ORGA【鉄血のオルフェンズ×ARIA】 作:DDD弾血王オルガ・イツカ
「お客様は乗せられないんですけど、お友達としてなら乗せられるんです」
「えっと、それは……」
水先案内人の少女はまだ半人前でお客は乗せられないらしい。だが、それを打開する案を思いついたらしい。
のだが、お友達として乗るっていうのはどういうことなんだ。
「お兄さんたちとわたしはそこで会ったお友達で、お兄さんたちは観光ガイドの聞き手としてわたしの練習を手伝ってくれているということにしていただければ、お乗せできます!」
「……はぁ。だが、待ってくれ、お嬢さん。それだとアンタはオレらをタダ乗せすることになっちまわないか? 修行の身でお金を取って人を乗せられねぇってことはそういうことなんだろ?」
「わたしはぜんぜん構いませんよ。ウェルカムです! ここで会ったのも何かのご縁かもしれませんし。でもわたしはこの通り半人前ですのでご期待には添えないかもしれませんけど……」
「そんなことはねぇ。恩に切ります!」
オレは深々とお礼をする。この街で初めて出会った人物がこんなに徳の高いお嬢さんだなんてオレらはツいてる。
「いえいえ、そんな大げさな!」
「オレは鉄華団団長オルガ・イツカです。こっちのは三日月・オーガス。どうか、よろしく頼んます!」
「あっ! 申し遅れました。わたしは『ARIA《アリア》カンパニー』の水無灯里《みずなしあかり》と申します。こちらこそお願いします!」
「ぷいにゅ〜」
すると白い生き物が声を発した。なんだか和んでしまうふんわりボイス。
「こちらは我が社の社長、火星ネコのアリア社長です」
「にゅ!」
「社長でしたか。これはご丁寧にどうも」
オレはネコが社長だということにそれほど疑問を持たず、ペこりとお辞儀をする。こんなデッカい器の社員を持っている社長さんだ。きっとすげぇ人、もといすげぇ猫に違いねぇ。
◇
かくして、水先案内人の水無灯里姉さんにこの街を案内してもらうことになったオレたちは初めてのゴンドラに揺られていた。
「えー、
灯里姉さんがガイドを始める。
「ああ、それなら知ってるぞ。実はオレらも火星出身なんだ」
「そうだったんですね。てっきり地球からの観光客の方かと思いました」
「ああ、でもオレたちの故郷はここと違って陸地だし、寂れててな。他所のことはさっぱりなんだ」
「それじゃあわたしが奮発してネオ・ヴェネツィアのいいところをお伝えしなくては!」
「にゅ」
「かわいい」
ミカがアリア社長と戯れている。機会がなかったからわからなかったがミカは動物が好きみたいだ。
「ご存知の通り、火星は一年が24ヶ月です。なので季節の長さも2倍なんです。ということは楽しみも2倍。ウルトラハッピーですっ!」
「季節か。オレらの故郷にはあんまり季節とかなかったからなぁ。よくわかんねぇんだ」
「春夏秋冬、それぞれにいろんな楽しみ方があるんですよ! 春はお花見、夏は花火、秋は紅葉、冬は雪。まだまだ他にもたくさん素敵なことがあるんです!」
すごく楽しそうに季節のことを教えてくれる灯里姉さん。その笑顔につられて、オレらも笑顔になっちまう。
「今、火星は8月で春の後半戦といったあたりでしょうか。お花見の季節は過ぎちゃいましたけど、ポカポカの陽気は過ごしやすくて、お昼寝にはもってこいの季節ですね〜」
灯里姉さんがそう言うとオレらもポカポカしてきて眠っちまいそうになる。本当に穏やかな陽気だ。
「……花見か。来年は見てみてぇなぁ」
そんなことを、ゆったり進む舟の上でぼやいてみる。慣れないはずの緩い時間の流れはオレらに随分としっくり馴染み始めた。
◇
日が暮れ始めた。
昼間の青い空の下では青かった海も今では夕陽のオレンジ色に染まっている。この街は時間によっても姿形を変えるんだと灯里姉さんは教えてくれる。
「すっかり世話になっちまったな、灯里姉さん。今日の恩は一生忘れねぇ。いや、死んでも忘れねぇ」
返せるものも何もないオレらは頭を下げるしかできない。
「いいんですよ団長さん。わたしはネオ・ヴェネツィアの良さがお二人に伝わったのならそれで満足です!」
両手をぶんぶん振って謙遜する灯里姉さん。
すげぇよ、灯里姉さんは。こんな見ず知らずのオレらに半日も費やしてくれるなんて。
「なんだか、オレらこの街が気に入っちまいました。どうやらここで一旗揚げることになりそうです」
「そうですか、ならまた会えますね!」
パァーッと顔を輝かして喜ぶ灯里姉さん。
そうだ。オレは決めた。オレはこと街で生きる。心の中で鉄のように硬い決心がついた。
今日、この街を灯里姉さんに案内してもらってわかった。オレらの求めていた場所はここに違いねぇ。
「お気をつけて!」
「ぷいにゅ!」
「一息ついたら連絡させてもらいます」
桟橋から手を振る灯里姉さんとアリア社長にオレらも別れを告げて入り組んだ路地へと身を投じる。
「なぁ、ミカ。おまえはオレについてくるって言うけどよ。おまえ自身、この街はどうなんだよ」
「いいね。好きだ」
きっぱりと即答するミカ。その言葉とオレを見る目はいつものこいつのものだけど、今のミカには今まではなかったモノがある気がする。
「なら、決まりだな」
ニヤリと笑いあって、拳を横でカチらせるとオレらは光の灯り出した電灯の下を歩いて行った。
まずは今日の宿探しといくか。