バンドリの彩ちゃんがポケモンの世界を冒険するようです。   作:なるぞう

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こころん戦のイメージはアカギ戦のBGMです。


第六十二話 笑顔、涙、そして終焉

自分でも信じられない速さで、アヤはカヤユキ山脈の山頂まで登りきった。

 

「アヤ、やっぱり来たのね?歓迎するわ!」

 

雪が積もる山頂でアヤが会ったココロは相変わらず無邪気に笑っている。だが、その笑顔も今となっては恐れの対象にしか見えない。背後で蠢く怪しげな機械も、それを際立たせるのに一役買っている。ココロが言うには、この機械は、リュウコの石塔で使われた兵器を改良したものらしい。彼女が兵器を起動すれば、世界中の人は洗脳され、笑うことしかできなくなってしまう。

 

「ココロちゃん!もうやめて!こんなことで世界を笑顔にしても意味ないよ!」

 

目の前にいるココロは、もはや彼女が知っているココロではない。でも、アヤは納得できなかった。元の彼女に戻って欲しい。その一心で、湿った悲痛な叫びを上げた。

 

「そこまで言うなら、質問に答えてくれるかしら?アヤ、あなたは笑顔について考えたことがある?」

 

「えっ……?」

 

笑顔。簡単な言葉だが、言われてみれば考えたことなどない。完全に急所をつかれた。

 

「あなたとは違って、私は笑顔についてずっと考えてきたわ。だからこそ、この世界が笑顔を拒んでいることに気がついたのよ。確かに、私も歌を歌ったり、誰かを助けたりして人を笑顔にしようとした時期もあったわ。でも、その笑顔はすぐ消えてしまう儚いもの。笑顔がなくなるたびに、笑顔にしに行ったらキリがないじゃない!世界が笑顔になるためならなんでもするわ!」

 

「で、でも!人を笑顔にするために、誰かを傷つけるなんて間違っているよ!」

 

「安心して、ただ傷つけているわけではないわ。彼らには、笑顔の礎になってもらっているのよ!」

 

この言葉を聞いた瞬間、アヤの覚悟が決まった。

 

「それは、礎じゃなくて犠牲の間違いじゃないの?」

 

涙を拭い、低く、冷徹に言い放つ。

 

「そういう表現も嫌いじゃないわ。犠牲なくして、勝利は得られないもの」

 

ココロは純粋に狂い、笑った。もはや、彼女は戻れないところまで来ているのだ。

 

「私、今までの旅でいろんなものを見たし、色んな人やポケモンに会ってきた。悲しみや涙、怒りもあるから世界は楽しいんだよ。それがあるから笑顔は輝いているんだよ!だから、ココロちゃんの野望は認められない!どうしても成し遂げようとするなら、私が力づくで止めるよ!」

 

ついに、アヤがボールを握りしめた。悲しみも、戸惑いも、怒りも、全て込めて。

 

「それがアヤの答え?」

 

「うん」

 

深く、ゆっくり、大きく、アヤはココロにうなずく。と、ココロは頬が裂けるように気味悪く笑った。

 

「そう、残念ね。アヤの笑顔、私大好きだったのに。でも、もういらないわ!貴女の笑顔は私の世界に必要ない!二度と笑顔になれないようにしてあげるわ!ハッピー、ラッキー、スマイル、イェーイ!」

 

もはや狂気も何もかも通り越した、別の何かである。だが、ここで負けるわけにはいかない。

 

「いっけー!カブトプス!」

 

アヤは自ら戦いの火蓋を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あら、笑顔になれるカブトプスね」

 

ココロは乾ききった笑みでボールを投げた。

 

「キュレレェ!」

 

出てきたのは、イッシュに伝わる伝説のポケモン、キュレムだ。

 

「私のポケモンは、リゲル団の技術で作り上げだクローンのポケモンよ。みーんな、本物そっくりだから楽しみにしていてね」

 

「キュレレェ!」

 

意外にも、アヤは驚かなかった。何しろ彼女のレジギガスも、元々はリゲル団が作ったクローンポケモンなのだから。それに、今はクローンでも本物でも関係ないことだ。一刻も早く、目の前の脅威を排除しなければならない。

