バンドリの彩ちゃんがポケモンの世界を冒険するようです。 作:なるぞう
ウノトキシティを発ったアヤとヒナは、ようやくバトルフロンティアの正面口へとたどり着いた。シンシューのバトルフロンティアは高原のなかにあり、他のバトルフロンティアの中でも標高が最も高い位置にある。一面の大自然の中に立ち並ぶ近未来的なバトルホロンティアの建物と、バトルを楽しみに来た大勢の人間は中々違和感がある。だが、そんな違和感なんてヒナには関係なかった。むしろ、ワクワクを抑えられずに着くや否や中に向けて走り出した。
「あっ、待ってよ!ヒナちゃ~ん!」
そんな彼女をアヤは情けない声を出しながら追いかけだす。と、その時、背後からアヤを呼び止める老婆の声がした。
「待ちな。あんたがアヤかい?」
「はい、私がアヤです!」
アヤは声の方へ振り返った。本当はこのセリフの後、『もしかして私のファンですか!?』とでも笑顔で言おうと思ったが、言わなかった。いや、言えなかったというほうが正しいか。どうもその人はアヤのファンではなさそうだ。彼女はシャキッとした姿勢で、ヤと顔があった瞬間からずっと怖い目を向けてくるのである。
「えっ……、私何かした?あっ、もしかしてリゲル団!?」
不意の出来事、目の前にいる謎の老婆。情報量が多すぎる。アヤはあたふたするばかり。すると、謎の老婆が口を開いた。
「なんだい、マリナから話を聞いたんじゃないのかい?私は『シフネ』。このバトルフロンティアをつくった人であり、ここのオーナーでもある。だから、私のことはオーナーとでも呼びな」
アヤの中でのイメージでは、シフネさんはのほほんとした優しいおばあちゃんだった。だが、目の前にいるシフネ——改めオーナーはそんなイメージとは正反対のいかつい人物だ。
「こ……、こんにひわ……!」
アヤは一応挨拶をしたが、言葉は噛むし、声の震えが止まらない。ちなみに、ヒナは平常運転で笑っている。
「アヤ、なににおびえている?私はリゲル団でもないし、別にあんた達を取って食おう出いうつもりもないよ」
「そ、そうですよね~」
オーナーの『やれやれ』というそぶりを見て、ようやくアヤは調子を取り戻す。すると、同時にヒナが言葉を発した。
「で、なんでアヤちゃんが宣伝を手伝うの?」
確かにアヤも気になることだ。アヤもその想いを訴えるように、強いまなざしでオーナーを見た。
「優れたトレーナー同士が戦えば、よりバトルフロンティアの奥深さが伝わると考えたからさ。でも、ただ強いだけじゃ優れたトレーナーとは言えないし、バトルフロンティアの宣伝を任せることもできない。だからアヤ、今ここで私と勝負しな。私の目であんたが宣伝を任せるのにふさわしいトレーナーかどうか見極めてやる」
まさかの急展開である。オーナーがこんなこと言うとは想定外だ。
「えっ……!?ここでバトル!?」
戸惑うアヤ。しかし、一方のヒナはいたずらっ子のような笑みを浮かべていた。
「オーナーさん、アヤちゃんと戦って大丈夫?アヤちゃん、強いよ~」
「私を甘く見てもらっては困る。これでも若いころは、いくつかの地方で殿堂入りを果たしている。年老いたとはいえ、私もポケモンもまだまだ現役だよ」
オーナーの言葉は力強い。これにはヒナも黙るしかなかった。
そんなわけで、バトルフロンティアの正面入り口で戦いが始まった。周りにはヒナ以外にも、実力者同士のバトルを一目見ようとする観客でいっぱいだ。
「なんだかよく分からないけど……。ま、負けないよ!」
そう言いながら、彼女はレジギガスが入ったマスターボールを取り出し、構えた。ところが、同時に彼女の足はガタガタと震えだした。
「えっ……!?」
