鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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2019.10 南国の勇者(中編)

 右の脇腹が痛む。

 最後に白い化け物に噛み付かれた箇所だ。

 結構ざっくりといったはずだが、この勇者装束の力なのか、あるいはそもそもの勇者としての力なのか、傷は血が滲む程度にまでは回復していた。

 ずいぶん長い時間、気を失っていたように思う。あの戦闘から、一体どれくらいの時間が経ったのだろうか……

 

 

 普段、勇者へと変身していたならば高速道路を走る自動車よりも速く移動できていたはずだ。

 だが、今の私にそれは不可能だ。あまりにも消耗していた。

 トボトボと南城市へと続く道路を歩いていく。

 私が気付いた海岸は、壊れた道路標識や地形などから察するに伊計島(いけいじま)だったらしい。沖縄本島へと繋がる橋は壊されており、渡るのにかなり苦労をした。

 

 

 く~きゅるきゅるきゅる。

 

 

 お腹が鳴った。

 そうか……私はお腹がすいていたのか。だから力が出ないのかもしれない。

 幸いと言っていいのか微妙なところだが、破壊されたイネスの建物が見える。

 あそこへ行ってみよう。何か食べられるものが残っているかもしれない。

 

 

 

 

 結局、イネスではろくなものが見つからなかった。

 かなり初期の頃に白い化け物たちに破壊されたのだろう。滅茶苦茶な有り様だった。

 小さなデイパックと賞味期限ギリギリのエナジーバー、賞味期限ギリギリアウトのミネラルウォーターが僅かに見つかったのは、私の運がとびきり良かったおかげなのかもしれない。

 多少の栄養補給は出来た。

 残りはデイパックに詰めた。と言っても、二食分程度しかない。

 明日の昼頃には佐敷(さしき)の辺りまでたどり着くだろうか。

 

 

 その夜は中城(なかぐすく)付近の学校の廃墟に身を潜めた。疲れ切っていたのか、ぐっすりと寝入ってしまった。

 だが、たっぷりの睡眠とその前後の食事――エナジーバーと水だけという味気ないものだったが――が私の体力を回復させたのだろう。翌朝には、いつもの元気が戻ってきていた。

 幸運も続いていたのかもしれない。化け物の襲撃もなかった。

 体のあちこちを動かしてみて具合を確かめる。

 

「これなら、いけそうだ。おばあたちの所へ戻ろう」

 

 空になったデイパックを担ぐと、スピードを上げて故郷へと向けて走り出した。

 デイパックは捨てられなかった。シークヮーサーの花びらをあしらった可愛らしいデザインの物だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひどい……!」

 

 南城市のエリアに入ったが、私の最後の記憶と比較してあり得ないほどに破壊が進行していた。

 まるで、人間が住んでいた痕跡すらなくそうとするかのような徹底した破壊だった。

 

「おばあ達は無事だろうか……?」

 

 胸の奥から不安が止めどなく溢れてくる。

 私は駆け出した。

 

 

 

 

 徹底した破壊はすべてのエリアに渡って、という訳ではなかった。

 港を越えるとまだまばらに建物が残っていた。

 

「これなら……」

 

 化け物達の襲来があって以降、私たち生き残りが相談する寄り合いによく使っていた御嶽(うたき)へと向かう。

 すると目の端で廃墟の影から出てきた人物を捉えた。

 幾分、慌てながらそちらへと向かう。

 

「棗様!」

 

 その人物の目の前に降り立つと、その人はまるで幽霊でも見たかのような驚きの表情で、そう声を上げた。

 

「どうして、こんな所に!? 船団を護衛していったはずじゃ!?」

 

「比嘉さんだったのか……すまない。出港してから一時間ほどで化け物の集団に襲われたんだ。集団は全滅させたんだが私は海へ落ちてしまい、昨日伊計島の海岸で気付いて戻ってきたところなんだ」

 

 比嘉さんは四十がらみの屈強なガタイをした浅黒い肌の男性だ。職業は漁師だったと聞く。奥さんや子どもたちが化け物どもの犠牲になってしまい荒れていた時期もあったが、ここ二年はおばあ達と共に生き残りの避難民のとりまとめ役もしてもらっていた。ただ、そういう経緯もあったためか四国への脱出船団には乗り込まず、居残り組となっていたのだ。

 彼の疑問には私は簡単に自分の身の上に起こったことを話した。

 