 

「カブトプス!ストーンエッジ!」

 

開幕早々、カブトプスはキュレムに襲いかる。しかし、カブトプスの攻撃は難なくかわされた。やはり、クローンとはいえ敵は伝説。一筋縄ではいかない。そう思った矢先、にわかに突き刺すような寒さが襲来した。キュレムの凍える世界だ。

 

「カブゥ………!」

 

冷気がまとわりつき、体の節々に氷が張っていく。比例して、徐々に動きが封じられていくのがわかる。普通にみれば絶命の危機。だが、アヤはここから勝ち筋を掴んだ。

 

「冷気はキュレム自身からも常に出ている。それなら……!カブトプス、連続で熱湯!」

 

凍りかけた体に鞭を撃ち、キュレムの猛攻をギリギリで避け、カブトプスは縦横無尽に動き回り、熱湯を吹き付ける。アヤの狙いは、熱湯を冷気で凍らせ、キュレムの動きを封じることだ。

 

「キュ……レ……」

 

まもなく、目論見通りキュレムは凍りつき、動きが止まった。こうなれば、いくら伝説とはいえアヤの敵ではない。カブトプスはストーンエッジを数発放ち、シザークロスを脳天にお見舞い。キュレムは倒れた。まずは一勝。しかし、気を抜くことはまだできない。ココロが既に握っているボールからは、かつてない脅威が漂っていた。

 

「グラァァァァ!」

 

そこから現れたのは、グラードンだ。ココロは懐からグツグツ煮えたぎるマグマのような珠を取り出した。

 

「グラードンのついでに紅色の珠も作らせたけど、ちゃんと使えるかしら?」

 

そう言っていると、紅色の珠は奇妙なほど神秘的に、マグマに染まった光を放つ。実験は成功。グラードンは原始の姿を取り戻したりゲンシグラードンの誕生である。

 

「グララァ!」

 

その咆哮が轟くと、空が燃えた。頂上に降り積もっていた雪は蒸発し、僅かにあった草木は灰と化す。残ったのはジリジリと焼ける岩だけだ。もはや、暑いなんて言葉も生易しい。世界の終わりを彷彿とさせる光景である。

 

「カブトプス!アクアジェット!」

 

アヤは怯まずカブトプスを突っ込ませる。しかし、これが命取りになった。カブトプスを覆っていた水が一瞬にして水蒸気となったのだ。

 

「あら、体を張って私を笑わせてくれるなんて、とっても面白いカブトプスね!灼熱が支配する世界で水タイプの技が使えるわけないじゃない!」

 

ココロが笑い転げる傍ら、グラードンは、カブトプスに断崖の剣を炸裂させる。避けるまもなく、カブトプスはボールの中に戻る結末に終わった。これで、残りのポケモンは同じ数。しかし、アヤには重くココロから放たれる何ががのしかかっていた。その正体は不明だが、脅威や恐怖に近い。少なくとも、嬉しいものではなかった。油断はできない。

 

「いけ!レジギガス!」

 

アヤは諸々の重圧を振り切る勢いで、レジギガスを繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラードンが作り出す世界は、世紀末。大地は裂け、轟きながら揺れる。頭上からはソーラービームが降ってくる。想像を絶する地獄だ。こんな過酷な環境の中でも、レジギガスはなんとか本調子を取り戻すも、押されて気味であった。

 

「レレジ、ギガガガガァ!」

 

その証拠に、レジギガスがフルパワーでぶん殴っても、グラードンの炎のパンチに易々と打ち消される。今まで、相手を圧倒してきた本調子のレジギガスがここまで苦戦するのは異例だ。アヤの経験が正しければ、このままグラードンと正面から戦っても勝ち目は薄い。なんとかして、こちらに有利な局面に持ち込まなければならない。この時、ふと彼女の脳裏には、レジギガスの神話が浮かんでいた。

 

(確かシンオウ地方には、レジギガスが大陸を動かしたっていう話があったはず。グラードンが大陸ポケモンなら……)

