ORGA【鉄血のオルフェンズ×ARIA】   作:DDD弾血王オルガ・イツカ

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水先案内人 4

 翌日。

 マクギリスと組むことになったオレとミカは昨日泊まって宿と相違ない程度にくたびれた建物にいた。

「ここは私がアクアに来てからしばらくの間厄介になっていた灯台だ。その昔は灯台としての役割があったが、今は放棄されていてな。格安で資金のなかった私にとっては最初の根城にするにはうってつけだったのだ」

 街の端にある岬の先端に小屋があり、その屋上部分に灯台があった。

「ここは君たちが自由に使うといい」

廃れているものの、マクギリスがしばらく住んでいただけあり、家具家電は揃っていて、住むための最低限の設備は整っていた。

「おう、存分に使わせてもらうぜ。

 それでよ、任せておいたゴンドラ協会への申請はどうなったんだ?」

「そう、急ぐな。と言いたいことだが、ゴンドラ協会の上層部には知己の者がいてな、話はすんなり通ったよ」

「その辺りは相変わらず抜かりないな。まぁ、それが功を奏したわけだ。感謝するぜ」

「まだ、礼を言われるには早い。君たちはここから駆け上がらなくてはいけない。道は険しいぞ」

「わかってる。安心しな大将。舟を漕ぐパワーならそれなりには自信がある」

「確かに君たちの力なら、あっという間に上り詰めるのかもな。しかし、道のりは平坦ではないぞ。最初の関門だが、商業的に活動するには階級制の一番上である、プリマクラスのウンディーネにならなければならない。君たちは見習いだからダブルクラス。手袋を二つ付けた状態からのスタートだ。そこから一つ手袋が外れて半人前のシングルクラス。そして最後に両手の手袋が外れた時にプリマウンディーネになれるのだ。

 この昇格には試験に合格することが必要なる。普通は所属する会社の上司が試験官をしたり修練の指導に当たるのだが、君たちにはそれがいない」

 そうか。ペーペーの俺たちには観光案内するためのノウハウなんてないんだ。いくら腕っ節に自信があっても乗せた人を灯里姉さんみたいに笑顔にしてやることなんてできやしねぇ。

「だが、安心したまえ。そちらの手はずも整えてある。君たちには頼りになる先輩を用意した」

「よう、オルガに三日月。久しぶりだな」

 懐かしくて陽気な声が後ろから聞こえる。

 そこには白いスーツを着た長髪の男と南の島風な出で立ちの女性がいた。

 

 

 ◇

 

 

「名瀬の兄貴とアミダ姐さん!」

「元気そうじゃねぇか、おまえら」

 名瀬の兄貴はオレらの兄貴分でアミダ姐さんは兄貴の嫁さんだ。

 マクギリスと再開して、もしかしてと思っていたが、まさか本当に実現するとは。

「ご無沙汰してます。兄貴に姐さん。すると、頼りになる先輩っていうのは」

「ああ、アタシたちタービンズがアンタたちをみっちりシゴいてやるってわけ」

「彼らタービンズは私がここに着た時には既にこのアクアで水先案内業者として大成していてね。私も何度も世話になった」

「マクギリスの運送会社ギャラルホルンとは持ちつ持たれつの関係でな。それで、おまえたちがネオ・ヴェネツィアに来たって聞いて、駆けつけたのさ」

「恩に着ます!」

「兄弟がこれから一旗あげようってんだ。兄貴として、ただ見てるなんてのはカッコよくない。困ったらなんでも聞け。俺たちはここじゃ長いからな。昔とは勝手は違うがいいところだぜ、ここは」

 頼りになる存在、名瀬の兄貴に再開できたことはオレとしてはとても安心できることだが、それと同時に、この人に甘えてはいけないという思いもあった。オレらはオレらはなんだ。大きすぎる名瀬の兄貴という存在に頼りきってはいけない。一人、それを肝に銘じた。

 

 

 ◇

 

 

 兄貴と姐さんに挨拶を済ませた後、オレとミカ、ついでにマクギリスは灯台小屋を修復する作業を始めた。

 水先案内店として恥ずかしくないものにしなくては兄貴たちにも灯里姉さんたちにも示しがつかねぇ。工作に不慣れなオレだが精一杯取り組む。

「こんな時、ライドが居てくれたら、カッコいい看板を描いてくれたんだけどなぁ……」

「オルガ、こんな感じでいい?」

 一足早く持ち場の作業を終えたミカ。その出来栄えは素人の出来とは思えない。まるで新築のようだ。

「すげぇよ、ミカは」

「凄まじいな、三日月・オーガス」

「別に、普通でしょ」

 

 そんなこんなでようやく作業は終わり、ネオ・ヴェネツィア二日目は夕方に突入した。

「そちらはどうだ、オルガ団長」

「まあまあってとこだな」

 描きあげたのは真っ赤な華。決して散らない鉄の華。

「懐かしいね、そのマーク」

「ああ、オレらにはこれしかねぇ。

オレたちは『鉄華団』だ。昔も今も変わらずにな」

 灯台の屋根にデッカく掲げた赤いマークが夕陽に照らされて、ますます赤く輝く。

「いいものだな。仲間というのは」

 マクギリスが静かに呟く。それがどこか俯瞰的で、納得できない。

「なんだぁ? ここまで来て、おまえだけ抜けがけできると思っているのか、マクギリスよぉ?」

 一瞬だけ呆けて、マクギリスはフンと鼻で笑う。それがこいつ流の親しみの表現だってのはなんとなくわかってきた。

「オレらは仲間だ。家族だ。そんでもってアクアが、ネオ・ヴェネツィアが、鉄華団が家だ。

 ここは帰って来る場所なんだ。オレたちも、アイツらも。きっと来るぜ、他の奴らも。それまで、オレたちでここを守っていかねぇとな。あいつらがこっちに来た時、迷わねぇようにこの灯台で待っててやんねぇと」

「うん、待とう。みんなを」

「まったく、飽きさせないな、鉄華団」

「よっしゃー!全員文句なしでオッケーなら、今日はとことんまでいくぞー! 鉄華団の新たな船出を祝して乾杯といこうぜ!」

 オレたちの新しい旅を歓迎するように火星(アクア)の夕陽は橙色に光り輝く。それは懐かしい、故郷(火星)の色だった。

 

 

 


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