ファントムオブキル〔鋼鉄編〕   作:超高機動俺

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第三章 その一 「希望」の生まれた場所

車が何にも無い平野を走る。バイクは後ろに載せている。

教皇との戦いで疲れ切った三人は後部座席で寝息を立てている。

ヴァリンと名乗った女性はその姿をミラー越しにチラチラと見ていた。

 

「あのさ、君」

「何だ?」

「彼女たち、酷い事になってるわよ」

「・・・へ?」

 

振り向いて彼女達の容態を見たが、何処にもおかしな所はない。強いて言うならちょっと汚れが目立つ、と言う所だけか。

 

「まぁいいわ。他人の厄介に首を突っ込むほどのお節介はしないつもりだし」

「は、はぁ・・・」

 

それでも彼女は、やはりミラーをチラチラと覗く。何か心配なのか。

まぁ仕方ない。この時代だしな、きっと何か盗られるんじゃないかと不安なのだろうと無理矢理納得する。

 

「ところで、何であんな所で倒れてたの?行き倒れ?」

「ま、そんな所かな」

「ふーん。じゃ、訳ありって事ね」

「はっ?」

「だってそーじゃない?こんな化け物が一杯いる世界で行き倒れなんて有り得ないわよ」

 

飄々と話す彼女には隠し事は出来ないのだとすぐに理解する。

 

「・・・あぁ、そうだよ。とても訳ありだ。この世界を救うつもりでいるんだからな」

 

すると、彼女の声色が少しだけ変わった。

 

「・・・救う、ね」

 

顔は陰り、何かを知っているようで。

 

「どうしたんだ?」

「何でもないわよ。さて、そろそろ着くわ。お仲間を起こしてもらえる?」

 

ティルフィングがその言葉を聞いたのか目を覚まし、他の二人も起こしていく。

 

「ここが私の居場所。この辺り一帯を管理しているレジスタンスの基地を間借りしてるだけなんだけどね」

 

目の前に見えるのは鋼鉄の砦。その姿はまるで、一つの大きな島のようで。

 

「デカい!?」

「そりゃそうよ。君だって知ってるでしょ、5年前の最後の作戦

の事は」

「そりゃまぁ、知ってはいるが・・・それに関係が?」

「大有り。ここがその作戦における司令本部だったのよ」

「ここが、か・・・」

 

ここが5年前、最後の「希望」と呼ばれた場所。その姿を見て彼は思う。

こんな強大な勢力ですら、ファントムの断絶は出来なかった。・・・それを、自分達は行おうとしている。

不可能を可能にしようとしている。

 

「どうしたの?」

「・・・いや、何でもない」

「もしかして、ビビっちゃった?」

「・・・あんたに隠し事は出来ないのか?」

「マスターが単純過ぎるだけでは?」

 

後ろから声が聞こえた。ティルフィングだった。

その声を聞いたヴァリンは思わず吹き出していて、横にいたレーヴァテインとロンギヌスはその目を丸くしてティルフィングを見る。

 

「え?な、何でしょう?」

「ティルフィング、お前結構言うなぁ・・・」

 

そして、彼の言葉に、ヴァリンの笑みは消えた。

 

「今、ティルフィングって言った?」

「えぇ、それがどうかしましたか?」

「・・・いや、何でもないわ。さ、行きましょうか」

 

さっきと打って変わって、神妙な面持ちのまま運転するヴァリンを、レーヴァテインは訝しげに見ていた。

 

「あの・・・怖い顔してますけど・・・何か」

「何でもない」

「そ、そうですか(な、何か気に触る事しちゃったかな・・・?)」

 

 

 

車の振動が止まる。窓の外は様々な機器で埋め尽くされている。

 

「さ、降りて。ここからは徒歩よ」

 

あ、バイクは押してきてね、と一言いうと彼女は先へ進んだ。

 

「・・・ねぇ、あいつ信用するの?」

「信用するも何も、コイツを直してもらわない限り先へ進めないんだよ」

 

彼は今押しているバイクをトントン叩く。

 

「でも「俺としても、本心では行きたくないさ。だけど俺達の背中には、送り出してくれた皆がいて、俺の背中にはお前達三人という心強い仲間がいる。もう、止まるわけにはいかない」・・・」

 

彼の目の中には確かな覚悟と、ほんの少しの臆病があった。

彼はこういう時、冗談を言うことが多い。それは周りに自分の不安や恐怖を伝染させない為にそうしている。

けれど、今の言葉に冗談はなかった。

それを知っている彼女には、彼の不安が分かるのだ。

 

「・・・わかった。けど、なんかあったらすぐに逃げるから。アンタの首根っこひっ捕まえてでもね」

「優しく頼む」

 

その姿をじーっと見ている仲間が一人。

 

(う、羨ましい・・・)

「どうしたんですか?」

「な、何でも無いですっ!・・・何でも無いですぅ!」

「は、はぁ。そうですか」

 

