鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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例年12月~4月は忙しいことは分かっていた。
だが、今年は新年早々目が回る忙しさだ。
なぜか? 人員削減で、昨年まで二人でやっていた仕事を一人でやらざるを得ないからだよ!

ということで、忙しくてボロボロになっている合間に書いたよ。
なんとか、今日のこの日のうちに投稿できました。

では、本編をどうぞ。



0301.02 ちょこっと自信を持って

「はーい、とーごーさん♪」

 

「あら、友奈ちゃん。ありがとう♡ 私もお返しよ、はい♡」

 

「わーい! ありがとう、とーごーさん」

 

「私も友奈ちゃんに貰えて嬉しいわ。西洋由来の風習だけど、これ位なら受け入れられるわね。名称さえ和風に変えてしまえば、更に文句の付けようがなくなるのだけど……」

 

最終決戦も終わって、早一ヶ月。勇者部部室は華やいでいる。

今日は二月十四日火曜日。(セント)バレンタインデー。

友奈が皆にチョコを配っていた。いやいや、部員同士でチョコの贈り合いになっている。全員、示し合わせたように手作りチョコだ。市販品そのままを配っているのは一人もいなかった。

 

「これは、誰のチョコが美味しいのか食べ比べになっちゃうわね」

 

「ドキッ! どうしよう……、私のって美味しいのかな……?」

 

「樹のは美味しいかどうかよりも、食べられるかどうかの方が、ね?」

 

「お、お、お、お姉ちゃん!? それは酷いよ!?」

 

あちらでは犬吠埼姉妹がじゃれ合っている。

 

「で、なに? 園子……。これは何を象ったチョコなのよ?」

 

「うん、人型進化体のサンチョだよ」

 

「………………アンタのセンスにはついていけんわ……」

 

そちらでは、園子のシュールで前衛芸術的な造形の手作りチョコに夏凛が口元をひくつかせている。

 

「でも、まあ、全部友チョコだもんな。園子以外は本命チョコは無しか……」

 

そして、ここでは銀が天を、いや天井を仰いでいた。

ところが、その嘆きの発言に反抗する発言が。

 

「フフフ……、そんなことないよ、銀ちゃん。私のは全部本命チョコだから!」

 

目をキランと輝かせ指をピストル形に顎に当て、どや顔で言い放つ友奈。もちろん本人は冗談のつもりだ。だが……

 

「ぐふぅっ……!!」

 

いきなり美森が吐血するや、いろいろと他人には見せてはいけない幸福感いっぱいの蕩け顔で倒れる。

 

「とーごーさん!?」

 

「東郷先輩!?」

 

「須美!? 何やってんだよ!?」

 

「あーあ。友奈、やっちゃったわね」

 

「わっしーのいつもの発作だよね。お~い、わっしー♪」

 

いきなりの美森の反応に驚く友奈、樹、銀。風はあきれた口調で友奈を軽く非難し、園子はどこからか指し棒を取り出すや美森のメガロポリスの頂点をちょんちょんとつつき出す。そして夏凛は呆れましたのジェスチャーをしながらため息をついていた。

 

「ぐふっ……。ちょっと、そのっち。何してるのよ!?」

 

「あはははは……」

 

「ちょっと待て、須美。その口から出てるのはあたしが贈ったチョコか?」

 

「そうよ。丁度、銀のチョコの味見をしているところで、友奈ちゃんの言葉のキューピッドの矢が……」

 

「なんで、チョコがそんなに赤いのよ? ……って、これのせいか」

 

風が自分に贈られた銀のチョコを確認すると、立方体形のチョコでありながら斜め半分にスパッと色違いになっている。半分は普通のチョコレートの茶色、半分はピンク色だ。

 

「フフフフフ……。銀様必殺、ハーフ ルビーチョコだ!」

 

「へー、上手いこと組み合わせてるわね」

 

「綺麗に合わせるのに、ちょっと苦労したんだぜ」

 

「アンタはパティシエールか!?」

 

「悲しいことに贈るべき男子がいないんだが……」

 

