鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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第九話 魂の叫び

神世紀四国の学校は、土曜は通常半ドンだ。正規の授業は昼までである。

 

その日、貴也たち三人は伊予島潤矢の自宅、それも大邸宅の一室で、午後の時間を珍しく期末試験の復習に回していた。

 

 

 

 

「タカちゃん、半端ねー。なんで直前一週間寝込んでたくせに学年四位なんだよ。どんな頭の構造してるか、一度見てみたいもんだ」

 

「ぼやくな、ぼやくな。そう言うタッくんも上から数えた方が早いじゃないか」

 

「俺は、ほとんど真ん中だからな。そう言うイヨジンも十二位だし、お前ら存在自体が嫌みなんだよ」

 

「ま、うちは家庭教師がついてて、あんまり自由がないけどな」

 

「あー、予習をするといいよ。僕は、教科書を授業でやる直前にざっと読んでるだけなんだけどね。やるとやらないとで、授業の理解度が全然違うよ。それと地理、歴史とか理科なんかは興味に任せていろんな本を読んでたからなぁ」

 

「勉強大好きかよ。あー、やってらんねー」

 

「ボクもテストの復習だけは欠かさずやってるぜ。予習よりも復習だな」

 

「いや、予習でしょ」

 

「どっちでもいーよ。さっさと終わらせて、テレビゲームしようぜ」

 

そんなことを駄弁りながら、とろとろと効率悪く勉強を行う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあなー。また月曜、学校でな」

 

「ああ、じゃあ」

 

夕方、拓哉と別れる。日はだいぶ落ちてきている。

 

『そのちゃんたちは玉藻市へ遠足かぁ。もう家へ着いている頃かな?』

 

そんなことを考えて歩いていると、ふと風が止んだ。

 

チリーン、チリーン……………………シャララララララララ……………………

どこかで風鈴の()が一斉に鳴り始める。

 

『えー、このタイミングでか?――――――召還』

 

頭の中でキーワードを念じる。

これだけで変身可能なことは昨晩確認済みだ。

 

辺りがすべて白く染まり上がる。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「えええっ、に、二体同時?」

 

「あちゃー、そう来たか。前回は二体とはいえ、時間差だったからなー」

 

「前は私たちの連戦の疲れを狙ったのかもしれないけど、今回は力押しのごり押しね。でも三人で力を合わせれば……」

 

園子たちは、遠足帰りのバスを降りた後、三人で家路を歩いているタイミングで樹海化に巻き込まれた。

彼女たちの目の前には、二体のバーテックス。尾に鋏がついているものと針がついているもの。同時侵攻であった。

 

「私とミノさんで一体ずつ相手にするから。わっしーは援護射撃して!」

 

 

 

 

戦いは園子たちが優勢に進めていた。

その要となっていたのは須美だった。銀は蟹座型(鋏付き)バーテックスを攻め立て、危ないときは須美の矢が牽制になった。一方、園子は蠍座型(針付き)バーテックスの猛攻を傘状に展開した槍で防ぎつつ、時折須美の攻撃で怯んだところをヒットアンドアウェイで攻める。

 

『時間さえ掛ければ、押し切れる!』

 

須美がそう考えた瞬間、二体のバーテックスのさらに後方から恐ろしい数の光の矢が飛んできた。

 

「危ない!」

 

須美と銀は、急いで園子の傘状の槍の陰に隠れる。

光の矢の雨は味方であるはずのバーテックス二体も巻き込むが、その二体はそれをものともせず、三人に攻撃を仕掛けてきた。

 

「まずいっ!」

 

太い尾の一撃。横から薙ぎ払われた三人は空中でバーテックスに翻弄された。

二撃、三撃。

血を吐き、もんどり打って地面に激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『そのちゃんの情報だと戦いは大橋でしか起こらないから……、こっちか?』

 

貴也は、ふよふよ浮かぶ九体の精霊を引き連れ、大橋を目指して走る。しかし、前回よりも遠い位置で樹海化に巻き込まれたため、相当の時間が掛かるだろう。

実際に、園子たち三人に較べるとその移動速度はかなり遅いものなのだが、貴也がそれを知る由はなかった。彼の感想は、多分に感覚的なものだ。

 

いつの間にか、あの時の暗赤色の狐が前を走っていた。狐の後を走ると、幾分か走りやすいコース取りになっているのに気づく。だから、心の中で感謝した。

 

『ありがとう。おかげで、少しは到着を前倒しできるかも』

 

 

 

 

 

 

 

 

(まみ)れの須美と園子を横たえる。

バーテックスの侵攻ルートから僅かにそれた地点、そこへ銀は二人を避難させた。

銀だけが、なんとかバーテックスの攻撃を受け流し、直撃を避けることが出来たのだ。

もう、戦えるのは自分しかいないことは明白だった。

 

「うっ……」

 

