ファントムオブキル〔鋼鉄編〕   作:超高機動俺

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第一章 前編 旅の始まり

荒野を駆けるのは、一つの機動兵器。

ソレは、ある心に定めた使命の為に風を切る。

 

 

 

この地球に突如として現れた巨大な樹木。その根は世界を動かし、国を繋いだ。しかし、その木が引き起こしたのは絶望だった。

隣同士では無かった国がぶつかり、そして樹木からは"ファントム"と後に呼ばれることになる破壊機甲が生まれ、世界は混沌を極めた。

これを人はこう言う。「神樹降臨事件」と。

 

 

 

大きな爆発音が聞こえる。また一つ、人が住む場所が無くなったのか。

音だけでそれが分かるようになってしまった俺が、ここにいる。

もう慣れた、人が死ぬ事に。慣れてしまった。

そして奴等の行動パターンも分かる。・・・また、人を殺すのだろう、アレは。

あの事件から100年だ。それでも、奴らは止まらない。アレは俺たちとは違う。戦う事で疲弊する肉体も無ければ、殺して痛む心も無い。

人はもう、疲れているんだ。50年ほど前には人間同士の戦争は終わったと言う。

そしてこのまま、人間の歴史も終わるのか?

そんな事を考えながら木陰で休む。ここは荒野と草原の間にあるオアシス。川を一つ挟んだ先は、昔は海岸であった場所だ。

今となっては、荒れ果てた大地が広がるだけなのだが。

 

・・・もう眠ろう。

 

彼が載っていたバイクに、月の光が照らされる。

 

 

荒野、機動兵器が音を立て、砂を撒き散らしながら走行する。

夜が明けて、モニター越しに朝日がコックピットの中に射し込む。

 

「もう朝、ですか」

 

長い髪をかきあげながら時間を確認する。

自分が動き始めてからまだそんなに経ってない、そう思っていたが出発した時間を確認して逆算してみると、かなりの時間、この砂漠地帯を動いていたようだ。

 

常に操作し続けていたハンドルから手を離し、一休みでもしようかと水を口にした瞬間だった。

レーダーに何かが映る。それと同時に警告音が機体の中で反響する。

地平の彼方より、20を超える影がある。それは間違いなくこちらに近づいていて、この機体を敵視しているようだった。

 

「仕方ないですね」

 

機体に収納されていた剣を取り出し、ブースターを最大で点火する。

 

「行きます!」

 

彼女の名はティルフィング。・・・本当の名前は、分からない。この世界がここまで荒廃した時、飢えをしのぐ為に食べた果実が彼女に機体の操縦桿を握る権利を与えた代わりに、本来あったはずの名前が無くなった。

そして手に入れた機体の名前がティルフィング。今はその名を借りて、この世界を生きている。

 

そして、彼女が相手するのはこの世界の頂点に立つ謎の破壊機甲。

そう、ファントムである。

 

「これで、終わり・・・!」

 

しかし、彼女にとってファントムは敵では無い。幼少の頃からこの機体に乗り戦っていた賜物だ。その事を知る人は居ないのだが。

 

切り裂いた残骸を見つめながら、ある事を考える。それは、彼女の心に決めた使命。『ファントムを根絶する』。それは可能なのだろうか。これは神の意向で、人はこの世界に必要ないと決めたのだろうか?

 

顔を上げると、遠くでエンジンを噴かす音が聞こえた。ファントムが動く音ではない、ということは人間なのだろう。ここの近くに人が住んでいる場所があるのかもしれないと、その音に向かって走り出す。

 

 

 

彼は運良く生き延びている?違う、彼は生きる術を持っている。それは彼以外は持たぬ力。ファントムバイブスと呼ばれる力だ。

触れたファントムの操縦権を剥奪する。弱点とするならば、操縦権を剥奪してもそれを使う術が無い。故にそこに放置しておくしかない。

彼には、『動かせない』という事実しか分かっていないのだが。

 