気が付けば冷や汗もいたるところから噴き出している。考えてみれば、こんな大勢に人の前で戦うのは初めての経験だ。それに気が付いた途端、彼女は頭が真っ白になっていくのを感じた。
「どうしたんだい、固まって。そっちも早くポケモンだしな」
オーナーの声でアヤはハッとした。見れば、いつの間にかゴボゴボとマグマを滾らせたヒードランが、オーナーのそばで戦いの時を待っていた。
「い、いっけ~!レジギガス!」
それを見たアヤは、大慌てでレジギガスを繰り出した。だが、出したところで今のアヤにはどうしようもなかった。緊張のあまり頭が回らず、指示が全く出てこないのだ。
「レジギガガガァ!」
アヤがあたふたしている間にも、レジギガスは次々とヒードランの猛攻にさらされる。もはやレジギガスはただのサンドバックと化していた。
「あ……あぁ……!何とかしないと……!」
そんな状況を目にしたアヤの焦りは加速する。だが、この時ふとアヤの視界に観客に交じって声援を飛ばすヒナの姿が飛び込んだ。
(ヒナちゃんなら、こういう時どうするかなぁ……。ヒナちゃんなら……、るんっ♪とかそんな感じかなぁ……)
『るんっ』という感覚は、世界のどの言葉を持っても要約できない未知なる存在だ。しかし、長い間一緒にいたおかげで、アヤはすこしだけこの感覚のことを理解しているつもりだ。
(るんって言うのは……。こう、『楽し~!』とか、『嬉し~!』とか……、なんかこう……『ワクワク』!みたいな?例えるなら……お花畑とか、星空とか……)
アヤは自分が理解している範囲で、自分ができる範囲で『るんっ♪』てしてみた。するとどうであろうか。魔まで真っ白だった頭が、徐々に晴れてきたではないか。それと同時にアヤの中に、一気に戦況が飛び込んだ。そして、それは瞬時に戦術に変わった。
「レジギガス!ピヨピヨパンチ!」
「レレレジ」
レジギガスは、ヒードランのアイアンヘッドを拳で辛うじて食い止めた。様子から察するに、本調子を取り戻すためにはもう少し時間がかかりそうだ。
「やるね」
雰囲気が変わったアヤを見て、オーナーは一言呟く。そして、ヒードランに次なる指示を出そうとした。が、その矢先、ヒードランの足元が揺れた。レジギガスの地ならしだ。地面タイプの技が苦手なヒードランにとっては致命的なダメージだ。その上、ヒードランは地ならしの効果でスピードを下げられてしまった。
「かわら割り!」
一方のアヤは、この隙を逃すまいと猛攻に打って出た。彼女がするとレジギガスは手刀で一撃をヒードランの眉間に叩きこんだ。
「なんだ、あの女の子。急に動きが変わったぞ」
「実は凄い人なんじゃないのか?」
「そういえば、あの人テレビで見たことあるぞ。確か名前は——」
アヤとレジギガスの鮮やかな動きに、周囲から歓声が上がる。だが、オーナーは、そんな周囲の変化にも動じなかった。彼女はただ冷静に、指示を出すだけである。
「ヒードラン、竜の波動」
「ドラァァァ!」
そのことを承知しているのか、ヒードランも特に取り乱した様子はない。ただ淡々と、オーナーの指示をこなし、アヤとレジギガスを追い詰めていった。
「レジジジ!?」
竜の波動はレジギガスに直撃。先ほど本調子でなかったのに派手に動いたことが裏目に出たようだ。
「レジギガス!しっかりして!」
僅かな体力でフラフラと立つレジギガスにアヤは声をかける。もう、攻撃を受けきれるほどの体力がないのは明らか。アヤの勝ち筋は、本調子のレジギガスで叩きのめすしかない。つまり、何とかして本調子が出るまで持ちこたえなくてはならないのだ。
(落ち着いて……!落ち着いて相手の攻撃を見定めて……!)
