バンドリの彩ちゃんがポケモンの世界を冒険するようです。   作:なるぞう

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どっちでもいいけど、なんか最近文章が徐々に長くなる傾向にある。



第二十三話 姉妹の記憶

 数年前、とあるカントーのジムではかつてない激戦が繰り広げられていた。

 

「ドサイドン、炎のパンチ」

 

黒いスーツを身にまとった男性ジムリーダーの冷静かつ迫力がある声が響く。今日のチャレンジャーであるヒナとは全く真逆の雰囲気である。

 

「よーし!おねーちゃん見ててね!ユキノオー、エナジーボール!」

 

ヒナはわざわざフィールド脇に座っている姉であるサヨに大きく手を振りアピール。その傍らでユキノオーは手から緑の光球を放った。

 

「サッ」

 

ドサイドンに迫りくるエナジーボール。ドサイドンはそれを炎のパンチで受け止める。だが、エナジーボールの威力は衰えることを知らない。それは炎のパンチを貫き、ドサイドンを突き飛ばした。

 

「ドサーッ」

 

硝煙が立ち込め、ドサイドンの叫びが上がる。そして、その体が硝煙から解放されたとき、すでにドサイドンは戦闘不能となっていた。

 

「ほう、見事なものだ」

 

ジムリーダーはドサイドンをボールの戻しながら不敵な笑みを浮かべる。だが、その時すでにヒナは彼の目の前からは消えていた。勝利が確定すると同時に、すでに彼女はサヨに抱き着き猛烈なマシンガントークを繰り広げていたのだ。

 

「おねーちゃん!今のバトル見てた!?ユキノオー、グーンってなってスガガーンってシュイーンでズガガーンって感じだったでしょ!」

 

「ヒナ!落ち着きなさい!話なら後で聞くから……!ほら、ジムリーダーの人が困っているわよ!」

 

サヨに言われヒナが後ろを振り向くと、すでにジムリーダーがジムバッジをもってすぐそこまでやってきていた。

 

「気にするな。仲の良い姉妹で結構だ。私も長いことジムリーダーをやっているがここまで仲が良く、なおかつ実力のある姉妹は初めて見た。特に妹の——ヒナほどの実力者は、全国を探しても滅多にいないだろう。できることなら是非私の組織に……。いや、なんでもない。とりあえず、私への勝利を称えてこの『グリーンバッジ』を渡そう」

 

彼はヒナにバッジを渡した。実は彼がジムバッジを今日で二度目である。すでに1度、サヨに敗れジムバッジを渡しているのだ。多忙なせいでジムにいることが少ない彼が、1日に何人ものチャレンジャーの相手をするのは珍しいことではない。しかし、ジムバッジを1日に2つも渡すのは極めて異例である。

 

「わぁ~!おねーちゃんとおそろいのジムバッジ!るんってきた~!」

 

ヒナはジムバッジを手にするとまたはしゃぎだした。彼女はもうサヨと一緒に、ほぼすべての地方のジムバッジ手に入れてはいるのだが、毎度こんな感じだ。一方その傍らで、サヨはどこか難しい表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

この姉妹の2人旅は、サヨが各地のジムバッジを集めるために1人で故郷を発って数日後、勝手にヒナが追いかけてきたのが始まりだ。それ以来なし崩し的に二人は一緒に各地を旅しているが、サヨ自身もまんざらではないと思っている節はある。もちろんヒナは目を輝かせながらサヨにべったり引っ付いており、何をするのもサヨと一緒だ。そのためヒナもジムバッジを集めだすのは当然の流れでもある。しかし、そのことはサヨに黒い影を落としていた。ヒナのジム戦を見れば見るほど、彼女と自分の実力の差をはっきりと思い知らされるのだ。もちろんサヨも自分のバトルの腕には自信がある。だが、ヒナのバトルを見ていると、それが霞んで見えてしまう。しかも彼女はそれを大した努力もせず、その場のひらめきと勘で成し遂げてしまうのだ。もはや天才的なセンスである。今日も『ヒナほどの実力者は全国探しても滅多にいないだろう』とジムリーダーが言っていたが、ヒナだけが褒められるのは日常茶飯事だ。