「・・・こいつに乗れれば、燃料の事を気にしなくても済むんだがなぁ」

 

まぁ、これに乗れるなんて思っちゃいないけども。

 

そう思ってバイクを出そうとした、その時だった。

 

「それ、要らないんですか?」

 

背後から声がした。その美しい声に振り返るとそこには砂で薄汚れたローブを被った女がいた。

全く気配がしなかった事に驚きながら言葉を返す。

 

「要らねぇよ。こいつに使われている素材は俺以外が触ったら何故か崩れていくから使えねぇ。そんでもって俺にはこれが動かせないからな。邪魔になるだけだから置いて行く。ところで、一人でどうしたんだ?てか誰?」

「私ですか?」

 

そういうと、彼女はローブのフードを外す。中から現れたのは艶のある桃色の髪と、その髪、声を持つに相応しい美貌を持つ女の子だった。

 

「ティルフィング、そう呼ばれています。人を探していたんです」

「ティルフィング・・・?珍しい名前だな。それにしても人探しか。そいつの名前は分かるのか?」

「えっと・・・人探しは終わりました」

「は?・・・あぁ、人間を探してたのか。でも、よく生き残れたな?」

「武器は有りますから」

 

自分の腰にぶら下げている剣を叩く。それには繊細な装飾が成されており、傷一つ無く、これで戦ったのかと疑問に思うほど綺麗な剣。

 

「・・・よくもまぁそれだけで」

「ところで、この辺りに村はあるんですか?」

「今から向かうとこだ。乗るか?」

「いいんですか?」

「このバイクだってこんな男ばかりが乗るのは気に入らないだろうしな。ほらよ」

 

ヘルメットを取り出して投げる。それを掴んだティルフィングは被り、バイクの側までやってきた。

 

「ではお言葉に甘えて」

 

そして彼の後ろに座る。

 

「しっかり掴んどけよ?振り落とされるかもしれねぇから」

「はい、失礼しますね・・・ッ!?」

 

彼の腰を掴もうとした腕を突然引っ込めた。まるで静電気でも起きたかのように。

 

「これは・・・バイブス?」

「ん、どうかしたか?」

「い、いえ。なんでもありません」

「そうか。じゃあ行くぞ」

 

 

日が傾き、空の色が変わってきた頃。

 

「む?この音は・・・彼か」

「扉を開きます!」

「あぁ、頼むよ」

 

村の周囲を囲う塀の門が開かれる。その様子は遠くからでもよく見える。

 

「じぃさん達、俺の事に気付いたな。じゃあちょっと急ぐから、振り落とされんなよティルフィング」

「は、はい」

 

バイクのスピードを上げて、村の門へと近づいて行く。その門を抜けると、町が広がっていた。

 

「人はこうやって生きているんですね・・・」

「まぁ、あの変な殺戮マシーンが居なけりゃ、もっと発展してるんだがな」

「殺戮マシーン・・・ファントムの事ですか?」

「あれ、ファントムって言うのか?・・・っと、そろそろ止まるからな」

 

屋根のある場所にバイクを停める。他にも色々な資材や機械が置かれていて、そこが工房か何かである事が見て取れる。

 

「よく帰った。成果は何かあったかの?」

「すまねぇじぃさん、全くだ。成果は無い。けどまぁ、なんか知ってそうなんだよ、この・・・ティルフィングって子が」

「ふむ。お前さん、こんな綺麗な女性を連れてはアマネに何か言われるぞ?」

「そうさなぁ・・・。蹴られるかもなぁ・・・」

 

そう言いながら空を見上げる彼をよそに、ティルフィングは村を見回した。

活気がある。生きる事を忘れていない人々が、ここに生きている。その空気の中には絶望も混ざってはいるが、それでも希望は捨てない、そんな村だった。

 

