バンドリの彩ちゃんがポケモンの世界を冒険するようです。 作:なるぞう
その日の夜にアヤとヒナは、ようやくシノツクタウンへとたどり着いた。シノツクタウンもシグレタウンと同様に簡素な田舎町であるが、ここにはポケモンセンターがある。アヤはこの町に着くと真っ先にヒナに引っ張られ、ポケモンセンターに連れていかれた。ヒナが言うにはポケモンセンターのレクチャーをするらしい。
「さぁて、まずは何から説明しようかなぁ~」
ポケモンセンターに入った途端、ヒナは大声を上げた。時間帯や田舎であることが幸いし、人はまばらだが、それでも側にいる人としては中々恥ずかしいものである。だが、ヒナはそんなのお構いなしに喋りだした。
「えっと、まずは施設の説明ね。まず、入り口から見て正面にあるカウンターが、ポケモンを回復してもらえるところ。あのカウンターにいる人はジョーイさんって呼ばれているの。右側にある小さな売店が、冒険の必需品を売っているフレンドリーショップ。左側にある受付が宿泊施設だよ」
「そうなんだ。いろいろあるんだね」
「もちろんだよ!なんたってポケモントレーナーとして旅する人で、この施設を利用しない人はいないといっても過言じゃないからね。あ、言い忘れたけどトレーナーカードを提示すれば回復と宿泊は無料だからね。それじゃぁ、さっそくポケモンを回復しに行こうか!」
『トレーナーカードを無くすな』って、こういうことだったんだ。アヤは身をもってそれを実感しながら、正面のカウンターに二つのモンスターボールを差し出した。
「えっと、トレーナーカードはありますね。それじゃあポケモンをお預かりしますね」
ジョーイさんはアヤからポケモンを預かると、すぐに回復専用の機械にボールをセットし、ポケモンを回復させ、すぐに返してくれた。
「えっ……、もうできたんですか!?」
その間わずか10秒ほど。感動的な速さである。
「ありがとうございます。これでもウチのポケモンセンターの機械は旧式なので遅いほうなんですよ。利用客が多い都市部のポケモンセンターに配備されている最新式の機械は5秒かからないくらいの時間でできるんです」
アヤが感動に浸っていると、ジョーイさんはヒナのモンスターボールを預かりながら豆知識を披露してくれた。
次にアヤが連れていかれたところは宿泊するための受付だ。受付では初老の男がテレビを見ている。その傍らでヒナは慣れた手つきで申込用紙に必要事項を書き、その男に手渡した。
「えーっと、宿泊期間は今日の夜から明日まで。二人部屋を希望っと……」
男は小さな声で淡々と読み上げるとパソコンで部屋の確認をしだした。が、アヤは男が読み上げた文章を聞き、驚きを隠せないようだ。
「ちょっとヒナちゃん!どうして二人部屋なの!?」
「えっ、アヤちゃん嫌だった!?」
「いや、私は全然いいんだけどさ、ヒナちゃんが嫌じゃないかなぁって。だってほら、私たち今日会ったばっかりで……」
「別に。私は全然気にしてないよ」
「そうなの?」
「うん!だってアヤちゃん見ていると、とってもるんってするんだもん!あ、そうこうしているうちに部屋が見つかったみたいだね。話の続きは部屋に行ってしようよ!」
今日、二人が泊まる部屋は狭い部屋に簡素なベッドが置かれただけの簡素な部屋である。だが無料で安全な寝床が確保できると思えば大儲けだ。ヒナは部屋に入り、申し訳程度に顔を見せる床に荷物を置くと、いきなりベッドにダイブした。
「あ~、久しぶりにほかの人と寝れる~!今日は楽しい夜になりそうだなぁ!」
「ちょっとヒナちゃん!そんな派手なことしたらベッドが壊れちゃうよ!」
だがアヤの言葉も意味なく、ベッドの上で足をばたつかせている。
「だって~、ほかの人と一緒に寝るの久しぶりなんだもん!」
「そうなんだ。ってことは前はだれかと一緒に寝てたの?」
「そうだよ。前は双子のおねーちゃんと旅していたから、おねーちゃんと一緒だったんだよ」
「へぇ、ヒナちゃんにお姉ちゃんがいるんだ。姉妹で一緒に旅できるって楽しそうだな」
「一緒に旅ができていたころは毎日るるるるるんってしていたよ。だけど、前におねーちゃんとケンカしちゃって……。それが原因でおねーちゃんと別れることになっちゃったんだ。だからそれっきり一人で旅していたんだよ」
「そんな……!それじゃぁ今、お姉ちゃんがどこにいるかわからないの!?」
「うん、ケンカした時からどこで何しているかもわからない。音信不通ってやつだね」
