もう前日になりますが、「南国の勇者(後編)」は7時間前に投稿済みです。
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では、いつもよりとても短い五千字足らずですが、本編をどうぞ。
桜の花が咲き乱れている。
貴也は今、神樹館高校の敷地内を歩いていた。
『まさか、ここも見納めになるとはなあ……』
二年生への進級と共に、彼は同じ神樹館高校でありながら分校扱いのくにさき分校への移籍となったところである。
くにさき分校――旧海上自衛隊の輸送艦「くにさき」艦内に設けられる予定の勇者専用の分校である。勇者の存在は一般向けには秘匿されているため、同じ大社運営の高校内で運用/教育が同時並行でなされるとはいえ一般生徒とは隔離されなければならない。また、四国外への調査、旧日本国国土を包む結界の外のバーテックスとの戦闘も念頭に置かなければならないため、分校は戦闘艦内に設けられることになった。もちろん、四国陸上部にも校舎は設置される予定だ。
どちらも予定とされているのは、この四月現在で「くにさき」はレストア中、陸上校舎は建設中であるためである。結局、両者ともに完成して使用可能になる七月までは、高校としての教育施設兼勇者としての運用施設は秘匿のために大社の既存施設を使うことになってしまっている。また、大規模施設を用意できなかったため貴也たち二年生と園子たち新入生も別々の施設、それも別地区に収用されることになった。
『通学したのはまだ一年間とはいえ、愛着も湧いてきた所だったんだけどなあ……』
神樹館は幼稚園から大学院まで揃っている総合学園である。それなりの成績さえ取っていればエスカレーターで進学可能だ。ただし、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、どれも大橋市内であるとはいえ別々の場所にある。進学の都度、別の場所に通学することになるのだ。
貴也も、この校舎に通ったのは一年限り。入学当初には思いもしなかった境遇である。
「さて、思い悩んでいても仕方がない。会場へ向かいますか」
今日は高校敷地内は一般学生や教職員も含め勇者の関係者以外立入禁止である。
くにさき分校の創立式。それは二年生十名と大社内の勇者関係者及びくにさき分校教職員のみで執り行われる。その会場は、ここ神樹館高校の講堂であった。
貴也の足はそちらへと向かった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
会場である講堂へと入る。
まだ開式まで三十分以上あるためか、会場設営の最後の調整に走り回っている大社スタッフ以外、人はまばらだ。
「そのちゃんや風もまだみたいだな」
辺りを見回したが知っている顔はいない。だから、そんな感想が漏れる。
園子は乃木家の代表として、学生としてではなく大社関係者として出席することになっている。他に貴也が知っている出席者と言えば、同級生となる風と夕海子に巫女の怜、大社側スタッフの安芸や佐々木、春信ぐらいである。
「すみません。もしかして鵜養さんですか?」
その問い掛けに振り向くと二人組の少女がいた。
一人は濃いブラウンの髪色をした、おしとやかな感じの少女だ。どことなくいいところのお嬢様という感じがする。かなり色物に近い性格の園子や夕海子に比べるとオーソドックスな匂いのする人物だった。
もう一人は黒縁眼鏡が印象的な黒髪の少女だ。どことなく美森に近い堅物の匂いがする。
「ん? そうだけど」
その貴也の返答に二人は柔らかな笑みを見せる。
「良かった。加賀城さんからお話は伺っているんですよ」
「加賀城さんから?」
「ええ。私たち二人、愛媛県の勇者候補チームで加賀城さんと同じチームにいたんです」
「讃州市のチームが選ばれたんで、私たちはお払い箱になったんだけどな」
「その後、防人に選ばれまして。防人内では加賀城さんとは別チームだったんですが、最近、話をする機会に恵まれまして。そこで、鵜養さんのことを聞いたんです」
「へえ~」
妙な縁もあったものだと感嘆する。
貴也には雀とも元々直接の繋がりは無かった。小学校時代の同級生、夕海子との繋がりからの防人チームを経ての玉突きのような縁である。