「ここの人々は、諦めていないんですね」

「あぁ、そうじゃな。皆、外で何かを失った者達ばかりじゃが、それでも諦めてはおらぬ。いつかそれぞれの場所に墓を作り、弔ってやろうと思っておるんじゃ。その為にも・・・」

「少なくともあの機械が、ティルフィングの言ったファントムがいる限り出来ないしな。何とか俺以外でも機能停止させられる方法を知る必要があるんだ」

「そうですか・・・」

 

ティルフィングは考える。もしかしたら、この人達なら協力してくれるかもしれない。私の意思に理解を示してくれるかもしれない、と。

 

「今日はもう遅い。ティルフィングとやら、この男の家しか空いとる家が無い。すまんがそこで泊まってくれ」

「じぃさん!?アマネと俺が住んでんだけど!?」

「アマネなら何だかんだ言いながら泊めてやるじゃろうて。では、任せたぞ」

「あの、ご迷惑なら野宿でも・・・」

「大丈夫だ。というか、それされると俺が嫌な奴になるからダメだ」

 

自分の家に招くと、取り敢えずここで待っていてくれと言い、アマネの部屋に向かう。

 

「おーい、ちょっといいか?」

 

ドアをノックしながらそう言うと中から気だるそうな声が聞こえてきた。

 

「・・・何よー、こんな遅くに」

「ちょっと泊めて欲しい人が居るんだが」

「・・・男ならお断り」

「女の子だ。綺麗だったぞ」

 

いきなり中が騒がしくなった。どうしたんだろうと首を捻ると勢い良く扉が開いた。少し着崩れた服装で、急いで服を着たんだと分かる。

 

「・・・私より、綺麗だった?」

「ん?性格は多分アマネより綺麗だと思う」

「死ね!」

 

横っ腹に回し蹴りが綺麗に刺さった。

 

「じゃ、ちょっと見てくる」

「あい・・・つ・・・」

 

呼吸が止まるくらいまで強くする必要無かったろ、と言うことすら出来なかった。

 

 

ティルフィングは考えていた。何を話し、何を頼めば良いのかと。そして、自分の旅にあの人の"バイブス"は絶対に必要になるだろう。他にも、私と同じ力を持つ人を探さないといけない。私だけでは戦えない。でも、あの果実を食べた人がいるのだろうか?

 

「ねぇ、あんたがあいつが連れて来た客?」

「え、えぇ。そうです。ティルフィングと言います」

「ふーん。私はアマネ。私の部屋に泊まることになるだろうから、よろしく」

 

そう言うと隣に座り、こちらをじっと見つめる。アマネと名乗る彼女の赤い目は私の中を見通しているようで・・・。

 

「あんた、あいつの事どう思ってるの?」

「え?それ、どう言う・・・」

「ん。やっぱいい。寝る時になったら私の部屋に来て」

 

そして彼女は階段を登っていった。

 

「すまねぇな、ティルフィング。昔はあんなに素っ気ない奴じゃ無かったんだがなぁ・・・」

「・・・この世界がそうさせたのでしょうか」

「半分当たりで半分間違いだな。・・・まぁ、訳ありみたいだし話しても良いか。5年前に行った、人類の興亡を賭けた最初で最後の叛乱作戦、通称"オペレーションR"それがあいつを変えてしまった」

「・・・」

「あいつの兄、ゼロはそれに参加した。まぁ、結果は今の通り。師団は全滅。生存者は無し。そこで人間の敗北が、荒廃が決定した・・・って言うのは知ってるか」

 

その性ですっかり捻くれてしまってな、と言う彼の顔は本気でアマネを心配しているようだった。

 

「・・・あの、話があるんです。長くなると思うんですけど」

「じゃあ明日の方がいい。そろそろ灯を消さないとじぃさんから怒られちまう」

「分かりました。では、お休みなさい」

「あぁ、お休み」

 

彼女はアマネの部屋に入っていった。自分もやるべき事を終わらせて自分の部屋へ入る。

 

「さてと、寝るかな。・・・ん?」

 

ベッドの上には、紙が一枚置かれていた。

 

『布団もらってくから』

 

アマネの字だ。・・・ん?布団もらってく?

