バンドリの彩ちゃんがポケモンの世界を冒険するようです。   作:なるぞう

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いよいよクライマックスです!
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第五十九話 サヨとヒナ

図鑑越しに伝えられたサヨの言葉は、事実上の宣戦布告だろう。あまりにも急すぎて、アヤはその場所に固まることしかできなかった。

 

「ザァンド!」

 

暫くして、上空でサザンドラの鳴き声が響いた。リンコがやってきたようだ。

 

「リンコさん!」

 

リンコが地上に降り立つや否や、アヤは彼女のところに駆け寄る。リンコは、この一連の流れだけで、この時のアヤのすべてを理解した。

 

「さっき……、リゲル団からのメッセージを私も見ました……。しばらく大人しくしていたと思ったら……、またふざけたことを……。もしかしたら、ヒナさんがいなくなったことにも……関係しているかもしれません」

 

「リンコさん!早くリゲル団の計画を止めに行こう!」

 

間髪入れずに、アヤはリンコの言葉に続いた。リゲル団の恐るべき野望は、彼女自身も肌で味わっている。そうである以上、見過ごすわけにはいかなかった。ヒナの失踪が関係しているかもしれないのであればなおさらだ。

 

「実は……、リュウコの石塔での戦いの後から……、改心したリゲル団員の一部を味方に引き入れてスパイとして潜入させていたんですけど……、さっき彼らから連絡が入りました。なにやら……、カヤユキ山脈の頂上でサヨや一部の幹部たちが不審な行動をしているとか……」

 

リンコは、図鑑に保存された様々な情報をアヤに見せてくれた。そこから推測すれば、リゲル団はまた、良からぬ兵器を作っているようだ。もはや、一刻の猶予もない。急いで止めに行かなければならない。しかし、ここでアヤにとある疑問が浮かんだ。

 

「あれ?でも、カヤユキ山脈の頂上ってどこだろう?前に行った時にはそんな場所なかったと思うけど……」

 

すると、リンコはアヤの手に一枚の黄色いカードと頂上までの道が記された地図を握らせてくれた。

 

「カヤユキ山脈の山頂や祖までの道は特に危険なので……普段は立ち入り禁止になっていて……チャンピオンの許可がないと入れない決まりがあります……。その黄色いカードは許可証です……。アヤさん、二手に分かれてリゲル団の野望を食い止めましょう……。私はユキゲタウンの方から……、アヤさんはカヤヤタウンの方から登って……道中にいるリゲル団をせん滅しましょう……。」

 

と、リンコがいい終えたときだ。遠くの方から4体のポケモンが走ってきた。ラグラージ、ポリゴンZ、クマシュン、テッカニンという見覚えがある面々。間違いなく、ヒナのポケモンだ。

 

「ラグゥ」

 

ラグラージはアヤの前に立つと、一枚の手のひらサイズの紙を彼女に渡した。急いで開けてみれば『心配しなくていいからね ヒナより』と書き殴られている。その字の向こうには、緊急事態に陥ったヒナの姿がありありと映っていた。

 

「心配するなって……。そう言われたら逆に心配だよ~!」

 

もはや居ても立っても居られない。アヤはリンコと別れ、ラグラージたちと一緒にカヤヤタウンに急行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リンコの予想とは裏腹に、カヤユキ山脈の道中にはリゲル団の幹部どころか、人っ子一人いなかった。実に好都合だ。ポケモンたちの力を借りながら、アヤは全速力で山を駆け上る。そして、予定よりもだいぶ早く、山頂への道の入り口の直前の洞窟を抜けた。

 

「あともう少し!」

 

洞窟の外は、雪がまばらに降る程度で意外と安定した天気だ。猛吹雪を覚悟していただけあり、すこし拍子抜けだ。しかし、そんな気でいられたのも一瞬だった。目を凝らせば遠くから、ユラユラと黒い影がこっちに歩いてくる。サヨだ。

 

「貴女は……、どうして私達ばかりの邪魔をするの!?」

 

サヨの吐き捨てるような台詞を聞いたとき、アヤは自分の五感を疑った。以前、会った時の彼女は凛々しく、美しかったのだが、それが見る影もないのだ。サヨの目の下にはクマできている上、息が荒い。全体的に、疲れ切った印象を受ける。もっと言えば、何かに追い詰められているような感じだ。

 

「サヨさん……?」

 

思わず、アヤは敵ながら彼女に同情してしまった。が、サヨはそれを叫びで一蹴した。

 

「黙りなさい……!私には……もう、後がないの!これ以上失敗すれば……『あの人』に……!だから私は、貴女をここで排除します!」

 

彼女がサッとボールを構えると、反射的にアヤもボールを握りしめる。いよいよ、運命の決戦の時が来たのだ。しかし、開幕の寸前、洞窟の方から人の声が聞こえた。アヤにとっては待望の、サヨにとっては憎たらしい声である。

 

「やっと着いた~!アヤちゃん、よくここまで一人で来れたね!まぁ、私のポケモンのおかげか!」

 

ヒナだ。ここにきてヒナがようやく駆け付けたのである。

 

「ヒナちゃん!本当にヒナちゃんなの!?」

 

「そうだよ、アヤちゃん。正真正銘本物のヒナちゃんだよ!」

 

白い歯を見せ、ごめんごめんと伝えるヒナ。アヤの涙腺はヒナに抱き着くと、大決壊を起こした。

 

