バンドリの彩ちゃんがポケモンの世界を冒険するようです。 作:なるぞう
ウセイシティジムで、最後のバッジを手に入れたアヤはヒナとともにポケモンリーグがあるシラツユ高原を目指し、10番道路を通りウセイシティを南下。そして今、彼女たちはシラツユ高原の前に立ちふさがる洞窟、『チャンピオンロード』の中を進んでいた。ここはポケモンリーグに挑むトレーナーの最後の難所として知られており、リーグに挑む前の最後の特訓をしている強豪トレーナーがあちこちにいる。チャンピオンロード自体の道のりも『トレーナーとポケモンが訓練できるように』という理由で最低限の整備しかされていない。巨大な岩はその辺にゴロゴロしている場所や、懐中電灯の明かりが効かないほど暗い通路は序の口。所々にある洞窟内の湖には橋という便利なものはないし、轟轟と音を立てる滝があろうと、垂直にそびえたつが崖があろうと迂回路なんてものはない。ついでに洞窟といいながらも、何度か洞窟外部に出て鬱蒼と茂る大森林の中を突き進まなければならない場面もある。まさに、ポケモンと人間が力を合わせなければ突破することができない、シンシュー最高クラスの難所といえるだろう。
アヤとヒナは、このシンシュー最大の難所を彼女たちの手持ちと協力しながら突き進んだ。岩をどかし、岩を砕き、木々を切り裂き、水上を進み、滝を登り、断崖絶壁を登り、闇の中を進み、何人ものトレーナーとのバトルを乗り越えた。それも、気が遠くなるほど、何度も、何度も……。そして、チャンピオンロードに入ってからどれだけ時間がたったのだろうか。アヤとヒナの前に栄光の光が差し込んできた。長い長い道のりの末、ようやく出口が姿を現したのである。
「やっと終わる……。これでやっと出れる……!」
出口が見えると、アヤは縋るように出口に向かう。だが、あと一歩で出口まで出られるというところで、彼女の歩く先をヒナが塞いだ。アヤがヒナを避けようと右に行けば、ヒナも右にずれる。左に避けたら今度はヒナも左についてくる。何度やっても同じ結末だ。
「どいてよヒナちゃん!これじゃ前に進めないよー」
流石に困り果て、アヤはついに音を上げる。するとヒナの目が急激に輝きだした。
「アヤちゃんと私って、今目が合っているよね?」
「う、うん……」
「前に私がアヤちゃんに教えたこと覚えている?」
「教えたこと……?」
「そう!トレーナーとトレーナーの目があったらやることって一つしかないよね!」
「目があったらやること……。えっ、うそでしょ……!?」
アヤの顔からサーっと血の気が引いていく。そして、ヒナの目の輝きがより一層増した。
「アーヤちゃん!私とポケモンバトルだよ!私に勝たないとここから先に通さないよ!」
そういうと、ヒナはボールを取り出した。が、一方のアヤは大慌てだ。
「バトルって……、私とヒナちゃんが戦うってこと……?」
「そうだよ」
「も、もちろん手加減してくれるよね……?」
「手加減?そんなのするわけないじゃん。ドドーン!ババーン!ズッギューン!っていっちゃうよ!」
「え~っ!ちょっと待ってよ!無理だって!勝てないって!本気のヒナちゃんに勝てるわけないよ~!」
「どうして戦う前に勝敗がわかるの?戦ってみなくちゃ結果は分からないよ。それにアヤちゃんはこれからポケモンリーグに挑んで、四天王やチャンピオンに勝つんでしょ?私に勝てないようじゃ、ポケモンリーグは無理だと思うな~」
確かにヒナの言うことは正論である。アヤがこれから戦うのは、向かうところ敵なしの四天王や、あのミサキに『異次元の実力』とまで言われるレベルのチャンピオンだ。ヒナに負けているようでは勝つことは難しいだろう。
「わ、分かったよ!よーし、ヒナちゃん!私と勝負だよ!」
覚悟を決めたアヤは、ヒナからの挑戦を受けた。
「アヤちゃん!準備はいい?」
「うん!いつでもOKだよ!」
「よ~し!それじゃぁ、るんってするバトルをよろしくね!」
ヒナとアヤの手からボールが離れる。
「ラーグッ!」
「ドーダッ!」
ヒナが繰り出したのはラグラージ。対するアヤが繰り出したのはドダイトスである。草タイプを持つドダイトスは、地面タイプと水タイプの両方を併せ持つラグラージに対して圧倒的に強い。つまり、アヤは一応有利な立場にいることになる。だが、アヤはヒナのラグラージの強さを身をもって知っている。その上ラグラージはドダイトスが苦手な氷技まで完備しているし、ヒナは氷タイプのジムリーダーを目指していた人だ。いくらタイプ相性が有利とはいえ、苦しい戦いになることを想像するのは難しくない。
「さーって、ラグラージ行くよ!滝登り!」
