バンドリの彩ちゃんがポケモンの世界を冒険するようです。 作:なるぞう
今年もよろしくお願いします!
アヤとヒナは、相変わらずバトルフロンティアにいるのだが、今日はブレーンたちとのバトルがない。いわば彼女たちの休日だ。そこで2人は、フィールドを借りて誰でも気軽にバトルが楽しめる施設、『バトルフリールーム』に来ていた。
「うわー、なんかすごい」
アヤの周りは、目に闘志を宿したトレーナーで埋め尽くされている。ところが、ヒナだけは例外であった。彼女は入ったと同時に大きなあくび。施設に入ってからもちらりと周りを見ただけで、あとは図鑑をいじるだけ。挙句の果てに、施設に入ってから5分と立たずにプイっと出口の方に歩き出してしまった。
「ちょ、ちょっと!ヒナちゃん!?どうしたの?」
突飛なヒナの動きに、アヤは思わずすっとんきょうな声をあげる。と、ヒナはこらえていたため息を一気に吐き出した。
「だって、ここにいるトレーナー全然るんっ♪ってしないんだもん。絶対にバトルしても弱いから、つまらないよ。アヤちゃんも帰ろうよ」
「えぇ……。でも……」
しかし、アヤは中々帰ろうとしなかった。
(せっかくこんなにトレーナーがいるのに……。誰からも声を掛けられないなんて~!私、殿堂入りしているんだよ。フロンティアブレーンにも勝っているんだよ。なのになんで誰も声かけてくれないの~。誰かからバトルを申し込まれること楽しみにしていたのに。決め台詞まで考えていたのに~!)
色々な幻想が音を立てて崩れた。気が付いたらヒナの姿もない。アヤはがっくり肩を落としながら足を前に動かす。と、ついに念願の瞬間が訪れた。トントンと響く方の振動。背後の人の気配。アヤの元気は全回復。電光石火の速さで振り向いた。
「こんにちは!私とバトルですか?えへへ~。私とポケモンが織りなしゅ、色とりどりなコンビネーチョンを見せてあげましょうっ!」
練りに練ったカミカミの決め台詞を爆発させる。が、相手はアヤの知り合いであった。ジムリーダーのランとマヤだ。
「アヤ……さん……?」
「どうしたんですか……?」
笑顔全開のアヤをしり目に、ランとマヤは顔を見合わせる。何とも言えない妙な雰囲気には、流石のアヤも負けたようで、違和感ある咳払いをした。
「マヤちゃん、それからランさん……。えっと……、久しぶりです……!今日は2人そろってどうしたんですか?」
我ながら見事な仕切り直しであると、アヤは満足感に浸る。その甲斐あってか、一呼吸置き、ランがポツリと口を開いた。
「なんか、成り行きで……」
中々あっさりした説明だ。
「ランさん、それじゃわかりませんよ!その……、実はここにきた理由はジブンにあるんです。ジブンがどうしても草タイプを相手にするのが苦手で。そこで弱点克服のために草タイプのスペシャリストでもあるランさんに話を聞きに行ったんです。それで、話の中でいろんな人のバトルを見た方がいいってことになってバトルフロンティアに来てみたんです」
「なるほど……」
相槌を打つさなか、アヤの頭ではマヤとのジム戦が再生されていた。あの時彼、自分が使ったのは草タイプのナエトルだ。あの日の緊張感は今でも全身が覚えている。苦手なタイプ相手にあそこまでチャレンジャーを苦戦させるとは、流石ジムリーダーである。彼女は心からそう思った。
「あ、なんかるんっ♪ってした感じがビビっとすると思ったら、ランちゃんとマヤちゃんだ!」
その時だ、前触れもなくヒナがアヤの横に戻ってきた。そして、鋭い言葉をランの胸に突き刺した。
「で、さっき少し話が聞こえてきたんだけど、ランちゃんってドラゴンタイプのジムリーダーだよね?草タイプなんてまともに扱えるの~?」
「なっ……!一応これでも、草タイプ限定の全国大会で、いいところまで勝ち進んだんですけど!まぁ、父さんやアリサさんにはまだ勝てないですけど……」
ランは目線をそらした。相当痛いところを突かれたのだろうか。しかし、ヒナはそんなことお構いなしに話を急旋回させてきた。
「でさ、折角みんな集まったんだし、どうせだったらみんなでバトルしない?」
一見何の脈絡もない提案だが、よくよく考えてみればそんなに驚く展開でもない。なにせ、ここにいるのはシンシュー屈指の強豪。となれば、トレーナーの血が騒ぐのも無理はない話だ。
「なるほど……。またアヤさん達と戦えるのですか。アヤさんと戦えば、草タイプへの対抗策が何か思いつくかもしれません。ジブンは賛成です」
「まぁ、やるっていうならあたしもやりますけど……」
ランとマヤも食いついた。4人はフィールドを借り、その中に入っていった。さぁ、戦いだ!