夏凛の賞賛、風の揶揄に得意げな表情を見せる銀だが、何故か最後には自虐に走る。

そんな姦しいてんやわんやの一時も一段落していく。

 

 

 

 

「まあ、友奈の本命発言には驚かされたけど」

 

「ははは……。冗談ですよー、風先輩♪」

 

「まあ、それは兎も角として……」

 

風の視線が友奈から園子へと移る。とても悪い笑顔だ。つられて皆の視線も園子に集まる。

 

「乃木。アンタ、鵜養にはもうチョコを渡したの?」

 

「ううん。まだだよ~」

 

「へ? じゃあ、どうすんの?」

 

「今日、五時半に駅で待ち合わせしてるんだ~」

 

「ほうほう、それは、それは、お熱いことで……」

 

風の疑問に園子はあっけらかんと答えていく。

樹には悪い予感がしていた。

 

『お姉ちゃん、もしかしたら出歯亀をしに行くつもりじゃ……?』

 

そう樹がやきもきしている間にも話は進んでいく。

どうやら、貴也と園子の間では以前から約束が出来ていたらしい。

チョコの受け渡しにわざわざ貴也が、大橋市から一時間を掛けて電車でやって来るのだ。

 

 

 

 

「それじゃ、お先に~」

 

園子がいそいそと部室を後にする。

彼女の足音が遠ざかり、聞こえなくなった時点で風が皆を呼び寄せる。

 

「じゃあ、見学に行く人はいる?」

 

「お姉ちゃん、やめておこうよ。園子さんにも貴也さんにも悪いよ……」

 

「ホーント、風も好きよねー」

 

風の企みに樹は異を唱え、夏凛は呆れた声を上げる。

銀はニヤニヤとしているだけだし、美森は友奈を見つめたままだ。

 

「友奈はどう?」

 

「うーん、園ちゃんには悪い気もするけど、貴也さんにも会ってみたいしなぁ~」

 

「じゃあ、決定! ということで」

 

「ホントに行くの?」

 

「おやぁ? 夏凛には向上心というものが無いのかなぁ~。今後のためにも先達の行動を学習しておくべきじゃないかしら?」

 

「なんで、覗きと向上心がリンクするのよっ!? いいわよ! そうまで言うなら行こうじゃない!」

 

風の煽りにチョロく乗っかる夏凛。

 

「私は友奈ちゃんが行くなら……」

 

「園子がなんかヘンなことしないか、監視という名目なら……」

 

友奈のことに限っては主体性のなくなる美森に、何でもいいから理由さえつけばという態度の銀。

実は既に勇者部の新部長に就任している樹は頭が痛くなってきた。

 

『私、こんな自由な人たちを率いて部長をするなんて、本当にやっていけるのかな……?』

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

意外に早く追いついた。

視線の先には、鼻歌を歌いながら駅へと向かう園子の後ろ姿。

勇者部六名の少女たちは、息を潜めながら仲間の後ろ姿を追っていく。

 

「乃木の奴、ご機嫌ねー」

 

「そりゃそうさ。貴也さんに会うの、二週間ぶりだし」

 

「これだけの距離の遠距離恋愛で二週間ぶりって、結構頻繁なんじゃないの?」

 

上機嫌の園子の姿にニヤニヤしながら風が寸評を加えると、その理由を銀が答える。そこにすかさず夏凛のツッコミともとれる発言が続く。

 

「園ちゃん、ホントに幸せそうだねー」

 

「私も友奈ちゃんが隣にいてくれれば、それだけで幸せよ?」

 

今にもスキップでも始めそうな勢いの園子。

ニコニコと友奈が隣の美森に話しかければ、平常運転な答えが返ってくる。

 

『私は、一体何をやっているんだろう?』

 

一人、樹は哲学的な気分に落ち込みながら、先輩五人の後に続く。

 

 

 

 

程なく讃州駅に着く。

予め電車の時刻に合わせて行動していたのか、園子が駅舎に入るのとほぼ同時に大橋市方面からの電車が到着する。

駅舎の外から中を窺っていると、降車客がぞろぞろと出てきた。

と、園子が体を伸び上がらせて大きく手を振る。貴也が出てきたのだ。

 