アヤはバトルフィールド以外のすべての風景を消し去った。相手の呼吸も、ピクリと動く指さえ見逃さないためだ。
「見えた!」
オーナーが単語の頭を発し、ヒードランの体が動いた瞬間、アヤはレジギガスを左に避けさせた。
「レジガァ」
巨体が左にずれると同時に、今いたところをストーンエッジが貫く。しかし、アヤは違和感を覚えた。ストーンエッジにしては規模も威力もへなちょこすぎるのだ。嫌な予感がする。そう思った矢先、レジギガスの足元から灼熱の炎の渦が巻き起こった。マグマストームだ。
「レレレレレレジガァァ!」
炎の渦はレジギガスの巨体を焼き尽くした。レジギガスが倒れたのは言うまでもない。
「レジギガス……」
アヤはレジギガスをそっとボールに戻した。
「負けちゃったか……」
ここまでコテンパに負けたのはいつ以来だろうか。アヤは思った。と、ここでオーナーが口を開いた。
「アンタ、やりきったかい?」
「えっ……?」
思いがけない言葉にアヤは拍子抜け。だが、オーナーは言葉を続けた。
「今のバトルをやりきったかどうか聞いているんだよ。どうなんだい?」
結果はボロボロなバトルだ。しかし、不思議とそこまで悔しくはない。緊張で頭が回らない時こそあれど、自分の戦力を出したつもりだ。
「はい!やりきりました」
アヤは力強く頷いた。すると、今まで険しかったオーナーの表情がにわかに柔らかくなった。
「……そうだろうと思ったよ。合格。ここの宣伝はあんたに任せるよ」
それだけ言い残すと、オーナーとヒードランは彼女に背を向けた。またもや急展開だ。アヤは何を言っているか理解できない。
「待ってくださいオーナー!合格ってどういうことですか!?私、負けたんですよ!?」
驚きと戸惑いが混ざったよく分からない声。それが聞こえると、オーナーは再びアヤの方を向いた。
「私はいつ、『私に勝て』なんて言ったかい?私はアンタが強いトレーナーかどうかを見ていたのではない。殿堂入りしたということは、ある程度の強さがあるという証明になるからね。でも、ただ強いだけじゃ宣伝は任せられない。常に全力でバトルに取り組めるような優れたトレーナー同士の戦いじゃないと、ここの魅力は伝わらないからね。やっぱり、強くて優れたアンタが宣伝役に相応しいよ」
「ん……?その言い方だとアヤちゃんが凄い事、前から知っていたの?」
話を聞いていたヒナは首をかしげる。すると、オーナーは僅かに笑みをこぼした。
「鋭い子だね。実のこと言うと、九割方アヤに宣伝を任せるつもりでいたよ。経験上、殿堂入りを果たしたトレーナーは、優れたトレーナーが多いからね。ま、たまにただ強いだけで殿堂入りしてしまうやつもいるけどな。私が勝負を挑んだ理由は、アヤがこの例外に当てはまるトレーナーじゃないかどうか、そして『アヤ』というトレーナーがどういうトレーナーなのか自分の目で確かめておきたかったからさ。とにかく、アヤ、よろしく頼むよ」
「はい!」
アヤの元気な声を聞くと、今度こそオーナーとヒードランは去っていった。そして、彼女たちを見届けるとアヤはヒナに向かってしゃべりかけた。
「ヒナちゃん、るんっ♪て凄いね!」
「でしょー!るんっ♪ってるんっ♪てするでしょ~?」
2人はこんな感じの意味不明な話をしながら、バトルフロンティアの中に入っていった。
バトルフロンティアに入った2人は、とりあえず内部に併設されているポケモンセンターに寄った。ここが彼女たちの宿泊所となる。こう聞くといつも通りの宿泊にも思えるが、オーナーの手配で部屋が特別にほんの少し豪華になっている。
「えっと、荷物も置いたし……、アヤちゃん!一緒にこのパンフレット見ようよ!」
アヤは荷物を部屋に置くと、ヒナが広げたバトルフロンティアのパンフレットをのぞき込んだ。
「えっと……。私はこの『フロンティアブレーン』って人達とバトルすればいいんだね?」
「うん。フロンティアブレーンは全員で8人。それぞれテーマが違うんだって」
「テーマ?何それ?」
「よく分かんないけど……、フロンティアブレーンの人が掲げているモットーみたいな?パンフレットによれば、『ひらめき』、『運』、『戦術』、『知識』、『おしゃれさ』、『武士道』、『勇気』、『輝き』をそれぞれ掲げているんだって。で、それぞれのモットーを試せるような特殊なルールのバトルをするんだって」
「特殊なルール……。大丈夫かなぁ……」
さっきまでやる気に満ちていたが、途端にアヤの中の自信が消えていく。だが、案の定ヒナは楽観的だった。
「よゆーっしょ!とりあえず、最初のバトルは明後日だから、それまで色々準備しよ。最初は、『ひらめき』を掲げている人との勝負だね」
笑うヒナに、期待と不安が混じったアヤ。果たしてこの先、何が起こるのであろうか。
再戦するなら誰?(再戦時はダブルバトル)
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りみ&たえ
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宇田川姉妹