バンドリの彩ちゃんがポケモンの世界を冒険するようです。   作:なるぞう

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第六十一話 雪解けの先の笑顔

息をつく間もない激戦の末、ギャラドスとマンムーは同時に倒れた。また、引き分けだ。この展開、一見すれば互角にも見える。しかし、すでに高い実力を誇るアヤから見ればヒナの劣勢だった。昔の相棒と長くバトルをしてないせいか、微妙に動きのテンポが悪いのだ。サヨもそれを見抜いたのか、3体目のポケモンであるヘルガーを出したときは、いつもの冷静さを取り戻していた。

 

「使い慣れているであろうラグラージとかを使わないで、わざわざブランクがあるポケモンを使われるなんて、私も随分と侮られたものね」

 

ヒナはまっすぐサヨの目を見て言い放った。

 

「侮ってなんかいないよ。私は本気だよ。本気で前に進みたいからこのポケモンたちを使うの」

 

それを証明する様に、彼女はアローラの姿のサンドパンを繰り出す。サヨは拳を握りしめ、震わした。

 

「前に進む!?これ以上私に、貴女の背中を見ろというの!?ふざけないで!挫折を味あわせてやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここから、サヨの快進撃が始まった。サンドパンを皮切りに、ユキメノコにガオガエンと、ヒナのポケモンは次々とヘルガーの手によって倒れていく。その結果、彼女の手持ちで戦えるポケモンは1体だけとなってしまった。

 

「いい気味ね。天才が、折れるなんて。負ける姿をこの目で見られるなんて!」

 

ヒナを全力で見下すようにサヨは目線を動かす。しかし、ヒナは顔色ひとつ変えない。

 

「悪いけど、私は負けないと思うよ。今のおねーちゃんじゃ、私に勝てないと思うな」

 

サヨは、鼻で笑った。

 

「この状況で、よくそのセリフが言えるわね。貴女の最後の1体を、私は知っているのよ。ヘルガーに勝てる見込みはないわ」

 

この言葉は本当だ。元々ヒナと一緒に旅していた上、彼女がその時の手持ちを使っているのだから。

 

「いけ!ユキノオー!」

 

彼女は何も言い返さず、最後の砦を繰り出す。その途端、ヘルガーは灼熱の炎をユキノオーに吹きつけた。サヨは勝ちを確信した。が、同時に地面が激しく揺れ、ヘルガーを襲った。信じられないことに、それはユキノオーが放った地震だ。

 

「どうして……!」

 

サヨは気絶したヘルガーを前にうろたえる。しかし、そのトリックに気がついた途端、憎しみを舌打ちで表現した。

 

「まさか、ユキノオーにオッカの実を持たせていたなんて……」

 

対するヒナは、冷静とも嘲笑うともとれるリアクションだ。

 

「あんなに単純な攻撃をするなんて……。おねーちゃん、どうしたの?昔はもっとるんっ♪てくるバトルだったのに……」

 

もちろん、サヨはこれを『嘲笑い』と受け取った。

 

「貴女はどこまでも私を馬鹿にして!手負いのヘルガーを倒したぐらいで調子に乗らないで!」

 

この時、サヨを憎しみと怒りが染め上げた。これは、ポケモントレーナーとしてのプライドが消え失せたことを意味している。大切なモノを失った以上、もはや彼女の進む道は決まったも同然だ。しかし、サヨはそれに気がつかず——いや、その現実を見ようともせずに、ヘルガーを引っ込め、感情のままにアローラの姿のキュウコンを出した。

 

「キュウゥゥ!」

 

奏でるような鳴き声がすると、聖なる光がその身から発せられる。しかし、ユキノオーの吹雪により、それはかき消された。

 

「ノオォォォオ!」

 

そして、そのまま流れるような鮮やかなユキノオーの連続攻撃がキュウコンに炸裂。キュウコンはあっけなく倒れた。

 

「戻りなさい!キュウコン!」

 