「ところで、今は出港からどれくらいの時間が経っているんだろう? 気を失っていたから、時間感覚が分からなくなっているんだが」

 

「まる三日が経っていますね」

 

「すると、私が気を失っていたのは二日ほどもあったということか……。襲撃を受けたのはいつ頃だ? それと他の人達は?」

 

「船団が出た、その夜ですね。生き残りは八十名ほど。探せば、もう少しいるかもしれません」

 

「おばあ達は?」

 

 その問い掛けに比嘉さんは目を伏せながら首を横に振る。

 反射的に御嶽(うたき)へと向かった。

 だが、そこには何も残ってはいなかった。文字通り何も……

 

「おばあ…………」

 

 私はその場に四つん這いになり、地面を殴りつけた。

 自分の力の無さに涙が零れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の夜。

 生き残り全員を集めた会合を開いた。

 あれから二日を掛けて生き残りを探し、総計は百人を少し越えた。

 出来れば夜が明けてから話す方が良いのだろう。だが、時間が惜しかった。

 夜のうちに方針を決め、明日の朝には出立したい。

 もはや私たちには、移動手段は徒歩しか選択肢が残っていないからだ。

 

「みんな、疲れているところ申し訳ない。だが、こうして集まってもらったのには訳があるんだ。夜のうちに方針を決めたい。明日の朝には奥武(おう)島へ向けて出発したいんだ」

 

「奥武島だって……?」

 

「確かにあそこは周りを海に囲まれた小さな島だ。守りに専念するには良いのかもしれない」

 

「だが、もう足がないぞ。歩いて行くしかない……」

 

「私はあの島から三年前に逃げ出してきたんだ。こちらに居ようが向こうに逃げようが、どちらも同じだよ」

 

 私の言葉に生き残りの皆がざわつく。でも、これは想定の範囲内だ。

 私は立ち上がって皆を見回す。ピンと背筋を伸ばして声を通らせる。

 

「あの島は何千人もの人を収容するには小さすぎた。だから以前は避難場所として選択肢に挙がらなかったんだ。だが、この人数なら別なんだ。あの島は大きさの割に御嶽(うたき)も拝所も多い。私が一人でみんなを守るには、あの島こそが絶好のロケーションなんだ」

 

 皆のざわめきが静まる。良い感じだ。

 

「ここから島まで道のりは十キロメートルも無い。白い化け物どもの襲撃を迎撃、あるいは避けながら行くとしても一日も掛からないだろう。夜のうちに荷造りを済ませ、明日の朝出発すれば夕方までには、いや、上手くいけば昼頃には着くはずだ。あの島に逃げ込みさえできれば後はなんとかなる。海もそう言っている。どうだろう?」

 

 皆から同意の声が上がるものと思っていた。

 船団を脱出させるまでの皆の姿勢を、働きを思えば、そうに違いないと……

 

「棗様…………もう、いいんですよ」

 

 六十歳ぐらいだろうか。品の良さそうな女性が、そう呟いた。

 すると、それに呼応したかのようにあちこちから声が上がった。

 

「儂らは、この土地に率先して残ったんです」

 

「若者達、未来のあるもの達は四国へと送り出しました」

 

「ここに残っているのは、家族や大切な人たちを失って未来を諦めた者たちなんですよ……」

 

 そんな言葉が次々と……

 

「今ここに残っている人数ぐらいなら、脱出する船に乗ることも十分に可能でしたけどね」

 

「でも、そうする気は起きませんでした」

 

「棗様だけでお逃げください」

 

「そうだ、比嘉さん。探せば、まだ一隻ぐらい四国まで行けるような船が残っているかもしれない。それで、お前さんだけでも棗様を送っていってはくれまいか?」

 

 信じられなかった。

 ここにいる人たちは、みんな……

 

「いや、生きよう! 生きてさえいれば、四国まで逃げ延びた人達が救援を送ってくれるかもしれない。だから、みんな……!!」

 

 だが、皆首を横に振るばかり。

 途端に、地面がグニャグニャと波打つように揺れたと感じた。

 自覚はないが、自分の身体が大きくよろめいているのかもしれない。

 キーンと耳鳴りがしだした。

 

「そんな可能性、もう儂らは信じることは出来ませんよ」

 

 誰かのその答えがわんわんと頭に響く。よく聞き取れなかった。

 皆の諦観のこもった視線が私に集中し、その事が恐ろしくなった。身体にゾクゾクと寒気が走る。

 私は逃げ出すように、その場を後にした。

 

