バンドリの彩ちゃんがポケモンの世界を冒険するようです。 作:なるぞう
DP発殿堂入りの時、ムクホーク+シンオウ御三家が手持ちにいたのは自分だけではないはず。
ムラサメ工業地域での騒動を治めたアヤとヒナは5番道路を北上し、シンシュー地方でも有数の大都市ユウダチシティへとたどり着いた。この街の中央部には立派な天守閣に石垣、さらに堀を備えた黒壁の城、『ユウダチ城』がそびえたっており、かつてはこの城を中心とした城下町が栄えていた。現在では昔ながらの城下町は取り壊され、代わりに近代的なビルが林立しているが、それでもユウダチ城は大切に保存されており、今ではシンシュー地方屈指の人気観光スポットだ。ちなみにここの天守閣には登れるようになっており、そこからはユウダチの街が一望できる。というわけでアヤとヒナもこのユウダチ城に上ってみたのだが……。
「ヤッホー!凄い凄い!るんってきたー!アヤちゃんも見てよ、ほらほら!」
御覧の通り、ヒナは頂上に着いた途端に子どものようにはしゃぎまくっている。他の観光客の視線がすごいが、当の本人はお構いなしだ。
「ヒナちゃん、静かにして!ねぇってば!」
アヤは必死にヒナを黙らせようとしたが、ヒナの叫び声や周囲のざわめきでかき消されてヒナの耳には全く届いていない。結局この騒ぎは、ヒナが飽きるまで続いたのであった。
こうして、てんやわんやなお城見学を終えたアヤ達は次の目的地、『ユウダチシティジム』へと足を運んだ。そう、そもそもこの街に来たのはお城を観光するためでなく、ジムに挑戦するためにここに来たのである。
「えーっと、ジム戦の予約は昨日の夜にユウダチシティに来た時点で入れてあるから大丈夫。それでここのジムのタイプは草タイプだっけ?」
アヤはジムの目の前で、昨日の晩にパンフレットで読んだことを思い出した。その情報によれば、ここのジムリーダーは『ミタケ流』と呼ばれる由緒ただしい華道の流派の家元でもあり、ミタケ流を継ぐ者は代々草タイプを極めているらしい。しかし、アヤには勝算があった。なにせ草タイプは日ごろよく自分も使っている。だから短所や長所もある程度は理解しているつもりだ。
「よーし、頑張るぞー!」
アヤは意気揚々とジムの中に入っていったが、ジムに入った途端、その威勢は急速に失われた。ジムの扉をくぐった途端、彼女の目の前にいかつい顔した和服の男が現れたのだ。
「……この人がジムリーダー」
その風格に思わず足がすくむアヤ。だが、彼の口から出た言葉は衝撃的なものだった。
「いや、私はもうジムリーダーではない。私の娘の『ラン』が今はジムリーダーなのだが、生憎ランは今いない」
「ジムリーダーがいないって……、ちゃんと予約したはずだけど……。いつになったら戻ってくるか分かりますか?」
だが、和服の男からアヤに告げられた真実はいい物とは言えなかった。
「私にはわからん。あのバカ娘ときたら、ジムリーダーをやりたくないと急に言い出して……。最近では髪に赤いメッシュをいれたり、良からぬ連中とつるんだりやりたい放題。挙句の果てに家にすらまともに帰ってこないときたもんだ。まったく、私はどこで育て方を間違えたのだろうか」
その後二人はジムを出て、しばらくその前で待ってみたがジムリーダーが帰ってくる気配はない。結局二人はこの日、気を取り直してユウダチシティを少し見て回ることにしたのであった。
そして一時間後、アヤとヒナは屋台で買ったユウダチシティ名物である、特定タイプの技の威力を半減する効果をもつ木の実をブレンドして作ったジュース『半減木の実ジュース』を飲みながらユウダチシティのメインストリートを歩いていた。一番最初に書いた通り、ここはシンシュー屈指の大都会。今までの街には無いような面白いお店が目白押しだ。
「すごい!どこから見るか迷っちゃうね。うわー、あのショーケースに飾ってある服可愛い!」
「ほんとだ!アヤちゃんにきっと似合うよ!買って行っちゃえば~?」
二人はこんな調子でメインストリートを散策していたが、わずか数分でトラブルが起きた。あたりのお店に気をとられ、前を見てなかったアヤが小石につまづき、前を歩く人にジュースをかけてしまったのだ。
「おいおい、テメーなんのつもりだ!」
しかも運の悪いことに、被害者は不良の少年。彼はカンカンになってアヤに、ついでにすぐそばにいたヒナに迫ってきた。
「ご、ごめんなさーい!」
「あ、アヤちゃん!どこ行くの!?