そして、ヒナの声とともにバトルは始まった。ラグラージはヒナの声とともに体に水をまとい、ドダイトスに向けて一直線に突っ込んでくる。アヤもドダイトスに指示を出した。
「ドダイトス!ウッドハンマーで受け止めて!」
「ダーッ!」
猛進するラグラージに、大木のような尾がさく裂——とはいかなかった。
「ラグッ!」
ラグラージはウッドハンマーを右手でがっしりと受け止めた。一見これは自殺行為に思えるかもしれないがそんなことはない。冷凍パンチの要領で、自身の手に氷の鎧のようなものを張ることで、草タイプの技が直接肌に触れることを防いでいるのだ。
「ラグラージ、あくび!」
「グラァ」
さらに、ドダイトスの尾を掴んだまま、ラグラージは大きく口を開ける。その瞬間、ドダイトスを強烈な眠気が襲った。
「ダァ……」
ドダイトスの視界が徐々に歪んでいく。あくびという技は相手の眠気を誘い、時間差で相手を眠らせる技。つまり、ドダイトスが眠りに陥るのも時間の問題だ。
「ドダイトス!しっかりして!」
バランスが悪くなっていくドダイトスにアヤは必死に声をかける。対するヒナはその光景を見てほくそえんでいた。
「ラグラージ、冷凍パンチ!」
氷の拳が、ドダイトスの目と鼻の先まで迫る。ドダイトスは何とか意識をつなぎ、ウッドハンマーでラグラージをけん制。さらに、ウッドハンマーをかわすために一歩下がったラグラージに向けエナジーボールをぶつけた。
「グラゥ!」
ラグラージの呻きが洞窟に響く。エナジーボールがヒットしたのだ。
「今だ!ドダイトス、ロッククライム!」
「……ダァッ!」
重たい瞼に鞭を撃ち、ドダイトスはラグラージの懐めがけて走り出す。だが、その直後、激しく地面が揺れた。ラグラージの地震だ。
「ドダッ!?」
ドダイトスは揺れに足をとられて動けない。ラグラージはそこを逃さず、冷凍パンチを叩き込んだ。
「ドダーッ!」
弱点の攻撃の直撃を受け、その場に伏すドダイトス。先ほどからの眠気も相成ってもう体力も限界だ。さらに、そこを好機とみてラグラージは滝登りを使って突っ込んでくる。しかし、それでもアヤは必死に声をかけ続けた。諦めなければ奇跡が起こると信じて。そして、その思いはドダイトスと繋がった。
「ドーダーッ!」
滝登りが直撃する直前、ドダイトスは立ち上がった。そして、全身に力を込め背中の大木から葉の嵐を巻き起こした。リーフストームである。
「ラーグーッ!」
勢いがついていたせいでラグラージは回避し損ねた。次の瞬間、リーフストームがラグラージを正面から巻き込む。そして、ラグラージはそのまま洞窟の壁に叩きつけられ、その場に倒れこんだ。
「ラグラージ!」
ヒナは慌ててラグラージに声をかけるも反応はない。彼女は、全てを悟った。
「アヤちゃんとのバトル、るんってきたよ!これで私が勝てればもっとるんっだったのにな~」
だが、一方のアヤは目の前の光景が信じられず、きょとんとして棒立ち状態だ。
「私……、勝ったの……?」
「うん!アヤちゃんの勝ちだよ。るんってするバトルありがとう!」
ヒナは白い歯をみせ、手を差し出す。この瞬間、ようやくアヤは自分の勝利を実感した。
「こちらこそありがとうヒナちゃん。私、リーグでも頑張るね!」
彼女も手をヒナに向かって手を伸ばす。すると、二つの手は自然に互いに互いの手を握りしめた。
「ドダァ……」
「ラグ」
彼女たちの後ろでは、ドダイトスと意識を取り戻したラグラージが互いの健闘を讃えている。こうして両者悔いのない清々しいバトルは、幕を閉じたのであった。
チャンピオンロードを抜けた2人を待っていたのはシラツユ高原だった。
「やっと着いた~」
アヤの目の前にあるのは、豊な自然の中にそびえたつ巨大なビル——すなわちポケモンリーグだ。豊かな自然の中にそびえたつ人工的な建物は異質である。また、それと同時に独特な緊張感と荘厳さを醸し出している。
「ど、ど、どうしよう……。なんだか急に心臓がバクバクしてきた……。う~、ヒナちゃん……」
その雰囲気にのまれ、アヤの足がすくむ。しかし、ヒナはそんなアヤをほったらかしどんどん先に進んでいった。
「アーヤちゃーん!早く早く!置いて行っちゃうよ~!」
ヒナはリーグの扉の前ではしゃいでいる。その様は遊園地にでも来ているようだ。
「あぁ!待ってよ!ヒナちゃん!」
アヤは大慌てでヒナのところに向けて走り出した。最後の最後まで、こういうところは変わらないアヤである。
ポケモンリーグの中に入ったアヤとヒナは早速リーグに挑む予約を入れた。その結果、アヤが挑むことになった日は、今日から数えてちょうど一週間後となった。それまで彼女たちはリーグに併設されている宿泊施設で待機しながら、最後の調整に入ることになる。
