連れていかれた先は、暗く狭い小部屋の中。二つの椅子とその間に机が用意されていた。隊長と呼ばれた男が合図をすると、部下らしき男達はマスターの手を放し、部屋より退出していく。
「俺をどうする気だ?」
「・・・お前には使い道がある」
そういうと、彼はマスターを座らせ、机の上に地図を広げた。
「・・・これは?」
「五年前、俺は人間として、最後の作戦に参加した。その時に使われた大樹攻略用の経路地図」
「まさか、お前・・・あの作戦の生き残り!?」
「・・・無様だがな。適応できるキラーズの無かった俺はただの補給兵としてあの場所に居た」
「ならなんでこんなことをする!?」
「答える必要は無い。お前たちの力、我々が管理する。彼女達の持つ力はまさしく千年前のカミノツカイと同じ。キラーズという力を宿し、人間の限界を超えた少女。おそらくあれは、我らの知る力とは違う、本物だ」
「あいつらをなんだと思って・・・っ!」
「もちろん、希望。この地球が作り出した人類の防衛装置であり、人智を超えた暴力装置だ」
「装置・・・?装置だと?」
「そう、装置だ」
ライターでろうそくに火を点ける。二人の顔が赤い炎で照らされる。
「お前もうすうす気づいているだろう?彼女達の力がもたらす恐怖を」
「何を・・・」
「あれだけの強力なエネルギーだ。もし彼女達の手に負えなくなったら、もし彼女達の意思が破壊に向かえば?そんな事すら、考えないか?」
「黙れ!あいつらがそんな事をするとでも・・・!」
「しない・・・と、言い切れるのか?お前は見たはずだ、目の前で」
思い出す。ヴァリンとレーヴァテインのあの出来事。彼女が激情のままに、ヴァリンという人間をその手にかけようとしていた事。
「黙ったな。結局マスターと名乗るお前でさえ、彼女達の力を全て理解しているわけではない。そんなお前が彼女達の手綱を握れるか?」
「・・・あいつらは、俺たちと同じ人間だろうが・・・!」
「首輪は無くとも、エサはある。安心しろ、お前を殺す訳じゃない。飯は出す。それなりの待遇も約束しよう。ただ私は、彼女達の協力を得るためにお前を使う」
扉が閉まり、重い金属がぶつかる音がする。
「・・・くそっ」
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「で、どうするんですか?」
ロンギヌスは不安げな顔を浮かべながらラヴィーナを見る。
「プランはあるよ。彼を捕まえておける場所なんてそうそう無いし、それに・・・」
「ここには議会があるんですよね?ならマスターの身柄の確保は彼の独断という事ですか?」
「あぁ、だろうね・・・あれ?ここが議会制だって君たちに言ってたっけ?」
「と、とにかく!彼の独断というのなら、そうそう目立つ場所には置かないのでは、と私は思います」
「じゃ、そいつしか知らない様な場所があいつの監禁場所って訳・・・」
「そういう事になるね。で、どう探すかなんだけど」
「・・・ぶっ壊しまくる?」
「だ、ダメですよ!」
「そうだね。君達は彼に目を付けられている。ここを出たのを見つかればまずい事になるだろうね。だから、僕だけである程度探る。見つかったら君達に居場所を教える。そうなったら次に脱出だね」
「ちょっと、脱出って言うけど・・・」
ずっと話を聞いていたヴァリンが口を出す。
「あのバイク置いていくつもり?せっかく修理と改ぞ・・・チューンナップしといたのに」
「そうだね。ヴァリンさんに預かって貰うとかでいいんじゃない?」
「えー・・・まぁ、場所はあるからいいけどね」
「・・・あれ、大切な物なんだけど」
「大丈夫よ。変な改造はしてないわ。あの機械を倒すための兵装を取り付けただけだから」
「倒す・・・?一体何をあのバイクに?」
「秘密、よ。ま、期待してくれて構わないわ。それに、そんなことよりもあんた達は彼の事だけを考えなさい」
「・・・じゃ、とにかく僕が彼を探す。それまではここで待機だ。それでいいかい?」
三人の姫は無言のまま頷く。それは彼女を信頼した証。
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闇に包まれながら考える理想。すべての人間を救うという、愚かしく途方もない妄想。その夢の始まりはきっと、自分を助けてくれたあの人のあの背中なのだろう。
彼は拳を額に当てる。
自分の考えは間違いなのかもしれない。何も「キル姫」を知らない自分が、何もあの樹を知らない自分が世界を救うなんて思い上がりなのかもしれない。・・・それでも、あの男が正しいとは思わない。キル姫は装置ではない。笑顔を浮かべ、怒りを表し、涙を流す、力を持つだけの、戦う宿命を背負わされただけの、ただの少女なのだ。
だから、あいつには渡せない。
「あぁ、そうして欲しい。君たちは僕の理想だ」
扉が開く。一筋の光は彼の瞳に反射する。映るのは、彼を案内したラヴィーナだった。
「聞こえたよ、君の声。・・・何故なのかは分からないけど」
「ラヴィーナ・・・何でお前が」
「そうだ、その前に言わないと」
彼女は深々と頭を下げる。
「本当に申し訳なかった。知らなかった事とは言え、君を捕える助けをしてしまった。だからこそ、君の無事でもって、その償いを」
「・・・そういう事か」
立ち上がり、彼女の瞳をまっすぐに見る。その瞳に嘘の陰りは無い。
「簡単に信じてもらえるとは思ってないけど、でも今だけは」
「それが分かってるんなら、俺はお前を信じる」
「・・・驚いたな。君があれだけの女の子を侍らせてる理由がわかったよ」
「お前なぁ・・・」
「冗談だよ。さ、急ごう」
彼女はまだ気づかない。その内に潜む力と、彼に惹きつけられる運命に。