ORGA【鉄血のオルフェンズ×ARIA】   作:DDD弾血王オルガ・イツカ

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長いけど熱くしたので最後まで読んでくれたらうれしす。


水先案内人 3

 

 

 

 オレたちの持っている所持金は大したことなくて、どうやら神様仏様は厳しいらしい。こうして、ミカと再会できただけでも幸運で、更に新天地で灯里姉さんとアリア社長なんていう素晴らしい人たちに出会えたのだからそこまで望むのは欲張りなのだろう。しかし、いくらなんでも一晩宿に泊まったら無くなっちまえようなゼニだけ寄越されてもやりくりの仕様がない。

 なんとかこじつけた趣きとやらだけは立派な小さい宿の一室で、たった一つだけの消えかかった電灯をアテにオレはネオ・ヴェネツィアの地図とにらめっこしていた。

「この街ってどこからでも水が見えるね」

 部屋の窓を開けて夜風に当たるミカがそんなことを呟く。家の高さは揃えられていて、どこも同じような建物だらけなのだが、窓から下を除けばすぐそこに運河がある。

「ああ。どこもかしこも水がある。つまりはここで生きてくには水に携わらないといけねぇ」

 オレらの火星は砂と岩の星だった。それと真逆の性質を持つ水と空の惑星アクア。これまでオレらが身につけて来たモンはここじゃまるで役には立たない。

 文字通り、身一つでのスタートになった。

「さて、生きるにはどこだって金は必要だ。そんなもんがつきまとわないことを願っちゃいたが、最低限は必要だ。

 ……仕事だ。仕事を見つけないといけねぇ」

 昼間、灯里姉さんに教えてもらったことと地図からわかることを繋ぎ合わせてこの街の特性を掴もうと考えを巡らせる。

 人々の生活がある以上商売は普通に成り立っていた。街にはもちろんのこと、船の上で営まれたお店も見かけた。だが、いきなり見ず知らずのオレらに構ってくれる灯里姉さんのような人はそうはいねぇはずだ。突然現れた余所モンに、はいどうぞと仕事を分けてくれるとは思えない。

 なら、オレらにはアレしか残ってない。

 

 その時、湿気からか黒ずんだ木の扉をノックする音が聞こえた。

 一体誰だ。オレらを訪ねるような奴はいないはずだが。

 恐る恐る、徐々に、軋む扉を開ける。

 そこには前髪をいじいじしている金髪の男が立っていた。

 

 ◇

 

「会えて嬉しいよ、オルガ団長」

 金髪の男は手のひらで挨拶して平然と部屋に入ってきた。ミカにも目配せして挨拶をするその男。名はマクギリス・ファリド。生前のオレらと因縁のある人物だ。

「要件を聞こうか」

 オレは冷めた風にその金髪の男に問う。なぜ、この男がこのアクアにいるのかは、オレたちの状況を見れば予想はつく。

 そんなことより、オレはこの男がオレらにとっての疫病神だと知っている。

「君たちもここに来るとは。やはり我々は何かの縁で繋がっているのかもな」

 そんな縁はとっとと切ってしまいたいが、オレの中にある、団長として培ってきた商売の勘が何かを訴えている。

「私と君たちが揃ったのなら、やることは一つだろう。

 私と業務提携を結んでほしい。アクアに召され、この街で事業を展開したのはいいが、まだ武器となるようなモノが無くてね」

 んなことだと思ったぜ。過去の結末から見るに断って当然の商談だが、オレらには何せ金をコネもない。だったら、

「オレらみてぇなチンケな組織(二人)にする話じゃねぇなぁ」

 まずはすぐに手を取らずに相手方の動向を探る。

「君たちを過小評価するつもりはない。私は君たちを高く買っているんだ」

「生前にあったことはどうする。おまえはオレらに不利益を生じさせた。オレはおまえを売ろうとした。こんなんで互いにうまくやっていけるとは思えねぇなぁ」

「それなら、お相子ということでお互い水に流すというのはどうだろう」

 表情は崩れていないが、本気だと伝わってくる。こいつはオレらとガチで組みたいんだ。だが、生前あったことに関して言えばオレに非がないわけじゃねぇが、どう考えてもこいつの方が悪い。それを利用する。

「いいだろう。その話乗ろう」

「よかった」

「だが、一つ条件がある」

 マクギリスの顔はむっとなるが、どこか嬉しそうだ。相手は政治の世界で生き抜いてきたプロだ。ハッタリや小細工は簡単には通じねぇ。

「昔の話をほっつくのはオレも好みじゃねぇが、アレを平たく収めるにはやっぱりオレらにあんたがワビとして利益を(もた)らさねぇといけねぇわけだ。

 話を進めるにあたって、まずはそっちの持ちでオレらが一旗揚げたい」

 それは一切こっちから金を出さずにマクギリスにオレらの事業の立ち上げを支援させるという悪質極まりなく、かつ、商業として成り立っていない相談だった。

 オレらは一文無しだ。それがどうすれば組織を作れるのか。昔は親玉をヤって乗っ取ったりしたが今はナシだ。相手にこっちが無一文でここでできるようなことも無い連中だと悟られれば商談は破棄されかねない。ここはオレらがあくまで上の立場にあることを、昔のいざこざを使って見繕うしかない。