話し合った結果、タッグバトルをやることになった。アヤの相方は、もちろんヒナだ。
「ビシッとバシッといこー!」
ヒナはアヤの隣で大はしゃぎ。一方、相手のマヤとランは何やら話しあっていた。
「ランさん、今日は草タイプを使いますか?それともドラゴンタイプを使いますか?」
「うーん、ここに来た目的を考えれば草タイプを使いたいけど……。マヤさん、ドラゴンタイプ使ったら怒ります?前にアヤさんとジム戦したときに、色々あったんでそのリベンジをしたいんです」
「あぁ、構いませんよ。ジブン、ランさんが使う迫力満点のドラゴンタイプにも興味がありますから!」
「ありがとうございます。それじゃあ……」
マヤが笑顔でうなずくと、ランは力強くフライゴンが入ったボールを握り、力いっぱい投げた。
「フリャアアア!」
ボールから出たフライゴンは、若緑色の羽をはためかせ、音を奏でる。続いて、優しい音色を破壊的な咆哮が突き破った。マヤのガチゴラスも姿を現したのだ。
「出番だよ、ドダイトス!」
アヤも負けじと歴戦の相棒を繰り出す。一方、相方のヒナが繰り出したポケモンは思いもよらぬポケモンだった。
「いっけー!クマシュン!」
クマシュンからしてみれば周りは見上げるような巨体のポケモンばかり。しかし、クマシュンはそんなのものともせず、フィールドでガチゴラスとフライゴンをかわいい瞳で睨んだ。きっと、主の大胆さがうつったのだろう。
「今日こそ勝たせてもらいますよ!フライゴン、大文字!」
先手をとったのはランのフライゴン。燃え盛る炎がドダイトスを狙う。
「ダーーッ!」
ドダイトスはエナジーボールを大文字に向け発射。辛うじて防ぐことに成功。これでとりあえず危機を脱した——とおもいきや、今度は側面からガチゴラスが襲い掛かってきた。
「ダメだ!間に合わない!」
しかし、アヤがそう思った瞬間、クマシュンがガチゴラスの顎の真下に転がり込み、冷凍ビームを撃つ。これで今度こそ危機は脱した。が、一難去ってまた一難。フライゴンが激しく羽ばたくと、マヤとランの背中を押すように『追い風』が吹き出した。
「ガァァチ!」
風に乗り、ガチゴラスがクマシュンに突っ込む。
「ドダイトス、地震!」
アヤは大慌てでガチゴラスをけん制しようと、声をあげる。だが、ドダイトスが前足を上げようとした矢先、その巨体はフライゴンのドラゴンクローに切り裂かれた。
「マッシューーン!」
同時に、クマシュンからは悲鳴が上がった。聞けばわかる、強烈な一撃だ。
「まだまだ、序の口っす!ガチゴラス、諸刃の頭突き!」
あらゆる勢いに乗ったマヤは、クマシュンに止めを刺す気だ。絶対絶命の危機。アヤとドダイトスも黙っているわけにはいかない。
「ダァイトース!」
クマシュンの目と鼻の先で、諸刃の頭突きとウッドハンマーが激突。ガチゴラスはドダイトスに押し返された。反撃の狼煙が上がったと、アヤはそう確信した。
「よし、反撃だよ!ドダイトス、エナ——」
「待って、アヤちゃん。ここはガッチーンっていこう!」
アヤの解釈が間違っていなければ、ヒナは守りに徹したいらしい。彼女とはまるっきり真逆の考えだ。しかし、その宝石のような目の奥では何かが動いていた。
「わかったよ、ヒナちゃん」
アヤは、ヒナの作戦に乗っかることにした。
逆風が吹き荒れる中、クマシュンとドダイトスは巧みな動きで敵を翻弄した。時には床に氷を張り、時にはエナジーボールの弾幕を張ったり……。ありとあらゆる手の、思いつく限りの防御方法をマヤとランにぶつけた。一方のマヤとランも、アヤとヒナが思いつく作戦を次々とやぶっていった。おかげで同じ手は決して許されない、一進一退の極めて高度なバトルが展開されたのである。が、追い風がやんだ時、ついにバトルが動いた。