狭い部屋に鉛のような空気が漂う。その中で、アヤは下手に話を広げたことを非常に後悔した。慌ててこの空気を換えようと言葉を探したが中々見つからない。と、ヒナが慌てた様子で言葉を発した。
「あっ、ごめん!なんか変な空気にしちゃったね。話題を変えよっか。そうだ!アヤちゃんはどうして旅をしているの?」
「旅の理由?それが特にないんだよね……」
アヤはため息をついた。
「目的も理由もないのに旅をしているの?それなら、ポケモンリーグでも目指せば?」
「ぽ、ポケモンリーグ!?」
ポケモンリーグとは、四天王とチャンピオンと呼ばれる名実ともに最強のトレーナーが待ち受ける、ポケモントレーナーの最高峰だ。当然多くのポケモントレーナーがチャンピオンと四天王を倒し、ポケモンリーグを制することを夢見ているが、チャンピオンや四天王に勝つことはおろか、ポケモンリーグに挑むことすらできずにトレーナー人生を終える人も決して珍しくない。
「む、無理だよ!私になんかポケモンリーグなんて絶対無理だよ!」
あまりに突拍子な発言にアヤは思わず目を大きく見開き、手で拒むような素振りをとった。あまりにもオーバーなリアクションだったのか、不思議そうにヒナは首をかしげている
「どうして、チャレンジする前から無理だって決めつけるの?やってみなくちゃわからないじゃん」
「で、でも……、ポケモンリーグに挑むなんて……。いまいち実感がわかないよ。第一、私ポケモンバトル弱いし……」
「そうかな~。今日のバトルを見る限り、割とポケモンバトルのセンスあると思うんだけどな~」
「えっ、そうなの……?」
意外な言葉だ。今まで何をやっても二流か二流以下だったアヤにとって、こんな言葉を掛けられるのは初めてである。
「うん。もちろん今はへなちょこだけどね。でも、アヤちゃんなら経験を積めば結構いい線行くと思うんだ。どう?チャレンジしてみない?私も手伝うからさ。それに、目標のない旅なんて全然るるんってしないし」
確かにこのままあてもなく彷徨うのは味気ない。上手くいくかどうかはさておき、とりあえずチャレンジしてみるのもいいだろうとアヤは感じつつあった。
「わかった。とりあえずポケモンリーグ目指してみるよ!」
「そう来なくっちゃ!それじゃぁ、さっそく明日からポケモンジムを目指そうか!」
「ポケモンジム……?」
言葉だけは何となく知っているが、これまでポケモンバトルと程遠い生活をしてきたアヤにとっては余り馴染みがない言葉である。
「あのね、ポケモンジムっていうのは自分のポケモンバトルの実力を測る場所なんだよ。ポケモンジムにはそれぞれジムリーダーって人がいて、その人に勝つとポケモンリーグ公認のバッジがもらえるんだ」
ヒナの説明を受け、アヤもふと思い出した。
「そういえば、前にマリナ博士から『一つの地方のバッジを8個集めると、その地方のポケモンリーグに挑める』って聞いたことがあるよ」
「なんだ、私が説明しなくてもアヤちゃん知っているんじゃん!」
「エヘヘ。それで、ポケモンジムってどこにあるのかな?」
アヤはバッグの中から、旅立つ前に母親からもらったタウンマップを広げ、ヒナに先ほどフレンドリーショップで買ったシンシュー地方のガイドブックを渡した。
「そうだなぁ……。今いる場所がシノツクタウンだから……、『ハナノシティ』のジムが一番近いね!」
そう言うとヒナはマップの一点に指をさした。
「わかったよ。そうと決まればもっと強くならないとね!よーし、頑張るぞー!」
次の日の朝、アヤとヒナはシノツクタウンに別れを告げ、ポケモンジムがあるハナノシティ目指し、2番道路に足を踏み入れた。マップを見る限りこの道を進めばハナノシティだ。
「さぁて、今日はどんなきゅるるるるんってすることが起こるかな~!」
この道は山がすぐ近くまで迫ってきているせいか、段差が多い。
「待ってよヒナちゃん!私を置いてかないでよ~!」
威勢よく先を進むヒナに対し、アヤは一歩歩くのも一苦労だ。周りには自然豊かな風景が広がっているが、そんなもの見ている余裕はない。だが、そんな彼女の進路を遮るかのように一人の短パン小僧が現れた。
「ねぇ、そこで息を切らしている人!俺のポケモンと勝負させない!?」
「えっ……、ポケモン……バトル……?」
藪から棒に現れた短パン小僧にアヤは戸惑う。目線でヒナに助けを求めるも、ヒナは小悪魔のような笑みを浮かべている。
「あー、これは『目が合ったらポケモンバトル』ってやつだね」
「な、なにそれ!?」
「アヤちゃん、ポケモントレーナーは互いの目と目がバチって合ったらポケモンバトルをするっているマナーがあるんだよ。さぁ、レッツポケモンバトル!」
