バンドリの彩ちゃんがポケモンの世界を冒険するようです。 作:なるぞう
ハルサメシティでキーストーンを手に入れたアヤは、ヒナの『るんってきた!』という言葉に従うがままに『カヤユキ山脈』を踏破することにした。こうしてアヤとヒナは再び12番道路を北上し、ミタマ山内部を通過。そして全身スキーウェアのような服装で身を固めながら、豪雪と吹雪が行く末を阻む15番道路を抜け、カヤユキ山脈のふもとの街、カヤヤタウンへ向かった。
カヤヤタウンはシンシュー屈指の豪雪地帯であり、腰の上まで積もることも日常茶飯事である。しかし、カヤヤタウンはこの豪雪を逆に利用し、スキーなどのウィンタースポーツに力を入れており、シーズンなれば毎年多くの人がやってくる。さらにアヤたちと同じくカヤユキ山脈を踏破しようとする旅人も多くやってくるため、いつもこの小さな町は人でごった返している。そのため、ポケモンセンターを含む宿泊施設が軒並み埋まることも珍しくない。ゆえに、ここに滞在する人はかなり前から宿を予約してからカヤヤタウンに来るわけだが、自由気ままに旅するヒナとおっちょこちょいなアヤがそれを知る由はなかった。生憎、彼女たちが夕方にカヤヤタウンに着いたとき、この街の宿は全部満室。結局2人は、カヤヤタウン内のとある民家に頭を下げて、そこで一夜を過ごさせてもらうことにしたのであった。
2人が駆け込んだ家にはイヴという少女が1人で住んでいた。彼女は急な来訪にも関わらずアヤとヒナを手厚くおもてなししてくれた。
「ごめんなさい、急に押しかけちゃって…」
アヤは家に入ってから申し訳なさそうにしている。しかし、イヴは天使のような笑みでこう言った。
「人を助けることはブシドーを極めるものとして当たり前ですから!とりあえず、今温かい緑茶を用意しますね」」
イヴは2人を畳が敷かれた和風な居間に通すと、熱々の緑茶を持ってきてくれた。極寒の道中を進んできたアヤとヒナにとって、それはまさしく神であった。ちなみに緑茶を飲みながら聞いた話によれば、今日の2人みたいに宿が取れずに民家に転がり込んでくる旅人はそんなに珍しいものでもないようだ。誰かを自分の家に泊めることはたまーにあるらしい。
「うわ~凄い凄い!これ全部イヴちゃんのもの~!?」
ヒナは緑茶を飲み干すと、居間の隣の部屋に置いてある武士の鎧兜や水墨画の和風コレクションを見つけて、そこでずっとはしゃいでいた。一方のアヤは緑茶を飲み干すと居間の中央にあるコタツにずっと入っていた。その程よい温もりは最高である。なんなら一生そこに入っていられそうだ。
「あ~、生き返る~」
思わずオヤジのような声を漏らすアヤ。するとそこへイヴがやってきた。
「あ、アヤさん。緑茶のお代りはどうですか?」
「う~ん。とりあえずはいっかな」
「分かりました。また、欲しくなったら遠慮なく言ってくださいね。あっ、それと夕食の方も今、私のエルレイドが用意していますから待っててください」
そう言い残すとイヴはアヤのもとから離れ、部屋の端にあるパソコンへと向かった。その周囲にあるよくわからない機械といい、この和風全開なこの部屋には似合わないものである。
「ねぇイヴさん、この部屋のパソコンや機械は何に使うの?」
アヤは思い切ってこのことについて、彼女に聞いてみた。
「あぁ、このパソコンのことですか?これはシンシュー全域の、ポケモンセンターに設置してあるパソコンを管理するためのものです。なんたって、この私がパソコンの管理人ですから」
その後、イヴは嬉しそうにポケモンセンターに設置してあるパソコンの仕組みを教えてくれた。だが、アヤの頭では理解することはできず、適当なところで相槌を打つので精一杯である。
「エルレッ!」
と、その時奥のふすまが開き、イヴのエルレイドが姿を現した。エルレイドの手にはおいしそうな鍋が抱えられている。
「うわっ!おいしそう!」
アヤは料理を見て、目を輝かせる。だが、ここで思いもよらぬ襲撃があった。ヒナである。
「アッヤちゃ~ん!見て見て!この木刀!」
ヒナは隣のコレクションルームで見つけた木刀を掲げて、アヤに見せびらかす。
「わわ!ヒナちゃん人のものを勝手にいじっちゃだめだよ!」
アヤはヒナに木刀を返すように注意するが、やっぱり効き目はない。しかし、イヴはそれを笑ってみていた。
「いいですよ、アヤさん。私のコレクションの良さがわかってくれる人がいて嬉しいです!この木刀はですね、前にジョウト地方のエンジュシティに行ったときに、一目ぼれして買ってきたんです。それからというもの、この木刀でエルレイドと試合や稽古をするのが日課なんですよ」
「試合や稽古?こんな風に?えーいっ!」
いったい誰がこんなことになると思っただろうか。なんとヒナは、突如無邪気な笑顔で木刀を振り回しだしたのだ。
「わっ!ヒナさん!部屋の中で木刀は振り回さないでください!あ、危ないです!」
そしてイヴの悲鳴が上がったそばから木刀が、パソコンめがけて迫ってきた。このままではパソコンが壊れてしまう。しかし誰もがそう思った時、エルレイドが颯爽と現れ、木刀からパソコンを守った。
「あー、良かったです……」
イヴは安堵のため息をつく。だが、騒動はまだ終わりではなかった。エルレイドはあまりにも急な事態であったため、パソコンを守る際に慌ててうっかり鍋を投げ捨ててしまっていたのだ。
「えっ……?」
その鍋はアヤの頭上を舞っている。そして次の瞬間、宙を舞っていたアツアツの鍋はアヤに降り注いできた。
「アチチチチチチチチチチチチ!水!水!」
アヤは絶叫しながら風呂場へと走っていった。どうやら今日は騒がしい夜になりそうだ。
アヤとヒナが目指すカヤユキ山脈は標高が3000m近い山々が軒を連ねる南北に長い山脈だ。この山脈は高度が高過ぎるため『空を飛ぶ』では来ることができず、自分の足で陸から来なければならない。もちろん道中も安全なところは全くなく、常に滑落や落石の危険と隣り合わせ。一瞬でも気を抜けば待っているのは死だ。ついでに天候も変わりやすいため、カヤヤタウンにいる専門家たちが安全と判断した時にしか基本的に立ち入ることが許されない。運が悪いと何日もカヤヤタウンで足止めを食らうことも決して珍しいことではない。だが、今日は運よく天候も安定していた。そのためアヤとヒナは、まだ日も昇りきらぬ時刻にイヴの家を発ち、防寒着を着込んでカヤユキ山脈の登山口を目指した。
「出ておいで、ハガネール!」
「ネール!」
登山口の入り口で、アヤはハガネールを出した。事前にすこし調べたところによると、どうも一般人が人間の力だけでカヤユキ山脈を登りきるのは難しいので、ポケモンと力を合わせて昇るのがメジャーらしい。アヤたちもそれにのっとることにしたのだ。
「よーし!ハガネール、進んで!」
「ネール!」
ハガネールはアヤとヒナを頭の上に乗せるとズルズルと登山道を進みだした。元々や額地帯や洞口などに生息するポケモンなだけあって安定感は抜群だ。こうしてアヤたちの登山は幕を開けたのであった。