 

アヤは即座に采配を振るった。レジギガスはグラードンの懐に潜り、全身の力をぶつけ、その巨体を押し倒す。全てのポケモンの中で指折りの重量を誇るグラードンが仰向けに倒れるとは思ってもなかったのか、ココロはフリーズしている。千載一遇のチャンスをアヤは掴んだだ。

 

「今だ!レジギガス!ギガインパクト!」

 

勝負を決めにかかる。しかし、彼女はココロの罠にかかった。

 

「グラードン、大文字よ」

 

ギガインパクトの途中、瞬く間にレジギガスは焼き尽くされた。もう少し早ければ、グラードンに一矢報えたかもしれない。無念を抱きながら、レジギガスはボールの中に帰っていった。グラードンと、正面から渡り合うのは無謀のようだ。となると、アヤが肉弾戦を避けて、遠距離戦が得意なサーナイトを次に選ぶのは自然な流れである。 

 

「絆煌めけ!メガシンカ!」

 

声と共に、サーナイトは白いヴェールに包まれ、メガサーナイトへと姿を変える。と、グラードンはそれを歓迎するかのようにソーラービームを放った。

 

「サナッ!」

 

すかさず、サーナイトはサイコキネシスで跳ね返す。そして、テレポートで背後に回り込んだ。

 

「図体が大きい分、小回りが効かないはず。ならばテレポートを連続で使えば……!」

 

この後の展開は、アヤが描いたシナリオ通りだった。グラードンは、サーナイトの俊敏な動きに翻弄され、割とあっさり敗北。同時に、この灼熱の世界も終わりを迎えたのである。

 

「あら?もう終わっちゃったの?つまんないわ。夏みたいで楽しかったのに」

 

過ぎ去る残暑の中、ココロはため息を漏らす。しかし、彼女の表情は目紛しくかわる。曇りがかったかと思うと、急にパァッと太陽のような顔を覗かせた。

 

「そうだわ!こんな時は月を見れば楽しい気分になれそうね!」

 

と、彼女は言った時、すでに彼女の頭上には月を司るルナアーラが悠々と空で待機していた。

 

「夜空には、月以外にお星様もないとつまらないわね。ルナアーラ、星を作りましょ」

 

ココロの笑顔の向こうには、アヤとサーナイトがいる。今のは、なかなか洒落にならない台詞だ。

 

「よけて!」

 

反射的にアヤが叫ぶと、サーナイトが飛び退く。ルナアーラのシャドーレイがその場を貫いたのは、その直後だ。

 

「あら、サーナイトは私達と追いかけっこがしたいのね!」

 

ココロの笑みは確かに闇を見ている。悔しいが、アヤにそれから逃れる術はない。彼女にできることはその闇を払い、光で照らすことだけだ。

 

「サーナイト、マジカルシャイン!」

 

「サーナッ!」

 

サーナイトが眩い聖なる光を放つ。が、ルナアーラのエアスラッシュは容易くそれを切り裂く。サーナイトはとっさにテレポートでルナアーラの背後に回り込んだ。しかし、その地点では黒く染まった衝撃波、『ナイトバースト』が待ち構えていた。手痛い一撃だ。サーナイトはそのまま地に倒れこんだ。

 

「疲れちゃったのなら、今楽にしてあげるわね」

 

即座に、シャドーレイがサーナイトを捉えた。その無防備な瞬間を、ココロが逃すわけない。しかし、サーナイトは迫りくる闇の光線を自慢の超能力で受け止めた。

 

「がんばって!サーナイト!」

 

アヤの想いが応援に乗り、サーナイトに注がれる。同時に、徐々にサイコキネシスの出力も増す。拮抗していた光線と超能力のせめぎあいも超能力に軍配が上がりだす。そして、ついにシャドーレイは持ち主の方に跳ね返った。

 

「ルナァアラ!」

 

自分の技をもろに浴びたルナアーラ。想定外の展開にさすがのココロも太刀打ちできなかった。ルナアーラの羽ばたきは止まる。山頂には静寂が訪れた。

 

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