バンドリの彩ちゃんがポケモンの世界を冒険するようです。   作:なるぞう

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いよいよ最終決戦です!
果たして、世界は笑顔になってしまうのでしょうか?


第六十三話 笑顔に狂い果てて

ルナアーラが倒れても、ココロは人形のように綺麗な表情のままだった。

 

「あら、もう終わりなの?アヤはとっても強いのね!お礼に少しだけ、夢を見させてあげるわ!」

 

夢といえば聞こえはいいが、多分彼女がいう夢は、アヤにとっては十中八九悪夢だ。そして、それはルナアーラと入れ違いに現れた。ダークライという形を借りて。

 

「行くよ!サーナイト!」

 

ダークライのただならぬオーラを感知し、アヤは気合を入れ直す。だが、その矢先、サーナイトは黒い球状の膜に、例えるならシャボン玉のような膜に包まれた。

 

「サナ……」

 

サーナイトは深い眠りに陥った。これぞ、ダークライの切り札、『ダークホール』である。

 

「起きて!サーナイト!起きて!」

 

必死にアヤは叫ぶが、サーナイトに届かない。サーナイトは悪夢にうなされているのか、苦悶の表情でのたうちまわっている。ダークライの特性である『ナイトメア』の影響だ。

 

「寝ながら苦しむなんてかわいそうに。やっぱり、夢の世界でも笑顔じゃないとだめよね。だから、今すぐ楽にしてあげるわ!」

 

ココロは言葉が終わるや否や、ダークライに悪の波動を指示。表面上の無邪気な様とは正反対。あまりにも恐ろしいギャップである。

 

「ダーッ」

 

一方のダークライは、忠実に任務を遂行する。サーナイトはなす術なく、より深い眠りに誘われた。

 

「戻って、サーナイト」

 

アヤは戦えなくなったサーナイトを引っ込める。そして、敵討ちをハガネールに託した。

 

「ガッネール!」

 

ポケモン屈指の巨体が、ダークライを圧倒する。しかし、ダークライは寡黙にその姿を見るだけ。先ほどの動きを見る限り、ココロのダークライはかなりの猛者だ。どんなに低く見積もっても、四天王のエースくらいの実力はある。一瞬のミスがそのまま敗北に繋がるだろう。

 

「ハガネール!岩雪崩!」

 

アヤの声とハガネールの怒号が響くと、ダークライの真上から、無数の岩が降り注いだ。

 

「ダーッ!」

 

ヒラリヒラリと、ダークライはそれを難なくかわす。だが、10個ほどかわしたとき、目の前にハガネールの炎の牙が現れた。

 

「ガーッ!」

 

この距離と状況なら、いくらダークライでも避けようがないはず。ハガネールは容赦なく華奢なその身を噛み砕いた——かのように思えた。ダークライは、またもや攻撃を回避したのだ。そして、攻撃の手本を見せるように、悪の波動をお見舞い。ここで、ココロは首を傾げた。

 

「ハガネールの寝顔ってどんな感じなのかしら?気になるわね?」

 

ダークライは、主人の疑問に応えるべくダークホールを放つ。ところが、この一手が墓穴を掘った。

 

「ガネール!」

 

ハガネールのアイアンテールが辺りをなぎ払ったのだ。ダークホールは砕かれ、ダークライ自身も叩きのめされる。今が好機。ハガネールは攻撃をたたみ掛けた。

 

「ダッ!」

 

対するダークライは、負けじとまたダークホールを放つ。しかし、こんなマンネリ化した戦い方が、ハガネールを眠らせることなどできるはずない。ハガネールは、もう一度、アイアンテールでダークホールをなぎ払う。

 

「あ、あれ……?」

 

ところが、アヤはこの一撃に妙な違和感を覚えた。手応えが全くないのだ。と、ハガネールの真下に回り込み、揺らめくダークライの姿が目に入った。完全に裏をかかれた。ダークホールは囮に過ぎなかったのである。

 

「避けて!」

 

アヤは大声をあげたが、もう手遅れ。ダークライはハガネールの下顎に気合玉をぶつけた。

 