「これから同級生になるんだ。よろしくな。私は真鍋菜摘だ」
「よろしく。鵜養貴也だ」
黒縁眼鏡の少女と握手を交わす。
変わって、お嬢様っぽい少女が右手を差し出してきた。
「私は村上智花と申します。今後ともよろしくお願いしますね」
「いや、こちらこそよろしくお願いするよ」
握手とともに、互いに微笑みを交わす。
すると……
「あーっ! また、たぁくんが女子と仲良くなってる!!」
園子の声が響いた。講堂の前方、壇上からこちらを指差している。
「あらあら……」
「こりゃ、退散かな?」
二人組はペコペコとお辞儀をしながら離れていく。
入れ替わりに園子が駆けてきた。
「こらこら、講堂の中を走るなよ。みんな見てるぞ」
「そんなことより、あの二人。トモぴーと鍋ポンだよね」
「なんだそりゃ? あの二人のあだ名か?」
「うん。トモぴーは村上さん、鍋ポンは真鍋さんのことだよ」
「あだ名を付けるほど、よく知ってる仲なんだ?」
「鍋ポンはともかくとして、トモぴーは四国一の重工メーカー、越智重工を率いる村上財閥の一人娘だからね~。昔からの顔なじみなんさ。仲良くなったのは、つい最近だけどね」
へえ。そんな感想を持つ貴也。お嬢様っぽさを感じたのは間違いではなかったらしい。
そんな貴也の思考を見抜いたのか、ニコニコと補足してくる園子。
「穏やかでいい子でしょ? 私なんかよりもよっぽどいいところのお嬢様って感じだし。あだ名も笑って許してくれたんだよ~」
どうやら園子の嫉妬に駆られたっぽい言動は、半分以上貴也をからかう目的だったらしい。
特にチクチクと刺すこともなく、彼女達の人となりを説明してくれた。
そういったやり取りを園子としているうち、知り合いからの声が掛かった。
「やっほー、鵜養、乃木!」
「まーたお二人、仲のよろしいことで」
「ついにこの日がやって来ましたね」
風に夕海子、怜の三人組である。三人とも、これから同級生として勉学を共にする仲間だ。
ところで三人とも、口の端を歪ませてニヨニヨとした笑みを浮かべている。
「なんだよ、三人とも。なんか気持ち悪い笑顔だな」
「ちょっとちょっと。その言い草はないんじゃない?」
「いえ、貴也様と園子様は仲がおよろしいな、と思いまして」
「まあ、小学生の頃からの公認カップルですからね。あなた達二人を見てるだけで、心が温まりますわ」
「あはははは……」
その笑みを揶揄すると、すかさず風から反論が返ってくる。だが、怜と夕海子は気にすることなく更に笑みを深める。貴也と園子の仲を傍目から楽しんでいるようだ。これには園子も照れ笑いをするばかり。
すると、怜が話題を変えてきた。
「まあ、それはともかくとして。ついに勇者様と巫女だけが在籍する学校が開設されるんですね」
「ああ、なんだか西暦時代の丸亀城を思い出すよ」
「たぁくんもそこの一員だったもんね」
「そっかぁ、初代勇者のみんなと同じ様な境遇になるのね、アタシたち」
くにさき分校は勇者と巫女だけが学生として在籍する学校だ。
貴也にとって、それは西暦時代の丸亀城での日々を思い起こさせる。若葉や千景たちと過ごした日々。それは貴也の宝物の一つでもある。
と、夕海子が入り口を見やるなり声を張り上げた。
「ほら、いらっしゃいましたわよ。西暦時代の勇者様が」
貴也もそちらを振り向く。そして驚いた。
そこにいたのは、二ヶ月前に沖縄から救出したはずの棗だったからだ。
彼女は穏やかな笑みを浮かべて近づいてきた。
「古波蔵さん、もしかして君もくにさき分校に?」
挨拶も忘れて、思わず尋ねる貴也。
「二ヶ月ぶりだな、鵜養。あの時は世話になった。感謝している」
そして、自分だけを見つめて声を掛けてくるその態度に周りの四人を見回した。
「もしかして、知らなかったのは僕だけか!?」
園子たち四人は笑顔を浮かべるばかり。その態度がすなわち答えだった。
「サプライズ成功だね~」
「ふふん。勇者のリーダーとなるアタシが知らない訳がないでしょうが」
「そういう訳でもないでしょ、風さん。単に鵜養くんのところだけ、これが配布されていなかっただけのことでしょうが」
そう言って夕海子が取り出したのは一枚のプリント。そこには、くにさき分校二年生十名の名簿が印刷されていた。