 

「私だって……!」

 

だが、負けず嫌いな性格であるサヨがこの事態を指をくわえてみているわけがない。さらなる高みを目指すため、そして天才的センスをもつヒナに負けないために、彼女は毎晩休むことなく秘密の特訓をしているのだ。

 

「出てきなさい!オニゴーリ、キュウコン、ヘルガー、マンムー、ミロカロス、ルナトーン!」

 

彼女が6つのボールを同時に投げると、幾多の激戦を潜り抜けた、歴戦の手持ちポケモンが姿を現した。

 

「いいかしら。今日はジム戦だったけど、今夜も手を抜かずにやるわよ!最初はいつも通り基本の——」

 

「おねーちゃん?」

 

と、特訓を始めようとした矢先、背後から聞き覚えがある声がした。振り返ると、すぐそこにはヒナがいた。

 

「ヒナ、どうしてここにいるの?貴女はもう寝たはずじゃ……」

 

「そうなんだけど、いまいち眠れなくて気分転換に散歩に来たんだ。おねーちゃんこそ、こんな遅くにポケモン出して何やっているの?」

 

「私は……、バトルの特訓よ」

 

「バトルの特訓かぁ~。……よし!私も特訓しちゃお!私も早く、おねーちゃんみたいにるるるんってするバトルができるようになりたいからね!そーれ、出ておいで!ユキメノコ、サンドパン、ガオガエン、ユキノオー、ギャラドス、ソルロック!」

 

ヒナの目は曇りもない純粋な、輝きを持っている。それは姉に対する純粋な憧れだ。

 

(妹の期待を裏切らないためにも、私ももっと強くならなければ……)

 

だがそれは、無意識のうちにサヨを追い詰めていたことをヒナも、サヨ自身も知らないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ジムリーダーの試験……?」

 

数日後、ヒナは目を輝かせながらサヨにジムリーダー募集のチラシを持ってきた。

 

「そうだよ!ジムリーダーになれるなんてきゅるるるるんって感じじゃん!おねーちゃん、私達2人でジムリーダーになろうよ!トクサネジムみたいに2人で1つのジムを持とうよ!」

 

随分と急なお誘いだ。しかし、ジムリーダーは前々からサヨも興味があった仕事でもある。今後もバトルを極めるのであるならば、ジムリーダーの仕事はうってつけといえる。いっそこの機になってしまうのも悪くはない。

 

「……わかったわ。私もジムリーダーを目指すわ」

 

サヨも快く首を縦に振った。無論、ヒナがはしゃぎだしたのは言うまでもない。

 

「ヒナ!落ち着きなさい!まだジムリーダーに受かったわけではないし……。まずはどのタイプのエキスパートになるのかを決め——」

 

「氷タイプにしよ!氷タイプ!なんだかキラキラしててカチカチでヒエ~って感じがるんってくるから!」

 

いつものことだがヒナが言っていることはよくわからない。しかし、サヨも氷タイプのエキスパートになることも賛成だ。

 

「そうね、氷タイプは攻撃は得意だけど守りは苦手。トレーナーの腕が試される、やりごたえがあるタイプといえるわね」

 

「でしょでしょ!それに私達の手持ちには氷タイプが多いからね!」

 

ヒナが言う通り、彼女たちの手持ちには氷タイプが非常に多い。サヨはオニゴーリにアローラの姿のキュウコン、そしてマンムー。ヒナはユキメノコにアローラの姿のサンドパン、そしてユキノオー。サヨが氷タイプのエキスパートになることに賛成したのは、氷タイプの扱いには慣れているからというのもある。

 

「……それじゃぁ、これでエキスパートタイプは決まったわね。となると後は試験に備えて準備するだけよ。一緒に頑張りましょ、ヒナ」

 

「うん!」

 

サヨは穏やかな笑みをヒナに見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試験は3か月後。バトルの腕を試す実技とポケモンの知識を問う筆記の2項目で審査される。100人近い受験者のうち、選ばれるのはたった5人だけだ。

ジムリーダーを目指すことになってから、ヒナは相変わらず呑気に遊んでばかりいたが、サヨは練る間も惜しんで試験の勉強に取り掛かった。ところが、現実は無慈悲なものであった。