「ガネ……ル……」

 

死角からの一撃にハガネールは耐えきれなかった。地に倒れ、朦々と砂埃をあげた。

 

「お疲れ、ハガネール」

 

そっと包むように、アヤはハガネールをボールに収納した。が、以前として目の前の悪夢は消え去らない。むしろ、ますます悪化している。彼女の札も、残りわずかになっている。次のポケモンで勝負をつけなければ勝利は絶望的だ。

 

「ホーーク!」

 

彼女の想いを抱き、ムクホークはボールから飛び出した。

 

「ムクホーク!燕返し!」

 

指示を受け、ムクホークは敵の懐目掛けて斬り込む。その時だ、彼女とムクホークの前に信じられないものが現れた。周りの空間ごと、ムクホークが切り裂かれたのだ。亜空切断である。この技はパルキアを象徴する技で、ダークライは使えないはず。

 

「なんで……」

 

アヤが面食らったのも無理はない。一方、ココロは嘲り笑っていた。

 

「アヤ、忘れちゃったのかしら?このダークライはクローンなの。クローンを作る時に少し工夫をすれば、どんな技だって使えるようになるのよ!」

 

まさかの事実だ。こんな事態、想定外である。しかし、想定外を敗北の言い訳にするわけにはいかない。アヤは、すぐに調子を取り戻し、再度ムクホークを突撃させた。

 

「ダーッ!」

 

数発のダークホールでダークライはそれを歓迎する。ムクホークは盛大な歓迎を全てかわし、本体にインファイトを叩き込む。長い悪夢は、ようやく覚めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダークライが倒れたことで、残りの手持ちは両者ともに同じ。しかし、ムクホークはダークライとの戦いの傷を引きずっている。対するココロの5体目は元気な状態で、ボールの中で出番を待っている。果たして彼女はどんな手段で傷口に塩を塗ってくるのであろうか。アヤは戦々恐々していた。しかし、ココロは次のポケモンを出さなかった。ただ、ニコニコしているだけだ。

 

「アヤといると楽しいわね。なぜか笑顔がなくなることがないもの!私はアヤのこと好きみたいね。やっぱり、あなたの笑顔を奪うのはわやめるわ。もう戦いなんてやめましょ」

 

「ココロちゃん……!?」

 

果てしない闇に一筋の光が差し込んだ。ようやくココロもわかってくれた。アヤは心の底からそう思い、ホッと一息ついく。が、その光はすぐに闇色に変化した。

 

「ねぇ、アヤ、私の新しいパートナーにならない?一緒に笑顔を守りましょ!」

 

「パートナー……?」

 

「そうよ。本当は、私一人で新しい世界を支配しようかと思ったけど、あなたと一緒の方が楽しそうだもの!私と一緒に笑顔になりましょ」

 

「やだよ!」

 

反射的にアヤは言い返した。ココロは、酷くつまらなそうだ。と、にわかにココロがほくそ笑む。すると、彼女目の前はにミュウツーをくりだした。

 

「あなたには失望したわ。自分から笑顔を拒むなんて!でも、アヤがそう望むなら仕方ないわね!」

 

彼女は、幻想的に煌めく石を掲げる。と、ミュウツーは呼応し、桃色の閃光を放つ。

 

「ウソだよね……?」

 

同時に、アヤの背筋が凍りついた。こんな展開、どう予想しろと言うのだ。ミュウツーは、メガミュウツーYにメガシンカしたのである。

 

「ミュウツー、アヤの笑顔を奪うのよ!」

 

無言でミュウツーはムクホークに波動弾を打ち込んだ。ムクホークはそれを燕返しで一刀両断。しかし、すでにミュウツーには背後に回り込まれていた。

 

「ミュウツー!冷凍ビーム!」

 

ココロの死刑宣告。しかし、ムクホークは急旋回し、死を回避。その勢いのまま電光石火をかまし、再度燕返しで切り裂く。ミュウツーは、宙で大きくバランスを崩した。勝負を決めるなら今。アヤが培った経験は確信した。

 

