バンドリの彩ちゃんがポケモンの世界を冒険するようです。 作:なるぞう
念願の冒険に旅立ったアヤとナエトル。彼女たちは鼻歌交じりに1番道路を歩いていた。この道はシグレタウンの東部に位置する『シノツクタウン』まで続く長閑な道である。1番道路やシノツクタウン自体は何回か母親やマリナ博士と訪れたことはあるが、一人で行くのは初めてだ。そのせいか、見るもの聞くものすべてが新鮮な気がする。
「えへへ、これからどんなことがあるのかな?楽しみだね、ナエトル」
「ナーエー」
出会ったばかりにもかかわらず、すでに仲のいい一人と一匹はのんびりと一番道路を進んでいく。だが、間もなく彼女たちの足が止まった。草むらが彼女たちの道を塞いでいたのだ。
「……」
アヤは旅立つ前、『草むらには野生のポケモンが数多く飛び出してくるから注意するように』と、母親やマリナ博士から言われていたことを思い出した。間違いなくアヤとナエトルにとって最初の試練といえるだろう。
「いこう」
「ナエ!」
意を決し、草むらに踏み入れるアヤとナエトル。一歩、また一歩と彼女たちはゆっくり足を運んでいく。そして数歩進んだ時だ、近くの草むらがガサゴソと揺れ、目の前に一匹のポケモンが飛び出してきた。
「へっ、へっ、えっ……、もう!?」
想像以上に早く出てきて戸惑いながらも、アヤは図鑑を取り出しそのポケモンに向ける。
「えっと……、あのポケモンは……、コラッタ……?」
彼女は図鑑に出てきたデータをざっと読むと再びコラッタに目をやる。
「ラーッ!」
コラッタは鳴き声を上げしきりに怒りをあらわにしてくる。理由はわからないが、戦う気満々のようだ。
「ラタッー!」
ついにコラッタはアヤとナエトルに向かい突っ込んだ。体当たりである。
「ひゃっ!」
突然の出来事にアヤもナエトルも反応できない。幸い攻撃は外れたものの、コラッタはすぐにとびかかってきた。
「うわっ!ご、ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁい!」
コラッタの気迫に驚き、アヤは大慌てでナエトルをボールに戻し、バックで頭を覆いながら一目散に逃げだした。
「ハァハァハァ……」
アヤは何とか草むらから外れた道端の木陰まで逃げ切ることができた。
「まさか野生のポケモンがあんなに怖いなんて……」
いきなり走ったことに加え、これから先の不安もあいなり、アヤはヘナヘナとその場に座り込んでしまった。
「ハハハハハハッ!アハハハハハッ!」
するとどうであろうか、どこからか少女の愉快な笑いが耳に飛び込んだ。それもかなり近い。あたりを見渡してもだれもいない。だが、ふと上のほうに人の気配を感じた。恐る恐る上を向くと、なんと水色の髪を肩まで伸ばした少女が木の上に座っていたのである。
「あっ、バレちゃったか~」
アヤと目が合うと、その少女は枝からスタっと目の前に飛び降りてきたが、アヤの顔を見るや否やまた爆笑しだした。
「……そうしてそんなに笑うの?私、何か変なことしたかな?」
さすがのアヤも、これには少々怪訝そうだ。
「アハハハハハ!ごめんごめん、キミの走り方があんまりにも面白かったからつい。ねぇ、どうしてあんな風に走っていたの?」
「それは……、草むらから飛び出した野生のポケモンに驚いて……」
「どうして野生のポケモンになんか驚くの?戦って倒すなり、ゲットするなりすればいいじゃん」
「だって、戦い方もゲットの仕方もよくわからないんだもん……」
「どうしてわからないの?ポケモンと戦ったりゲットしたりすることなんて、ポケモントレーナーとして常識じゃん」
謎の少女は目を輝かせながら矢継ぎ早に質問を繰り返すが、それは中々刺々しい。
「だって……、今日旅立ったばかりなんだもん……」
アヤはその少女のペースに振り回され完全に元気を削がれている。だが、謎の少女はまだ話を辞める気配が見られない。
「ふーん、つまり初心者ってこと?」
「そんなとこかな……」
ため息交じりにアヤが言葉をつづると、その少女は腕を組み何かを考え出した。と、思いきや再び目を輝かせてきた。
「そうだ!るんってすること思いついた!私が君に色々教えてあげるよ!」