 

「そんな……!ない……!」

 

試験当日、試験の結果を見たサヨは自分の目を疑った。何度見ても合格者が書かれた紙に、自分の受験番号はないのだ。ちなみにヒナは当然のごとく合格している。

 

「どうして……!?私は……、私は……!」

 

実技試験では誰もが息をのむ腕前で他を圧倒した。もちろん筆記も完ぺきにこなしたつもりだ。落ちた理由がわからない。彼女はすぐさま試験官に結果の開示を求めた。そしてサヨは愕然とした。実技はほぼ満点。しかし筆記は0点であった。その理由は実に簡単。サヨは緊張のあまり、筆記試験の解答欄を一段ずつずらして書いてしまっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜の天気は憂鬱な雨。サヨは傘もささず、街灯の下で呆然としていた。

 

「私は……、ヒナに……」

 

不合格の受験票が雨に濡れる。だが、今の彼女にとって試験に落ちたことは二の次だ。一番ショックなのはヒナが合格したことである。可愛い妹が合格したことは確かに嬉しい。だが、それは同時にヒナの方が実力があるということを証明されてしまったことでもある。そして彼女はこの時気が付いてしまったのだ。自らの心の奥底でうごめいていた、ヒナへの憎しみに……。

 

「おねーちゃん!カサもささずにそんなところにいたら風邪ひいちゃうよ!」

 

そこへ、ヒナがカサをもってやってきた。しかしサヨはずっと口を閉じたままだ。

 

「おねーちゃん……。今日のは残念だったね……。でも、解答欄間違えただけで、回答自体はほとんど合ってたんでしょ?だったら次は——」

 

「ミスも実力のうちよ」

 

サヨは冷たく突き放すように、自分をあざ笑うように呟いた。

 

「おねーちゃん、元気出してよ。そんなに落ち込んでいると私も悲しくなっちゃうよ。私、待っているから。ずっと待っているから、もう一度頑張ろうよ。私も手伝うからさ。ねぇ、おねーちゃん……」

 

心の底からヒナは姉を心配している。しかし、その言葉はサヨの耳に入った途端に嘲笑や皮肉の言葉へと姿を変え、サヨに襲い掛かるのだ。

 

「うるさい……」

 

「えっ……!?」

 

「うるさい!自分だけが合格したからといって偉そうなことばっかり言って!貴女にこの気持ちが分かるわけないのよ!」

 

とうとうサヨの憎しみが火山のごとく噴火した。

 

「おねーちゃん……!」

 

「いつもいつも何なのよ!お姉ちゃん、お姉ちゃんって!憧れる方がどれだけ負担に思っているかわかっているの!?」

 

「ごめん……」

 

「『ごめん』っていえば何でも許されると思わないでちょうだい!はっきり言って貴女は邪魔な存在なのよ!だからヒナ、私たちの関係はここまでよ。もう私は貴女とは比べられたくないの。これ以上一緒にいたら、憎しみのあまりどうにかなってしまいそうだわ。……さようなら、ヒナ」

 

「……!おねーちゃん!そんな、待ってよ!」

 

「おねーちゃんだなんて、馴れ馴れしく呼ばないで!」

 

サヨの平手がヒナの頬をぶつ。バシンっという、雨の音をかき消すかのような音が響いた。

 

「おねーちゃん……」

 

ジンジン傷む頬も抑えずヒナは、闇に消えていくサヨを呆然と見続けた。これがヒナとサヨの別れである。この時ヒナは悟った、知らず知らずのうちに大好きな姉を傷つけ、追い込んでいたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後ヒナは、姉を傷つけてしまったせめてもの償いとしてジムリーダーを辞退した。そして今まで使っていた荷物も全部捨て、今まで苦楽を共にした手持ちのポケモンもすべてポケモンセンターに預けた。これらを見ているだけで、姉への想いが爆発してしまいそうだからだ。彼女は一からトレーナーをやり直す道を選んだのである。だが、唯一ジムリーダーの認定書だけは手元にとっておいた。もう二度と、大切な人を傷つけないようにするための戒めとして。ちなみに、このヒナのジムバッジはすべて海に捨ててあるため、アヤが見たジムバッジの山はヒナのものではない。実は全てサヨのものである。サヨと別れた数日後、とある街の一角に投げ捨てられていたジムバッジをヒナが回収した物なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここでヒナの話は終わった。