 

 

 

 よろめくようにその場を出て行く棗を見送った南城市の生き残りたち。

 そこに三十代以下の若者は皆無だ。誰も彼も家族を、友人を、大切な人を失い、孤独に打ち拉がれた者たち。

 だが、船団が脱出するまではそれでも若者たちを助け導こうと、子どもたちを護り育てようと頑張っていた人たち。

 だから心を砕かれた棗の姿を見て後悔をせぬ者はいなかった。

 勇者装束をその身に纏っていながらも、年相応の少女のように背を丸めよろめきながらその場から立ち去っていく棗。

 勇者となって以来、棗が初めて見せたその弱々しい姿に彼らは罪悪感を抱く。

 

「なあ、儂らは間違っていたのかもしれないな……」

 

「もう棗様さえ生き残ってくれればそれでいい。そう思っていたんだが……」

 

「まだ十五歳でしたっけ。本当なら、まだ高校に上がったばかりの年頃なのね」

 

 そんな、後ろめたさの感じられるざわめきが辺りを満たしていった。

 そして、その中でも一番若手と言っていい人物が立ち上がる。比嘉だった。

 

「なあ、俺らは棗様に甘えすぎていたんじゃないか? あの白い化け物に立ち向かえる、たった一人の勇者だからって」

 

 彼の表情にも後悔の念がありありと浮かんでいた。

 

「いつの間に俺らはそんな腑抜けになったんだ? なあ、俺らは大人じゃないのか? 棗様は力はあっても、まだ子どもなんじゃないのか? なら、俺たちが護ってやらないでどうする!? なあ、みんな!!」

 

 そこにいる者たちは皆、それぞれ顔を見合わせる。

 誰からともなく皆、頷き合っていた。

 

「そうだな、確かに俺たちは腑抜けていたのかもしれない」

 

「ここまで私たちを守ってくれていた棗様を悲しませるなんて……」

 

「あの世に行った時に、死んだ妻に怒鳴られるかもしれん」

 

「儂らでも棗様の心を守るぐらいは出来るかもしれない」

 

「そうよ、私たちが生きる意思を示せば、またあの眩しい笑顔を見せてくれるに違いないわ」

 

 今まで死んだような目をしていた者たちに光が戻ってくる。

 その強い意志を伴ったざわめきは広がっていき、そこにいた百名あまりの生き残りたち全てに届いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと目覚めた。

 まだ辺りは仄暗い。東の空が群青色になって山の稜線を浮かび上がらせている。

 体を起こすとまぶたが腫れぼったい。

 勇者装束はいつの間にか解けており、白い半袖シャツに薄茶色のカーディガン、ベージュのチノパンという私服に戻っていた。

 

「あのまま泣き疲れて寝てしまったのだな……」

 

 野宿にも身体が慣れきってしまった。

 顔でも洗いたいところだと辺りを見回すと、こちらへと歩いてきた五十代半ばと見える女性と目が合った。

 

「お目覚めですか、棗様?」

 

「あ、おはようございます」

 

 少し戸惑ってしまう。

 昨夜、あんな事があったのだ。『どうしてここへ?』という疑問が湧き上がる。

 そんな私の疑問を察するようなことなく、その女性は後ろを振り返ると声を上げた。

 

「比嘉さん、棗様がお目覚めになりましたよ!」

 

「分かりました!」

 

 比嘉さんがやって来る。

 申し訳なさそうな表情だが昨夜までと異なり、どことなく力が漲っているような気がする。

 そして、比嘉さんの後ろにも数名の人たちがいた。

 

「棗様、おはようございます」

 

「おはようございます、比嘉さん。これは一体……?」

 

「ゆうべ、棗様が出て行かれた後、皆でよく話し合ったんです。今後、どうするのが一番いいのか。――――――結論は出ました。みんなで奥武島へ避難します。私たちを守って導いていただけますか?」

 

 その言葉に疑問が幾つも湧いてきた。

 あれから、どんな話し合いが? どうやって、その結論に? それぞれの人たちの気持ちは? 皆、諦めていたのでは?