「今だ!ムクホーク!ブレイブバード!」

 

ムクホークは青い閃光を見にまとい、突っ込む。しかし、半ばほどでその動きは止められた。ミュウツーが、サイコブレイクを発動したのである。

 

「ホーク……!」

 

正義の猛き翼と、無慈悲な超能力が拮抗する。しかし、アヤの声援が翼の背を押し、徐々に超能力が不自然に歪み出す。そして、ついにブレイブバードはサイコブレイクを振り切り、ミュウツーに一撃をぶちかました。

 

「………」

 

ミュウツーのメガシンカが解け、力なく地に堕ちる。しかし、ムクホークも攻撃を当てるや否やカクンと急降下し墜落。その翼が天に戻ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ムクホークとミュウツーの激闘は相打ちで幕を閉じた。これで、アヤもココロも残るポケモンは一体ずつ。次で勝負が、運命が、シンシューの未来が決まる。己に全てが重くのしかかっているのだ。そう思うと、アヤの鼓動は爆発的に高まり、吐きそうな緊張がその身を蝕む。しかし、ココロは平然としていた。

 

「アヤ、無理に戦う必要はないわよ。私に降参すれば、すぐに笑顔にしてあげるのに。きっと、新しい世界は楽しいことでいっぱいよ」

 

正面の笑顔をアヤは睨んだ。

 

「無理やり作られた笑顔なんかでは、誰も楽しくならないよ。楽しいって気持ちは、誰かと一緒にいると生まれるもの。そう言ったのは、ココロちゃんだよね」

 

ついに、アヤは最後の相棒が入ったボールを構える。ココロも、懐から真っ赤なプレシャスボールを手に取った。

 

「いけ!ドダイトス!」

 

「アルセウス、世界を笑顔にしてちょうだい」

 

ドダイトスの怒号とアルセウスの咆哮が、最終章の幕開けを告げる。シンシューの——いや、世界の命運がここで決まるのだ。

 

「セェェェウ!」

 

運命の舞台で、最初に動いたのはアルセウスだ。後ろ足で地を蹴り、右前脚を陰のようなオーラで包み、ドダイトスに迫る。対するドダイトスはエナジーボールで迎撃。しかし、その勢いは殺せない。

 

「ダァイドー!」

 

そうとわかるや否や、ドダイトスは己の身ごとアルセウスにぶつかった。ロッククライムだ。結果、どうにかシャドークローは止まった。しかし、アルセウスは意に介することなく、悠々と剣の舞をしだした。ドダイトスの攻撃など恐れるに足りないとういのか。

アヤ達にとっては、最高の侮辱だ。

 

「ドダイトス!もう一度ロッククライム!」

 

彼女の表情からは、焦りも怒りが滲み出ている。しかし、アルセウスはそれを嘲り、彼女達の前から姿を消す。ドダイトスは神速に跳ね飛ばされた。

 

「ドダァッ!」

 

どうにか耐え、着地したドダイトスは即座に地を揺らし反撃。だが、それは空振りに終わる。アルセウスは宙に駆け上ると下界を見下す。そして、制裁を下した。

 

「セェアァァ!」

 

無数に降り注ぐ光弾。その名は裁きの礫。ドダイトスの断末魔が、光弾の合間を貫いた。

 

「愚かね。未来への切符を自分から捨てた上、それを礎に埋めるなんて。でも、多数の笑顔は少数の笑顔に優先する。世界を笑顔にするために必要な犠牲の範囲ね。アヤ、ごめんなさい」

 

ココロは笑った。それは、アヤを見下すように。それは、新しい世界を歓迎するように。しかし、アヤはその笑みをぶった切った。

 

「まだ、終わってないよ。ドダイトスも、私も戦える!最後の最後まで諦めないよ!」

 

「ドダァ!」

 

全身ズタボロに傷ついたドダイトスが、体に鞭を打ち叫びぶ。と、ココロは目の下を指で払い、あたかも涙を拭くような素振りを見せた。

 

「どれだけ傷ついても諦めない、愚かなほど美しい心。感激のあまり、思わず涙が出そう。でも、もうそれも終わりよ。生憎だけど、私以外にハッピーエンドは許されてないの。アルセウス、裁きの礫よ」

