質の改善など、園子の所掌する仕事は多く複雑であり、激務にその身をやつしていた。

幸いだったのは、トップの彼を始めとする彼女の手足となる優秀なスタッフに恵まれたことだろう。ある程度方針を定めれば自動的に物事が動く部分も多かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

熱々のうどんをはふはふ言いながら食する二人。

その合間合間に言葉を交わす。

園子の楽しそうな態度に、貴也も思わず顔がほころんでいた。

 

「もう十二月。クリスマスシーズンだよね~」

 

「そうだな。今年のイヴはどうするんだ?」

 

そんな問いかけにイヴの予定を問い返すと、園子は予め用意していたのか、近くに置いていたポシェットからチケットを取り出す。

 

「じゃーん! 今年はいっつんのコンサートチケットが当選しましたー!!」

 

「へー、凄いじゃん。毎年、倍率高いもんなー」

 

「だから、これに合わせてスケジュールを決めるんさ~。それでね、園子様特権で楽屋への挨拶もオッケーなんだって」

 

「おいおい、あんまり職権を濫用するなよ」

 

「分かってるけど、今回は特別だよ~。大体、職権濫用をしないからチケットの入手も一般当選に任せてるんだし……。それより、ゆーゆのお店ででっかい花束用意しないとね」

 

「そうだな。そういや友奈にもしばらく会っていないな。みんな元気にしてるかな?」

 

就職してからこっち、かつての勇者の面々とはほとんど会っていない。顔を合わせる機会があったのは、同じ大社に所属する夏凛、芽吹、怜、亜耶ぐらいのものだ。他の皆はそれぞれの道を歩んでいる。

 

「あっ!? ダーメ! 今日はゆーゆたちに思いを馳せるのは無し~。私だけを見てよ~」

 

急に声色を変えて、園子が甘えるようにダメ出しをしてきた。そんな彼女の態度に疑問を抱く。

 

「どうしたんだよ? いつもの園子らしくないなぁ」

 

「だって~、急に寒くなったし、ここんとこ仕事に追われてたぁくんとこんなに話すのも久し振りだし、なんだか寂しくなっちゃったんだ~」

 

ふわっと周りの空気が急に濃くなった気がした。

 

 

 

 

いつ頃からだろうか?

園子から香る匂いが、花のような甘くも爽やかな感じから噎せ返るような甘ったるい匂いに変わったのは。

それは年々濃くなってゆく。シチュエーションによってある程度は濃くなったり、薄くなったりもするのだが。

 

少し匂いの成分のバランスが崩れれば気持ち悪くなるのではないかと思われるほど濃厚な匂い。

だが、まったく気持ち悪くなどならない。

むしろ自分の中の獣性を刺激してくる、心地よくも刺激的な香り。

 

他の女性から香ることもある。(うっす)らとではあるが……。

だが園子から香る匂いは、その何十倍もの濃さがあるように感じた。

 

『これがフェロモンってものなのかな?』

 

貴也はそう思っている。

 

 

 

 

「だからね……今夜は…………」

 

「明日も仕事があるだろ? 週末、週末」

 

濃厚な甘ったるい香りが鼻腔をくすぐる。

彼女は言葉でも、仕草でも、表情でも、そして体の生理的変化でも誘ってきていた。

 

だが、まだ週の半ばだ。

激務に疲労しているはずの彼女の体をこそ気遣うべきだろう。

そうすることが彼女への優しさだと、自分の中でむくりと起き上がる衝動と熱情を抑えに掛かった。

だが……

 

「そりゃ、体も疲れてるかもしれないよ……。でも、心の疲れも癒して欲しいなあって……」

 

心なしか、いや、明らかに園子の瞳は潤んでいる。縋るような表情だ。

貴也としても、強行に反対する理由は何も無かった。気持ちが揺らいだ。

 

「ダメ……?」

 

小首を傾げてそう尋ねられたのが、揺れる貴也の気持ちにとどめを刺した。

 

「ああ、分かったよ。でも、ちゃんと寝る用意をしてからな?」

 

「うん」

 

気恥ずかしそうに、そして消えてしまいそうに儚げな喜びを見せる園子。

そんな彼女の姿に、自分はなんて幸せな奴なんだろう、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

仲良く一緒に食事の後片付けを済ませると、貴也は園子を浴室へ送り込んだ。

一瞬、一緒に入ろうかとも思ったのだが、それをすると長期戦になりそうなので今夜は我慢することにする。

 

「今日は軽めにしとかないとな……」

 

タオル等を用意しつつ寝室に入り、いつも二人で寝ているダブルベッドを見やりながら独りごちた。

 

『そう上手くいくかな……?』

 

なんだか悪魔の囁きが聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

結局、その夜はこってりと園子を可愛がることになってしまった。

そして深い満足感を覚えつつも、いつ眠り込んだのか分からないほどぐっすりと眠り込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めた。

心地よい疲労感を伴う気怠さがあった。

寝ぼけ眼でヘッドボードの宮に置いてある目覚まし時計を手に取る。

 

「うぉっ!! もうこんな時間!!」

 

起床すべき時間をだいぶ過ぎていた。

遅刻を免れるにはギリギリの時間だ。

 

「起きろ! 園子!!」

 

「うにゃ~!? なにごと~?」

 

園子をたたき起こしたが、まだ半分寝たままだ。

その彼女を熱いシャワーを出した浴室に放り込むと、最優先で彼女が出勤する支度を整えてやる。

確か、今日は朝一で政府関係者との会議があったはずだ。

 

 

 

 

何事にもゆっくり気味な園子を急かせて、玄関まで送り出した。

 

「ほらほら、下でお迎えが待ってるんだから早く早く!」

 

「へへへ……。こんなに遅くなっちゃったのは、夕べたぁくんが寝かせてくれなかったからなんよ~。激しかったもんね~」

 

「園子だって同じだったろ!?」

 

「うん。せめて最後の一回は我慢すれば良かったかな~?」

 

舌をペロッと出して、そんな事をのたまう。

 

「急げ急げ! 僕の方はもう遅刻確定なんだからさ!」

 

背中を押して玄関から送り出す。

 

エレベーターホールに消える直前、彼女が振り返った。

 

「あっ、そうだ! 今日の遅刻はもみ消しとくから大丈夫だよ~」

 

そう言うと、手を振って姿を消した。

 

 

 

 

「やっぱり職権濫用じゃないか……!」

 

そうぼやきながら部屋の中に戻る。

昨夜の艶めかしかった彼女との落差にため息をついた。

 

『でも、そのちゃんらしいと言えばそのちゃんらしいか……』

 

彼女が初恋の相手で良かったと、一番大切な女性であって良かったと思う。

そして、出勤の準備をすべく急いで自室へと向かった。

 

 

 

 

貴也が慌ただしく通り過ぎたその横、シューズボックスの上で何かがキラリと光る。

そこには、新品と見紛うほど綺麗なピンクのラインの入ったシルバーと、至るところに傷が付き、少し形が歪んでいる黒のラインの入ったシルバーの、二つのブレスレット。

その二つが寄り添うように飾られていた。

 

 




貴也からの園子の呼び方(「園子」と「そのちゃん」)は意図的に使い分けていますので、ご了承ください。

ちなみに、下記アドレスをクリックすると『夜の増量版』に飛びます。(R-18になるので18歳未満のよい子はクリックしちゃダメよ)
https://syosetu.org/novel/209707/
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