バンドリの彩ちゃんがポケモンの世界を冒険するようです。 作:なるぞう
「マリナ博士!」
アヤはヒナとともに大慌てで、シグレタウンに戻った。しかし、マリナ博士の研究所の扉を開けた瞬間、アヤの必死の願いも虚しくついえた。割れた窓ガラス、ひっくり返った机、床に散乱する数々の本……。変わり果てた研究所を前に、アヤは呆然とするしかなかった。
「アヤちゃん……」
ヒナもそんなアヤの様子を見て心が痛む。しかし、それと同時にふとヒナは気が付いた。奥の物置からドンドンと中で何かが動いている音がすることに。
「いったいなんだろう……?テッカニン、鍵穴を壊して」
テッカニンはボールから現れると、物置に近づき『しのびポケモン』の名に恥じぬ鮮やかな手捌きで厳重にカギがかけられた物置をこじ開ける。すると、中から布で口を覆われ、体を縄で拘束された数人の研究員が出てきた。
「みんな!?」
長い間シグレタウンで暮らしてきたアヤにとって、研究所の職員は友達も同然の存在だ。研究員が物置から姿を見せるや否や、すぐさま拘束を解いたのは言うまでもなかった。
「ゲホゲホッ……!助かったよアヤちゃん……。でもどうしてここに……?アヤちゃんは旅に出ているはずじゃ……」
研究員たちは、拘束から解放されると感謝の言葉をいうとともに首を傾げた。しかし、アヤが研究所の襲撃のことを口にした途端、誰もが顔を曇らせてしまった。
「ねぇ、マリナ博士は無事なんですか!?無事なんですよね!?」
アヤもその表情を見て何となく現実を悟ったが、藁にもすがる思いで必死に言葉をつづる。だが、初老の男性研究員の言葉でそれは打ち砕かれた。
「すまないアヤちゃん……。マリナ博士はリゲル団に連れ去らわれてしまったよ……。我々もポケモンバトルが苦手なのを承知で立ち向かったのだが、まるで歯が立たなかった。結果は御覧の通りだよ。本当にすまない……」
「そんな……」
突きつけられた現実にアヤは動揺を隠せない。するとその時、窓の外に黒い影が降り立った。リンコがサザンドラに乗って駆け付けて来てくれたのだ。
「リンコさん……!どうしよう!マリナ博士が……!」
リンコが研究所に入ってくるや否やアヤは目に涙を浮かべながら彼女に跳びつく。リンコはそれを見て、今ここで起きたことをすべて察した。
「大丈夫です……。マリナ博士は必ず無事ですよ……」
リンコはアヤを優しく包みながら、母親のように優しい声をかける。もちろんこの言葉はアヤを落ち着かせるための出まかせではない。彼女には確信があるのだ。
「先日……、ハルサメシティで暴れていたリゲル団の下っ端に情報を聞き出したところ……、彼らは『マリナ博士をアジトに連れ去って最終兵器の最終調整をさせる』といっていました……。それなので、少なくとも当分の間は……マリナ博士の命を奪うような真似は……しないと思います……」
その言葉を聞いて、アヤは少し落ち着きを取り戻した。だが、不安の種は依然として尽きない。
「それならよかった……。でもアジトはどこだろう?」
しかし、この不安にもリンコは当てがあるようだ。
「それも先ほどの……リゲル団員に聞き出しました……。どうもやつらのアジトは……ユキゲタウンにあるみたいです……。おそらくマリナ博士も……そこにいるはずです……。どうですか……アヤさん……、ヒナさん……。もしよかったら……、私と一緒に……リゲル団のアジトに乗り込んで、リゲル団員を痛い目に合わせながら……マリナ博士を救出しに行きませんか……?」
アヤとヒナに断るという選択肢はなかった。2人は深くうなずくと、リンコとともに研究所の入り口に向かう。すると、背後から若い研究員の声がした。
「あっ、そうだ!アヤちゃん、これを持っていくといい!」
アヤが研究所を出ていく直前、その研究員はマリナ博士の机の中から、紫色のモンスターボールが入った、高級感あふれる黒い小箱をアヤに手渡した。
「いいかい、アヤちゃん?今渡したのはマスターボールっていって、どんなポケモンでも必ずゲットできる究極のモンスターボールなんだ」
「えっ、そんな凄いもの貰っていっていいんですか……?」
「あぁ、構わない。これは我々研究員一同が、アヤちゃんへプレゼントするために手に入れたものだからね。本当はこんな形で渡したくはなかったが、仕方がない。ぜひ、有効活用してくれ」
「わかりました。大切に使いますね」
こうしてアヤはマスターボールを手に入れた。そして、彼女は実家に顔を見せる暇もなく、ユキゲタウンに急行したのであった。
ユキゲタウンについたアヤたちはとりあえず、民宿の一部屋を借り、リンコを中心に作戦会議をひらいた。