二人が合流すると、その視線がこちらを向きかけたので、慌てて隠れる勇者部一同。

ところが、駅舎の中から外へは死角があるものの、外に出てこられるとかなり遠くまで行かないと隠れる所が無い。

 

「ちょっと、ちょっと、外に出てこられたら隠れる所が無いわよ」

 

風が慌てふためくが、どうしようもない。

だが、降車客がぞろぞろと外へ出てくるにも関わらず二人はなかなか出てこない。

もう一度駅舎の中を覗くと、園子が普通に紙袋を貴也に渡しているところだった。

 

「なによ、なによ。少しはためらったり、恥じらったりするもんじゃないの?」

 

「あー、やっぱり二人はちゃんと付き合ってるんだな。良かったよ。あたしはこれを確認したかったんだ」

 

「なによ、銀。アンタ、裏切る気?」

 

「裏切るも何も、あたしは小学生の頃から二人の事を見てきたんだぜ。今まで園子が受けてきた仕打ちを考えるとさ、二人、ちゃんと付き合ってて欲しいって思うもんだよ」

 

「それじゃ何? 野次馬根性でついてきたアタシって最低じゃない」

 

「今頃気づいたの、お姉ちゃん?」

 

「あうー」

 

風と銀が揉め、それに樹がツッコミを入れている横では夏凜が匙を投げていた。

 

「普通に自然体でチョコを渡せるような仲じゃ、何の参考にもならないわね」

 

 

 

 

「あれ? 今度は貴也さんが園ちゃんに何か渡してるよ」

 

「チョコにしては重そうね。本か何かかしら?」

 

園子からチョコレートが入っていると思しき紙袋を受け取った貴也だったが、今度は彼が紙袋を園子に手渡していた。

それに気づいた友奈が皆に注意を促し、それを受けた美森が貴也が手渡した紙袋の中身を類推する。

 

と、その途端、園子が友奈たちの方を振り向き大声を上げた。

 

「ゆーゆとわっしー、見~っけ!」

 

そして、すぐさま駆け寄ってくる。

 

「あちゃー。見つかったかー」

 

風は日没で暗くなりつつある天を仰いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん。みんながついてきてたのは最初から知ってたよ~」

 

「えーっ!? アタシたちが気付かれないようにしていた努力って、一体……?」

 

「だってね~、フーミン先輩、部室で話してた時からそんな雰囲気を醸し出していたし」

 

日も落ち、暗くなった駅前広場のベンチに座りながら八人の少年少女たちは駄弁っていた。

そんな中、ニコニコしながら種明かしをする園子。風はげんなりした表情だ。

 

「ところで、園子さー。貴也さんに渡したチョコはまともなんだよな?」

 

「ん? どういうこと?」

 

「いや、あたしら向けのはなんと言うか、前衛芸術的な何かだったじゃん? まさか、あんなのを本命チョコとして渡したりはしてないよな?」

 

「ん~。どういうのが本命チョコにふさわしいのかは人それぞれ異論があると思うけど、とりあえず今日、私がたぁくんにあげたのは何の変哲もないハート型だよ。見せてあげようか?」

 

銀の心配に、動じずに応じる園子。だが、その返答は貴也を慌てさせる。

 

「ちょっと待った。なんで、園子からもらったチョコをみんなに見せびらかさないといけないんだよ? 逆に僕が恥ずかしいから、やめてくれ!」

 

「と、いうことらしいよ。ゴメンね、みんな。たぁくんを困らせてまで見せるわけにもいかないし~」

 

そこまで話が進んだところで、今度は友奈が貴也に話しかける。

 

「貴也さんは園ちゃんに何を送ったの?」

 

「あ? ああ、本だよ」

 

「凄い! とーごーさんの予想、大当たりだよ」

 

「やっぱり、そうだったのね」

 

「どんな本を送ったの?」

 

「園子が目が見えない時分に買っていたオーディオブックの活字版さ。あのCDには活字版が付属していなかったからさ」

 

「うん。これは嬉しかったんよ~。やっぱり本は活字で読むほうが味わい深く感じるもんね」

 