悲鳴をあげながらアヤは一目散に走る。ヒナも彩を追いかけて走り出した。
「ごら、待たんか!」
しかし不良少年も二人を追い越すよう勢いで迫ってくる。たまらずアヤは、不良を巻こうとメインストリートを外れ、裏路地に逃げ込む。だが裏路地に入った瞬間、アヤはまた何かに激突し、その衝撃で転んだ。
「ひえっ……!」
アヤが恐る恐るぶつかったものを見ると、それは自分と同い年ぐらいの赤いメッシュが入った少女だった。
「……」
その少女は無言でアヤを睨みつけてくる。もうアヤには悲鳴を上げる力すら残っていない。と、その時救世主が舞い降りるかのようにヒナが追いついてきた。
「アヤちゃん、ここにいたのかー。で、そこの人は誰?」
「……!」
ヒナに指をさされると、彼女の眉間にわずかにしわが寄る。そしてその直後、例の不良も追いついてきたのだ。
「やっと追いついたぜ!ってそこにいるのはランさんじゃないですか!」
不良がその名を口にしたとき、アヤとヒナは顔を見合わせた。ランという名前、そして特徴的な赤メッシュ。彼女こそが、先ほどジムで話を聞いた『ジムリーダーのラン』で間違いがないだろう。
「この人がジムリーダー……」
アヤはそう分かると、ようやく言葉を発した。しかし、そうこうしている間にもランの目はみるみるうちに鋭くなっていく。
「へへへ、ランさんは俺が所属している不良グループの用心棒なんだぜ。滅茶苦茶強いから覚悟しとけよ!」
不良がはやし立てると、ランは無言でスッとモンスターボールを構えた。だがその時、ヒナが目の前に立ちはだかった。
「ちょっとストップ!なんでジムリーダーがこんな不良の用心棒なんてやってんの?むしろ不良を止める立場でしょ!」
「だからなに?」
ここでランがようやく口を開いた。その低めな声には竜のような殺気を帯びている。だがヒナはそれに負けず、さらに攻め続けた。
「だからなにって……、ジムリーダーなんだからちゃんと仕事しなよ!今日だってアヤちゃんとのバトルサボっているし!お父さんだって怒っていたよ!」
その時である、ふとヒナの耳にランの舌打ちが聞こえた。
「父さん……!?あんな奴、あたしのこと何もわかっていないんだから……!それにあんたも何なの!?他人の分際で私に指図しないでよ!」
「でも……!」
「うるさい!」
ランは路地裏に響くように怒鳴ると構えていたボールからフライゴンをだし、何処かへ飛び立ってしまった。
「あっ……!よーし、こうなったら私も追いかけるよ!」
すかさずヒナもテッカニンを繰り出し、ランを追いかけ飛び立つ。だが困ったことに、ランのことに夢中になるあまり、ヒナはアヤの存在をすっかり忘れていたのだ。
「ど、どうしよう……」
置き去りにされて慌てふためくアヤ。アヤの手持ちには空を飛んで追いかけられるポケモンはいない。さらに背後からは、先ほどの不良がめをギラギラさせながら歩いてくる。
「あわわわ……!」
もうヒナの助けもない。まさしく絶体絶命である。この状況を見れば誰しもがそう思うだろう。だが、天はまだ彼女を捨ててはいなかった。突如、ユウダチの空にけたたましく勇ましい鳴き声が響き渡ったのだ。
「なに……?」
アヤが上を見ると、頭上では何かしらのポケモンが羽ばたいている。そしてあろうことか、彼女のもとへ降りてきているではないか。
「ヒャッ!」
予想だにしない展開に慌てふためいていると、空からはすでにその鳥のようなポケモンが降り立ってきていた。
「ホーク!」
そのポケモンはアヤの方をじっと見ている。まるで『自分に乗れ』と言っているかのようだ。