 

 

場面転換

 

ここは王の住まう場所。街の王では無い、この世界の王である。

 

「ふーん、本当に僕の失敗作がやられちゃったのか」

 

モニターからの光がその顔を照らす。その顔は年端もいかない少年のような無邪気さと、積年の思いを募らせた邪悪が同居する。

 

『いいのですか?』

「ま、処分に困ってたしいいかな」

 

その傍にいるのは、黒い仮面を被った一つの人影。

 

「それに、君達がいる。僕の所に来る前にやっつけてくれるんでしょう?」

『えぇ、貴方がそれを望むなら、私達は貴方の剣となりましょう」

 

その返事に満足したのか、浮いていた足をゆすり始める。

 

「あ、そうだ。そろそろその身体も手狭だよね?」

『えぇ。しかし、これでも戦えます。ご心配をお掛けするような事では』

「いや、僕が心配なんだ。だから手始めに、君達の内一人にボディをあげるよ」

 

あれを見てごらん、と指をさした方向を見ると、カプセルのような形をした透明な容器。その中には何かの液体と、裸体の少女の姿があった。

 

「でもね、このボディを持った子には任務を課せるつもりなんだ。誰がやりたい?」

『では、私が参りましょう。貴方様が生み出した七つの大罪が一人、この私グリードが』

「そう?じゃあそこに座って。すぐに始めよう。魂を移しかえるね」

 

彼の指示に従いその仮面の主は機械のような椅子に腰をかける。そして、しばらくするとあのカプセルの中の扉が開いた。

それは中の液体と共に外へと排出される。

生まれたての小鹿のようにもがくが、一分と経たずに立ち上がり、ごく普通の人間のように歩き出す。

 

「へぇ、意外と早く歩けるんだね!」

「当たり前です。・・・指示を」

「グリード、君にやってもらう事は二つだ。一つ、マスターと呼ばれるあの男の情報収集、もう一つは彼の周りにいるキル姫のDNAデータのサンプルの回収。これについてだけは、血液採集をしなくちゃならないからね」

「方法は、いかがいたしますか?」

「任せるよ。別に僕は平和主義者でも殺戮者でもない。・・・僕の力を、この世界に示し続けること。それが一番だからね」

「了解しました」

 

そういうと彼女はその場所を離れていく。

 

「さて、君達は他のボディが手に入るまで待っててね。ま、それほど焦る事もないし、ゆっくりしててよ」

 

 

 

 

ヴァリンの基地に到着したマスター達は、鉄の扉の先の光景に言葉を失っていた。口を大きく開けて。そしてその後に思い思いの言葉をヴァリンにぶつけていく。

 

「な、なんだぁ・・・?」

「ごみ屋敷じゃん」

「足の踏み場はどこに?」

「む、虫!?」

 

そんな言葉の棘が次々に刺さるヴァリンは膝から崩れ落ちた。

 

「うぅ・・・わかってるのよぉ・・・これの所為でモテないって事くらい・・・」

「いや、何もそこまで言って・・・」

「うわーん!!!いいからそのバイク修理してあげるからよこせー!!んでもってここの片付けしてー!!」

 

大泣きしながら修理用具を取り出し、少し開けた場所に座り込む。ここにバイクを置けということだろうか。

 

「・・・じゃあ、俺達で片付けやるから、修理頼むよ」

「はいはーい!」

「打って変わって元気になっちゃいました・・・」

「最初からそれが目的だったんじゃないですか?」

「まぁ、いいんじゃないか?どうせ修理終わるまで足止めだし、少しくらい手伝っても」

 

そうして三人が何から始めたものかと相談する中、レーヴァテインは柱にもたれかかり、ずっとヴァリンの事を見ていた。

 

「あなたは彼と一緒に居なくてもいいの?」

「あんたには関係ない」

「成る程、監視ってわけねー。ま、全然構わないわよ。隠すこともないしね。それに、あなた達には聞いておかなきゃならない事もあったし

「・・・なに?」

「あんた、何の力を得たの?」

「・・・見たいのなら、そう言えばいい」

 

剣が、虚空より現れる。その剣先を彼女の首筋に、背後からゆっくりと置く。

 

「へぇ、レーヴァテインね。その力を持った奴の末路を教えてあげる」

「・・・」

「仲間を守って、死ぬのよ。無謀過ぎる作戦の中でね」

「はぁ?」

「あんたは私を知らないでしょうけど、私はあんたを知ってるのよ、アマネ」

 

彼女の口から出たのは、あの場所に置いて来たはずの、自身の名前。

 

「どうしてそれを・・・」

「ここは「希望」の生まれた場所。私の研究が始まり。そしてただ一つの願い、平和という願いの為に人々が集い・・・果てに死んだ者達の始まりでもある」

「まさか、お前ッ・・・!!」

 

レーヴァテインの激情が肉体を駆け巡る。彼女の中にあるタガが外れた。

 