「でも、バレンタインなのにチョコじゃないんですね」

 

今度は横合いから樹が尋ねてくる。

 

「うん。別に贈り物はチョコじゃなくても良いそうだよ。元々、決まりは無いそうだからさ」

 

「日本のは、バレンタインデーが流行りだした頃のお菓子業界の陰謀だって説もありますもんね」

 

貴也の返答に、美森が苦笑気味に薀蓄を付け加えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

貴也の帰りの電車の時刻が迫っていた。

だが、樹は皆に断って貴也と園子を離れたところに連れ出していた。

 

「今日は本当にごめんなさい。お二人だけの時間を邪魔しちゃって。私がもっとしっかりしていれば、勇者部のみんなをこんな所まで押しかけさせずに済んだんですけど……」

 

そう言って頭を下げる樹。

だが二人はにこやかに返す。

 

「いや、みんなと話ができて楽しかったよ。樹ちゃんが気にすることはないよ」

 

「そうだよ、イッつん。むしろ、私のほうがいつもイッつんに迷惑かけちゃってるようなもんだしね~」

 

「でも、こんな調子じゃ先が思いやられます。私に部長なんて、まだ早かったんじゃ?」

 

それでも樹は自信なさげにそう漏らす。

すると、貴也が樹の背中を軽く叩いて諭してきた。

 

「自信持ちなよ、樹ちゃん。ここまでの道中、何事もなかったんだろ? それにさ、立場が人を作るって言葉もあるくらいだしさ。努力を怠りさえしなければ、樹ちゃんならきっと立派な勇者部の部長になれるさ」

 

「そうだよ、イッつん。迷惑かける存在の私が言うのも何だけど、イッつんならきっとフーミン先輩以上の立派な部長さんになれる素質があると思うんよ」

 

「そうでしょうか?」

 

二人の励ましにも、まだ苦笑い気味の表情を見せる樹。

そこで、貴也は励まし方を変えてきた。

 

「まあ、まだ部長になって一ヶ月にもならないんだろ? 来年の今頃振り返ってみれば、きっと今日の悩みなんか笑って思い出せるようになってるさ」

 

「そうか……、そうですね! 頑張ってみます。先輩のみんなに舐められないような部長を目指してみます」

 

その励ましは、樹の琴線に触れたようだ。やっと樹は、いつもの笑顔を見せてきたのだった。

 

 

 

 

貴也を見送り勇者部の皆と別れ、姉と二人での帰り道。樹は姉に決意を打ち明ける。

 

「お姉ちゃん。今日のことで私、思ったんだ」

 

「ん? 何を?」

 

「えっとね。お姉ちゃんが卒業した後の勇者部。それをね、友奈さんたちみんなと守って大きくしていくんだって」

 

「へー、いいんじゃない? そっかー、樹もそういう事を言うようになったんだ」

 

「うん。歌手の道もきちんと目指すよ。だけどね、お姉ちゃんが今まで守って育ててきたもの。それをね、私も受け継いでいこうと思ったんだ」

 

その樹の発言に、満足そうな笑みを浮かべる風。

樹の肩をぐっと抱き寄せて、嬉しさを隠せない声音で告げる。

 

「期待しているわよ、樹。――――――それとね、やっぱりチョコもちゃんと食べられるものを作れるようにしなきゃね」

 

ガーン。

そんな擬音が響いてるような表情を見せる樹。

姉の鞄に入っている、今日手渡したチョコ。それにはチョコレート本来の茶色に、なぜか紫色がマーブル状に入っていたのだった。

 

 




なんだか、とっ散らかった内容で御免なさいです。
唐突にバレンタインと絡めた樹のお話を書きたくなったんです。
ちょっと前から書き始めたのですが、この日に間に合って良かった良かった。

さて、前書きに書いたような感じなので、執筆が全然進みません。
でも、チュン助主人公のお話もまだ一話分の分量に届いてはいませんが、少しずつ書き進めています。
多分、恐らく、メイビー、エタらないと思います。(一応、粗いとはいえ完結までのプロットもありますので)

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