 

再び、ドダイトスに裁きを下さんと、アルセウスは力を貯める。同時にドダイトスはロッククライムを使い、大地を砕く勢いで敵の右足にタックル。間髪入れずに、ゼロ距離でエナジーボールを叩き込む。バランスを崩したアルセウスの狙いは狂い、裁きの礫は外れる。さらに、左前足をウッドハンマーに薙ぎ払われた。

 

「ドダイトス!もう一度エナジーボール!それからロッククライム!」

 

今こそ好機と判断し、アヤは指示を畳み掛ける。しかし、アルセウスは神速を使い、ドダイトスを空高く跳ね飛ばす。今のドダイトスにとっては致命傷だ。だが、その瞬間、アヤは全てを己のドダイトスにぶつけた。

 

「ドダイトス!ウッドハンマー!」

 

彼女は信じている。幾多の修羅場を共に潜り抜けてきたドダイトスなら、あの一撃を耐えていると。一方、ココロは確信していた。笑顔に満ちた勝利を。もはやこれは、一種の賭けだ。状況的にはどっちの願いが叶ってもおかしくはない。だが、天が望んだのはアヤの願いだったようだ。

 

「ダァァァイトォ!」

 

落下しながら狙いを定め、空中で前転するように体を動かし、アルセウスの脳天に真上からウッドハンマーでをぶちかます。神すら、この奇策は想定外だったようだ。アルセウスはダメージを抑えきれず、その場に倒れ込む。ドダイトスはその上にのしかかり、動きを封じた。

 

「いっけーーーー!ドダイトス!地震!」

 

「ドダァァァァァァァァァア!」

 

アヤの願いとドダイトスの想いがシンクロ。その爆発的なパワーに突き動かされ、大地は轟々と揺れる。再び静けさが戻っても、アルセウスが再び動き出すことは、ついに訪れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝負は終わった。アヤ達の勝利で。

 

「勝った……?勝ったの……!?」

 

プレシャスボールにアルセウスが戻ると、アヤの中で隠れてきた疲れがどっと押し寄せた。彼女はその場に崩れるようにペタンと座り込むと、安堵の表情を見せる。が、どういうわけか、敗北したココロが笑い出した。勝利の余韻を巻き込んだそれは、今まで聞いたことのないほど奇妙だ。

 

「アヤ、私の言葉をもう忘れちゃったのかしら?私以外のハッピーエンドはありえないのよ!」

 

そういうココロは、手に金色の小さな巾着を持っている。

 

「それは……なに……?」

 

アヤの直感がイヤな未来を予感。そして、それは的中した。

 

「これの巾着の中には、ホウオウのクローンから精製した聖なる灰が入っているの。聖なる灰を使えば、私のポケモンはみーんなまた元気になるの!」

 

「えっ……」

 

言葉が出ない。冷や汗が滝のように流れる。顔が真っ青に染まる。今まで苦労して倒してきたポケモンが全回復したとすれば、アヤの勝利は絶望的だ。しかし、ココロはそんな彼女を前に、6つのボールを地面に置くと、聖なる灰を底に満遍なくふりかける。と、ボールは淡く輝き、活力を取り戻し、アヤを深淵の底に突き落とした。

 

「まだ、バトルは終わってないわ。アヤ、一緒にもーっと楽しいことしましょ」

 

ココロはアルセウスが入ったプレシャスボールを手に取る。が、その時だ。極小のシャドーボールがプレシャスボールを木っ端微塵に砕く。アルセウスはボールのかから飛び出した。

 

「良かった……。間に合った……」

 

「ゲッゲェ」

 

アヤの後ろに、覚えのある静かな怒りが漂う。リンコとゲンガーが駆けつけたのだ。

 

「リンコさん!」

 

なんとか、アヤは窮地を脱した。リンコはアヤに少し微笑むと、ひどく冷酷な視線をココロに突き刺した。

 

「何か……最後に言い残す事はありますか……?晒し首にする前に聞いてあげてもいいですよ……」

 