徐々に追い詰められだすサヨ。過去の苦い記憶が蘇る。あと少し、あと少しでこの記憶を塗り替えられる。それなのに、あと一歩が遠い。届かない。焦り、憎しみ、怒り、そして苦しさが入り乱れるサヨは、ミロカロスに己の想いを託した。しかし、現実は無情だった。

 

「ユキノオー!ウッドハンマー!」

 

戦いの末、ヒナの声と共に振り下ろされる一撃。たいした活躍もできないまま、ミロカロスも倒れたのだ。

 

「戻りなさい!」

 

荒々しくミロカロスをボールに戻すと、サヨはヒナとユキノオーを見た。視界の先では、噛み殺してやりたいほど憎い相手がピンピンしている。それに対して自分はどうだ。ポケモンも自分も体も心も立場も、全てが追い込まれているではないか。

 

「ウゥ……!」

 

感情が漏れ出す彼女は、獰猛な唸りをあげて一歩前に踏み出していた。しかし、ヒナは冷酷だ。

 

「おねーちゃん。もうこんなバトルやめようよ。見ればわかるよ。やっぱり、今のおねーちゃんじゃ私に勝てないよ」

 

「なっ……!」

 

「私だけじゃないよ。今のおねーちゃんは、アヤちゃんにもリンコちゃんにも、その他のトレーナーも、誰にも勝てないよ。だって、全然るんっ♪てこないもん」

 

呆れたような、小馬鹿にするような。ヒナの真顔に含まれる様々な要素の全てがサヨの逆鱗に触れた。

 

「どこまで私を馬鹿にすれば気が済むの!私はリゲル団のリーダーサヨ!ここで貴女に負けるわけにはいかないの!」

 

血管の全てがはち切れそうな勢いだ。サヨは、そのパワーの全てを込め、オニゴーリを繰り出した。

 

「やはり、貴女だけは消さなければいけない。ヒナはこの私が!この手で!この世から消してやる!」

 

彼女は大声で叫ぶと、キーストーンが埋め込まれたヘアピンを掲げる。しかし、不思議なことにオニゴーリはメガシンカしなかった。

 

「どうして……?どうしてメガシンカしないの?」

 

サヨは、何度も、何度もヘアピンを掲げた。だが、オニゴーリはそれでもメガシンカしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そもそもメガシンカはポケモンとトレーナーとの強い絆が必要不可欠だ。結論を言えば、今のサヨにはそれがない。バトルの中で爆発したヒナへの歪んだ感情に絆が完全に蝕まれ、朽ち果てていたのだ。もはや彼女はポケモントレーナーと言えるかどうかすら怪しい。オニゴーリとサヨは奴隷の関係とも表現できる。つまり、天地がひっくり返ってもメガシンカなどできないのだ。

 

「ねぇ!しなさいよ!メガシンカしなさいよ!」

 

サヨは喚いた。金切り声のような、悲鳴のような、怒号のような、狂ったような声が辺りに鳴り響く。オニゴーリはその中で、ユキノオーの攻撃を受け、戦闘不能に陥った。すなわち、サヨの敗北を意味していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうして……?どうして私は勝てないの!?」

 

サヨはヘアピンを地面に叩きつける。ヒナは、憔悴しきった姉を冷めた目で見ていた。

 

「おねーちゃん、本当にどうして勝てなかったかわからないの?」

 

「えっ……?」

 

「そうか、やっぱりわかってないんだ。それなら、教えてあげるよ。それはね、おねーちゃんが自分を見失っていたからだよ」

 

「……」

 

意外な宣告にサヨは言い返す言葉が見つからなかった。ヒナは、改めてサヨの目を見つめ直した。

 

「私が知っているおねーちゃんは、どんな時も真っ直ぐで、一生懸命で、優しくて、るるるんっ♪てくる人。だから私は、おねーちゃんが大好きだったんだよ。でも、今私の前にいる人は違う。全然るるるんっ♪てしないもん。もう、声と姿が同じだけの別人だよね。おねーちゃんの体や心も、急に『違う人』に自分を乗っ取られて戸惑っているんだよ。だから、本当の力を出せないんだよ」

