「村ごとに『村勇者様』が存在します。
『村勇者様』は『村勇者様』を何人か倒すと『街勇者様』にランクアップします。
『村勇者様』は『村勇者様』を倒した村の『村勇者様』になります。
勝つ度に『村勇者様』は支配地域を増やしていくのです」村長は俺に説明した。
おかしい。
村勇者が勝とうが負けようが、村勇者はいなくならないはずだ。
勝った村勇者が負けた村勇者の支配していた村を支配するはずだ。
しかも負けた元村勇者は存在するはずだ。
勝った村勇者が支配地域を広げすぎて支配しきれないのなら、元村勇者がその村を支配すれば良いだけの事だ。
新たに村勇者が必要になる訳がない。
必要になるとすれば村勇者が老衰や病死した場合だが、そんな村勇者は若い村勇者に負けるはずで、そもそもそれまで村勇者であるほうがおかしいだろう。
村勇者が異世界から召喚された者だけならば村勇者の高齢化が進み召喚しなおさなくてはならないシチュエーションもあるだろうがこの世界で生まれた村勇者もいるだろうし、世襲の村勇者もいるだろうし村勇者が不足する理由がない。
それに支配地域の統合が進むに連れて村勇者の数は少なくなっていくだろう。
そう考えると、どちらかと言うと村勇者候補の人間は段々ダブついて来てしまうはずだ。
俺は胡散臭さを感じつつも村長に聞いた。
「この村に元々いた村勇者はどうしたんだ?
いたんだろ?
何でソイツじゃなくて俺が村勇者をやる事になったんだ?」
村長は言いにくそうにモゴモゴ言っている。
「都合の悪い話を一切しないで俺が『村勇者』なんて引き受けると思うなよ?」俺が半分脅しながら言う。
「この村にも村勇者様は確かに居ました。
しかしその村勇者様は戦いの中で相討ちで命を落としました。
また村勇者様は村の命運を握っているのが普通で、勝った村に負けた村が隷属するのが通常です。
なので、村勇者様は勝っても負けても恨みを買いやすいのです。
負けた場合は戦いの中で命は落とさなくても、村人達に石を投げられ嬲り殺しにされるのが普通です。
また勝った村勇者様も暗殺される事は珍しい事ではありません。
なので村勇者様はほとんど生き残りません。
『街勇者様』にランクアップ出来た村勇者様は本当に一握りですし、本当にその上の『勇者様』にランクアップ出来た方は伝説上でも一人だけです」村長は観念して答えた。
何だそれは?詰んでるじゃねーか。
いるかいないかわからない伝説上の人物を目指さないと俺が生き残る可能性はほぼないって事だよな。
「絶望する気持ちはわかります。
確かに伝説の勇者様を目指して生き残る可能性は皆無でしょう。
しかし村勇者様で一生を終える方も多い・・・というかそんな方ばかりでございます。
野心を抱かなければ戦う可能性も低く、暗殺される可能性も低くなります。
必ずしも死の運命が待っている訳ではありません」村長は俺を宥めるように言った。
俺は少しホッとした。
俺に野心は全く無い。
アパート暮しだった俺は広い家に住みたいという願望すらなかったのだ。
「広い家は掃除が大変そうだ。
俺はワンルームのアパートで充分だよ。
だいたい家なんて定期的にメンテナンスしないと傷んでいく物だろう。
そんな金払うくらいならまだ家賃払った方がマシじゃねーか」と思っていた。
金欲は人並みにある。
美味い物も食いたいし、欲しい物も多かった。
だけど名誉欲や承認欲はそれほど高くなかった。
それが高くなけりゃ街勇者になろうなんて思わないんじゃないか?
「俺は『村勇者』として召喚されたみたいだ。
でも俺は変化を望まない。
戦う気もない」俺は最初に宣言しておこうと思った。
俺に多くを望まれても困る。
「もちろん村勇者様が戦う事を望まないなら我々にその意思を覆す権利はございません」村長は揉み手で言う。
その村長の言葉に俺は安心してしまった。
俺はその後で思い知る事になる。
俺は忘れていた。
日本にいた時警察に言われた事を。
「事故って言うのは周辺状況のある事だ。
自分がいくら安全運転を心がけてても子供が飛び出してくるかも知れない。
信号が壊れているかも知れない。
停車中に脇見運転をしていた車に後から追突されるかも知れない。
無謀運転をしていた車がスリップしながら突っ込んでくるかも知れない。
今回の事故も君の過失は問われないだろう。
でも『過失が無きゃ死んでも良い』というものでもないだろう。
『自分はそのつもりはなくても周りの状況はそれを許さない』という事を念頭に置いて、気を付けて行動しなくちゃいけないよ」そう確かに警官は言っていた。
『自分は戦う気はなくても応戦しなくてはならない』
『村同士の争いは最初は村の境界線上で起きた周辺住民同士の小競合いで最終的には『村勇者』同士の争いに発展する事も多い』と俺は痛感する事になる。