「えっ……」
果たして見ず知らずのポケモンに乗って大丈夫なのだろうか。不安が頭をよぎる。だが背後には不良。彼から逃げる手段はこのポケモンに乗るしかない。意を決したアヤは、不良がとびかかろうとした瞬間にそのポケモンに飛び乗った。
謎の鳥ポケモンに乗り、何とか窮地を脱したアヤ。だがまだ安心するのは早い。颯爽と現れ彼女を助けたポケモンは何なのだろうか。アヤはこの謎を探るべくポケモン図鑑でこのポケモンを調べた。
「えっと……、このポケモンはムクホーク……。ムックルの最終進化系かぁ」
この時アヤの脳裏には、かつてキウの森で出会った左目に傷を負っていたムックルの姿が浮かんでいた。
「元気にしているかなー、あのムック——ん……?」
アヤがそのムックルに思いをはせていると、彼女の目にムクホークの顔が映った。その顔はどこかで見覚えがある。特に特徴的なのは左目の傷。ここまであの時のムックルと特徴が一致しているムクホークはまずいないだろう。
「もしかして……、あの時のムックルなの……?」
アヤは驚きのあまり、かすれた声でムクホークの顔を覗き込こむ。
「ホーク」
するとムックルはゆっくりと頷いた。まさかの再会である。だがこれで怪しいポケモンではないということは分かった。はっきり言ってアヤ自身、色々と聞きたいことや考えたいことはあるが、今はそんな時間はない。とりあえず彼女はそのムクホークに頼んで、ヒナとランを追いかけてもらうことにしたのだ。
ムクホークは速かった。アヤがいまだかつて体験したことがない速さだ。そして数分後、正面に二つの小さい点が見えてきた。ヒナとランの影である。
「ムクホーク、もう少しスピード上げてもらえるかな?」
「ホーク!」
ムクホークはさらにスピードを上げ、あっという間にアヤをヒナの隣に連れて行った。
「あっ、アヤちゃん!どうしたのそのムクホーク!?いつの間にゲットしていたの?」
そしてアヤがヒナに追いついたとき、ヒナは驚きの声を上げていた。まあ、先ほどまで手持ちにいなかった立派なムクホークにアヤが乗っているのだから驚くのも無理はない。
「私はゲットしてないよ。このムクホークは野生だけど、この目の傷見て。ヒナちゃんも見おぼえない?」
「目の傷、目の傷……。あれっ?もしかしてそのムクホーク、キウの森で出会ったムックルが進化したの?」
「そうみたい。何でここにいるのだろう……」
二人はムクホークとテッカニンの上で頭を抱え込んだ。そしてそうこうしているうちに、ランが乗っているフライゴンは降下を始めている。
「テッカニン、フライゴンを降りて」
「ムクホークもお願い」
テッカニンとムクホークも眼下に広がる『ユウダチ峠』へ降下した。
ユウダチ峠はユウダチシティとシンシュー東部の街、ホマチシティを結ぶ峠道だ。山を越えるように道があるせいか、どこもデコボコしており、アップダウンも激しく、ハブネークのように蛇行している。ついでにアヤたちが今いる場所はまだ開けているものの、ちょっと進めば生い茂る草木やや大小さまざまな岩が行く末を阻む。まさしく、シンシュー屈指の悪路といえるだろう。
「あ、あそこにランちゃんがいた!」
さて、そんなユウダチ峠に降り立って早々にヒナはランを見つけた。
「しつこいなぁ!どうしてあたしにそこまで付きまとうの!?」
だが一方のランはものすごい形相でこっちを睨んでいる。アヤはこれだけでもうビビっているが、一方のヒナ退く気配がない。
「なんでって、そっちがジム戦から逃げるからじゃん!アヤちゃんとちゃんとジム戦しなよ!」