須美が薄く目を開ける。

そんな須美に微笑みかけた。

 

「怖いけど、ここが頑張りどころっしょ……。二人とも休んどいて。あたしがなんとかするから」

 

須美が口を開こうとするが、声にならない。

 

「またね」

 

そう声を掛けた後、銀は二人を振り返らず走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

見えてきたのは、倒れている二人だった。

走り続けてきたことだけが理由でなく、心臓が早鐘を打つ。

 

「そのちゃん!」

 

園子と、貴也の知らない少女が血(まみ)れで倒れていた。

園子の呼吸を確かめる。

 

「良かった。生きてる……」

 

呼吸や脈はしっかりしているようだ。とりあえず命に別状はないものと判断した。

そして、もう一人の状態を調べようとして、ギョッとする。こんな状況でも思春期男子の正常な反応は起こるようだ。

 

『でかっ……』

 

しかし、その反応を一瞬で押し殺して状態確認をする。園子と同様、命に別状はなさそうだ。

とはいえ、血を流しすぎている。

どうにかしないと、と周りを見渡すと、例の狐が貴也の目をじっと見て頷く。

 

「任せてもいいのか?」

 

貴也をじっと見つめたままだ。肯定のサインと受け取った。

 

「もう一人は……、――――――いないな。戦闘中ってことか……。くそっ」

 

この場にいない、園子のもう一人の仲間を捜すことにした。周りを見回し、当たりを付けた方向へ走り出す。

 

『僕じゃ戦力になり得ない。でも、そのちゃんの情報通りなら、戦わざるを得ない。でないと四国が……。どうしたらいいんだ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっから先へは、通さないからなーっ!」

 

足下に一本の線を引き、銀は駆けた。三体のバーテックス目がけて。

脳裏に須美や園子、クラスの友達、安芸先生、両親、二人の弟、その姿がよぎる。

大切なものを守り抜くため、銀は咆哮し双斧を振り(かざ)した。

 

 

 

 

 

 

 

 

走っている最中、思い出した。あの指輪からの情報の奔流。焼き付けられた単語は他にもあった。

 

『多重召還』

 

途端、九体の精霊が光になって貴也の体に吸い込まれる。

グンっと力がみなぎると同時に、激痛が走る。

 

「ガハッ……」

 

目の前に、走っている速度に追従して七つの車輪が現れた。直径二十センチメートルほど。

使い方は一瞬で理解できる。

順番に四つの車輪を両足脇に軽く放り投げる。車輪が足の両側面で高速で回り始める。

もう走らなくとも、まるで自動車かバイクを最高速度で走らせているようなスピードが出始めた。

 

残り三つの車輪を重ね合わせ、片手に持つ。

一瞬だけ光り輝くと、直径が先ほどまでの倍はある輪形の刀となった。

 

『こんなので、いけるのか? さっきよりはマシか』

 

感覚的に、バーテックスに通用するか、はなはだ疑問だ。明らかに園子たちの装備より貧弱に感じる。が、今はこれ以上思い出せない。

 

三体のバーテックスが見えてきた。

 

『ウソだろ……。そうか、だから、そのちゃんたちもやられたのか。ますます、生きて帰れる保証が無くなってきたな。でも、もう一人の子は頑張ってるはずだ。僕もできるだけのことはしないと……』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここから、出て行けーーーっ!」

 

銀の、射手座型(矢を放つ)バーテックスへの攻撃。しかし、蟹座型バーテックスの板状浮遊物で反射した矢が、その後方から銀を襲う。

 

「危ないっ!」

 

貴也が庇った瞬間、貴也の背に雪女郎が現れ、その周囲の光の障壁が矢を防ぐ。しかし、防ぎきれない矢が貴也を掠める。

 

「グッ」

 

地面に転げる二人。

 

「あんたは?」

 

「詳しいことは後だ。僕は貴也。そのちゃんから聞いてるだろ」

 

「あたしは銀だ」

 

「よし、行くぞ、銀! つかまれ!」

 

「おうよ!」

 

輪入道の車輪で高速空中走行性能を得た貴也が、銀の左手を取ると同時に抱え上げ、攻撃をサポートしようとする。

アイコンタクトで銀を蟹座型バーテックス目がけてぶん投げると、自分は射手座型バーテックスを攻撃する。しかし……

キィーン。

貴也の輪刀は傷一つ付けることはない。

 

「チッ、やっぱり、火力不足か! 銀、交代だっ。僕がそっちをっ!」

 

言いかけたところで、蠍座型バーテックスの尾の横薙ぎが直撃する。雪女郎の障壁が一瞬張られるが弾けてしまい、貴也はまるで弾丸のように地面に激突する。

 

「ガッ……!」

 