ココロの口角がわずかに動く。ところが、同時にアルセウスが暴走を始めた。咆哮の激震に耐えられず、岩は砕け散り、降り注ぐ光弾が地表を抉る。ボールが破壊されている以上、もうコントロールはできない。神の怒りを収める術はないのだ。

 

「セェェェエウス!」

 

辺りに逆鱗をぶちまけると、アルセウスは空間を裂き、時空の狭間——すなわち異空間への入り口を作り出す。そして、生み出された時空の狭間の中に消える。同時に、その切れ目は地表に岩を、砂埃を、ココロが置いたボールをも、ありとあらゆるものを吸い込み出した。

 

「どうやら……あちらの世界には行かない方が良さそうですね……」

 

「そ、そうだね!急いで洞窟に隠れよう!」

 

リンコとアヤは自分のポケモンをボールに戻すと、なんとか洞窟の中に転がり込んだ。ところが、ココロは棒立ちのまま微動だにしない。

 

「ココロちゃん……!」

 

アヤの目が彼女の目と合う。その時、様々な情景が彼女の脳裏に映し出された。ココロの歌を聞いた時、ココロと一緒にご飯を食べた時、ココロと一緒に街を歩いた事、ココロと一緒にロッカのジム戦を応援した事。今となっては敵だが、その楽しい思い出は何故か変わってない。そして、ココロの弾け飛た笑みは、未だにアヤの心の中で輝いていた。

 

「ココロちゃん!これにつかまって!」

 

気がつけば、彼女は岩陰から身を乗り出し、穴抜けの紐のを握りしめ、その先端をココロに投げていた。

 

「アヤさん……!」

 

今にも吸い込まれそうなアヤをの体を、リンコは岩陰に引っ張ろうとする。しかし、アヤはその手を払った。

 

「ココロちゃんがやった事は確かに許されない事だけど……、本当はこんな事したくなかったんだと思う!野望に全身が蝕まれていても、笑顔だけは守られていたんだよ!だって、私が今までに見たココロちゃんの笑顔、とってもキラキラしていたもん!あれが作り笑顔だなんて、私は信じられない!仮に、歌を歌ったりしたことが周りを欺くための演技だったとしても、あの笑顔だけは絶対に本物だよ!そうだよね、ココロちゃん!?リゲル団を結成した後も、心のどこかでは誰も傷つけずに世界を笑顔にすることを夢見てたんだよね!?」

 

「アヤ……」

 

にわかにココロの笑顔が消えた。無表情で、ポカンと口を開ける。それは、遠くにある何かを呆然と見ているように見えた。

 

「つかまって!ココロちゃん!世界を笑顔にするんでしょ!?私も手伝うから、もう一度やり直そうよ!」

 

アヤが握っている穴抜けの紐は、ココロのすぐ近くまで来ている。腕を少し伸ばせば余裕で届く距離だ。でも、ココロは掴まなかった。

 

「どんなお説教をしてくれるのかと思えば、とんだ妄想を披露だけなのね。街で歌を歌ったのも、アヤやヒナと過ごしたことも、リゲル団を組織したことも、すべては世界の笑顔のため!何一つ後悔してないわ!」

 

「で、でも!」

 

「——アヤ、しつこいわ!悪いけど、私はもうこの世界には興味ないの!見て、あの狭間を。きっと、これはアルセウスからのサプライズプレゼントよ!アルセウスは、新しい異世界に私を連れていってくれるのよ!あなた達は、せいぜい笑顔を拒むこの腐った世界で、涙と絶望を味わい続ければいいわ!私は、新しい世界を笑顔にして、笑顔の覇王になるから!ハッピー、ラッキー、スマイル、イェイ!」

 

ココロは時空の狭間の中に吸い込まれた。壊れた笑い声を響かせ、アヤを目に焼き付けながら。

 

「ココロちゃん……」

 

「……」

 

裂け目が完全に閉じると、アヤとリンコは外に出て上を見る。晴空には、雲が少し漂っていた。

 




次回、いよいよ最終回です!
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