俺は死んだんだろうか?
精神だけ異世界に転位して肉体は日本に置き去りにしてきて、脳死状態のような感じで扱われてるんだろうか?
それか存在が神隠しのように忽然と消えた状態なんだろうか?
それとも存在が消えた瞬間に俺という存在が忘れ去られてしまっているのだろうか?
キチンと女の言う事を聞いておくべきだった。
そもそもあの女は誰だったんだろうか?
露出度の高い服を着ていたな、露出狂?
露出狂に何で俺の異世界転生を管理されにゃならんのだ?
だいたいよりにもよって何で俺が異世界転生なんだよ?
剣道の達人、武道の達人、圧倒的に明晰な頭脳の持主、人を惹き付けるカリスマ、端麗な容姿・・・そのどれも俺は持っていない。
俺の優れている点と言えば「物事を客観的に見れる事」だろうか。
あとは「うどんを食うのが早い」という事だけだ。
俺と同じペースでうどんを食べようとした者はむせて鼻からうどんを垂れ下がらせる事になる。
しかしその『うどんの早食い』という特技が異世界で何の役に立つというのだろうか?
うどんは異世界でなくても、地球でも日本にしかない物だろう。
「物事を客観的に見れる人物」というのは結構いそうでいない逸材だ。
人間、客観的に物事を見れないものである。
自己評価が異様に高い人物も珍しくない。
だいたいの人間が庶民であるのにそれを認めず『俺は本当はこんなもんじゃない』と思ってる人間の何と多い事か。
『自分は優れた人間である』という事を実感するために駄作と言われるアニメやラノベに粘着し、クソミソに貶す。
別にそのラノベやアニメを見なくても普通に文学作品を読めば良いのにそうせずに感想という名の罵詈雑言を浴びせる事で作品を見下し優越感を得る。
世の優れた人物が、上を目指して上だけを見て歯を食い縛っているのは見て見ないフリをして、見下せる物だけを見て心の安定を得ている。
俺は『十人並の男』『一山ナンボの男』だ。
どこにでもいる男だが、その事実を認めている者は実に少ない。
俺がそう言った時フリーターの仲間は逆上しつつ「良いじゃないか!
『並の男だ』『庶民だ』と諦めているより、向上心があるじゃないか!」と言った。
別に『並の男だ』と認める事は諦める事じゃない。
現状を把握しつつ「このままじゃいけない、今に見ていろ!」と凡人ながらも出来る事を増やすために語学を習ったり、資格取得のために勉強する者もいる。
そういった者は「現実から目を背けて何もしない者」より向上心は高いと俺は思うが、俺は何も言わない。
こういった者が現実を見た場合、多くの者が世を儚んで死ななくてはならないだろう。
ここで現実を突き付ける事は自殺を教唆しているのと何も変わらない。
女は「お決りの異世界転生」だと言っていた。
女の言葉を信じるなら、俺は勇者として異世界に転生する事になる。
嫌だなあ・・・俺が異世界の危機に異世界転生の儀式をしたとして俺みたいなヤツが来たら思わず「チェンジ」って言っちまうだろうな。
俺はそんな事を考えながらそっと目を開けた。
目の前に人だかりがある。
コイツらが俺を召喚したのか。
中心にいた男が俺に言う。
「よくぞ参った!
『村勇者』よ!
私は村長のホンジャマカである!」
何でそんなエアホッケー強そうな名前なんだよ。
つーか『村勇者』って『井の中の蛙』みたいな意味でだいたい悪口じゃねーか。