「園子! 僕の資料から、それだけ抜いたな!」
「あははは、ごめんね、たぁくん。驚かせたかったんよ~」
園子を詰問しようとしたが、手を合わせて謝ってくる。笑いながらではあったが、まあこちらも本格的に怒っているわけでもない。
貴也は、なんだかどうでも良くなってきたので棗に向き直った。
「それで? これからも勇者として活動するつもりなんだ?」
「まあ、そういうことになるな。せっかく海からいただいた力だ。犠牲になった人たちのことも考えると、この力を有効活用しない方が私の心が痛むからな」
棗はそう言って、僅かに寂しさが窺える笑みを浮かべた。
いろいろと思い悩んだ結果であるのが透けて見える。
「西暦時代に苦労したんだ。もう休んでしまっても、誰も古波蔵さんを咎めたりしないと思うよ」
「いや、これでいいんだ。私の決意は変わらない。これからも私は勇者として頑張っていくつもりだ」
もう一度翻意を促してみたが、彼女の決意は変わらなかった。
貴也も彼女の決意を尊重するべきだと思い直す。
「そうか。なら、これからは一緒に協力して頑張っていこう」
「ああ。よろしく頼む」
ガッチリと握手をした。
ここに古波蔵棗は元西暦の勇者として、神世紀の勇者たちに真の意味で合流を果たした。
『そうか、西暦の勇者と神世紀で共闘することになるのか…………』
感慨深かった。
思えば、元防人たちとも勇者として共闘することになるのだ。芽吹、夕海子、しずく、雀や先程の智花や菜摘の顔が思い浮かぶ。そして巫女の二人、亜耶と怜も。
『なんとも奇妙な
貴也にとって全ては園子との出会いから始まったことだ。
そもそも乃木家とダイレクトな繋がりができる事自体稀有なことなのだと、今なら思える。
しかも、その日のうちに今胸に輝いている指輪が神器として目覚めた瞬間に立ち合ったのだ。
そこから銀と知り合い、勇者部の仲間、風、樹、友奈、美森、夏凜と繋がりが出来た。
そして神の一員となっていた若葉たちに過去へと送られ、当時の若葉、ひなた、千景、友奈、球子、杏、真鈴、雪花たちとも繋がりが出来た。
『会えなかったけど、白鳥歌野さんとも繋がりが出来たんだったよな。若葉たちはきっと友奈のことを、高嶋友奈のことを救いたくて僕を過去へと送ったんだろう』
そこでスクナビコナの神を思い出す。
若葉たちの期待に十分応えたとの励ましをもらったが、未だに納得しきれていない自分がいることも確かだ。
『そう言えば……』
スクナビコナに初めて会った時、『いとあやしき人の
『あの神様は、僕のこの奇妙な
「どうしたの、たぁくん?」
園子に声を掛けられてハッと我に返る。
不思議そうな顔をして覗き込まれていた。
「いや、思えば遠くへ来たもんだなぁって」
「なにそれ? プクククク……」
笑われてしまった。
だが、何にせよ彼女の笑顔はいい。
大赦に囚われ、祀られた病室で孤独を過ごしていた当時の彼女を思い出す。
『もう二度と、あんな風な目に遭わせたりはしないぞ』
決意が胸の内から湧いてきた。
パン、パン、パン…………
「ほらほら、勇者のみんなは控室に入って! もうすぐ式が始まるわよ」
手を大きく打ち鳴らす安芸の注意の声が響く。
「ほら、注意されちゃったよ。行こ、たぁくん」
園子に手を取られた。
小さく可愛い手だ。
「ああ、行こうか」
手を繋いだまま歩きだす二人。
『でも、途中で別室に別れるんだよなぁ』
その事を少し残念に思いながらも、繋いだ手を園子の手を傷めない程度にギュッと握りしめた。
園子ちゃん、誕生日おめでとう。
今年もこの佳き日に投稿できました。読者の皆様と神樹様に深謝。
今回は、この後の勇者たちの活動拠点となるくにさき分校の創立式典、その直前の貴也たちの様子でした。
棗ちゃんの本格的合流エピソードですね。
さて、あちらのお話から出張してきた人が2人ほどいますねぇ。実はあちらのお話よりも先にこちらの本編にモブで登場しているんですよね、この2人。
なお、この2人も貴也の存在で直接ではなくとも多少なり救われている模様。詳しくはそのうち、あちらのお話で。
さて、うたゆの大型案件が終了したので、次はあちらのお話に注力したいところ。
年度内にゆゆゆ1期相当を終えたいですね。なるべく諦めずに頑張ります。