 

「そんなことはない!私は、私のままよ!私が思うがままに……!」

 

『違うよ』。と、ヒナはサヨの言葉を打ち切った。

 

「私は、そうは思はないな。おねーちゃんなら——おねーちゃんに似た誰かさんでも、薄々気がついているでしょ?これが本当にやりたいことじゃないって。こんなこと、間違っているって」

 

「違う……!私は……私は……リゲル団として……世界を平等に……」

 

それでも、まだサヨはリゲル団の野望にすがりつく。ここで、アヤはゆっくり口を開いた。

 

「私も、ヒナちゃんが正しい気がするな。それから、多分なんだけどサヨさん、心のどこかではヒナちゃんのこと嫌いになりきれていないんじゃない?」

 

「そんなまさか!あんな天才女……!リゲル団の敵!シンシューの邪魔者!世界の悪なのよ!」

 

「そこまで言うなら、どうして私たちがつけ入る隙を与えてくれたのかな?例えばリュウコの石塔の事件の時とか。あの時私たちがアジトに行った時、サヨさんは兵器の場所を教えてくれたよね?それに、今回もわざわざ作戦の告知をしていたし。本気でリゲル団の野望を叶えたいなら、兵器の場所を教えたり、作戦の告知なんかしなければよかったのに.そうすれば、私もヒナちゃんもリゲル団の邪魔ができなかったのに……」

 

「それは……」

 

サヨの口が言葉を探す。ここでアヤは、とどめの一言を放った。

 

「サヨさん、本当はヒナちゃんに自分を止めて欲しかったんじゃないかな?もう、自分だけじゃ止まれなかったから。だから、わざと作戦に穴を作っていたんじゃないの?」

 

ついに、サヨは俯き、その動きが止めた。やがて、彼女は小刻みに背中を震わした。

 

「困ったわね……。言い返したくて、反論したくてたまらないのに、言葉が全然見つからないわ……。悔しいけど、私の負けね」

 

サヨは重荷に押しつぶされるように、その場に崩れ落ちる。そして、疲れ切った目でヒナの姿を瞳の中に入れた。

 

「ヒナ……いままで迷惑をかけたわね……。これはせめてもの償いよ。私を好きにしなさい……」

 

「好きにしていいの?本当にいいの?」

 

ヒナがそう言うと、サヨは無言でうなずく。殴られようとも、蹴られようとも、崖の下に突き落とされても、彼女はそれを受け入れるつもりだ。それで妹の気分が晴れるなら、自分のことなんてもはやどうでもいい。覚悟はできていた。しかし、ヒナがサヨにしてきたことは、暖かな手を伸ばすことだった。

 

「たったらさ……、また私のおねーちゃんになってよ」

 

信じられない言葉だ。自分の言動を振り返れば、こんなことあるわけない。

 

「ヒナ……、私があなたに何をしてきたかわかっているの!?どれだけ酷いことをして、どれだけ傷つけてきたか、知っているでしょ!?」

 

ヒナはゆっくりと頷いた。その顔は信じられないほど穏やかだ。

 

「知ってるよ。でも……、私のおねーちゃんは、おねーちゃんだけもん」

 

この時、サヨの心の重石が消え去った。別人格が、何粒もの涙へと姿を変え流れ出たのである。

 

「ヒナ……。ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

サヨは湿った手を伸ばし、密かに恋しがっていた温もりをつかもうとする。だが、その時である。サヨはヒナの背後の延長線上に、おぼろげな人影を見た。

 

「ヒナ!伏せて!」

 

反射的にヒナがしゃがむと、姉妹のすぐ上を冷凍ビームが貫いた。

 

「あら、サヨ!探したわ!」

 

底抜けに無邪気な声がする方を向くと、ココロがミュウツーを従えて笑っていた。

 