日時がたつのは速い。気が付けばもうリーグに挑む前夜になっていた。
「明日はいよいよ……」
ヒナも寝静まった傍ら、アヤは窓の外をずっと眺めていた。明日に全てが決まる。今までの努力の成果が試される。そう考えると緊張がどんどん増し、目がさえて眠れないのである。
「えっと……ヒナちゃんから言われたことは……。『ピッキーンカチカチ~ってなってもシャンってなってググッっとすればドーン!』『アヤちゃんはググーンって感じだからトゥルルンって感じ!』他には……」
アヤはとりあえずヒナの言葉を思い出して元気になろうと思った。しかし、彼女の意味不明な言葉の意味を考えていると頭がどんどんこんがらがってくる。結局、変に頭を回転させてしまったアヤはますます眠れなくなっていった。
「アーヤちゃん!」
その時、ヒナが後ろから抱き着いてきた。
「うわっ!ヒナちゃん寝ていたんじゃないの!?」
「まぁ、確かに寝ていたけどアヤちゃんの独り言がうるさくて起きちゃった」
「ご、ごめん……」
「別に私は気にしてないよ~」
そういいながら、ヒナもアヤの隣にやってきた。
「前から思っていたけど、高原で見る星空ってるんってするよね~」
この言葉を皮切りに、ヒナの星に関するトークショーーが始まった。星についての豆知識や星座に関する神話。どれもこれもアヤが知らないような面白い話ばかり。気が付けばアヤの緊張感も和らぎ、彼女は心なしか穏やかな気分に浸っていた。
「アヤちゃん、これで緊張しなくなった?」
ここで、ヒナはアヤの気持ちの核心を突くような言葉を言ってきた。ヒナ的には、どうやらさっきまでのトークショーは緊張を和らげるための作戦だったようだ。
「えっ……?」
しかし、アヤは急な展開にいまいちついて行けてない。すると、ヒナが小悪魔的な表情を見せた。
「アヤちゃんって本当に考えていることが分かりやすいよね~。だってついさっきまで、アヤちゃんの顔に『私は緊張してます』って書いてあったもん!」
「う~、ヒナちゃんの意地悪!仕方ないじゃん!明日、今までの努力が試されるんだよ。それで勝てればいいけど、途中で負けて今までの努力が否定されたらと思うと……」
アヤの顔に再び『緊張』の二文字が浮かび上がる。と、ヒナは無邪気な表情で笑った。
「大丈夫だよ、アヤちゃん!私、アヤちゃんなら四天王にもチャンピオンにも勝てる気がするな~」
「えっ、どうして……?」
「だって、今のアヤちゃん、るんるんるんってするもん!」
相変わらず、意味は分からない。しかし、その言葉を聞いていると次第に彼女の中に元気と勇気が湧いてくる。
「ありがとう、ヒナちゃん」
アヤはヒナに笑顔を見せた。
そして次の日、いよいよポケモンリーグ本番がやってきた。
「うーん、来ないな~」
その日の朝、アヤとヒナはリーグの扉の前でマリナ博士を待っていた。というのも、昨日、アヤの図鑑に『仕事が終わったら応援に行くね』というメッセージが届いたのである。しかし、待てど暮らせど彼女が来る気配がない。どうやら博士の仕事は彼女のリーグ挑戦に間に合わなかったようである。
「うーん、途中で間に合うといいな……」
結局アヤは、マリナ博士が途中で間に合うことを願いながらリーグの中に入っていった。
リーグのフィールドに続く扉は、建物に入ってすぐのところにある。しかし、すんなりと通れるわけではない。最後の確認として、そこの扉の前にいるエリートトレーナーに全てのバッジをみせなければ通れない決まりになっているのだ。
「挑戦者よ、ジムバッジをみせよ」
「は、はい!」
アヤは言われるがままに、エリートトレーナーにジムバッジをみせた。
「どれどれ……。動かざる岩を司る証『ボーンバッジ』!可憐なる精霊を司る証『キュートバッジ』!静かなる水を司る証『ジェルフィッシュバッジ』!猛き竜を司る証『ワイバーンバッジ』!燃え上がる闘志を司る証『ガッツバッジ』!母なる大地を司る証『アースバッジ』!漆黒の闇と紅蓮の炎を司る証『ロクモンバッジ』!そして、百戦錬磨のキミたちを称える証『ミッシェルバッジ』!……いいだろう、ここから先に行くことを許可しよう。ただし、先に進めば全員に勝つか手持ちのポケモンが全滅するまで出ることはできない。それでもここから先に行くか?」
「はい」
アヤは力強く頷いた。
「いいだろう。それではチャレンジャーよ、存分に腕を振るうがいい!」
エリートトレーナが勇ましい声をあげると扉が、ゆっくりと開く。アヤとヒナは扉の中に入り、四天王が待つフィールドへと続く階段を上りだした。
時間があれば、彩ちゃん以外のキャラを主人公にしたスピンオフでも書きたいな~。