「いいですか……?リゲル団のアジトらしきものは……、街の南部にある……、暗い雰囲気で有名な花屋の地下にあります……。噂によれば……、その裏口がアジトへの……、入り口になっているんだとか……。でも、そこから何の考えもなしに突っ込んでは……、戦いは避けられません……。そこで……、私にいい考えがあります……!リゲル団に変装して、アジトに突撃すればいいんです……。そうすればきっと、戦いは最小限に抑えられるはずです……」
と、リンコは威勢よく言い放つ。だが、アヤとヒナは不安しかなかった。リゲル団の変装とはどうやるのだろうか?だいたい、そんな子供だましのような作戦で上手くいくのだろうか?そもそもリンコの、戦いを避けるための『いい考え』を信じても大丈夫なのだろうか?なにしろ、月の楽園でリゲル団と戦った時、『戦いはなるべく避けよう』と言っておきながら、一番好戦的だったのはほかでもないリンコ本人である。
「それじゃぁ……、私は……ちょっと作戦の準備をしてきますので……」
しかし、リンコはそんな不安をよそに何処かへといってしまった。
そして一時間後、リンコは両手に黒い服を抱えて戻ってきた。
「さぁ、2人ともこれに着替えてください」
彼女は、部屋の床にバサッと黒い服、すなわちリゲル団の下っ端の服を置いた。
「うへ~、なんかこの服変な臭いがする~。この服の持ち主、ちゃんと洗濯していたのかな~?しかも、これ男用だし」
「ていうかこれ、どこで手に入れてきたんですか……?」
ヒナとアヤはその服を持ち上げると、不安そうな声を漏らす。するとリンコはさらっと衝撃的なことを言ってのけたのだ。
「これは……、ユキゲタウンを歩いているリゲル団員を……、ゲンガーの催眠術で眠らせて……、眠っている間に剥がしてきたものです……。確かにヒナさんが言う通り……臭いはキツいですし……、男用の服ですが……、背に腹は代えられません……」
「「えぇ……」」
アヤ的にもヒナ的にも、この時点でツッコミどころは山ほどある。しかし、ここまで準備してくれたのに今更猛反対するのも申し訳ない。結局、アヤとヒナも自分の服の上から、リゲル団の服を着てリゲル団のアジトに突撃することになったのだ。
予想に反し、リンコの作戦は中々上手くいき、入り口の見張りにも全く怪しまれることなく、3人はアジトの内部に侵入できた。しかし、入り口から地下へと続く通路の途中でトラブルが起きた。彼女たちの進路を、近未来的な扉が塞いできたのである。どうやら左上にあるタッチパネルに指定のパスワードを入力すれば開くようだが、3人がそれを知っているはずもない。
「えーとっ……。おねーちゃんが思いつきそうなパスワードは……、『SAYO0320』!——あっ、違うか。それじゃぁ……、『オニゴーリ』!——これでもない。えっとじゃぁ……『フライドポテト』!『にんじん』!『氷タイプ!』!『SAYOTSUGU』!『Roselia』!」
とりあえず、ヒナは思いつく単語を端から入力してみるが全く当たらない。
「ヒナさん……、アヤさん……、少し下がってください……。パスワードがわかりました……」
と、ここでリンコがヒナとアヤを自分の後ろに下げた。そして、彼女はゲンガーを繰り出した。
「私たちのパスワードは……、これです……!」
リンコが叫ぶと、アヤとヒナが止める間もなくゲンガーはシャドーボールを放つ。扉は木っ端みじんに破壊された。だがこのことがトリガーになったのか、アジト内にけたたましいサイレンが鳴り響いた。さらに、その音を聞き、どこからともかく何人ものリゲル団員が押し掛けてきた。3人は彼らに取り囲まれてしまったのだ。
「なんだ、こいつら!よくよくみれば女のくせに、男用の服着ているぞ!」
「扉を破壊したことといい、怪しいぞ!」
「侵入者じゃないのか!?」
そして案の定というべきなのか、取り囲まれるが否や彼女たちへの疑いはどんどんと深まっていく。もはやこうなっては変装の意味はない。リンコはそう悟った。
「リゲル団の分際で生意気な……!こうなったら……、やつらを一人残らず細切れにしてやる……!ゲンガー!正面のリゲル団に向かってシャドーボール!」
リンコがリゲル団の服をサッと脱ぎ捨てると、同時にゲンガーはシャドーボールを撃ち、リゲル団員を数人まとめて蹴散らす。そして、リンコは間髪入れずに空いた隙間からアジトの内部へと颯爽と走っていった。
「「リンコさん……!」」
アヤとヒナも慌てて彼女の後を追う。そして、その最中アヤはこう思った。
(リンコさんって、見かけによらずアグレッシブだな……)
また、時同じくしてヒナはこう思った。
(リンコさん……。多分、作戦考えるのあまり得意じゃないんだな……)
ちなみに、アジトの正しいパスワードはシャドーボールじゃなくて、『HINA0320』です。