「ココロちゃん!どうしてここに……」

 

その時、アヤは彼女から妙な違和感を覚えた。そして、それは細められた目が見開いた時に、確かなものとなった。ココロの瞳からは、底知れぬ狂気が発せられていたのだ。

 

「サヨには感謝しなくちゃいけないわね。こんなに素敵な姉妹の仲を見せてくれたのだから。これはそのお礼よ!」

 

ココロがスッと右手を上げるとミュウツーは、姉妹に金縛りをかけた。

 

「ココロちゃん!何をするの!もうサヨさんは改心したから大丈夫だよ!」

 

「そうね。だから、こうしたんじゃない。裏切り者に、笑顔になる資格はないわ」

 

ココロの発言が、アヤの言葉を奪う。なんとか言葉をつづろうと試みるも、『あ……』や『う……』のような、単語とは程遠い呻きしか出ない。ココロは、その姿を見て笑っていた。

 

「あら、そんなに驚くことかしら?サヨから聞いてなかったの?私はサヨのパートナーなのよ。そう、私はもう1人の、リゲル団のリーダーなのよ!」

 

恐怖。その感情が、一瞬でアヤを埋め尽くす。笑顔の底に潜んでいた悪魔が、姿を現したのだ。

 

「ウソ……だよね……」

 

それでも彼女は、藁にもすがる思いで悪魔を否定しようとする。しかし、ココロはその藁すらも容赦なく奪った。

 

「本当よ。私が作戦や計画を考えて、サヨが実行する。完璧なコンビネーションでしょ?」

 

要は、サヨはココロの隠れ蓑であり、実質的な部下ということだ。こう解釈すれば、時折、彼女が見せていた余裕の無さも説明できる。だが、それでもアヤはこの現実を受け入れたくなかった。必死で現実の粗を探した。

 

「そんな……。でも、ココロちゃんとサヨさんが手を結ぶ理由がないじゃん!『平等な世界』と『世界を笑顔にすること』。全然違——」

 

同じなのよ。と、ココロはアヤの言葉を遮った。

 

「リゲル団の目標は、世界中を笑うことしかできない人だけにすることなの。悲しむこともなければ怒ることもない。考えることも、疑うこともない。天才もそれ以外も関係ない。ただ、本能のままに笑い続ける人だけが私の世界に欲しいの!」

 

なるほど、確かに彼女の野望が成し遂げられれば、世界が笑顔になるうえ、サヨのように能力や才能の格差でなやみ、苦しむ人もいなくなる。しかし、その手段はあまりにも強引すぎだ。

 

「ダメだよ!そんなことしても、誰も喜ばないよ!」

 

アヤは心の叫びを口から放った。しかし、それはココロの胸に響くことはなかった。その代わりに彼女は、密かに研ぎ澄ませていた牙を徐々に見せていった。

 

「誰も喜ばない?アヤはおかしなこと言うわね。笑顔になって悲しむ人なんてどこにいるのかしら?笑顔になれば、みーんなハッピーになれるはず。世界を笑顔にするためなら、私は手段を択ばないわ」

 

「で、でも……!」

 

反論したいが、笑顔の威圧に負けて喉がつぶれる。そのせいで、完成した言葉は外に出ることが出来なかった。

 

「アヤ、まだ私とお話がしたいようだったらこの山の山頂まで来てもいいわよ。そこに、世界が変わる瞬間があるから。」

 

そう言い残すと、ココロはミュウツーのテレポートで去っていった。目的地は間違いなく山頂。このままでは、世界が血と涙でできた偽りの笑顔に染まってしまう。アヤに、追いかけないという選択肢はなかった。

 

「サヨさん、ヒナちゃん!私、ココロちゃんのところに行ってくる。それで、絶対に野望を止めてくる!」

 

ヒナとサヨは金縛りの影響で上手く動けず、喋ることもままならない。しかし、その目線は確かにアヤの背中を押していた。それを受けながら、アヤは山頂への道を走っていった。

 

 

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