「なるほど、たしかにアレは私が招いた結果だろう。だが、話に乗った君たちはその時点で既に何が起ころうと文句は言えないのではないかね?」

 くそ。反撃された。昔のことなんて引っ張り出さずに媚びついておくべきだったか。オレらに信頼を置いているなら無一文と知ってもそれなりのポストを用意してもらえたらかもしれない。

 ダメだ。ここで下がれば、手を切られかねない。それにミカがいる前でかっこ悪いところは見せられねぇ。これから組む相手の下になるつもりなんてオレはない。

「たしかに、オレらはあの時既に平たくなってたかもしれねぇ。たがよ、おまえはオレに言ったよな? オレらに生じる不利益よりも大きいメリットを提示し続けるって。それは果たされたか? いや、果たされなかった。だったらよ。水に流す前にその落とし前をつけるべきじゃねぇのか?」

「……ほう」

 考え込むマクギリス。隙ができた。たたみかけるなら今だ。

「それにオレらには投資するだけの価値がある。おまえ、武器になる商売がないって言ってたよなぁ? オレらにはそれがある」

「なんだと。それは一体?」

「聞いて驚け。ずばり水先案内人(ウンディーネ)だ」

 それを聞き、マクギリスは呆気にとられた後、少し考え始め、しばらくすると、くつくつと小さい笑い声をこぼしはじめた。終いには大声で笑いだしたのだ。

「アッハッハッハッハ! フハハハハハハ!」

 笑い終えて、息を整えるとマクギリスをこちらに向き直り言った。

「たしかに盲点だった。うちの従業員は男手ばかりで考えることもなかったよ。水先案内人は女性の職業だからな」

 今、マクギリスが、オレの知識にないことを言ったような。

「わかったよ。君の提案を受諾しよう。資金面についてはこちらが持つ。

 ところでオルガ団長。誰がその水先案内人をやるんだね?」

 ……マクギリスのやつ。オレをおちょくっていやがる。もしかしてこいつはオレがハッタリをかましていることに気づいていたとでもいうのか。

 いいや、まだだ。相手は既にオレの言った条件を飲んじまっている。今はオレの方が圧倒的に有利なんだ。

「そんなもん、見りゃわかるだろう。ここにオレとミカがいる」

 マクギリスは今度こそ正真正銘に呆気にとられた。

「オルガ団長、言っているだろう。水先案内人は女性の職業だと。君たちには十分に協力する。だから、そんなに強情にならなくても構わない。私とて、ここに来た時に持っていた所持金は安い宿に一泊できる程度だった。君たちがこの小さい宿にいることを鑑みれば、君たちの所持金がもう残り僅かなことはわかる。そんな、ハッタリはもうやめにしないか」

 ────。こっちの手札がもぬけの殻だったのはお見通しだったわけか。無いもんは無い。無いもんをあるように見せかけてもダメ。だったら、新しく生み出すまでだ。それにこれはもう決めたことだ。オレたちができることはいつだって挑戦だ。勝負に出る!

「……たしかに、水先案内人は女性が多いし、女性が舟を漕ぐとしたら水先案内人になるだろう。だがよ、オレら男が水先案内人になっちゃいけねぇなんて、どこにも書いちゃいねぇし、誰も言っちゃいねぇ。そんな道理はありゃしねぇんだ。こんなあったかい世界なんだぜ。ダメなんてことは絶対ない!」

 後ろで会話を眺めていたミカがニヤリと笑う。オレのボルテージも上がりだす。

「こりゃ、ガチだ。大マジだ。ハッタリでもなんでもねぇ。

 オレはこの街に来て、ある水先案内人さんに出会って、決めたんだ。あんな風に誰かを笑顔にさせる仕事がしてえって。

 だからオレは、オレらは水先案内人になる!」

 それを聞き、今度は笑い出すでも、呆けるでもなく、マクギリスは真剣な面持ちで右手を前に出して握手を求めてきた。その手には昔握手した時につけていた手袋なんてものはなく、マメだらけの素手だった。見れば服装は豪奢なものでも制服でもなくシャツにサスペンダーとズボンなんていう水夫のような格好だった。こいつがオレらの来訪を知り、ここを訪ねて来た理由が生前のような『力』を求めてではないことはそこから十分に伝わってきた。こいつは一人の人間として、生前のオレと同じく、養うべき仲間たちのためにオレらと組もうとしてここに来たんだ。

「やはり、君たちはおもしろい」

「損はさせねぇ」

 そう言って、オレはマクギリスの手を握り返した。

 その手には彼方ではなく、今ここで、この瞬間を生きる男の熱さがあった。

 

 

 




作品の向上を心がけて時折加筆修正をしています。
常に進化し続ける男。それがオルガ・イツカってヤツだ。
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