「えっ、色々って……?」
「まぁいいのいいの、私に任せてよ!」
「でも……!」
「あっ、そうだ名前言うの忘れてたね。私ヒナっていうんだ。君の名前は?」
「私はアヤだけど……」
「それじゃあアヤちゃん!早速草むらに行こうよ!」
「うぇ!ちょ、ちょっと!腕を無理やり引っ張んないで!」
ヒナと名乗る不思議な少女に強引に連れていかれ、アヤは再び草むらへと戻ってきた。
「さぁて、どんなポケモンが出てくるのかな~」
ヒナがあまりにも意気揚々と進んでいくため、アヤも渋々ついて行ったが、内心逃げ出したい気持ちでいっぱいである。なんだか変な人に絡まれてしまったと、自分の運のなさを嘆くアヤ。だが、そうしているうちに、不運にもまた野生のコラッタと再び出くわしてしまった。
「さぁ、アヤちゃん!ポケモンを出して!」
こうなったらもう逃げられない。仕方なくアヤはボールからナエトルを繰り出した。
「ナエナ……!」
ナエトルはボールから出てきたときは威勢が良かったものの、コラッタを見た瞬間怖気づいてしまったようだ。先のコラッタとは別個体のようだが、よほどさっきのコラッタがトラウマになったらしい。
「さてと、まずはポケモンをゲットする方法から教えちゃうよ!」
「ゲットする方法?」
「うん!だって手持ちにポケモンがいっぱいいたほうがるんってするじゃん!今日旅立ったのなら、どうせアヤちゃんの手持ちそのナエトル一匹だけでしょ?」
「うぅ……」
相変わらず何処か棘がある言葉である。ただ、なんとなく悪意がないのは伝わってくるし、折角教えてくれると言っているのだからここは言うことを聞いておこう。アヤはそう思ったのだが、彼女の説明は擬音だらけで意味不明であった。
「いい?まずはポケモンにズバッてして、ダダンってさせるの。そしてらそれを繰り返して相手をヘナヘナ~にして、そしたら——」
「待って!どういうこと!?」
「とりあえずポケモンに技の指示をだして!」
何とか一つの擬音を理解したアヤは、頭の中で指示をだす準備に取り掛かった。
(えっと……、たしかテレビでポケモンバトルを見たときはたしか……。それでナエトルの技は確か体当たりと殻にこもるだっけ……)
コラッタは、今はおとなしく様子をうかがっているが、いつさっきみたいに襲ってきてもおかしくない。とりあえず自身が持っている情報を大雑把に整理するとアヤはテレビの見様見真似で指示を出した。
「えっと……。ナエトル、体当たり!」
「ナエッ!」
アヤの初めての指示が通った。ナエトルが全力でコラッタに突っ込む。
「コラーッ!」
攻撃は見事に命中。しかしこの攻撃がコラッタを怒らせてしまったのは言うまでもない。すぐにコラッタも体当たりで反撃してきた。
「あっ!えっと、殻にこもる!」
アヤも慌てて次の指示を出す。ナエトルは頭を前足で覆い、防御をとるような構えをとった。これが文字通り殻にこもっているかどうかといわれればかなり怪しいが、ナエトルは首や足を殻に引っ込めることができない体の構造なので仕方がないだろう。まぁ理屈はさておき、とりあえずナエトルはダメージを最小限に抑えられたようだ。『体当たりをつかったから次は……』という短絡な発想で出した指示だが中々の采配である。
「よし、次はもう一回体当たり!」
「ナエーッ!」
このナエトルとコラッタの体当たり合戦はしばらく続いた。そしてそれが終わったとき、地面に立っていたのはナエトルであった。つまりナエトルとアヤは初勝利を収めたということである。
「やったよ!ナエトル!」
ナエトルを抱きしめ、初めての勝利を過剰なほどに酔いしれるアヤ。だが、その傍らでヒナはなんだか不満気だ。
「ねぇ、アヤちゃん。私のいうことしっかり聞いていた?ひん死にさせたらゲットできないよ」
「えっ、でもヒナちゃんがポケモンをヘナヘナにしてっていうから……」
「それはひん死にさせることじゃなくて、ポケモンの体力を削るって意味だったんだけどな~。まぁいいや、次のポケモンを探しに行こう!」