それでも輪入道の車輪が、機動力を損なわせない。無理矢理、体を起こして、その機動に任せて走行する。

矢が当たったのだろう。横腹から激しく出血する銀をすくい上げると、声を掛ける。

 

「悪いがっ、休んでいる暇がないっ。矢を撃つ奴が(かなめ)だっ。奴を任せるっ」

 

「あんたはっ?」

 

「せいぜい、(デコイ)になるさっ」

 

そう言って貴也はもう一度銀を、射手座型バーテックスの直上にぶん投げる。

 

「頼むぞ。銀……」

 

 

 

 

貴也は蠍座型バーテックスの尾による猛攻を、輪入道の機動力と雪女郎の障壁でかろうじてかわしながら、蟹座型バーテックスが板状浮遊物で射手座型バーテックスの攻撃サポートを行おうとするのを体当たりで邪魔し続ける。

その度、矢は貴也の体のあちこちを抉る。雪女郎の障壁では針と矢、二つの攻撃を同時には防げないのだ。

 

『そうでなくても、体の中から燃えそうに熱いのに。血が……』

 

その先では、赤い閃光となった銀が空中を舞うように、射手座型バーテックスをその双斧で削り続けていた。

 

 

 

 

ついに、銀の猛攻で体を削られ続けた射手座型バーテックスが撤退を始めた。

と、同時に射手座型バーテックスを包み込むように、鎮花の儀が発生する。

 

目の端でそれを捉え、一瞬ほっとした隙をつかれた。

蟹座型バーテックスの尾の鋏部分が貴也を引っかけた。そのまま雪女郎の障壁ごと弾き、返す刀で銀を薙ぎ払おうとする。

辛うじてかわす銀。

ところが、次の瞬間。蠍座型バーテックスの尾の先、針の部分がピンポイントで銀の右腕を貫いた。

 

「グッギャッ……」

 

銀の右腕がちぎれ飛ぶ。切断面から血が噴水のように吹き出る。

 

「銀! 雪女郎っ!」

 

とっさの判断だった。雪女郎は冷気を操るはずだと、雪女郎そのものへ願いながら、銀へ意識を飛ばす。

銀の腕の切断面が凍結した。

 

しかし、それが貴也にとっては致命的だった。

蟹座型バーテックスの板状浮遊物が貴也の背に、斬りつけるようにぶち当てられた。障壁は発生しない。

 

「グハァッ……」

 

背中が折られたような衝撃と共に、体が吹っ飛ぶ。

意識がブラックアウトする直前、最後の力を振り絞る。

 

「いけーっ!……」

 

輪刀を蠍座型バーテックスに投げつける。足回りの四つの車輪が消え、輪刀がやや巨大化すると共に、その周囲に冷気が満ちる。

ブツン……!。

ちょうど、尾の細いくびれ部分に当たったようだ。蠍座型バーテックスの尾がちぎれ飛んだ。

 

 

 

 

「貴也さんっ! お前らーっ!」

 

意識が飛びそうになる激痛の中、銀は左手一本で二体のバーテックスに立ち向かう。

 

先端を切り落とされた尾を振るう蠍座型バーテックスと、同じく尾を振るうと同時に板状浮遊物の連携もとって攻撃してくる蟹座型バーテックス。

対するは鬼気迫る銀の、一丁の斧によるラッシュ。

とうとう、そのラッシュが蟹座型バーテックスの尾を捕らえ斬り飛ばす。

 

そこがターニングポイントだった。片手一本の銀の猛攻が二体のバーテックスを押し返し始める。

 

「お前ら化け物には分からないだろーっ! これが、人間の気合いと! 根性と! 魂ってやつだーーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

園子が気づいたとき、辺りは静まりかえっていた。

倒れている須美のそばに暗赤色の毛並みの狐がいたが、園子が体を起こすのを見届けると、何処かへ去った。

須美を起こし、銀を捜す。

 

四国の外側を守る結界。その方向へ、点々と(おびただ)しい血の跡が続いている。

胸騒ぎを感じながらも、ヨロヨロと二人、そちらの方向へ歩いてゆく。

 

壁の前の人影に気付いた。

 

「銀……」

 

「ミノさん……」

 

人影が振り向く。

 

「すみ……、そ、の……」

 

トサッ。曖昧な笑顔と共に、銀が倒れる。

 

「ぎんーーーっ!」

 

「ミノさーーーんっ!」

 

銀の体にすがりつき、大声で泣き叫ぶ二人の声がこだました。

 

 

 




原作はここで銀が散ってこそのお話ですが、本作はガン無視で突き進んでいきます。
辻褄合わせのしわ寄せは、すべて銀に向かってしまうわけですが。

なお、戦闘描写がかなり曖昧です。
とりあえず、サクサク進めたいのでスピード感重視で曖昧な表現にしていますが、
もう少し細かい描写を入れた方がいいのか、加減が難しい。
この辺も当面、試行錯誤ですね。

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