 

「……どう、アヤちゃん?私の昔話は……?」

 

ヒナがアヤに向けた顔は笑ってはいるが、その笑顔からは今にも涙がこぼれそうである。

 

「うん……」

 

アヤはこういうのが精いっぱいだった。

 

「アハハハ!そんな暗い顔しなくてもいいんだよ。もう前のことだからね。だからアヤちゃん……、さようなら」

 

「えっ……、さようならって!?」

 

アヤはベンチから立ち上がるヒナの腕を慌てて掴んだ。するとヒナはアヤのを振りほどき、彼女の顔を見つめた。

 

「ごめんねアヤちゃん。私がアヤちゃんを探していた理由ってまた一緒に旅するためじゃなくて、しっかりとお別れを言うためだからなんだ。もう喧嘩分かれは嫌だからね。にしても私って駄目だなー。もう大切な人を傷つけないって決めたのに、また同じ失敗をしちゃうなんて」

 

「そんなことないよ!ヒナちゃんはすごい人だよ!大切な仲間だよ!だから、私を置いて行かないでよ!」

 

アヤは涙ながらに訴える。しかし、ヒナの意思は想像以上に硬かった。

 

「今の話聞いてわかったでしょ。おねーちゃんがリゲル団なんて組織作ったのも、きっと私のせいなんだよ。だから私は責任をとらなくちゃいけない。リゲル団は私が倒す。今までは遊び半分だったけど、今度は真面目に戦うつもりだよ。おねーちゃんと戦うのは辛いけど、自分が蒔いた種なら仕方ないしね」

 

「どうしても、私を置いていくの……?」

 

「うん、だってアヤちゃん、リゲル団と戦うの嫌なんでしょ?だったら無理する必要はないよ。これ以上大切な人を傷つけたくはないからね。あっ、でも安心して。アヤちゃんはこれからもずーっと私の大切な友達だから」

 

ヒナはそう言い残すと寂しそうな笑みを見せ、アヤに背を向け歩き出す。だが、彼女の前にアヤが立ちはだかった。

 

 

「ちょっと待ってよ!ヒナちゃん!お願い、私もヒナちゃんと一緒に戦わせて!確かに私は、弱いしドジだし色々ダメダメだけど……。それでもヒナちゃんの役に立ちたいの!今までヒナちゃんにはたくさん助けてもらったから、その恩返しがしたいの!」

 

アヤの顔は涙でグシャグシャである。だが、その表情はかつてないほど必死だ。

 

「どうして……、どうしてアヤちゃんは私のところをそんなに構うの?私、いっぱいアヤちゃんのところ傷つけちゃったんだよ。なのに……、どうして怒らないの?どうして……」

 

ヒナは潤む目を大きく見開き、不思議そうにアヤを見つめる。するとアヤは笑って答えた。

 

「それは、ヒナちゃんが大切な友達で、大切な仲間だからだよ。だから、これからも一緒にいてもいいかな?」

 

「アヤちゃん……、ありがとう……」

 

ついにヒナの涙袋が決壊した。ヒナはアヤに抱き着き、彼女の服をびっしょり濡らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次の日の朝、彼女たちはハルサメシティから旅立った。次の目的地はアヤにとって6つ目のジムがある街『ウノトキシティ』だ。リゲル団と戦うと決意したとはいえ、まだリゲル団の情報は不足している。そのため、今まで通りアヤのジム戦をこなしながら彼らについての情報を集めることにしたのだ。

 

「さぁ、行こうよヒナちゃん!」

 

「うん、これからもよろしくねアヤちゃん」

 

旅立ちを迎えたアヤとヒナの顔はどこか清々しい。それは、彼女たちが新たな旅の一歩を踏み出したことを意味していた。

 




ちなみに紗夜さんと同じミスは自分も過去にやらかしたことがあります。てなわけで氷川姉妹の過去変でした。よろしければ高評価、感想、お気に入り登録よろしくお願いします!

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