 だが、それらよりも――――――

 

「本当なのか!? 避難してくれるのか!? そうか、そうなんだな……。ありがとう…………ありがとう、ございます…………」

 

 そうだ。嬉しさの方が万倍も込み上げてくる。

 私は比嘉さんの手を取り、頭を下げて感謝を伝える。涙が止めどなく溢れた。

 

 

 

 

 そうだ。私はまだ頑張れる……

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 奥武島を目の前にする志堅原(しけんばる)の住宅地跡。そこに私たちは身を潜めていた。

 奥武島まであと三百メートル。だが橋の前に白い化け物が十体以上も蠢いていた。

 ここまで襲撃に遭わなかったのは、単に運が良かったのだろう。

 だが、最後の最後でこれだ。

 しかし……

 

「私が強襲を仕掛ける。残り二体になったら全員、あの最後の曲がり角まで来てほしい。援軍が来るようなら、一度撤退するということで。最後の一体になったら、全員で橋を出来るだけ早く渡ってくれ」

 

「分かりました。ご武運を」

 

 比嘉さんに後を託し、私は駆けた。

 まだ奴等は気づいていない。

 足に力を込めて跳躍。

 奴等がこちらに気づくが、もう遅い。

 渾身の力を込めたヌンチャクの二連撃。

 

「うぉぉおおおおっ!」

 

 二体を仕留めた。

 どういった仕組みか分からないが、奴等は死ぬと消えてしまうようだ。

 だが薄れていく二体を気にもとめず、次の一体へと狙いを定めて蹴りをお見舞いする。

 身体を大きく捻り、右足でハイキック!

 倒せはしなかったが、吹っ飛ばすことに成功する。

 そこへ背後からの噛み付き攻撃。

 とっさに左足だけで跳躍し左へ側転。

 右側をすり抜けていく個体へ、回転の威力を乗せたヌンチャクの下方からの一撃を加える。

 その個体の消滅を横目で見ながら、そのまま勢い任せに跳躍し近くの廃墟の上へと着地する。

 残り八体。

 皆の安全性を高める為に奴らの注意を引く。

 

「花により散れ! お前たちの相手は、この私だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人も欠けることなく奥武島へと辿り着くことに成功した。

 驚くべき事に、そこには既に二百名ほどの人々が避難していた。そのほとんどが那覇市や糸満市から脱出してきた人たちだった。どうやら沖縄本島南端部――ひめゆりの塔辺り――を迂回してきた人たちだけが助かったらしい。他のルートを取ったという人には終ぞ出会わなかった。

 

「だから、私たちと出くわすことがなかったのか……」

 

 私たちは三年半前の最初の襲撃以後、北岸の佐敷周辺に集まっていた。大して距離は離れていないから、奥武島を含む南岸部の状況を知っている者がいなかったというのも不思議な話だが。

 奥武島にずっと居残っていたという数名の話を聞くに、この島は最初の襲撃――それも襲ってきたのは二、三体に過ぎなかったらしい――を受けて以後は一度も襲撃を受けなかったそうだ。だが、島の狭さや物資供給の少なさなど将来への不安からほとんどの島民は脱出していき、戻ってきた者はほとんどいないらしい。

 

 

 私たちは当初の予定通り、この島を最後の拠点とすることにした。

 私たちが辿り着いた直後、島は橋の上に立ってさえ本島の状況が僅かに分かる程度の薄い霧状の結界に覆われた。これで恐らく橋上以外から襲撃を受けることはないだろう。

 また、周囲で魚介類が異常なほどに獲れるようになった。海の神の恩恵なのだろうか。島内で畑も整備したので、なんとか食料も必要量を確保できるかもしれない。

 足りない物資は私と比嘉さんとで本島へと取りに向かった。島内に小さな釣り船が何艘かと軽トラが何台か生き残っていたのは幸いだった。燃料が無くなれば終わりだと思っていたが、夏に入る前に本島で生きている電気自動車を見つけた。ソーラーパネルも取ってきたので、これで更に時間を稼げるかもしれない。

 建物も半数ほどは破壊されずに残っており、譲り合えば住居に困ることはなかった。

 

 

 四国へ逃げ延びた人たちが救援を連れて戻ってきてくれる。

 それだけを信じ、私たちは助け合って生活を続けた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 夏を乗り越え、ここ沖縄でも秋を感じるようになってきた十月も半ば。

 その日の朝から奥武島の人々はざわついていた。

 

「なんだろう? 目覚めた時から胸騒ぎがしてならないんだが……」

 

「私はずっと耳鳴りがしていて……」

 

御嶽(うたき)の拝所が崩れていたんだ。何か悪いことが起きなければいいんだが……」

 