「心配したんだよ~!なんで勝手にどこかに行っちゃうの~!」

 

「いや~、アヤちゃんとヒマリちゃんのバトルを見ようとしたときに、たまたまリゲル団員を見つけたから追いかけたんだけど、その時におねーちゃんがまた悪いことしているって知ってさ。いてもたってもいられなくて、色々なところに行って自分なりに調査していたんだよね~」

 

「それじゃあ何回も連絡したのに、なんで1回も出てくれないの」

 

「それが、途中でうっかり図鑑を落として壊しちゃったんだよね」

 

久々のヒナのるんっ♪て感じの表情を見たアヤの力がドッと抜け落ちる。しかし、すぐに正気に戻った。今は、リラックスしている暇ではないのだ。

 

「ヒナちゃん!少し下がってて!私、今からサヨさんと戦わないといけないの!」

 

アヤは立ち上るとボールを構える。が、ヒナは腕でそれを遮った。

 

「ごめん、アヤちゃん。この勝負、私に代わってくれないかな?」

 

いつも通り、ヒナの動きは読めない。しかし、今日の彼女は何かが違った。その証拠に、ヒナはアヤに見せたことのない真面目な雰囲気を、全身にまとっているのだ。

 

「わかった……」

 

それに圧倒され、アヤは彼女と入れ違いに一歩下がる。サヨは奥歯をギリギリときしませる。ヒナは体中にこもっていた空気を吐息として吐き出した。

 

「おねーちゃん。私、知っているから。口では『リゲル団の野望だー』とか、『シンシューの人々のためにー』とか言っているけど、本当は私に負けたくなかっただけでしょ。今までの悪事は、私に負けないための回りくどい作業でしょ?」

 

「違うわ!私は……!」

 

「あー、もうそういうのいいから。『野望がー』みたいな台詞はもう飽きちゃったから。そんな下手な建前を並べている暇あったら、本命の私を狙いに来なよ」

 

口調こそ普段と変わらないが、そこにはヒナの中に眠る様々な感情が渦巻いているはずだ。それは、怒りか、悲しみか、呆れか、第三者のアヤには全く持って読めない。半面、対するサヨの感情は分かりやすい。全身の細かい挙動から何まで、全てに怒りや憎しみが込められているのだから。

 

「黙りなさい……!天才だからって調子に乗って……!やはり、貴女だけは、貴女だけは……!私がこの手で、息の根を止めてやる!」

 

サヨは勢いに任せ、ルナトーンを繰り出した。すると、ヒナもラグラージを繰り——ださず、スッとボールを取り出した。

 

「ヒナちゃん!?そのボールは……?」

 

アヤの声が裏返る。ヒナは目じりを湿らせ、遠い空を見つめた。

 

「これはね、前におねーちゃんと旅していた時のポケモンだよ。ほら、前にアヤちゃんと話したじゃん。このポケモンたちには、おねーちゃんとの思い出がたくさん詰まっているんだ。だから、今まで悲しい思い出を思い出さないように、このポケモンたちを封印してきた。でも、私はもう逃げない。過去と向き合って、おねーちゃんとも向き合う!」

 

その瞳は、研がれた刃のよう。それを見たラグラージは、真っ先に首を縦に振る。アヤとテッカニン、クマシュンにポリゴンZもそれに続いた。ヒナは、潤んだ笑みで見守ると、全力でボールを投げた。出てきた先鋒は、ソルロックだ。

 

「ソルー」

 

「ルナー」

 

太陽と月という、対となる印象を持つ2匹のポケモン。因縁の双子対決の幕開けに相応しい。

 

「一瞬も忘れたことないわ……。負け続けた、屈辱的なあの日々を。もう、私は負けない!ルナトーン、サイコキネシス!」

 

サヨの中で溜まっていた恨みつらみが、形を変えてソルロックを捕らえようとする。ソルロックは思念の頭突きでそれを相殺。同時に、ルナトーンの真上に岩を降り注がせた。

 

「ルナトーン、かわしなさい」

 

しかし、冷静に岩のコースを読み取るくらい、サヨにとって朝飯前のことだ。さらに、彼女は相手の動きを利用することにも長けている。サイコキネシスで降り注ぐ岩を止め、ソルロックに投げ飛ばし、即席の弾幕を作ると、そのどさくさに紛れて催眠術を放った。巧みな一手だ。アヤが相手なら確実に引っかかっていた。だが、今回は相手が悪かった。

 

「ソルロック!日本晴れ!」

 

サヨのこの手の作戦は強力な代わりに少しラグがある。それを熟知していたヒナは、この隙に次の攻撃の足がかりを作ったのだ。

 

「どこまでも、鬱陶しい女ね!」

 

煌々と輝く太陽が、サヨの顔を憎悪に染める。直後に放たれた、ソルロックのシャドーボールは、それを形にしたものと言えるものである。そのシャドーボールは、ソルロックのソーラービームのすれ違う。両者は互いに攻撃を直に浴びた。

 

「ソル……」

 

「ルナ……」

 

ソルロックとルナトーンは同時にコテっと落ちた。まだまだ勝負はわからない。サヨは、無言の苛立ちを表に出しながらルナトーンを引っ込めると、マンムーを繰り出す。

 

「おつかれ、ソルロック」

 

ヒナはソルロックを引っ込めると、ギャラドスを出した。第二回戦の始まりだ。


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