「認識されたモン勝ちなんだよ。
下水道が完備されるまでは『相模湾の生魚は絶対食うな』ってのが常識だったんだ。
昔は江ノ島には二軒干物屋があって海産物の土産物って言えばそこで買った干物だったんだ。
それ以外の江ノ島の名物って言ったら昔は『江ノ電最中』だったんだ。
生しらす丼なんてのは最近の下水道が完備されて汚い水が境川から流れ出さなくなった後の名物なんだよ。
昔からの名物みたいに思われてるのは宣伝が上手いからなんだよ」
俺はこのオヤジの昔語が嫌いだった。
昔はどうあれ「今は今」だと思う。
「藤沢は昔サンパール広場はなかった。
藤沢駅は高架橋の真ん中に改札口があっただけだった」
「藤沢には昔、ビッグカメラがあるところに丸井百貨店があった」とか言われても「今の話じゃないじゃん」としか思わない。
「昔は良かった」「今の若いもんは」って言い始めた瞬間からジジイ化は始まると思っていた。
歳をある程度とってみるとわかる。
体は昔のように身軽に動かなくなり、知っている物は姿を変える。
「昔は良かった」と言いたくなるのだ。
言わなければ歳をとってダメになった自分を認めるしかないのだ。
言い替えれば「歳はとるもんじゃねーな」と言う話であり、今の若い人達を糾弾するような話ではないのだが「自分が耄碌した」という事実を認めたくないので、思わず「今の若いもんは」と言ってしまうのだ。
考えてみたら俺みたいなオッサンが若者に体力で敵う訳ねーじゃん。
俺がやってた格ゲー業界にはオッサンが多い、と言われていた。
世界的にプロゲーマーが多いFPSなどのPCゲームには30台のプロゲーマーはほとんどいないと言われている。
30歳を越える辺りで反射神経や身体能力が鈍って若い世代に太刀打ち出来なくなるのだ。
俺は反射神経だけでするゲームが好きではない。
それまでにベテランが積み上げた経験や技術が生きるゲームが好きだ。
野球や競輪などでベテランで活躍する選手が時々登場する、そんなゲーム性が好きなのだ。
FPSに経験が生きるような戦略がない、と言っている訳ではない。
それ以前に俺はFPSと言うモノを良く知らない。
ただ「年寄りは通用しない」と言うのを聞くと「夢がないな」と思ってしまう。
ふと思う。
村勇者は俺のようなオッサンでも通用するんだろうか?
俺もアラフォー、野球なら球界最年長付近、ボクシングで俺の年齢まで現役などほとんどいないだろう。
村勇者が体を張らなきゃいけない役割なら、もう現役引退しなきゃいけない年齢にデビューする事になる。
「俺もうすぐ40歳なんだけど、村勇者になれるの?」俺は村長に聞いた。
「40歳?貴方が?
十台半ばにしか見えませんが・・・」村長が首をかしげながら言う。
日本人は幼く見えるとよく聞くが、いくらなんでも俺は十台に見られた事はない。
・・・と言っても外国人に「何歳に見える?」などとうざい事を聞いた事もないが。
「失礼します。
ステータス画面を開いて確めさせて下さい。
もし貴方が中年なら村勇者として活動するには危険すぎます」と村長。
悪かったな、中年で。
しかしステータス画面って何だよ?
やっぱり転生する時の説明は聞いておくべきだった。
ステータス画面ってRPGで立ち止まってBボタン押すと出てくる画面か?
Bボタンって何かって?BボタンはBボタンだよ。
マリオがジャンプするのがAボタン、押しながら走ると速くなるのがBボタンだよ。
俺は頭の中でBボタンを押すイメージをした。
『ピッ』という電子音とともに俺のステータス画面が表示された。
『名前:ショウジ』
誰が『ショウジ』やねん。
俺は昭和二年産まれか!
そう考えると昔は本当に適当に名前つけてたんだな。
キラキラネームを付けるようなヤツはそんな連中に『もう少し考えて名前つけろ』って言われてるんだな。
言い替えれば『もう少し考えて名前つけないと俺みたいになるぞ』って言いたいのかも知れない。
まあ俺を呼び出したあの女に名前教えなかったからな。
便宜上仮に名前つけなきゃいけなかったんだろう。
それが『ショウジ』って訳だ。
まあ『トンヌラ』じゃなくて良かった。
「ショウジ様の年齢は・・・15歳ですね」と村長。
・・・どういう事だ?
若返ったのか?それとも地球でいう38歳がこの世界では15歳なのか?