 皆、不安そうにしている。

 私もそうだ。目覚めた瞬間から悪い予感がしている。背筋もゾクゾクとする。不安を打ち消そうと勇者装束を身に纏い、臨戦態勢を整えていた。

 

「棗様、これは一体……?」

 

「私にも分からない。海も何も言ってこない。不気味なほどに凪いでいるんだ」

 

 比嘉さんも不安そうに私に尋ねてくる。

 だが私にも分からない。こんな事は初めてだ。どんなに感覚を研ぎ澄ませても海からの答えは無かった。

 

 

 

 

 皆、不安を抱いたまま時間が過ぎていく。

 昼近くなった時だった。急に辺りが暗くなった。

 

「日食でしょうか?」

 

 比嘉さんが問い掛けてくるが、私にも分からない。首を横に振るだけだ。

 薄い霧状の結界の外はほとんど真っ暗になる。上空からの弱々しい光だけが私たちの視界を確保してくれていた。

 

「あ、あれ!」

 

 誰かの叫びが上がる。

 その指差す先に一つ、二つ、三つ……星のような光が結界の外側で灯りだした。

 

――――――!!!

 

 星のような光を眺めていると突如、形容しがたい程おぞましい音が辺り一面に鳴り響き始めた。思わず耳を塞ぐほどの、そして耳を塞いでなお鼓膜が破れそうなほどの大音量。そして、その音の大きさの波に合わせたかのように結界外の星の光は明滅を始める。

 

「うわーーっ!!」

 

「キャーーッ!!」

 

 周りの人たちが一斉に悲鳴を上げた。

 大地震が起きたかのように大地が揺らぎ、海も荒れ始める。

 数十秒も経つと私以外誰も立っていなかった。皆、蹲ったまま悲鳴を上げ続けている。

 

『なんだ? 何が起こっている……?』

 

 必死で思考を走らせる。どんな事態にでも対応できなければ。そうでなければ、ここにいる人たちを守り通すことは出来ない。

 

 

 結界外の暗闇の中、上空から何本もの光の柱が降り立つ。

 暴風が巻き起こり、すさまじい嵐の中にでもいるようだ。

 そして強烈な光が閃いたと感じた次の瞬間、私の視界は真っ赤に染まった。

 一瞬、太陽表面のような灼熱の大地が見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと気がつくと、穏やかな風景が広がっていた。

 先ほどまでの出来事がまるで夢か幻ででもあったかのように。

 

「あれ? なにがどうした……?」

 

「さっきまでの天変地異は一体……?」

 

「棗様、これは……」

 

 人々が起き上がり始める。皆、疑問の声を上げつつも、互いに知り合い同士助け合っているようだ。

 私は周りを見回す。

 海の神が張っていたと思しき、薄い霧状の結界は消えていた。どこまでもどこまでも見通すことが可能だ。

 青い海、蒼い空、白い雲、くすんだ緑に色付く本島。

 

 

 ブルッ……

 

 

「寒いな……?」

 

 十月とは思えない、まるで冬のような寒さを感じる。

 見るといつの間にか勇者装束は解けており、いつもの半袖シャツにチノパンという格好になっていた。

 

「何が起こったんだろう……?」

 

 私は呆然と呟く。

 冬の沖縄の――四国で言えば秋の――冷たさを感じる一陣の風が吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日、神世紀三〇一年一月十一日。

 奥武島へと避難していた沖縄の人々凡そ三百名は三百年の時を超え、天の神アメノホアカリの理から解放された世界へと生還した。

 

 




 大変長らくお待たせいたしました。申し訳ございません。どうにもペースを取り戻せませんね。

 大満開の章まであと一ヶ月ちょい。キービジュアルや勇者部の設定画を見る限り、神世紀三〇〇年十一月頃が舞台っぽいですね。どんな鬱展開になることやら。
 あと、今後のわゆをアニメ化する機会があるなら是非しうゆ、あせゆ、こなゆも1話ずつ位は入れて欲しいですね。なんならうひみのエピソードも取り込んで2クールでやって欲しいものです。

 さて、今回は棗ちゃん絶対主役の中編をお送りしました。
 次回は、オリ主、メインヒロイン共に登板です。期待せずにお待ちください。

【次回予告】
 初詣にて亜耶たちに下った神託。沖縄の人々を救出せよ。貴也は三百年の時を超え、再び南国の海へと向かう。
 次回「0302.02 南国の勇者(後編)」 お楽しみに!
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