呼称「サウザンドレプリカ」。この技術は、人が手を出していい物ではなかった。古代の文献にあった、カミノツカイが持っていた力。・・・これは過ちだ。未完成でありながら、上層部に報告してしまった、私の。
「ここは・・・」
「鋼人開発局、それが5年前の名前よ」
先の修理工房から奥、長いエレベーターを降りた場所。そこには人な入れそうなカプセル状の容器が大量に、かつ等間隔に並んでいた。
「鋼人・・・?」
「それは表向きの名前なんだけどね。ここではその特徴からこう呼ばれていたわ。キラーメイルって」
殺戮の鎧。ファントムに対抗する、人間の手によって生み出された唯一つの手段。
「外に蔓延る機械達のボディを織り成すパーツを使った・・・いわば、改造人間」
「っ・・・!?」
ロンギヌスとマスターは顔を歪める。
「そんな事・・・命の冒涜ですよ・・・っ!?」
「えぇ、分かってる。だから言ったのよ、私は悪の科学者だって」
彼女は静かに、そして自らの行いを悔やむように、淡々とそう言い放つ。
-5年前-
「バカじゃないの!?この改造は成功確立五割を切ってる、到底人間がやっていい事じゃ・・・!?」
「だが、やらねば我ら人類に未来は無い。今動かずしていつ動くと?」
「だから、今私たちが研究をして成功率を・・・!」
「向こうがいつ我々人類を滅ぼそうと本気になるか分からんのにか!?」
「悠長な事は出来ん。今にでも動き出すべきなのだ」
国家連合会議室と鋼人開発局とのビデオ会議にて、世界各国より集められた首脳陣との会議を行った後、ヴァリンは真剣な眼差しで開発局の作業所へと足を踏み入れる。そこには局の職員が全員集められており、ヴァリンの報告を待っている状態だった。
「ヴァリンちゃん、どーだった?」
「・・・今すぐにキラーメイルの実験に取り掛かれ、作戦の概要は半年後に報告する、それまでに出来うる限りの人数を揃えろ、残存する人類への通達はこちらから行う、との事よ」
「まさか・・・本当にやるのか?」
「やるしかないのよ・・・」
齢18の彼女はその頭脳を見込まれこの開発局に入局した。そしてすぐに局長まで召し上げられた。その理由はただ一つ。以前、偶然に手に入った殺戮機械の部品をマウスに適合させ作り出したキラーメイルの前身による。
「・・・いい?私はこれから、人の心を捨てる。悪になる」
「悪・・・」
「もう、戻れなくなるということだな?」
「えぇ。だから先輩方には3つの選択をしてもらうことになるわ」
「・・・選択、とは?」
「1つ、私と共にここに残って、悪になる」
「ふっ・・・」
「2つ、いますぐ荷物をまとめて、ここから逃げる」
「どうやって?」
「2日後に軍の車両がやってくるわ。それで逃げて。そして」
「まだ、あるのか?」
「3つ目。キラーメイルとなる事」
その言葉はこの場を凍りつかせるが、皆、分かっていた。理解出来る、彼女の言うことも。
おそらく現役軍人の人数でも足りないだろう。そうなれば自ずと民間人の犠牲者が出るということも予想出来る。彼女は少しでもその被害を減らすためにと・・・。
「・・・決まってるぜ。俺たちの心は」
全員が立ち上がる。そして、眼帯をつけた男が言い放った。後に、リベリオンと呼ばれた、原初にして最強のキラーメイルが。
「俺たちを、キラーメイルの実験体にしろ」
「・・・そうして“サウザンドレプリカ”を使用した実験が始まったの。千年前の歴史書から紐解かれた、カミノツカイを模した物を現代の人間の肉体に宿す、ね」
「まるで、私たちのよう・・・ですね」
ずっと黙っていたティルフィングが口を開いた。
「おい、ティルフィング・・・?」
「いいんです。この人なら、分かるはず」
「どういうこと?」
怪訝そうな顔をするヴァリンを前にし、彼女はその手に光を宿す。
「マスター、私たちは最後の希望・・・なんですよね?」
「・・・あぁ」
なるほど。そういう事か。
「神機開放(クロース・オン)」
「なっ!?ちょ、ちょっと!何する気!?」
ヴァリンの叫びと共に、皆が光に包まれた。
「これが、私の。キラープリンセスの力です」
キラーメイルが人工的に作られた、いわば人工ダイヤモンドとするならば、キラープリンセスは純粋無垢な、この星の意志によって産み出された天然のダイヤモンド。
「・・・こんな物が、あったなんてね」
目の前の4、5メートルほどの鉄の巨人を前にボソリとそう呟いた。
「なぁ、ヴァリン。どうか俺たちに力を貸して欲しい。あなたが悪と断じたその知識と技術は、この手には余る代物だ。けど・・・」
「・・・あんた達の目的は分かった。そういう事なら協力出来るかもしれない」
「本当ですか!?」
「でも、一つだけ。あんた達の希望の理由が知りたいわ。何故そこまで、希望と呼べるのか。目的が分からないもの」
「最後の作戦、あの作戦内容自体に間違いはありませんでした。あの神樹にこそ、この世界を元に戻す何かがある」
「・・・何か?確証も無しにあんな所に行くの?」
怪訝そうな顔を見せたヴァリンに、神機から降りたティルフィングが彼女の手をそっと手に取り、自身の胸に当てた。
「えぇ。物質的確証はありません。でも、私の中にあるこの力が叫ぶんです。あの場所には、元に戻す何かがあると」
心臓の鼓動、血液の循環。ティルフィングには、その全てが道を指し示すコンパスとなっている。
そういえば、リベリオンも同じ事を言っていた。「俺の中の俺が叫んでいるんだ。あそこに、全てのカギがある」と
「・・・ま、いいわ。手伝ってあげる。でも、その機体の・・・他にもあるの?」
「私と、あとレーヴァテインさんもです」
「・・・それまではやってあげるわ。でも、あんたは別」
「別?」
「多分これから、自分に力が無い事に絶望する事になるわ。私の話を聞いたあんたはこう思うかもしれない」
『俺に、キラーメイルの力があれば』
「・・・」
「そうなっても、私はあんたをキラーメイルになんかしないわよ。意を決した英雄達ですら、誰一人として帰ってこなかったんだから」
「・・・それって、心配してくれてるのか?」
「それはそうよ。あんた達のやろうとしている事は、私達がやろうとしていた事と同じ。私からすればあんたは後輩よ。後輩を心配しない先輩は何処にも居ないわ」
・・・いや、それだけじゃない。彼等には、彼女達には、私達のようになって欲しくない。希望を求める意志も、希望を追う四肢も捥がれた私達のようには。
・・・私の出来る事は、彼等のバックアップだけだろう。でも、それが、彼等の希望の助けになるのなら。
「ま、悪の科学者には期待しないことね」
「よろしく頼む、ヴァリン」
全てを救う為、過去の浄罪のため、善悪なる科学者は今一度立ち上がる。