「えぇ~!」
そうこうしている間にも、すでに短パン小僧はモンスターボールを投げていた。
「行け!オニスズメ!」
ボールが開き、オニスズメが威勢よく鳴き声を上げる。こうなったらもう仕方がない。アヤアもボールを投げ、ラルトスを繰り出した。
「さーて、私はアヤちゃんの初陣でも見ますか。出ておいで、ラグラージ」
「ラーグ」
ヒナはマイペースにボールから、ラグラージを出すとその背によじ登り、ゴロンと寝転がった。その一方で、アヤと短パン小僧はバトルをすでに始めていた。
「オニスズメ!つつく!」
「ズーッ!」
オニスズメは鋭いくちばしを光らせ、ラルトスに向かってくる。
「ラルトス!かわして!」
寸のところでラルトスは頭を下げ、攻撃を避ける。しかし、オニスズメは背後から再び襲い掛かってきた。
「あっ!何とかしないと……!確かラルトスの技は……、念力と……、鳴き声……。そうだ!ラルトス!そこの切り株に隠れて鳴き声!」
「ラルッ」
ラルトスは近くの切り株の裏に転がり込み、鈴が鳴るような可愛らしい鳴き声を奏でる。すると、その声に気を取られたのかオニスズメの勢いが弱まった。
「今だ!切り株の裏から飛び出て念力!」
すかさずラルトスは切り株から飛び出し、オニスズメに力を送る。しかし、直前に短パン小僧が回避の指示を出したため、空振りに終わってしまった。そして分の悪いことに、オニスズメは空高く待ってしまい、念力が届かない高さに行ってしまった。
「どうだ!こうすればこっちの勝ちだ!」
短パン小僧はすでに勝利したかのように騒ぎ立てている。確かに、このままオニスズメを自由にさせておけば、アヤの負けは避けられない。その時だ、ふとアヤの視界にいくつかの小石が目に飛び込んだ。
「あの小石を当てれば、撃ち落とせるかな……?ラルトス!その辺の小石を念力で、オニスズメに投げて!」
「ラルトー」
鳴き声とともに小石が淡く発光し、宙に浮く。それは勢いよく空高く舞い、オニスズメの翼に直撃。オニスズメは力を失い、ヘナヘナと急降下しだした。
「今だ!ラルトス、念力!」
念力がオニスズメの降下を加速させる。そのままオニスズメは地面に叩きつけられ、気絶してしまった。
「やったじゃんアヤちゃん!大勝利だね!」
すると、ヒナがラグラージから飛び降りてきた。
「私が勝ったの……?」
「そうだよ!だからセンスあるって言ったじゃん!」
二人は互いにタッチを交わし、喜びを分かち合う。するとアヤの視界の隅に、負けてうなだれる短パン小僧の姿が映った。アヤはそっと彼のところに歩み寄った。
「あの~、そこのキミ……。いやほら、確かに結果は負けだけど、結構強かったよ」
「ほんと?」
アヤの優しい言葉に短パン小僧の顔が晴れる。
「うん!ほら、あの回避とか私も見習いたいくらいだよ。だから、落ち込まないで。またお互いに強くなったらまた戦おうよ!」
「……そうだよな。いつまでも落ち込んでいてもしょうがないよな!わかったよ!俺、強くなる!そしたらまた戦おうぜ!」
元気を取り戻した短パン小僧は手をアヤに差し伸べる。アヤもそれに応じ、硬い握手を交わした。
その後短パン小僧と別れたアヤは、他のトレーナーや野生のポケモンとのバトルをこなしながらゆっくりと2番道路を進む。すると雄大な山々を貫くように、『マックラトンネル』と呼ばれる洞窟が現れた。ここで少し昔話をしよう。かつてこのシノツクタウン、そしてアヤの故郷であるシグレタウンは非常に交通の便が悪い田舎町であった。比較的栄えているハナノシティに向かうにはこの険しい山を越える必要があり、毎年何人もの人がこの山で命を落としていたという。この事態に悩んだ近隣の住人が悲劇を無くすために、野生のポケモンと協力して十年以上の歳月をかけて手で掘ったのがこのマックラトンネルである。トンネルが完成した現在では交通の便は改善され、命を落とす人もいなくなった。しかし、人々の意思を受け継いだポケモンたちが今でもトンネルを拡張しており、拡張された部分はトレーナーの修行の場にもなっているそうだ。それではここで昔話を終え、再びアヤにスポットライトを当てることにしよう。
「ここを抜けるの……?」
アヤは闇の底へ通じるような真っ暗なトンネルを見て不安そうだ。しかしヒナは相変わらず動じない。
「大丈夫だよ、アヤちゃん。何とかなるって。さ、行こうよ」
ヒナとアヤは懐中電灯を照らし、仲良く闇の中へと進んでいった。
最近、このお話の舞台であるシンシュー地方のマップを作ろうか考え中。さて、どうやって作ろうか……。