「フライゴン、追い風!」
風がやむや否や、ランは再び追い風を指示。すると、防戦一方だったヒナが攻めに転じたのだ。
「クマシュン、アンコール!」
クマシュンが、フライゴンの前に立ちはだかり手をたたく。今がバトル中であることを忘れるほどの可愛さだ。
「フリャリャ~」
それに気をよくしたフライゴンは無意味にバタバタ羽ばたき、追い風を吹かせ続けた。
「まずい……!」
不意を突かれたラン。フライゴンはそのまま冷凍ビームに射貫かれ、あっけなく墜落した。
「なんて強いクマシュンなんだろう……」
クマシュンの底知れぬ実力に震えるマヤ。ボールに戻るフライゴンをしり目に、ターゲットをクマシュンに絞る。しかし、ついクマシュンに気を取られてしまったあまり、彼女はもう1体の強敵のことを見落としていた。
「ドダイトス、エナジーボール!」
どこからともなくアヤの声がする。自然と命の塊はガチゴラスの脳天に直撃。そして、間髪入れずに訪れた地震によって、ガチゴラスの破壊衝動は完全に断たれた。
「やっぱり草タイプとは、恐ろしい相手っすね……」
マヤは悠々とフィールドに立つドダイトスの雄姿を焼きつけながら、ガチゴラスを引っ込めた。
「最近は負けなしだったから、勝てると思ったんだけど……。ま、あたしとフライゴンにもまだまだ成長の余地があるってことかな。アヤさん、ランさん、今日はありがとうございました。」
戦いは終わると、頭を下げた。以前、負けを認めなかった人と同一人物とは思えないほど、礼儀正しいさまだ。多分、こっちが本来のランの性格なのだろうと、アヤは心の中で思った。が、その隣で嫌な予感がした。
「ヒナちゃん!」
彼女が口から爆弾を投げ込もうとしているのに気が付いたアヤは、大慌てで彼女の口を手で覆う。と、ヒナはモゴモゴ何か言いながら暴れだした。
「ハハハ……、ヒナさんは相変わらずですね。まぁ、2人とも前と変わらず中がよさそうで何よりです」
それを見たマヤは、苦笑い。と、ここでランが何かを思い出したように口を開いた。
「あっ、そういえばマヤさん。何か草タイプのこと分かりましたか?」
「あー、そのことなんですが……。実はバトルに勝つことに夢中になってしまって、アイデアとかは見つからなかったです。どうやら、苦手克服の道は険しいようですね……。ランさん、もしよかったらまた相談に乗ってくれませんか?」
「まぁ、あたしでよかったらいつでも」
ランは快くうなずいた。
その後、間もなくマヤとランは仲良く自分のジムに帰っていった。どうも、2人とも明日ジム戦があるらしい。
「あーあー、2人と一緒にアヤちゃんのバトル見たかったんだけどなー」
彼女たちの後ろ姿を見ながら、ヒナは頬を膨らませる。一方のアヤは、明日のバトルで頭がいっぱいであった。
(えっと……、明日は……、おしゃれさを試すバトルだっけ?おしゃれさねぇ……)
『おしゃれ』という、知っているようで知らない摩訶不思議な単語に頭を悩ませるアヤ。ところが、そこに、何の前触れもなく尋常ではなく賑やかな雰囲気がやってきた。
「こーんにちはー!アヤさんですよね!私、カスミって言います!アヤさんのファンです!アヤさんのバトルを見て、いつもキラキラドキドキしています!早くアヤさんと戦いたいな~。あっ、もう時間だ!それじゃぁ、ばいば~い!」
この間、僅か10秒。カスミと名乗る謎の少女は流星のようなスピードで何処かへ去っていった。
「今の、何だったんだろう……」
「さー?」
アヤとヒナはポカンとした表情で、互いの顔を見合わせる。こうして、彼女たちの休日は幕を下ろしたのであった。