急いで押入れを開く。・・・布団が無い。

 

「あいつ・・・、俺の布団持って行きやがった・・・!」

 

 

「あの、私が床の方が・・・」

「いいの。そこで寝て。私のはあるから。じゃお休み」

 

布団にくるまり、そのまま眠りに就いた。

可愛らしい、良い寝顔をしながら。

 

 

夢を見た。兄さんが死んだ時から、見なかったもの。だから何だか懐かしくて、でもこんなのを見る自分が憎らしくて。私はどうすればいいのか。

そんな考えはすぐに消えた。黄金の羽根がそれを祓う。

見えないけど、そこに何かが居る。何だろう?暖かい。まるで、幼い時に握った兄さんの掌の温もりのようで。

 

「兄さん・・・!?」

 

見覚えのある後ろ姿が見えた。そして、黄金の羽根がそれをまた祓う。

 

「待って!待って!私を、一人に・・・!」

 

目を覚ました。まだ日は出ていない。こんな時間に起きてしまった。ティルフィングと名乗る彼女はまだ寝ている。

もう眠れそうも無い。アマネは家を出た。

 

しばらく歩くと大きな木がある。これは私の思い出。あの時、兄さんと一緒に登った木。・・・また、登ってみようかな。近くにあったハシゴをかけて、大きな枝まで登る。

今アマネが座っているのは、昔ゼロがいつも座っていた場所。懐かしい、あの日々。

 

「兄さーん!ご飯だって!」

「ん?あぁ、わかった。よっと」

 

スルスルと木から降りてくるゼロを見るアマネ。

 

「ねぇ、兄さんは何でいつもあの木に登るの?」

「高いところから周りを見ると、世界が広いって感じるんだ。けど、俺たちはここから出られないだろ?だから今はここで周りを見て、理解して、いつかアマネと一緒に、実際に見て回ろうと思ってさ」

「ふーん。ねぇ、兄さんって、ろまんちすとってやつなの?」

「かもな。さ、メシなんだろ?行こうぜ、アマネ」

 

 

「兄さん・・・」

 

思い出せばキリがない。まるで呪い。兄さんとあいつがどうしても重なってしまうから、どうしても、彼を彼として見ているはずなのに、ゼロの後ろ姿を追ってしまう。だから、甘えてしまう。兄さんなら許してくれたから、と。

 

・・・気のせいだろうか、枝に何か、光るものがくっ付いている。手に取る。黄金の・・・林檎・・・?

 

「禁断の果実。口にした者に力を与え、何かを奪う。・・・こんな所に居たのですね。アマネ」

 

その疑問に答えたのは、さっきまで寝ていたはずのティルフィングだった。

 

「・・・どうして場所が分かったの?」

「私もその果実を口にして、力を手に入れたから。・・・夢を、見たんでしょう?大切で、そして今は遠い、遥かな夢を」

 

その言葉は、アマネの心に深く突き刺さる。今は無い、そうだ、呪いじゃなく、夢。

 

「その果実は、貴女に資格があると認めて現れた。いつそれを口にするか・・・口にしないのも、貴女の選択次第です。そして、アマネ。貴女にも私の話を聞いて欲しいのです」

「・・・それは」

「彼にも話すつもりです。ですから、その時まで選択は待って欲しいの。それは腐敗という概念の無い、人の理を超えた物だから」

「・・・分かった。けど、私は多分これを食べる事になる。だから・・・」

 

その不安げな顔を見せたアマネに微笑む。まるで長年連れ添った友のように。

 

「えぇ、その時は私が」

 

 

 

これは機械と砂に塗れた、破滅寸前の人類史。天上、地上に別れる事の無かった、もう一つの世界の物語。

 

 

 

 

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