バンドリの彩ちゃんがポケモンの世界を冒険するようです。 作:なるぞう
無事に二つ目のバッジを手にしたアヤ達は、数日キウシティに滞在したのちに3番道路とキウの森を通過してハナノタウンに戻り、そこからさらに北上し4番道路へと足を踏み入れた。4番道路はこの先にあるムラサメ湖まで、綺麗にまっすぐ続く道である。また何故だかはよくわからないが、必死になって自転車で往復を繰り返す人が頻繁に現れることでも有名だ。そんな道をアヤはもらったばかりのポケモン図鑑片手に歩いていくのであった。
「えへへ~、昨日アップしたカブトと私の自撮りにこんなにリアクションが!今度はどの写真をアップしようかな~」
アヤが食いつくように見ているのは図鑑の機能の一つである、世界の人と写真や一言を共有するアプリだ。これ知った時から、アヤはドはまりしてありとあらゆるところで自撮りや風景やポケモンをバシバシ撮りまくっている。そして今日もアヤは4番道路で立ち止まり、遠くに見える雄大な山々を映す、鏡のような池をバックにかれこれ一時間は写真を撮っていた。
「やれやれ、アヤちゃんの写真撮影は長いな~。写真なんて適当にとればいいのに」
退屈すぎてヒナの口からあくびが出てくる。だが口を大きく開けた瞬間、彼女の前を何かが横切った。
「えっ、何……?」
とっさに横を見ると、少し離れた位置でカイロスが走っている。さらに一人の緑のバンダナをした青年も遅れてやってきた。
「はぁはぁ……、お願いだ!そこの人と写真を撮っている人、カイロスを捕まえるのを手伝ってくれ!」
「別にいいけど……、どうして……?」
ヒナも状況はよく呑み込めない。だが事態は急を要するということだけは確かだ。ヒナはアヤを無理やり引きずり、青年とともにカイロスを追いかけたがカイロスは予想以上に元気がよくすばしっこい。
「テッカニン、あのカイロスを捕まえて!」
走って追いつけないと判断したヒナはテッカニンを出した。
「テッカー!」
テッカニンは風のようなスピードでヒナたちを追い越し、あっという間にカイロスを捕まえた。
「いやぁ、助かったよ。おかげで何とかカイロスを捕まえられたよ」
カイロスを捕まえた後、二人は青年に連れられ4番道路沿いにある小さな建物に連れてこられた。話を聞けばここは『育て屋さん』という施設であり、ポケモンブリーダーと呼ばれる人が他のトレーナーのポケモンをしばらくの間、代わりに育てる施設らしい。
「育て屋さんか……。人のポケモンを育てるって大変じゃないんですか?」
アヤの言葉に対して、青年の顔に苦笑いが浮かんだ。
「大変だよ。預かるポケモンは性格も体調や好みもまちまちだから、同じ種類のポケモンでも違った対応をしなくちゃいけないんだけどね。だからいつもは同じポケモンブリーダーの妻と一緒に育てているんだけど、あいにく今日の朝熱を出してしまったんだ……。仕方なく今日は一人でポケモンの世話をしていたんだけど、忙しくてついうっかり庭の扉を閉め忘れちゃって……。そこからさっきのカイロスが逃げちゃったんだよね……」
青年はため息をついた。今さっきであったばかりのアヤとヒナが見てもその苦労は伝わってくる。
「ねぇ、よかったら私達手伝ってあげよっか?」
と、その時ヒナが思いもよらぬことを言い出した。
「ダメだよヒナちゃん!私達みたいなド素人が手伝っても、かえって足手まといになるだけだよ!」
アヤはいつも通りヒナを止めようとする。だが、結果は彼女の予想とは全く違った。
「本当か!?」
青年の顔がパッと晴れる。迷惑どころかウェルカムといったところだろうか。そうであるのなら話は別だ。アヤもヒナとともに彼を手伝うことにした。
二人は裏庭に連れていかれた。庭にはオニシズクモやパラセクト、さらにはドゴームやメレシーといったポケモンなど、予想以上に多種多様なポケモンがのびのび暮らしている。二人に任された仕事はこのポケモンたちを見張っていること。言い換えればポケモンたちと遊ぶことだ。
「出ていおいで、ナエトル、キルリア、カブト!」
「ラグラージ、テッカニン、ポリゴンZ!」
アヤとヒナは手始めに自分の手持ちを庭に解き放った。そして手持ちのポケモンたちも育て屋のポケモンたちも関係ない、楽しい時間が幕を開けたのだ。
「よしよし……、こっち向いて……」
アヤは木の実を撒き、それを食べにくるポケモンたちの様子を写真で撮り続けた。
「なんだかこういうのを見ていると、ナエトルとの出会いを思い出すな……」
アヤは写真を撮りながらふと横目でナエトルを見た。ナエトルは今、パチリスやデリバードとかけっこをしているようだ。
「あれから色々とあったなぁ……」
アヤは目をつむり、ナエトルとの思い出を振り返る。と、その時遠くから地響きのような轟音が聞こえてきた。
