ファントムオブキル〔鋼鉄編〕   作:超高機動俺

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第三章 その三 レジスタンスの動向

コンクリートの床を足音を響かせながら歩を進める。そういえば、ふと思い出した事がある。レーヴァテインという名前は、神話に出てくる神々の武器。そこに一抹の不安と、心に積もるばかりの何かを感じていた。

 

「失礼するよ、隊長」

 

扉を軽くたたき、扉を開く。こじんまりとした部屋に小さく収まった机と椅子、そしてそこに座る男がいた。

ラヴィーナに隊長と呼ばれたその男は彼女のほうに目は向けず、言葉だけを返す。

 

「どうした?」

「ヴァリンさんが連れてきた旅人の件で少し、ね」

「あぁ、あれか」

 

あまり興味が無いのか、それとも他のことを考えているのか、生返事だった。

 

「・・・少しくらい、興味なり反応なり示してくれてもいいんじゃないかな。隊長は少しコミュニケーション能力に欠けているよ」

 

すると彼の黒く鋭い、釘のような視線が彼女に向けられる。

 

「何だ。無駄口を叩きに来たのか」

「いいや。ただ、ちょっと気になる言動があってね。レーヴァテインって知っているかな」

「レーヴァテイン、か。北欧神話に登場する武器だが?・・・あぁ、そうか」

「彼の持っていたキラーズと、同じなんだよね?」

「ふん・・・やはりこれを偶然と掃いて捨てる訳には、いかないか」

 

耳に手を当てると、小さな機械が外れる。

 

「イヤホン?何故それを?」

「ヴァリンの会話を聴いていた。突然切れるまでだがな。・・・あいつら、あの木を目指すらしい」

「彼らが?あの大樹にかい?無茶だよ、そんなの生身の人間が出来る筈がない」

「レーヴァテインと名乗った女は、この男の仲間だ。そして、同じように仲間がもう二人。名は、ティルフィングにロンギヌス」

「魔剣に・・・聖槍の名前・・・これってまさか」

「先代の隊長も、最後に名乗っていた筈だ。確か・・・パラシュと」

 

先代の隊長は最後の作戦で死亡した。最後はパラシュというコードネームだったと聞き及んでいた。

 

「これらは同様に伝説、伝承の武具の名であり、この研究所に登録されていた名でもある」

「まさか・・・彼女たちは関係者だというのかい?僕と同じくらいの年齢だろうに」

「年齢など、滅んだこの世界でどれだけ生き延びたかの指標に過ぎん。・・・なによりお前がそれを物語っているはずだろう?副隊長」

「・・・僕はたまたまここにいて、たまたま聞いた事柄を繋ぎ合わせて生きてきただけだよ」

「そんな謙遜はいらん。無駄だ。それよりもだ。お前に頼みたい事がある」

「と、唐突だなぁ・・・。で、なんだい?」

「あの男を連れてこい」

「何故?」

「・・・あいつらは、何かある。価値か、負債か。それをこの目で見極める」

「・・・わかったよ。彼らに接触を図ろう。何かあれば連絡する」

 

静かに扉を開き、彼女は立ち去る。その背中を見送った男はデスクから書類を取り出し、その文字を追っていく。

サウザンド・レプリカ

千年前、ある神に生み出された天よりの使徒。地上の災厄を振り払い、人々に徳を説いた救世主。その力を模した、ただそれだけの模造品。偶然の産物。

 

「・・・それこそが、キラーメイル。この力があれば、きっと」

 

唇を噛み締める。鉄の味が舌に伝わる。それはきっと、彼の心を表す味だろう。

 

 

日は落ちる。・・・長らくここで外を見ていた。何故かこの辺りにファントムの姿は無い。

その間に、様々な人間の姿を見た。誰もが彼女の事を不思議と疑問の入り乱れた目で見てはいたが、彼女の雰囲気で話しかける事が出来ないようだった。

 

 

「あ、まだ居た」

「・・・何よ。またあんた?」

「こっちの台詞さ。彼の元に戻らなくていいのかい?」

「・・・なんで知ってんの?」

「ここが僕の家だからね。自分の家は勝手が分かるだろう?」

「ふーん」

「ところで、僕の質問に答えてもらってないんだけど」

「何?」

「戻らなくていいのかって」

「・・・そろそろ戻る」

「そうかい。なんなら付き添うよ?」

「あんたが・・・?いらない」

 

そう言うと、レーヴァテインは元来た道を戻っていく。

 

その後ろをラヴィーナが付いてきていた。すぐに気づいたレーヴァテインは彼女に言葉を投げる。

 

「・・・なんで付いてくんの?付き添いはいらないから」

「え?あぁ。僕も君の彼氏に興味があってね」

「はぁ!?」

「冗談さ。でもこの場所に得体の知れない人間はあまり置きたくないんだ。何せ、キラーメイルの実験場だからね」

「・・・」

「君は訳ありなんだろう?普通の人には無い、何かを持っている」

「だから?」

「・・・僕らの世界は、謂わば光無き永遠の暗闇だ。一歩先すらも見えなくて、その先からは人を喰らう獣達の唸り声が聞こえてくる。そんな世界で、僕は見たんだ。僕より幼い少年少女が、この場所で恋し、愛し合っていた」

 

その思想はきっと、彼女が密かに慕うあの男が好きそうな、気に入りそうな考えで。

 

「それはきっと、尊いモノなんだ。獣を払い、行くべき道を太陽よりも眩い輝きで照らすはず。・・・だからこそ、その子達が進む一歩目を僕らが照らさないといけない」

 

ラヴィーナは彼女の手をとり、握り締める。

 

「でも、僕達だけじゃ駄目なんだ。守ることすら、危ういんだ。・・・だから君の、君たちの持つ力を、僕達の理想に使って欲しい」

「・・・それ、うちのマスターに言ったら?」

 

 

その言葉こそ、彼女の理想を認めた証。

 


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