この後もヒナの指導は続いた。相変わらずその指示は分かりにくいが、要は『ポケモンを戦わせて、相手ポケモンを弱らせてからゲットする』ということを言いたいのだろう。戦う数を重ねるごとにアヤは何となく彼女の言葉を理解しつつあった。さらにヒナの指導もあり、戦いの雰囲気も何となくつかむことができた。しかし、長かったのはここからである。戦いの感覚は何となくつかめても、中々野生のポケモンの体力を調整できないのだ。ある時はダメージを与えすぎて倒してしまう。ダメージを与えすぎないようにしようと思い、開戦後すぐにボールを投げたこともあったが、あっさりとボールから出られてしまう。酷いときにはボールを投げても野生ポケモンに当たらず、明後日の方向にボールが飛んでいくことすらあった。試行錯誤を繰り返していくうちに気が付けば10個以上あったモンスターボールも残り1個となり、ナエトルの体力もそろそろ限界を迎えようとしていた。もう後には引けない。そんな思いでアヤは草むらをさまよう。すると、またポケモンが飛び出してきた。それも彼女が今日初めて出くわすポケモンである。
「あれは……?」
そのポケモンは今までとは一風変わった容貌であり、まるで小さな女の子のようだ。すかさずアヤは図鑑をそのポケモンに向ける。図鑑によればこのポケモンはラルトスというポケモンらしい。
「ナエッ!」
アヤが図鑑を確認している間にも、ナエトルはすでにラルトスに向き合っていた。戦う準備は万全だ。
「これがきっと最後のチャンス……。ナエトル、体当たり!」
アヤの指示を受け、いつも通りナエトルがラルトスに突っ込もうとする。だが攻撃が当たる直前、ナエトルの体が宙に浮いた。
「ナエトル!?」
予想外の出来事に思わず叫びを上げる。その間にナエトルは地面にたたきつけられていた。
「あー、あれは念力だね。ラルトスは直接的に触れずに攻撃してくることが多いから気を付けてね。でもその手のポケモンって大体防御面が弱いからそこが狙い目だよ」
ヒナはずいぶんと呑気だ。しかし、当のアヤは呑気にしている場合じゃない。早くしないとナエトルが倒されてしまう。そう焦っているうちにも、ナエトルは念力で再び宙に持ち上げられている。その時だ、ふとアヤは先ほど念力のことを思い出した。
(確かさっきの念力を受けて地面に落とされたとき、ナエトル結構な勢いあったような……。そうだ!その勢いを利用すればもしかして……!)
アヤはひらめいた。ナエトルはもう最高地点に達しようとしている。一刻の猶予もない。アヤはそのひらめきを解放した。
「ナエトル!落ちるときにラルトスの上に落ちて!」
「ナエ?」
言葉にすれば簡単だが、実行しようとすると中々あいまいな指示だ。しかしナエトルは念力から解放された瞬間に手足をばたつかせ、どうにかしてアヤの指示を実行しようと奮闘した。するとあがきが実ったのか、ナエトルの頭の先がラルトスの頭にぶつかったのだ。
「ラルゥ……」
ヒナ言う通り、防御面が弱いラルトスはこの一撃だけでもかなりのダメージを負ったようである。その証拠に足がおぼつかない。ボールを投げるのなら今がチャンスだ。
「いけ!モンスターボール!」
アヤは狙いを定め、すかさずモンスターボールを投げる。ボールは手から離れるときれいな弧を描き、ラルトスの頭部に当たった。それと同時にボールが開き、赤い光がラルトスをボールに吸収した。しかしまだ油断はできない。ここまでは何回か成功させたことはあるが、毎回失敗し、ポケモンが飛び出してしまっていたのだ。手に汗握る時間が続いた。ボールが一回、また一回と揺れるたびに胸の鼓動が大きくなる。そして、ついにその時はきた。ボールから、カチッという気持ちのいい音が鳴ったのだ。アヤはそのボールを拾い上げ、震える手の上でまじまじと見つめた。
「……やったよ、やったよヒナちゃん!私ゲットできたよ!」
「ナエナエ!」
アヤとナエトルの喜びが爆発した。
「おめでとうアヤちゃん!いや~、初めはどうなるかと思ったけどゲットできてよかったよ!」
二人とナエトルは手を取り合って喜んだ。まるで十人の少女が騒いでいると錯覚させるほどにぎやかである。
「ラルトス、ゲットだよ!」
アヤの歓喜の声が響く。こうしてアヤは再びシノツクタウンへと足を運んで行ったのだ。