「そう、私はこの世界に希望を示し、人々を殺した。それが唯一の救いなのだと言い張って、人を改造し、その挙句人々を救うどころか、改造した者達すらも殺してしまった、「悪」の科学者よ」

「あんたが、ゼロを・・・ッ!!??」

「・・・ゼロは、貴女と同じ力を持っていたわ」

「黙れェ!!」

 

剣を投げ捨て、その首を持ち上げる。

彼女の怒声に気づいた三人がレーヴァテインを止めようと近づくが、彼女の肉体から放たれる何かによって、その進行を阻まれた。

 

「やめろレーヴァテインッ!」

 

彼の言葉は彼女には届かない。

 

「何が希望よッ!あんたがそんな物研究さえしていなければ・・・私の兄さんは死ぬことは無かった!」

「やっぱり・・・、あなたがアマネ・・・」

 

苦しみながら言葉を続ける彼女を憎しみの眼差しで睨みつける。

 

「兄さんは、あんたの言う希望に惹かれてその命を賭けた!必ず帰って来るって約束もした!なのに・・・なのにッ!気に入らない!何でお前は生きてるッ!?のうのうと生きて、何で笑っていられたのッ!?」

「レーヴァテイン!よしてください!人間同士で争ってる場合じゃ・・・!」

「黙って!あんたにこの悲しみは、憎しみは理解出来ないッ!」

「ぐっ・・・そういう激昂するとこも・・・あいつそっくり・・・!でも・・・これでも聞いて落ち着きなさい・・・!」

 

そういうと、ポケットの中からリモコンを取り出した。

 

「何を」

「あいつの、遺した物の一つよ」

 

握り込んだ手を動かした。・・・その部屋の中に砂嵐のような雑音が鳴り響く。

 

そして、一人の男の言葉が聞こえ始めた。

 

『親愛なるアマネに送る。・・・届いていると良いんだがな。俺は、きっと死ぬだろう』

 

その声から、彼の命の灯火はもう消えそうになっていると分かる。

 

『だからこそ、言っておかなきゃならない事が、ある』

 

レーヴァテインの憎しみに濡れた目は、離れずにヴァリンを睨みつけている。

 

『悪いのは、俺だ。俺だけだ。お前との約束を守れなかったのは、俺の弱さだ』

 

爆発音で音が割れる。

 

『・・・もう、時間がない。だからこそ、最期にお前にこの言葉を残したい』

 

『生きるんだ。お前や、お前の子供。そして、未来の為に・・・!』

 

ブツンと途切れる。

 

音は聞こえなくなった。

 

途切れと共に、彼女はその手の力を失くし、ヴァリンはそのまま床に倒れこむ。

 

「ゲホッ・・・流石、キラーズの力ね・・・」

「だ、大丈夫ですか!?」

 

ティルフィングとロンギヌスが駆け寄り、彼女の肩を持って抱え上げる。

その光景を静かに見送りながら、彼は彼女に目を向けた。

俯いたまま、何も喋らない。

 

「・・・」

「お前・・・」

「頭、冷やして来る」

 

一言だけ言い残し、レーヴァテインは外の匂いを求めて、その場を去っていった。

 

 

 

 

「・・・」

 

外の景色。彼女は髪をその風に任せながら見る。

自分の行いは、間違いだった。

・・・感情に流されて、この力を使ってしまった。この手はもう、人を殺す事さえ容易いのに。

曇り空が、世界を闇に導いていく。

 

「あれ、見ない顔だね君」

 

首を動かして流し目で見ると、軍服のような服に身を包んだ同年代くらいの少女がいた。

 

「・・・」

「つれないね。ま、いいけどね。横、失礼」

 

黙っていると側に立ち、手すりにもたれかかりながら空を見る。

 

「はぁ、今日は曇り空か。まるで今の君の顔そっくり」

「・・・」

「皮肉だったんだけどな・・・。ねぇ、一応聞いておくけど、君は何者なんだ?」

「・・・そういうあんたは」

「僕の名前はラヴィーナ。ここにいるレジスタンスの一人さ」

「・・・レーヴァテイン」

「なるほど、ね。まぁヴァリンさん辺りに連れられて来たんだろう?ゆっくりしていけばいいよ」

 

そう言うと、彼女はその場を後にした。

 

 

 

レーヴァテインが去った後、ヴァリンは静かにバイクを修理していた。その光景をマスターは静かに見ている。

 

「・・・なぁ」

「何?」

「ここで生まれた希望って、何なんだ?」

「そりゃ、あの作戦の・・・」

「あなたが作戦を思いついたと思えない。もっと言うなら、ただの人にあんな作戦が成功させる事が出来る、とは思えない。・・・あなたは、ゼロやあの時死んでいった男達に何をした?」

「・・・これの修理が終わったら、全部話すわ。あんたも、知らなくちゃならない事だしね。救世主になるのなら」

 

 

希望の光は、今何処に?

 

 

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