ORGA【鉄血のオルフェンズ×ARIA】 作:DDD弾血王オルガ・イツカ
オレとミカは浮かれていたのかもしれない。まだ見ぬものへの好奇心。この前まで、そんなものにたぶらかされることはついぞなかったから、ただのガキらしく思うがままに見たことのないものを見ようと冒険したくなったのだ。
それが仇となったのか、それともこの街が別格だったのか。
とどのつまり、オレたちは迷子になっていた。
「オルガ。次はオレどうしたらいい?」
「勘弁してくれよ、ミカ。オレは……」
わかんねぇ。この街は路地と水路が入り組んでてどこも同じようなんだけど、それでいて違って、好奇心が尽きねぇんだ。ワクワクが止まんねぇんだ。だから行き当たりばったりで、こうして詰まっちまった。今は目的を考えねぇと。後先考えずに突っ込んだらダメだ。
「ダメだよオルガ。オレはまだ止まらない」
狭い路地裏にミカヅキの声が響く。
「待ってろよ……」
「教えてくれてオルガ」
「待てって言ってんだろぅピギュッ!」
考え込むオレの胸ぐらを勢いよく掴むミカ。その眼はオレを見ている。いつだってコイツはオレを見ている。
「ここがオレたちの場所なの?」
あの眼だ。
「そこに着くまでオレは止まらない。止まれない。決めたんだ。あの日に。決まったんだ」
あの眼が見てるんだ。オレは見られてる。
「ねぇ、何歩歩けばいい? あと何歩歩けばそこに着ける?
教えてくれてオルガ。オルガ・イツカ」
胸ぐらを掴む腕にさらに力が入る。ミカヅキの眼は見開いてオレを見つめている。
「連れていってくれるんだろ? オレは次どうすればいいんだ⁉︎」
「離しやがれ!」
オレを強く掴んだミカを同じくらい強く突き飛ばす。
「ああ、わかったよ。連れてってやるよ! どうせ後戻りはできねぇんだ。連れてきゃいいんだろ⁉︎」
オレも決めた。
「途中にどんな地獄が待っていようと、おまえを、おまえらを、オレが連れってやるよ!」
オレはコイツをあそこに連れて行くまで止まれない。コイツの眼に映るオルガ・イツカの背中はいつだって真っ直ぐ進み続けるカッコよくてイキがってなくちゃいけねぇんだ。
オレの中で再び、何かが壊れだす。心地よい破壊。生まれ変わってもオレのやることは変わんねぇんだ。
「ああ、そうだよ。連れていってくれ。
次は何歩歩けばいい? どこを歩けばいい? オルガが目指す場所に行けるんだったら、なんだってやってやるよ」
思わず口が三日月型ににやける。これだ。これが本物の俺たちだ。生まれ変わりとかなんだか知らねぇが、俺たちを止められるものなんてどこにもありはしない。
行ってやる。
たどり着いてやる。
俺たちの居場所に。
「行くぞ、ミカ!」
「うん」
とにかくオレらの新しい拠点を構えないといけない。神様だか仏様だか知らないがオレたちがここにこうしているのはナニかの思し召しに違いねぇ。ここがきっとオレらの居場所なんだ。
だったらまずはここを知らないといけない。
この街に詳しいヤツを探し出して聞くしかねぇ。
水路を辿ってデケェ通りに出るしかない。道は繋がっている。オレとミカのように。どこにいたって。
細い路地裏を縫うように進み続ける。人気の無い暗い道はどこか懐かしい。
家と家の隙間に干された洗濯物が昔の故郷を思わせた。
やがて、明るい太陽の照らす大きな通りへと出た。
長く大きい運河を挟んで向こう岸にもこちら側と同じように古い建物と細い路地裏に水路が見える。
この通りはたくさんの街の住民や観光客がごった返しになっている。
「すごい人だな。流石は観光地なだけあるぜ。思えばオレたちは観光なんてしたことなかったんじゃねぇか?」
「うん。そうだね。でも観光ってなにするんだろ」
「……ええとだな。うまい飯を食うとか? 珍しいもの見るとか? じゃねぇか?」
くそ。観光の仕方もわかりやしねぇ。オレたち宇宙ネズミはそんな贅沢なことした試しがないから。
「見てくれ、オルガ。あそこに見たことない舟がある」
「ん?」
ミカの指差す方向には細長い舟がある。黒色の舟が多い中、稀に白色で綺麗な装飾が施されたものもある。
見れば、至る所にその細長い舟が停泊している。それに乗って運河を移動する人もいる。
「この街。細い道や水路ばかりで自動車の一つも見ねぇと思ったら。そうか、この街の人にとってはあの舟が移動手段なんだ」
物を運ぶ舟。人を運ぶ舟。様々な舟がこの街の水路を行き交っている。
「よし、ミカ。この街の攻略にはあの舟が欠かせないみたいだ。もっと近くに行って見てみようぜ」
「うん。そうしよう」
オレとミカは大きい運河沿いに停泊している舟に近づき観察を始めた。
なんの変哲もない、黒い舟。人が四人乗ればぎっしりのサイズだ。それにモーターとかエンジンだとかハイテクなものは一切付いていない。だとするならばこれは人の力だけで動かしているというのだろうか。宇宙船があるような技術の発展した世界で何故なのか。
オレはまた考え込んでいた。突然新しい環境にほっぽりだされたオレは戸惑っていた。
あるのはワクワクだけではなかったということか。
「あの、どうかしましたか?」
するといきなり後ろから声をかけられた。振り返ると女の子と白いモチモチポンポンの生き物が立っていた。桃色の髪と眩しい笑顔が特徴の女の子は青いラインの入った白い衣装を着ている。白いモチモチポンポンは彼女とお揃いの白い帽子を被っている。
ミカは不思議そうに白い生き物を見つめていた。
「ああ、いや。初めて見るこの舟が不思議で見ていたんだ」
怪しまれないように平然と答えるフリをする。まずは街に溶け込まなくては。
「あれ? もしかしてネオ・ヴェネツィアは初めての方ですか?」
「ああ、そうなんだ。かっこ悪い話しなんだが、迷っちまって」
「そうでしたか。でも大丈夫です。ここで
「ん? 水先案内人?ってなんすか?」
「はい。水先案内人はこの街の伝統的な観光客専門の
右手の手袋を掲げて元気に言う女の子。この舟はゴンドラというらしい。そして女の子は観光客をガイドする水先案内人という職業らしい。
ってことはこの街のことも当然詳しいってわけだ。だったら──
「お嬢さん。頼みがある。
どうかオレらをガイドしてくれねぇか? この通り、素人でテンでこの街がわからねぇんだ」
「──ごめんなさい!」
えっ⁉︎
「ご案内したいのは山々なんですけど、規則で半人前は指導員がいないとお客様をお乗せすることはできないんです」
女の子はすごく申し訳なさそうに謝る。オレらのガラが悪くて嫌で断ったんじゃないってのはちゃんと伝わってくる。この子は優しい人なんだろう。
「気にしないでくれ、お嬢さん。オレたちが考えなしに来ちまったのがまずかったのさ。
水先案内人のことが知れたし良かったよ。サンキュな」
ションボリとする女の子。やがて頭の上に電球の灯りがともるように顔を上げて立ち去ろうとするオレらを止めた。
「待ってくださいお兄さん。わたし、いいこと思いつきました」