「へっ……!?」
何事かと目を開ければ、ケンタロスが目の前にいて、その上に何かを抱えたヒナが乗っていた。
「ヒナちゃん、何を抱えているの……?」
アヤがヒナの腕をのぞき込むと、中にはクマシュンがいる。
「このクマシュンさ、庭の隅で元気なくうずくまっていたから、アヤちゃんが持っている木の実を食べさせようと思って。だから少し木の実を分けてくれないかな?」
「えっと、これとこれとこれでいい?」
アヤはヒナにいくつか木の実を手渡した。
ところがしばらくたってもクマシュンの容態は中々よくならない。それどころか熱もどんどん出てきて、時折咳までするようになっていた。その日の夕方、アヤとヒナと青年は庭でクマシュンを取り囲んだ。
「ど、どうしよう……!」
「そんなこと私に言われても……!」
青年とアヤは具合の悪いクマシュンを見てもう頭が真っ白である。しかしヒナはそんな二人の横で冷静にクマシュンを抱え、クマシュンの体を色々と調べていた。
「えっと……、この水っぽい感じは風邪というよりは、ストレスのせいで体調を崩したのかな?」
「「そうなの……?」」
アヤと青年は声を合わせてヒナの顔を見た。
「多分だけどね。氷タイプのポケモンってさ、絶対とは限らないけどストレスがいっぱいたまると体表が水っぽくなるんだ。例えるなら、氷が解けて水になる途中みたいな感じかな。特に進化前の氷ポケモンはこの症状が現れることが多いね」
「そうなんだ……」
「そういえば、そんなこと前に習ったような……」
反応こそ違うものの、アヤと青年はヒナに驚かざるを得なかった。
「ねぇそこの人、最近クマシュンが嫌がるようなことしなかった?」
「いやなことはしなかったけど……、このクマシュン実は捨てられたポケモンなんだ。先週の朝、起きて外に出てみれば段ボール箱に入ったクマシュンがいてね……」
「ひどい、そんなことするトレーナーがいるなんて……」
青年が呟くと、アヤが怒りを仄めかした。すると再びヒナが口を開いた。
「あー、だったらそれが原因だね。多分、2~3日くらいゆっくり寝かせてあげればすぐに良くなるよ。なんだったら私がしばらくの間クマシュンの面倒見てもいいよ?」
「いいのかい……?」
「いいよ。これでも氷タイプのことは、前に少し齧ったことがあるからね」
青年が申し訳なさそうにしゃべると、ヒナは迷わず首を縦に振った。
その日の夜、ヒナはキッチンに立ち、クマシュン用の食べ物を作っていた。
「えっとオレンの実とイトケの実、それからロメの実を少々。これを38度のお湯で15分煮込んで……」
アヤも隣でずっとこの様子を見ているが、ヒナが何をやっているのかはほとんどわからない。
「すごいね……、ヒナちゃん……」
こうやって時折感嘆の声を漏らすのが精いっぱいである。結局この日、ヒナはほとんど寝ずにクマシュンの看病に当たった。それどころかヒナは次の日もクマシュンに付きっ切りであった。その様子は子を看病する母親のようにも見える。ちなみにアヤはその間、青年と熱が下がった青年の妻とともに育て屋で働いていた。
そして育て屋に来てから早くも三日後、アヤが起きるとくしゃみをするような音がアヤの耳に飛び込んだ。不思議に思い、鳴き声が聞こえる隣の部屋をそーっとのぞき込むと、元気を取り戻したクマシュンが、ヒナに抱きかかえられながら彼女を迎えてくれた。
「あっ、アヤちゃんおはよー!」
「マッシュン!」
クマシュンを抱きかかえるヒナの姿は、完全に馴染んでいる。だが、クマシュンが元気になったということはクマシュンとヒナとの別れを意味していた。アヤ達は荷物をまとめると、育て屋の夫婦のところにあいさつに向かう。だが、いざ挨拶をかわそうとしたとき、またヒナが思いもよらぬことを言い出したのだ。
「ねぇ育て屋の人、私このクマシュン連れて行ってもいい?」
「えっ、ヒナちゃん……!?」
今までヒナのトンデモ発言は何度も聞いているが、今日のは群を抜いてとんでもない。驚きのあまり、制止することすら忘れてしまうほどだ。しかし当のヒナはいたって大まじめに交渉をしている。
「私さ、このクマシュンを看病するうちになんだか気にいちゃったんだよね~。やっぱりダメかな……?」
育て屋夫婦は顔を見合わせる。予想外のことを言われて困惑しているのだろうか。しかし、二人はすぐにヒナに笑顔を見せた。
「わかったよ。クマシュンがそう望むなら、キミにあげるよ。どうする、クマシュン?そこに人達と一緒に行く?」
青年が声をかけるとクマシュンは首を縦に振った。ヒナの手持ちに新たな仲間が加わった瞬間だ。こうしてアヤとヒナは育て屋の夫婦に別れを告げると再び、4番道路を歩きだした。二人の旅路はまだまだ続くのである。