「逃げた!?別に逃げてないし!静かなところに行きたかっただけだし。ジムにいるとうるさい父さんがいるからね。というかなんでアンタは他人のジム戦に必死になるわけ?というか、当のアヤちゃんという人は隣で涙を浮かべているし。その人、本当に戦う気あるの?」
「ムー!今アヤちゃん馬鹿にしたでしょ!アヤちゃんは凄いんだよ!ジムバッジ3つも持っているし、すごい頑張り屋だし、ポケモンからも懐かれているし、写真撮るの上手いし、水へ落ちる姿が面白いし、泣き虫だし、物はすぐ無くすし、道は間違えるし、ドジだし……。あれっ、でもなんか凄いかどうかよくわからないものもあるなぁ。まぁいいや、とにかくアヤちゃんは凄いんだよ!どっかの誰かさんみたいに意気地なしじゃないんだから!」
この瞬間、ランの中で何かプツンと切れた。
「意気地なし……?このあたしが……!?言わせておけば言いたい放題言って……!いいよ、そんなに言うんだったらここでジム戦をやってあげるよ。あたしの『ドラゴンポケモン』相手に勝てるとは思えないけど」
「えっ、ドラゴンポケモン!?ユウダチシティジムは草タイプのジムじゃ……」
アヤは自分の耳を疑った。その前で、ランは真剣なまなざしで見つめてくる。
「確かにあたしはミタケ流の家元の生まれだし、父さんたちは代々草タイプを極めてきた。でも、私が草タイプの使い手にならなくちゃいけないなんていうルールはどこにもない。だから私は自分が決めたタイプを極める。あたしはドラゴンタイプのポケモンに対する情熱なら、だれにも負けないっていう自信があるからね。今からその情熱を見せてあげるよ」
ランの隣に控えていたフライゴンは、彼女のアイコンタクトを受け前へ出た。祖いて以外の事態が起こったとはいえ、ここまで舞台を用意されてくれては勝負から逃げるわけにはいかない。仮に逃げようとしても、まずヒナが許してはくれないだろう。
「よ、よーし……!」
意を決し、アヤもボールを手に取る。だがこの時彼女は気が付いた。自分の手持ちでは、空を自由自在に飛ぶフライゴンに分が悪すぎるということに。彼女のポケモンに空を自由自在に飛べるポケモンは一匹もいない。平地ならまだ何とかしようがあったがここは足場も悪く、その影響がもろに出てしまう。完全にお手上げ——かと思われた時だ、おとなしくアヤのそばで控えていたムクホークがアヤの前に歩み出た。
「ホーク!」
その勇ましい鳴き声は『自分に任せろ!』と言わんばかりである。しかし、アヤはいまいち踏ん切りがつかない。
「ムクホーク……。でも……、何覚えているかよくわからないし……、そもそもムクホークは野生のポケモンだし……。ねぇヒナちゃん、どうすればいいの?」
「いいんじゃない、戦ってくれるっていうんなら。技は……、バトルを見て私が教えてあげるよ。だから初めのうちは、基本的な動作だけ指示してよさ、アヤちゃん。ジム戦だよ!」
「わ、分かった。それじゃぁ……。ムクホーク、お願い!」
ヒナの後押しを受け、アヤはムクホークの体を軽く二回ほど叩く。するとムクホークは再び勇ましく鳴くとアヤの想いを胸に秘め、大空の舞台へと飛びだった。そして、それを見たランの顔に不敵な笑みが浮かんだ。
「へぇ、野生のポケモンであたし達に挑もうなんて、ずいぶんと舐めたことしてくれるね。さぁ、どこからでもかかってきなよ」
ランのお父さんのイメージは、もちろんあの蘭パパです。
あとお気に入り数100を超えました。ありがとうございます。これからも評価や感想、お気に入り登録等で応援してくれると嬉しいです!